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ガベージブレイブ(β)_081_死者の国3

11月15日に3巻が発売になります!

どうぞお手に取って読んでください。


11月10日にコミカライズが公開されています。

こちらもよろしくお願いします。

 


 ケルベロス祭りを終えた俺たちは巨大な鋼鉄の両開きの門を開けた。

 押しても引いても開かなかったので、蹴り飛ばして開けさせてもらった。俺は悪くない!

 門の中に入ったが、殺風景な荒野が広がっていた。あの門は見せかけだけか?

「なんだか拍子抜けだな」

「ご主人様、そうでもないようですよ」

 カナンが荒野の先を見つめていた。そしてしばらくすると俺にもその理由が分かった。


「客の数はざっと十万ってところか?」

「いっぱいなのです!」

 次第に見えてくる蠢く亡者ども。まるで津波のようにこっちに向かってきている。

「あぁ……」

 一ノ瀬の顔が真っ青になっていく。

 またグールやスケルトンなどの死霊系魔物だ。

 しかも、門の外側にいた死霊系魔物よりも明らかにレベルが高い。それこそオールド種やエンシェント種並の一般的には最強の部類に入るレベルの魔物がわんさかとやってくる光景は俺たちじゃなければ逃げ出していただろう。

「一ノ瀬は後ろに下がっていろ」

「ご、ごめんね……」

「気にするな、お化けが苦手なのは小さい頃から知っている」

 俺は一ノ瀬を後ろに下がらせ、カナンたちを見た。


「ご主人様、ここはカナンたちに任せてほしいのです!」

「いいけど、どうした?」

「アリーさんに対多戦闘をしっかりと経験させてあげたいのです」

「そうですね、アリーさんとスズノさんはまだ経験が少ないですからいいかもしれませんね。一ノ瀬さんは死霊系ではない時にがんばってもらうとして、アリーさんはここでがんばってもらいましょう」

「カナンとハンナがそう言うなら俺は構わないぞ」


 今まではベーゼによって支配下に置かれていった死霊系の有象無象の魔物たちだが、そういう意図があるなら練習相手にいいだろう。

 正直いってケルベロスのほうがレベルが高かったので、特別にずば抜けた戦闘能力を保有しているわけではないので、戦う意味を見い出せない。

 それにアリーもカナンやハンナと肩を並べて戦えるようになりたいだろう。キツネ耳がピコピコしているからそうしたいのが分かる。


 かくしてカナンとハンナのアリー強化計画が実行に移された。

「アリーさん、意識は全方位に向けてください。アリーさんなら音の聞き分けができるはずです」

「はい!」

 アリーは耳に手を当てて目を閉じた。

「ララーラァラ~ラ~」

 おもむろに口を開きメロディーを奏で始めた。


「これは【ゴッドボイスII】か……?」

【ゴッドボイスII】はアリーのユニークスキルで、対象を意のままに操ることができるスキルだ。

 魔物たちを見ると足を止めて跪いていく。

「なるほど、死霊系でも【ゴッドボイスII】は有効ってわけだ」

 ベーゼは死霊系を配下にできるが、アリーは死霊系に限らず操れる。アリーの【ゴッドボイスII】のほうが使い勝手がいいように思えるが、死霊系に関していえばベーゼのほうが圧倒的に上だ。

 なぜかというと、【ゴッドボイスII】は何らかの拍子で効果が切れてしまう場合があるので、歌い続けなければいけない。対してベーゼの場合は完全に支配下にしてしまうので、一度効果が発生したらそれが延々と続く。

 とはいえ、レベル四百を超えたアリーの【ゴッドボイスII】だとレジストもされにくいし、相手次第ではほとんど一生効果があるはずだ。


「さぁ、皆さん。私たちの敵に報いを受けさせましょう!」

 アリーの言葉で跪いていた魔物たちがやってきた方に引き返していく。

 送り出した軍団が敵として現れたら相手も嫌だろうな。それをいったら、ベーゼもなんだけどね。

 俺たちはアリーの死霊軍団の先導で敵の本体がいる方向に向かった。

 いったい何が出るのか、わくわくするな。一ノ瀬はがくがく震えているけど……。


「ご主人様、とても大きな魔力を感じます」

「これまでにないほどか?」

「はい、魔族のエンシェント種よりもはるかに大きな魔力です」

「ついに親玉のおでましってところか? どのくらいで接触しそうだ?」

「動く気配がありませんので、しばらくはかかります」

 死霊軍団の進行速度は遅いので、向こうが動かないと接触には時間がかかる。


「それなら、お茶にするか!」

「「「「はい!」」」」

「アリー、死霊軍団はそのまま進めておいてくれ」

「分かりました」

 死霊軍団が移動した距離なんてすぐに縮めることができる。


「今日はクッキーと紅茶にしよう」

「かしこまりました」

 ハンナが手際よくテーブルセットを配置して、クッキーと紅茶を用意してくれる。できるメイドのおかげで荒野の中に憩いの場ができた。

「このクッキーは私とブラウニーちゃんで作ったの。美味しいといいのだけど……」

「へー、一ノ瀬とブラウニーが作ったのか、どれどれ……」

 甘さ控えめでサクッと仕上がっている。それに紅茶の香りがふわっとして美味しいクッキーだ。

「うん、美味いよ。一ノ瀬のお菓子は昔も今も安心の味だ!」

「えへへー、ありがとう。ブラウニーちゃんにもいっておくね」

 視界に死霊軍団が入らないようにして、さらに現実逃避して考えないようにしている一ノ瀬はいい笑顔だ。

 そして、俺の十人前以上をサラッと胃袋に収めたカナンも満面の笑みだ。


「主様」

 俺たちがお菓子とお茶を楽しんでいると、ベーゼが声をかけてきた。

 ベーゼから声をかけてきたということは、何らかの緊急事態が発生したんだと思う。

「どうした?」

「クソジジィに動きがありました」

「クソジジィに動き?」

「はい、新しい勇者を召喚しようとしているようです。また、残った勇者を集めています」

「今回の勇者を見ると新しい勇者を召喚するのは分からないではないが、なんで勇者を集めているんだ?」

「勇者を生贄にして新しい勇者を召喚するようです」

「はぁ? ……クソだな」

 あのクソジジィは何を考えているんだ?

 そんなに勇者を召喚したって役に立つ奴なんかほとんどいないだろう? 今の勇者を見れば一目瞭然だろうに。


 俺が考えていたら、カナン、ハンナ、一ノ瀬、アリーの視線が俺に向けられていた。

「勇者を救う義理はないが、新しい勇者を召喚するのは止めなければならないな。皆、悪いけど予定変更だ。クソジジィをぶっ飛ばしにいく」

「「「「はい!」」」」

 クッキーはすでにカナンのお腹の中に収まっているが、飲みかけの紅茶をクイっと飲み干した。

「ツクルさん、あれはどうしましょうか?」

 アリーが死霊軍団を見つめていた。

「あー……ベーゼに任せようか」

「そうですね」

「ベーゼ、あれを全部支配下に置いてくれ」

「承知しました」

 ベーゼが持っている杖をサッと振ると、一瞬で十万の死霊軍団を支配下に置いた。使える部下がいて俺は嬉しいよ。


「ベーゼ、あの死霊軍団で門の内側を護ってくれ。死霊を一匹たりとも門の外に出すな」

「承知しました」

 これでこの死者の国から外に出ることはできないだろう。

 まぁ、奥にいた大きな気配の奴が出向いてきたら十万でも百万でも死霊軍団(こいつら)では勝てないけどな。


 カナンの【転移魔法】はレベルアップして【転移魔法III】になって、【時空魔法】に昇華している。

 すごいものでカナンの【時空魔法】で転移すると、どんな場所でも目的の場所に数ミリメートルの誤差で転移できる素晴らしいものだった。

「なあ、別次元へ転移できるのか?」

 疑問に思ったことを聞いてみた。

「うーん、やってみないと分かりませんが、多分できると思います」

「なら、やってくれるか? 一応、空気があって大地がある場所にしてほしい。そうじゃないと帰ってくることができないかもしれないからな」

「はい、やってみるのです」

 カナンは【時空魔法】を発動すると、禍々しい紫と黒の渦が現れた。

「この先が異次元の世界なのか?」

「はい。ご主人様が言ったように、空気と大地がある場所で異次元になります」

「よし、いってみるか!」

「ご主人様、危険です。ここはこのハンナにお任せください!」

「いや、カナンは一緒にいってもらわなければダメだが、ハンナたちはここで待っていてくれ」

「しかし……いえ、承知しました……」

 ハンナは渋々だが、了承してくれた。

「ツクル君、気をつけてね」

「一ノ瀬、分かっているって」

「ツクルさん、必ず帰ってきてください」

「アリー、俺は必ず帰ってくる」

 3人に気がるに「いってくる」と言って、俺はカナンと一緒に渦の中に入った。


 ……そこは何もない荒野だった。赤茶けた大地が延々と続いている。360度全て荒野で地平線が見える。

 地平線が見えるということは天体だと思われる。空気もあって苦しくもない。

「【詳細鑑定】、ここは異世界なのか?」

 浮かんだのは『異世界テンダレス』。異世界とついているのだから、異世界なんだろう。

「ここに人類はいるか?」

 浮かんできたのは、『いない』だった。なら、知的生命体はいるのかと聞いてみたら、これも『いない』だった。地球じゃないのは確定したし、俺たちが召喚された世界でもない。

「カナン、周囲に魔力は感じるか?」

「いいえ。普通は空気中にも少なくても魔力があるのですが、ここにはそれさえありません」

「俺の気配感知にも何もひっかからない。生命体がいない世界なのかもしれないな」

「はい、そうだと思います」


 俺とカナンはしばらくこの世界を探索したが、1000キロメートルほど移動してやっと草や樹木を発見するくらいの荒野だった。

 草や樹木のあるエリアに生命体はいたが、小動物レベルの生命体だ。魔物の姿はない。そもそも魔力がまったくない地球のような世界なので、魔物はいないようだ。

 粗方だが探索して得るものはなかったので、カナンの【時空魔法】で拠点である温泉旅館に戻った。カナンならいつか俺たちを地球に転移させてくれるんじゃないかな?


 

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