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高安女子高生物語  作者: 大橋むつお
41/112

41:〈有馬離婚旅行随伴記・6〉

高安女子高生物語・41

〈有馬離婚旅行随伴記・6〉   



 パーーーーーーーン


 え 銃声?



 旅行なんか、めったにいかへんうちは、いっぺんに目が覚めてしもた。

殺人事件やら、明菜のお父さんが逮捕されたりで、興奮してたこともある。

 明菜は、当事者やから疲れがあるのか、旅慣れてるのかグッスリ寝てる。


 やっぱり、うちは野次馬や。

 顔も洗わんとGパンとフリースに着替えて、音のした方へ行ってみた。

 旅館の玄関を出ると、また鉄砲の音がした。


「やあ、すんません。目覚まさせてしまいましたか」



 旅館の駐車場で、番頭さんらが煙突みたいなもん立てて鉄砲の音をさせてる。

「いや、うち旅慣れへんさかい、早う目ぇ覚めてしもたんですわ。何してはるんですか?」

「カラス追い払うてますんや。ゴミはキチンと管理してますんやけどね、やっぱり観光客の人らが捨てていかはったもんやら、こぼれたゴミなんか狙うて来よりまっさかいな」

「番頭さん、カースケの巣が空だっせ」

 スタッフのオニイサンが言った。

「ほんまかいな!? カースケは、これにも慣れてしもて効き目なかったんやで」

「きっと、他の餌場に行ってますねんで。昨日の事件のあと、旅館の周りは徹底的に掃除しましたさかいに」

「カースケて、カラスのボスかなんかですか?」

 単なる旅行者のうちは気楽に聞いた。

「めずらしいハグレモンやけど、ここらのカラスの中では一番のアクタレですわ。行動半径も広いし、好奇心も旺盛で、こんな旅館のねきに巣つくりよりますのや」

 スタッフが、長い脚立を持ってきた。

「カースケ居らんうちに撤去しましょ。顔見られたら、逆襲されまっさかいなあ」

「ほなら、野口君上ってくれるか」

「はい」

 若いスタッフが脚立を木に掛け、棒きれでカースケの巣をたたき落とした。


 落ちてきた巣はバラバラになって散らばった。木の枝やハンガー、ポリエチレンのひも、ビニール袋、ポテトチップの残骸……それに混じって大小様々な輪ゴムみたいな物が混じってた。

 輪ゴムは、濃いエンジ色が付いて……うちはピンと来た。


 これは手術用のゴム手袋をギッチョンギッチョンに切ったもん……それも、事件で犯人が使うたもん。そう閃いた。


「オッチャンら触らんといてくれます。これ、殺人事件の証拠やわ!」


 うちは知ってた。殺人にゴム手袋を使うて、そのあと捨てても、内側に指紋が残る。うちのお父さんが、それをネタに本書いてたさかいに。幸いなことに、指先が三本ほど残ってた。


 番頭さんに言うと、直ぐに警察を呼んで、お客さんらのチェックアウトが始まる頃には、見事に鑑識が指紋を採取した。


「出ました、椎野淳二、前があります!」


 今の警察はすごい。指紋が分かると、直ぐに情報が入って現場でプリントアウトされる。写真が沢山コピーされて、近隣の警察に配られ、何百人という刑事さんが駅やら観光施設を回り始めた。


 そして、容疑者は有馬温泉の駅でスピード逮捕された。


 椎野淳二……杉下の仮名を使てた。そう、明菜のお父さんの弾着の仕掛けをしたエフェクトの人。表は映画会社のエフェクト係りやけど、裏では、そのテクニックをいかして、その道のプロでもあったらしい。


 明菜のお父さんは、お昼には釈放され、ニュースにもデカデカと出た。

 たった一日で、娘と父が殺人の容疑をかけられ、明くる日には劇的な解決。


 この事件がきっかけで、仮面家族やった明菜の両親と明菜の結束は元に……いや、それ以上に固いものになった。


 春休み一番のメデタシメデタシ……え、まだあるかも? あったら嬉しいなあ!



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