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高安女子高生物語  作者: 大橋むつお
45/112

45:〈高安幻想・4〉

高安女子高生物語・45

〈高安幻想・4〉        



 うち自身が元の世界にもどれるかどうか……。


 それが、戻れてしもた!


 正成のオッチャンが、この古墳の石室に身を隠してならあかん事情を切々と説明したあと、なんや匿うたげならあかんようんな気ぃになってきた。どうやら、赤坂城で一暴れしたあと、護良親王の令旨りょうじを受けて再び挙兵しようと潜伏中やったらしい。


「わいは、どないしてもやらならアカンのんじゃ」


 この和歌に十文字足らん言葉に万感の思いがあった。うちらの平成の時代のオッサンらには無い心にしみ通るような響きがあった。


 で、どないかしたらならアカン……と思たら、元の恩地川のほとりに、うち一人で立ってた。


 ゲンチャが脇をすり抜けていくのにびっくりして、我に返った。


「なんや、夢でもみててんやろか……」

――夢や無い。明日香の心の中に居る――

「え、うちの中!?」

――なんや、様子が変わってしもとるけど、信貴山、高安の山のカタチはいっしょや。これが七百年後の高安か――

「正確には、恩地との境目やけどね。とりあえず家帰るわね」

――あの、高安山の上にある海坊主みたいなんは、なんや?――

「あれは、気象レーダー……言うても分からんやろなあ」

 

 それから、家に帰るまでは質問攻めやった。いちいち答えてたら、通行人の人らがへんな目で見るさかい、シカトすることに決めた。正成のオッチャンも勘のええ人で、うちの迷惑になるのん分かったみたいで外環超える頃には、なんにも聞いてこんようになった。ただ、うちの心の中に居るんで、オッチャンの驚きがダイレクトに心にわき起こって、うち自身ドキドキやった。


「ただいまあ」


「おかえり……」

 めずらしい、お父さんが二階のリビングに居った。と、思たら、もうお昼や。

「明日香。生協来たとこやから、パスタの新製品あるで」

「ほんなら、もらうわ」

 うちは、自分の意志やないのに答えてしもた。どうやら正成のオッチャンがお腹空いてるらしい。

 レンジでチンして、和風キノコバターとペペロンチーネを二つも食べてしもた。


「ああ、おいしいなあ!」


「明日香が、そないに美味しそうに食べるのん久々やなあ」

「ああ、育ち盛りやさかい。アハハ」

 まさか、自分の中の正成のオッチャンが美味しがってるとは言われへん。うちは、それから、自分の部屋に戻ってから、どないしょうかと思た。

「正成さん、ずっと、こないしてうちの中に居るのん?」

――しゃあないやろ。どうやら、この時代では、明日香の中からは出られんようやさかいな――

「せやけどなあ……」

――狭いけど、いろいろある部屋やのう。あの生き写しみたいな絵は明日香やなあ――

 馬場先輩に描いてもろた絵に興味。

――この絵にはタマシイが籠もっんのう。ただ残念なことに、これ描いた男は、明日香のことを絵の対象としか見とらんようやけどな。まあ、大事にし。何かにつけて明日香の助けになってくれるで――

 それは、もう分かってる。

――なんや、知ってるんか。そこの仕舞そこねた雛人形も大事にしいや。もうちょっと、日ぃに当たっていたいらしいで。その明日香の絵ぇとも相性良さそうやさかい――

「分かってます。それより、ちょっとでもええさかい、うちの心から離れてもらえません。なんや落ち着かへん」

――しかしなあ……その日本史いう本はなんじゃい?――

「ああ、うちの教科書。日本でいっちゃん難しい日本史の本」

――おもろそうやなあ……しかし、日本史いう言い方はおかしいなあ。まるで日本いう異国の歴史みたいや。日本国の歴史やったら国史やろが……――


 正成のオッチャンが呟くと、心が軽なったような気ぃがした。


「正成さん、正成のオッチャン……」

――なんじゃい――

 なんと、山川の詳説日本史の中から声がした。

「オッチャン、いま本の中に居てるのん!?」

――なんや、そないみたいやな――

「大発見。オッチャン本の中にも入れるんや。本やったら、なんぼでもあるさかい、本の中に居って」

――ああ、わいも興味津々やさかいな――


 一安心、いつまでも心の中におられてはかなわん。あたしは、新学期の準備と部屋の片づけしてるうちに、正成のオッチャンのことは忘れてしもた。

 気ぃついたんは、夜にお風呂に入ってから。


――明日香、おまえ、なかなかええ体しとったなあ――


 心の中から、オッサンの声がしてびっくりした!

――しかし、明日香、おまえ、まだおぼこ(処女)やねんのう――

 顔のニキビを発見したほどの気楽さで言われたが、言われた本人は、真っ赤になった……。



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