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高安女子高生物語  作者: 大橋むつお
43/112

43:〈高安幻想・2〉

高安女子高生物語・43

〈高安幻想・2〉       



「う、うち、高安のもんです!」


 そう言うと、どない見ても大河ドラマの登場人物みたいなオッサンが、刀かまえたまま聞いてきよった。

「高安……ほん近所やんけ。高安のどのへんじゃ!?」

 うちの耳が慣れてきたんか、ダ行の音もはっきり聞こえて、今の河内弁と変わらんようになってきた。せやけど、オッサンの警戒ぶりはそのまんま。言いようによったら切られかねへん。

「えと、高安町の……恩地川と玉串川の間が、いっちゃん狭なったとこで(高安駅徒歩6分言うても分からんやろな)……教興寺の西です」

「あのへんなら、まだうちの在やが、おんどれ……見たことないど」

 その時、通りがかりのお百姓が声をかけた。

「左近はん、なにシコッテはりまんねん?」

「おお、ヤス。おまえ、こいつの顔見たことあるか?」

「え……誰でんねん?」

「誰て、目ぇの前におる、けったいなおなごじゃ」

「左近はん、誰もおりまへんで。大丈夫だっか?」


 そのうち五人六人と人が集まり、オッサンもうちも、様子がおかしいのに気ぃついた。


「い、いや、なんでもないわい。おまえらも六波羅のアホがうろついとるかもしれんよって、気ぃつけさらせよ」

「へえ、そらもう正成はんが……」

 お百姓が、そこまで言うと、左近のオッサンはお百姓のオッチャンをシバキ倒した。

「ドアホ、気ぃつけ言うたとこやろ!」

「す、すんまへん。わしらも、ついあのお方のことが心配で……」

「その気持ちは嬉しい。けど、気ぃはつけえよ。さ、お日さんも高うなった。野良仕事に精出せ!」

「へえ」

 オッチャンらは、それぞれの田んぼや畑に散っていった。


「どうやら、わいの他には、おまえのことは見えんようやな。ちょっと付いてこい」

 左近のオッサンは、スタスタと歩き出した。しばらく行くと見覚えのある石垣が見えてきた。

「オッチャン、あれ、ひょっとして恩地城?」

「せや、わいの城じゃ。後ろの西の方に神宮寺城が見えるやろ。ここは、河内の最前線や」

 恩地城いうたら、今の恩地城址公園。子どもの頃に、よう散歩に来たとこや。

「オッチャン、ひょっとして恩地左近?」

「わいのこと知ってるんやったら、やっぱり在のもんやねんやろなあ。ここから、おまえの家は見えるけ?」

 小高い恩地城からは、高安まで見通せたけど、時代がちゃうんやろ、うちの家がある当たりは、一面の田んぼ。

「あのへんにあるはずやねんけど、時代がちゃうみたいで見えへんわ」

「おまえ、いつの時代から来たんじゃ?」

 

 左近のオッサンは、意外にも、うちが、この時代の人間やないことを直感で掴んでるよう。


「えと……平成三十年……七百年ほど先の時代」

「ほうか、そんなこともあるんじゃのう……」

かしら、城には、まだ帰りまへんのか!?」

 城門の櫓の上で、オッサンの家来が怒鳴ってる。昔も河内の人間は声が大きいようや。

「ああ、在のひんがしの方見てくるわ!」

「ご苦労はんなこって!」


 それから、うちらは、信貴山の方に向こうて歩きだした。ここら辺は千塚ちづか古墳群の南の方。名前の通り後期の古墳が山ほどある。



「おっと、今日は、ここやないな」

 左近のオッサンは、ちょっと戻って、一つ手前の林の中の石室がむき出しになった古墳の中に入っていった。


 石室は、石の隙間から光が差し込んで、暗いことはないけど見通しがきかへん。奥の方から人の気配がした。


 気が付くと、石室の奥に目玉が二つ光ってた……。



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