ガベージブレイブ(β)_082_クソジジィ包囲網1
お久しぶりです。
とうとうガベージブレイブも佳境に入ってまいりました。
「どういうことだ!? なぜあの者どもは集まらぬ!? それどころか我が命じた人族至上主義まで放棄しただと!?」
「も、申し訳ございません。各国との連絡が途絶え、勇者との接触もままなりませんので……」
我の身長ほどの持っていた杖を床に投げつけ、歯をギリギリと噛む。
いつからか我の支配下にあった国が報告を怠るようになった。
我の息のかかった者を国のトップに据えて意のままに操っていたが、最近はそうもいかぬ。
何があったのかさえ分からぬと言う無能な配下をぶち殺したくなるが、癇癪を起しても仕方がないと思い留まる。
「オールド種を送り込み、無理やりでも勇者を集めよ! そして裏切者を始末しろ!」
「はっ! 直ちに!」
使えぬ奴め。
しかし、何かが起きているのはたしかだ……。
何が起きているのか調べられる部下が必要だ。あのお方に相談するべきか……?
▽▽▽
「よし、いこうか!」
俺たちはこのラーデ・クルード帝国にいるクソジジィと因縁の対決をするために動き出した。
準備はできた。実際にやったのはベーゼとドッペル軍団だけど。
「転移します!」
「おう!」
「「「はい!」」」
俺、ハンナ、一ノ瀬、アリーの四人はカナンの【転移魔法II】によってラーデ・クルード帝国の帝都に向かった。
クソジジィは人族至上主義の国々にオールド種を送り込んで勇者を拉致しようとしたが、それはベーゼの眷属たちに阻止されている。
そして、このタイミングで人族至上主義の国々は『人族至上主義を放棄』すると宣言して、アリーの祖国であるテンプルトン王国や他の獣人、エルフ、ドワーフなどの国々にこれまでの負債を清算するための使者を送っている。
そろそろクソジジィの元にそういった報告が上がっているんじゃないかな?
クソジジィの動揺する顔が見れなくて残念だ。
カナンの【転移魔法II】によって俺たちは一瞬で帝都近郊に移動した。
この【転移魔法II】は一度でもいったことがある場所に一瞬でいける魔法だ。だから、カナンは以前この場所にきたことがある。
なんでも【転移魔法II】の特徴として、いったことがなくても見える範囲の場所なら問題なく転移できるそうだ。だから、魔法の絨毯で上空へ上ってそこから【光魔法】で強化した視力で見える範囲へ転移をする。それを繰り返すと意外と遠くへいけるそうだ。
【転移魔法II】は当然のように魔力を消費するが、今のカナンの魔力は膨大なので転移を繰り返してもアメリカ合衆国のニューヨークから東京くらいまでは補給なしでいけるんじゃないかな? 補給(食事)をすれば、それこそ地球を何周もできると思う。
カナンの魔力はあの食欲に支えられているのだと、最近の俺は考えている。
食べたら食べただけ魔力が補給されていくように感じるし、実際にカナンの魔力は食事をしたら回復している。
一般的には魔力を食事だけで回復させることはできない。食事と安静にしている時間が必要だ。
しかし、カナンは食事だけで完全に魔力を回復させているので、あの食欲が魔力回復に繋がっているのは間違いないと思う。
話は逸れたが、俺たちは帝都近郊の小さな町のそばにきている。
この町はラーデ・クルード帝国で俺たちの拠点になる町がほしいと言っていたアリーによって、ドッペル君が送り込まれている。
そのため、この町の住人はほとんどがドッペル君になっている。俺も最近知った事実だ。
しかも数千人規模の住人のほとんどがドッペル君なので報告を受けた時は、どれだけ増殖しているんだと驚いたものだ。
「ようこそおいでくださいました、主様」
俺の前で跪いて挨拶をしてきたのがこの町を治めている貴族で、その後ろには数十人のドッペル君たちも跪いている。
「しばらく厄介になるぞ」
「ははぁぁぁっ。誠心誠意、おもてなしさせていただきます!」
仰々しい奴だ。でも、他のドッペル君もこんなんだからな……。
イスラフェルがドッペル君を生み出す時には、性格をもう少しカジュアルな感じにしてほしかった。
町の中にある貴族の屋敷に通された俺たちは、そこで細かい状況を確認した。
まず、クソジジィはオールド種を各国に送って首脳陣を始末しようとしたが、これは返り討ちにしている。
また、勇者を拉致しようとしたオールド種も始末している。各国にいたクソジジィの息がかかった奴らは尽く潰している。
これはベーゼの眷属たちが活躍していて、イスラフェルも舌を巻いていた。
「それで、クソジジィの周囲にはオールド種が10人ほどしかいないのか?」
「はい、あの者も相当に焦っているようです」
相変わらずベーゼの声が低音で渋い。ちょっと羨ましい。
「アリー、これからの行動はどうすればいいかな?」
「そうですね。とことん追い込むのであれば、他の国が動くのを待ってからクソジジィさんを丸裸にして乗り込むのが一番でしょう」
「それにはどれだけの時間がかかるんだ?」
「前回の戦いでは、魔族と巨人族の連合軍に横槍を入れられてしまったので、軍を立て直すのに数カ月はかかると思います」
「時間がかかるな。その間、クソジジィの胃がキリキリ痛むと考えれば待てないこともないが……」
「時間を短くしたいのでしたら、帝国内で反乱を起こさせればいいと思います」
一瞬、アリーの瞳がキランと光った気がした。もしかしたらアリーはこっちのほうが推しなのかもしれない。
「反乱を起こしますとクソジジィさんも慌てますでしょうし、何より他の国々の軍が動きやすくなります。反乱中の帝国なら大軍を用意しなくても倒せるのではと考えるのが普通でしょう」
「そうか。イスラフェル、アリーの作戦を実行に移せ」
「承知しました」
「ベーゼは引き続き情報収集と勇者(笑)たちの監視だ」
「承知しました」
「細かいことは今までと同じでアリーに任せる。頼んだぞ」
「最善を尽くします」
アリーはこの町でベーゼとイスラフェルの指揮を執ってもらう。
「それじゃぁ、俺たちはちょっといってくるよ」
俺、カナン、ハンナ、一ノ瀬は別の目的があるので移動をする。
「お気をつけて」
アリーにあとのことを頼んでカナンの【転移魔法II】で転移すると、一瞬で景色が変わった。
俺たちがやってきたのは、召喚魔法の関連施設の1つだ。
この世界には俺が召喚された大神殿の他にいくつかの召喚施設があって、ベーゼとイスラフェルのおかげでその場所が分かったのでやってきた。
それは大神殿とは違って城のような建物の地下にあるので、まずはその地下に潜入することにした。
「三人はここで待機な。俺は潜入して魔法陣を破壊してくるから」
「「「はい」」」
俺は【闇魔法】を発動させて陰の中に入っていく。この【闇魔法】のおかげで俺は誰にも気づかれずにどこにだって潜入できるんだから、便利なものだ。
考えてみたんだが、【光魔法】が勇者の証なら、それの対比にある【闇魔法】は魔王の証みたいなものじゃないか? カナンが勇者で俺が魔王。ぷっ、笑えるな。
おっと、もう魔法陣のある地下の広い空間に出たぞ。
今は使われていない儀式用の部屋だと報告を受けていたが、埃一つ落ちていないので今でも使われていると言われても信じただろう。
「たしか、ここだったよな……」
勇者召喚用の魔法陣のことはひるめさんから面白い情報をもらっている。
「ここをちょっと描き換えてと……」
魔法陣のある場所の記号を数カ所描き換えることで、この魔法陣を違う用途のものにすることができるというのだ。しかも使用すると爆発して砕け散るらしい。
大規模な魔法陣なので使用前にチェックされても見分けはつかないと思うが、一応描き換えた場所は【偽装】を施して描き換える前の状態に見えるようにしておこう。
「これでよしっと」
俺は再び陰の中に戻って三人のところへ向かった。
「お待たせ」
「もう終わったのですか?」
「数カ所描き換えるだけだからすぐ終わったぞ、カナン。誰かがあの魔法陣を起動させたらその報いを受けることになるだろう」
「しかし、勇者召喚用の魔法陣をちょっと描き換えるだけで、強力な魔物を召喚できるなんて怖いわね。しかも使った後は魔法陣が爆発するんだから……」
「一ノ瀬の言う通り、ちょっと間違っただけで恐ろしい結果になるのが召喚魔法だ」
地球の人間を拉致してきた報いを受けさせたいとひるめさんは言っていたが、なかなか悪辣な仕返しだな。
俺たちはあっちこっちにある召喚施設に細工して回った。
俺とハンナの場合は隠密行動からの描き換えだけど、カナンの場合は破壊だ。圧倒的な魔法を行使することによって施設を完全に破壊する。
そして一ノ瀬は魔法陣がある施設の立地を見た時、その施設を水没させると言い出してアクアに魔力を注いでいた。
こうしてクソジジィがいる大神殿以外の召喚施設は使い物にならない状態や、使うと大変なことになる状態にした。
コミカライズも4話まで掲載されています。
10日に5話が更新予定です。
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