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高安女子高生物語  作者: 大橋むつお
11/112

11:〔あたし絵のモデル!〕

高安女子高生物語・11

〔あたし絵のモデル!〕        



 二つ目の目覚ましで目が覚めた。


 せや、今日から、あたしは絵のモデルや!

 フリースだけ羽織って台所に。とりあえず牛乳だけ飲む。

「ちょっと、朝ご飯は!?」

 顔を洗いにいこうとした背中に、お母さんの声が被さる。

「ラップに包んどいて、学校で食べる!」

 そのまま洗面へ。とりあえず歯ぁから磨く。


「ウンコはしていけよ。便秘は肌荒れの元、最高のコンディションでな」


 一階で、もう本書きの仕事を始めてるお父さんのデリカシーのない声が聞こえる。

「もう、分かってるよ。本書きが、そんな生な言葉使うたらあきません!」

 そない言うて、お父さんの仕事部屋と廊下の戸ぉが閉まってるのを確認してトイレに入る……。

 しかし、三十分早いだけで、出るもんが出えへん……しゃあないから、水だけ流してごまかす。

「ああ、すっきり!」

 してへんけど、部屋に戻って、制服に着替える。いつもはせえへんブラッシングして紺色のシュシュでポニーテールに。ポニーテールは、顎と耳を結んだ延長線上にスィートスポット。いちばんハツラツカワイイになる。

「行ってきま……」

 と、玄関で言うたとこで、牛乳のがぶ飲みが効いてきた。

 二階のトイレはお母さんが入ってる。しゃあないんで一階へ。

 用を足してドアを開けると、お父さんが立ってた。ムッとして玄関のある二階へ行ことしたら、嫌みったらしくファブリーズのスプレーの音。


 いつもとちゃう時間帯なんで、上六行きの準急が来る八分も前に高安駅に着いてしもた。

 めったに利用せえへん待合室に入って、まだ温もりの残ってる朝ご飯のホットサンドをパクつく。向かいのオバチャンが「行儀悪い」いう顔して睨んでる。あたしも逆の立場やったら、そない思うやろなあと思う。

 時々サラリーマンのニイチャンやらオッチャンやらが食べてるけど、これからは差別的な目ぇで見いひんことを心に誓う。


 高安仕立ての準急なんで座れた。ラッキー! 高校生が乗る時間帯やないので、通勤のニイチャンやらオッチャンが見てるような気がする。フフ、あたしも捨てたもんやないかもしれへん。

 どないしょ、鶴橋のホームかなんかで、スカウトされたら!

「あ、わたし、学校に急いでますので……」

 それでもスカウトは付いてくる。なんせイコカがあるから、そのまま環状線の内回りへ。

「怪しいもんじゃありません。○○プロの秋元と言います。AKBの秋元の弟なんです。よかったら、ここに電話してくれない? 怪しいと思ったらネットで、この電話番号検索して。ここに掛けて秋元から声掛けられたって言ったら、全て指示してくれるから。それから……」


 そこまで妄想したところで、電車は、たった一駅先の桃谷に着いてしもた。鶴橋のホームでスカウト……ありえへん。


 学校の玄関の姿見で、もっかいチェック。よしよし……!


 美術室が近くなると、心臓ドキドキ、去年のコンクールを思い出す。思い出したら、また浦島太郎の審査を思い出す。あかんあかん、笑顔笑顔。


「お早うございま……」

「そのまま!」

 馬場先輩は、制服の上に、あちこち絵の具が付いた白衣を着て、立ったままのあたしのスケッチを始めた。で、このスケッチがメッチャ早い。三十秒ほどで一枚仕上げてる。

「めちゃ、スケッチ早いですね!」

「ああ、これはクロッキーって言うんだ。写真で言えば、スナップだね。ダッフル脱いで座ってくれる」

「はい」

 で、二枚ほどクロッキー。

「わるい、そのシュシュとってくれる。そして……ちょっとごめん」

 馬場先輩は、あんなにブラッシングした髪をクシャっとした。

「うん、この感じ、いいなあ」

 十分ちょっとで、二十枚ほどのクロッキーが出来てた。なんかジブリのキャラになったみたい。

「うん、やっぱ、このラフなのがいいね。じゃ、明日からデッサン。よろしく」


 で、おしまい。三十分の予定が十五分ほどで終わる。そのまま教室に行くのんはもったいない思てたら、なんと馬場先輩の方から、いろいろ話しかけてくれる。

 話ながら、クロッキーになんやら描きたしてる。あたしはホンマモンのモデルになった気ぃになった。


 その日の稽古は、とても気持ちようできた。小山内先生が難しい顔してるのも気ぃつかんほどに。


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