ガベージブレイブ(β)_085_クソジジィ包囲網4
メイド服を着たハンナが俺につき従って、出てくる雑魚の露払いをしてくれる。
いくつかの扉を越えた先に目に見えない結界があった。パントマイムができそうな透明な結界は、俺たちを拒絶するかのように間違いなく存在する。
ハンナが結界を殴っても結界はびくともしなかった。それだけでもかなり強力な結界だというのが分かる。
「次は本気でやってみます」
「いや、いい。ハンナは下がってくれ」
「承知しました」
結界があるのは知っていたので、ベーゼたちにも付与した【結界透過術】を使えばどんな結界でも通ることができる。だが、それでは面白くない。
「相棒、やるぞ」
「ふん。こんな結界ごとき、私とツクルの手にかかれば薄紙のごとく切り裂いてみせるぞ」
黒霧を抜き構える。この感覚は久しぶりだ。これを口にすると黒霧が調子にのるから言わないけど、やっぱり黒霧は手に馴染む。
俺は目の前にある見えない結界を見つめ、左足を引き、黒霧を大きく振りかぶって、細く息を吸う。
スキルは発動させない。俺の素の力でどこまでやれるか見てみたいからだ。
息を吐くように黒霧を自然に振り下ろす。力も入れていない振り下ろしだ。
「………」
黒霧からは何も手応えを感じない。だが、俺は確実に結界を切った。
目には見えなくても俺にはどこをどう切ればいいか分かるんだ。結界を構成している魔力のようなものは和紙のように複雑な繊維構成をしているが、その結合部分を削ぐように切れば苦もなく切れる。
結界に一本の筋ができてそこから無数のヒビが走った直後、結界は軽やかな音を立てて崩れていった。
「さすがは剣の達人でございます。ご主人様」
ハンナが俺にしな垂れかかってきた。尻尾が大きく揺れている。
剣の達人か、俺は達人と言われる域に達したのだろうか? もしそうなら少し嬉しい。
「まだまだだ。これくらいできて当たり前なのだ」
俺とハンナのいい雰囲気をぶち壊すお邪魔虫がいる。本当にこいつは……。
結界が破壊されたことで警報が鳴り響く。さて、ここからが本番だ。
俺は【等価交換】で創っておいたスキル【完全結界術】を発動させた。この【完全結界術】によってクソジジィが逃げ出そうとしても逃げられない空間を造った。
「決着をつけにいくぞ」
俺とハンナは大神殿を奥へ奥へと進んでいく。このエリアには誰もいないようで、警報以外は静かなものだ。とはいえ、その警報がうるさい。
そして大きさは普通より少し大きく、装飾がされていて無駄に豪華な扉の前に到着した。
「ご主人様、私が」
ハンナが扉を開けるために前に出た。さっきは俺が蹴り破ったので、ここはハンナに任せるとしよう。
「おう、任せた」
「それでは……」
ハンナが右の拳を引き絞った。しなやかで綺麗な構えだ。
「はっ!」
ハンナが拳を放った瞬間、豪華な扉は木っ端みじんに破壊され、その破片が部屋の中へ飛び散った。
多分だけど結界を殴った時に壊せなかったので、その気持ちを乗せたと思うほどによい一撃だった。
「ぎゃぁぁぁっ!?」
部屋の中にいた存在に破片が当たったようだ。
そんなところにいるからそういう目にあうんだが、飛んでいった破片にハンナが気を纏わせて飛ばしたのを俺は見ている。
ハンナもなかなかエグイことをする。あれではただの木の破片が銃弾よりも凶悪な凶器に変わってしまったのは確かだ。
ハンナが開けてくれた扉を通って俺は部屋の中に入った。
「な、何者!?」
クソジジィは木の破片が体中に刺さって血だらけになっていた。
「ははは! なんだそのザマは!?」
「ぐっ!? き、貴様……」
クソジジィは痛みに歪んでいた顔をさらに歪め、俺の登場に驚いた。
「俺を覚えているか?」
「………」
「なんだ、だんまりか? まぁいい、俺はお前をぶちのめすためにやってきた。分かったか?」
「ふん、あの時は邪魔が入ったが、今度はそうはいかぬぞ!」
あの頃の俺と一緒だと思っているのか? めでたい奴だ。頭の中はお花畑なんじゃないか?
「ご託はいい。俺を倒せると思うなら、かかってこいよ」
倒せないと思ってもかかってきてもらうがな。
「ふざけおって!?」
土の槍が飛んできたが、俺はそれを黒霧で切って落とす。
「なんだそんなものか? 人族のエンシェント種様も大したことないな。もっとちゃんとした攻撃をしてこい。俺を楽しませてみろよ」
クソジジィは怒りのこもった目で俺を睨んだ。
「言っておくが、俺のほうが怒りに関しては上だからな。てめぇは何もしらない俺をあの地獄に送り込んだ。そのことは忘れてくれるなよ」
「ふん、やはりあの時の小僧であったか。いいだろう、この我に牙を剥いたことを後悔させてやる!」
「望むところだ! ハンナ、手出しするなよ。こいつは俺がぶちのめす」
「承知しています。ご主人様」
俺は黒霧を下段に構えてゆっくりと足を出す。
「おのれ、バカにしおって!?」
「それはこっちのセリフだ!?」
一気に床を蹴ってクソジジィとの間合いを詰めるが、クソジジィは土の壁をだしてきた。
「邪魔だ!」
土の壁を切り裂いた。すると、床から土の棘が生えてきて俺を串刺しにしようとしたので、後方に飛んでそれを躱す。
「クソジジィのくせにやるじゃねぇか」
「前回、我の前になす術なく地面を這いつくばった小僧が言うではないか」
「いつまでもあの頃の俺だと思うなよ」
無数の土の塊が飛んできた。それらの土の塊の軌道を見て冷静に躱す。おそらく数百はあった土の塊だが、全て躱し切った俺と躱し切られたクソジジィでは、表情は対照的なものになった。
「温いな……。お前はもう俺の敵ではない」
「ほざけ!」
再び数百という土の塊を飛ばしてきたが、俺はそれを闇の空間に入って躱すだけではなく、クソジジィの後方に回り込んで黒霧を突き出した。
「ぎゃっ!?」
クソジジィは危機を感じて横に体をずらしたが、黒霧はクソジジィの脇腹に刺さった。残念ながら皮と肉をわずかに刺しただけだが、クソジジィは大きく横に飛んで脇腹を押さえている。
「く……。今のは……?」
「おい、ボケーっとするなよ」
俺は再び闇の空間を移動してクソジジィの横から黒霧を突き出す。クソジジィもエンシェント種なだけあって、辛うじてそれを躱す。
「や、やはり【闇魔法】か……?」
「だったらなんだ」
今度は後ろから、避けられてクソジジィは周囲をきょろきょろ見ながら警戒する。
俺はスーッと闇の空間から出て、クソジジィを見据えた。
「お前のおかげで俺は何度も地獄を見た。そのお礼はしっかりさせてもらうぜっ!」
一気に間合いを詰めて黒霧を振る。
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!?」
クソジジィは俺の動きに反応できず、その左腕を切り落とした。クソジジィは転げまわって肘から先のなくなった左腕を押さえ、喚き散らす。
「貴様ぁぁぁっ!?」
腕を押さえ、蹲って、涙を流しながら、クソジジィは俺を睨む。
「甘いな。片腕を失ったていどでガタガタ言うな」
「おのれぇぇぇっ!?」
土の槍、土の棘、土の矢、土の塊が俺を襲ってくる。まるで暴走したかのような魔法の応酬だが、そんなもので今の俺に傷を負わせられると思うなよ!
床を蹴り、土の槍を躱し、土の棘を蹴って、土の矢を黒霧で切り落とし、土の塊を拳で破壊する。
「なっ!?」
「温い。温すぎるぞ、クソジジィ」
全ての攻撃を躱されて驚きの声をあげるクソジジィと、息も切らせていない俺。その力の差は歴然だ。クソジジィの攻撃を躱しつつ接近して右足を黒霧で刺す。
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!?」
「もう終わりか?」
「なぜだ!? なぜ、なぜなんだ!?
泣きながら、鼻水を垂らしながら、血をまき散らしながら、クソジジィは右手と左足で後ずさる。
「なんだよ、もう終わりなのか。いいだろう、お前と俺の腐れ縁もここで終わりだ」
「ま、待ってくれ」
「あん?」
「国をやる。だから我が配下にならぬか?」
「お前はバカか? いや、バカだろう。なんでお前より有利な俺がお前の配下にならなければならないんだ? ヘソが茶を沸かすぞ」
「うっ……」
本気で提案していたのかよ。本気で脳みそ腐ってないか?
「よし、こうしよう。召喚に関する資料を全部出せ」
「しょ、召喚……」
「そうだ。お前が異世界の人間を拉致するための資料だよ。ここにあるものを全部出して、他にどこにあるのか全部言え」
「そ、そうしたら……」
「分かっているって、考えてやるから」
クソジジィは痛みに喘ぎながらあっちこっちから羊皮紙だったり、分厚い本だったりを沢山引っ張り出してきた。
よくもまぁこんなにあるものだと感心するくらいだ。
「ご主人様~。外は片づきました~」
「ツクルさん、カナンさんの言うとおり外の人族は片づけましたよ。今は誰もこの大神殿に入ってこられないようにスズノさんが結界を張ってます」
カナンとアリーがやってきた。
「おう、ご苦労様。丁度よかった。カナン、これを燃やしてくれるか」
俺は積み上げられた召喚関連の資料を指さした。
「はいなのです~。そこのクソジジィさんも燃やしますか~?」
その言葉を聞いたクソジジィが大慌てしている。
なんだよ、そのタコのような動きは? 面白いじゃないか。
「クソジジィはいい。これらの資料だけ燃やしてくれ」
「分かりました~」
カナンが燃え盛る大賢者の杖をひょいっと一振りすると資料の山に火がついて、その火は一瞬で燃え盛る炎になって資料を灰にした。
他の国の資料や施設はすでに処分したし、帝都の城に保管されていた資料も処分した。
残るはここだけだったので、あとは施設を処分すれば召喚に関する資料は全部破棄したことになる。もう、俺のような奴を増やさずに済む。
「おい、ベーゼ」
「ここに」
ベーゼが闇の中から現れた。
「資料はこれだけか?」
「いいえ、あちらにも」
その言葉を聞いた俺はクソジジィの鼻を切り落とした。
「ぎゃぁぁぁっ!?」
「嘘をついた罰だ」
「ベーゼ、その資料を持ってきてくれ」
「承知しました」
蹲って鼻を押さえているクソジジィを蹴っ飛ばして、その喉元に黒霧を突きつけた。
「あまり舐めたことをすると、寿命がなくなるぞ」
「ひゃ、ひゃいっ……」
喉から一滴の血が垂れたが、なくなった鼻から流れ出ている血よりはマシだろう。
「おい」
「ひゃい!?」
俺がクソジジィを呼ぶと、クソジジィは肩を大きく跳ねさせて返事をした。
オールド種には大きな顔をしているくせに、自分より強い奴にはびくびくしてみっともないぞ。
「召喚魔法陣のところに案内しろ」
「分かりました!」
素直でいいじゃないか。ご褒美に鼻を治してやるために焼き肉をひと切れ口に放り込んでやった。
「食え。そうすれば鼻くらいすぐに再生する」
「………」
クソジジィは胡乱な目で俺を見ていたが、焼き肉を飲み込んだ。腕は無理だったが鼻は一瞬で生えてきたし、足の傷も塞がっている。
「よし、これでいいだろう」
俺たちはクソジジィの案内で召喚魔法陣が描かれている場所に向かった。この世界に拉致された時に初めて見た石造りの大きな部屋だ。
「魔法陣が壊れている以外は、あの時と少しも変わっていないようだな……」
ぐるりと部屋の中を見回したが、なんの感慨もなかった。
「ハンナ、魔法陣を完全に破壊してくれ」
魔法陣はダルバンを呼び出した時に爆発したが、このていどの破壊具合だと修復されるかもしれない。だから徹底的に破壊する。
「お任せください!」
ハンナは魔法陣の中央に立つと腰を落として魔法陣に拳を叩きつけた。
すると、拳を叩きつけたところから四方八方にヒビが走って、魔法陣の設置されていた石の床が粉々に砕け散った。
まるで砂のように小さな粒子になった床。ここまで粉々になったら魔法陣を修復するのは無理だろう。
「さて、クソジジィ……」
「な、なんでしょう……?」
「俺の怒りが分かるか?」
「………」
そんなに不安そうな顔をするなよ。
「俺はお前に騙されてボルフ大森林に捨てられた。おかげで何度も死ぬ間際までいった」
「………」
「だが、お前に感謝もしているぞ。俺がここまで強くなれたのは、お前が俺をボルフ大森林に捨ててくれたおかげだからな」
クソジジィの表情がパーッと明るくなった。
「勘違いするな。お前を許したわけではない」
また顔色が悪くなった。こいつは顔芸が得意なんだな。
「お前の生きる道は二つだ。一つ目は俺と戦い俺を倒すこと。もちろん、皆には手出しさせないし、仮に俺を倒した後でも手出ししない」
「ふ、二つ目は……?」
「お前の後ろにいる存在がいる場所を吐け。そうすれば、生かしてやる」
「………」
人族に限らず各種族にはそれぞれ神のような存在がいる。エルフのアンティアにはエントがいたし、俺たちは実際にエントと会ったので、間違いない情報だ。
そういった神のような存在がこのクソジジィを人族至上主義へと走らせた張本人のはずで、俺たちをこの世界に拉致した本当のクソ野郎だ。
つまり、俺にはそいつをぶっ飛ばす権利があるってわけだ。
コミカライズ5話公開中。
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