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高安女子高生物語  作者: 大橋むつお
15/112

15:〔佐藤明日香の絵〕

高安女子高生物語・15

〔佐藤明日香の絵〕        



 君の絵が描けた


 トースト食べながらメールをチェックしてたら、馬場先輩のメッセが入ってたんでビックリした。

 ここんとこ、毎朝十五分だけ絵のモデルをやりに美術室に足を運んでる。まだ一週間ほどで、昨日の出来は八分ぐらいで、完成は来週ぐらいや思てたんで、ビックリしたわけ。


「うわー、これがあたしですか!?」


 イーゼルのキャンパスには、自分のような自分でないような女の子が息づいていた。



「昨日すごくいい表情してたんで、昨日遅くまで残って一気に仕上げたんだ。タイトルも決まった」

「なんてタイトルですか?」

「『あこがれ』って付けた」

「あこがれ……ですか?」

「うん。もともと明日香は、なにか求めてるような顔をしていた、野性的って言っていいかな。動物園に入れられたばかりの野生動物みたいだった」



 あたしは、天王寺動物園の猿山の猿を想像して、打ち消した。


小学校の頃のあだ名は「猿」やった。


 ジャングルジムやらウンテイやら、とにかく上れる高いとこを見つけては挑戦してた。



 最後は四年のときに、学校で一番高い木の上に上って、たまたま見つけた校長先生にどえらい怒られた。



「ハハ、そんなことしてたんだ。でも……いや、それと通じるかもしれないなあ。木登りは、それ以来やってないだろ?」

「はい、親まで呼ばれて怒られましたから。それに木ぃには興味無くなったし」

「でも、なにかしたくて、ウズウズしてるんだ。そういうとこが明日香の魅力だ。こないだまでは、それが何なのか分からない不安やいら立ちみたいなものが見えたけど。昨日はスッキリした憧れの顔になってた。それまでは『渇望』ってタイトル考えていた」


 思い出した。一昨日の帰り道、女優の坂東はるかさんに会うて、真田山高校まで案内したことを。


 あたしは、坂東はるかに憧れたんや。それが、そのまま残った気持ちで、昨日はモデルになった。


「あたし、今でも、こんな顔してます?」

「う~ん……消えかけだけど、まだ残ってるよ」

「消えかけ……?」

「心配しなくても、この憧れは明日香の心の中に潜ってるよ。また、なんかのきっかけで飛び出してくるかもしれない」

「うん。描いてもろて良かったですわ。あたしの中に、こんな気持ちが残ってるのん再発見できました」

「オレもそうさ。増田って子も良かったけど……」

「けど、なんですか?」

「あの子のは自信なんだ。それも珍しい部類だけどね。満ち足りた顔より、なにか届かないものに憧れている顔の方が断然いい」


 理屈から言うと、増田さんの方が自信タップリでええけど、馬場さんの言い方がええせいか、あたしの方がええように思えた。


「これ、卒業式の時に明日香にあげるよ」

「え、ほんまですか!?」

「ああ、絵の具が完全に乾くのにそれくらい時間がかかるし、この絵を描いたモチベーションで次のモチーフ捜したいんだ」


 あたしは、高校に入って、一番幸せな気持ちになれた。


 坂東はるかといい、馬場先輩といい、短期間にええ人に巡り会えたと思た。


 この気分は、放課後まで残って、気持ちを小学四年に戻らせてしもた。


「こら、アスカ! パンツ丸見えにして、どこ上っとるんじゃ!」

「あ、ちゃんとミセパン穿いてますよって」

 

 あたしは、小学校の気分に戻って、グラウンドの木ぃに上って、顧問の南風先生に怒られた。

「もうすぐ本番や言うのに、怪我したらどないすんねん!」


 芝居の稽古をすっかり忘れた放課後でした。



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