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ガベージブレイブ(β)_080_死者の国2

3巻発売です!

応援、よろしくお願いします。

 


 巨大な前足が地面を抉る。

 ハンナが今までいた場所だが、ハンナはすでにいない。

 ハンナは高くジャンプしたが、まるで糸か何かに吊られているかのように、滞空時間がながい。


「躾がなっていない駄犬には、躾が必要ですね」

 すると、ハンナは何もない空中を蹴ってケルベロスの頭の一つを殴りつけた。

 殴られたケルベロスの頭は地面にめり込み、ハンナは何もなかったかのようにケルベロスのすぐ前に降り立った。

「グルルゥゥゥ」

「「ガオォォォッ!」」

 地面にめり込んでいた頭は半分が抉れていたが、あっという間に再生して元通りになった。


「本気できなさい。本気でも駄犬が私に勝てることはありませんが」

 狼獣人の誇りなのか、それとも犬嫌いなのか、ハンナの言葉はケルベロスに辛らつだ。

「ガルッ!」

 一つの口が大きく開かれた。おそらくブレスの準備行動だろう。

「ガァァァァァァァッ!」

 ブレスが吐き出され、ハンナを飲み込もうとするが……。

「そんなもの!」

 ハンナは左右の拳の連打の拳圧でブレスを押し戻している。

 やっぱハンナは半端ねぇ。


「「「グル……?」」」

 ブレスが押し戻され、なんの効果も発揮しなかったことにケルベロスは頭を傾ける。

「「「………」」」

 三つの顔がお互いに見合って頷いたと思うと、ケルベロスの雰囲気が変わった。

 どうやらここからが本気のようだ。


 ケルベロスが地面を蹴ってハンナに飛び掛かるが、ハンナはそれを避けた。

 今回のケルベロスの動きは今までとはまったく違うもので、スピードも切れも段違いだ。

 だが、ハンナもさるもので、ケルベロスの本気の動きにしっかりとついていっている。

 ケルベロスは高速で動きながらもブレスを吐き、爪を振る。

 三つの頭がそれぞれ独立して考え、独立して動く。体を動かしているのはどの頭なのか?

 爪、牙、ブレスの攻撃をことごとく躱し、ケルベロスへ反撃をするハンナだが、ケルベロスの【超再生III】によって怪我や欠損が瞬時に治っていく。

「駄犬のくせに、無駄に生命力がありますね」


 レベル差があるのに、まるでハンナの方が高レベルのような戦いが行われる。

 これはレベルではなく、戦闘に対するセンスともいうべき差で、ケルベロスは三つの頭を駆使してもハンナ一人の動きを予想できないのだ。

 逆にハンナはケルベロスの動きを予想して、その動きの先をいく。

 ケルベロスが弱いのではなく、ハンナの戦闘センスがありえないほどの次元にあるためだ。

 一概に天才といってはハンナに失礼だろう。

 ハンナは天性のセンスと、センス以上の努力によってこの域に達したのだ。

 レベルでは測れない圧倒的な戦闘センスと、誰よりも努力するハンナだから辿りつける領域なのだ。


 そんな高速で攻防を繰り返すケルベロスとハンナの戦いに動きがあった。

 ケルベロスの石化ブレスが足に触れてしまったことで、ハンナの右足が石化されてしまったのだ。

 足首の先だけだが、それだけでも石化すれば動きが悪くなるのは必然だ。

 ケルベロスのスピードに対応するのが遅れたハンナは、ケルベロスの巨大な前足にサッカーボールのように蹴り飛ばされた。

「くっ!」

 ハンナは地面を何度もバウンドして数十メートル飛ばされた。

 ケルベロスはやっとまともに攻撃がヒットしたので、三つのどの顔もご満悦の表情だ。


 地面に倒れるハンナにゆっくりと近づくケルベロスは勝った気でいるようだ。

 このていどで勝てるほどハンナは甘くないと思うけどな。

 まぁ、気を緩めるのはケルベロスの勝手だし構わないけど。


 ケルベロスがハンナの前で悠然とたたずむ。

 ハンナがもう起きてこないと思っているんだろうな。

 一つの顔が大きく口を開けた。あれは業火のブレスを吐く顔だ。

 ブレスが吐かれようとしたその瞬間、ハンナの体がブレたと思ったらブレスを吐こうとしている顔が同時に跳ね上がった。

 跳ね上がった衝撃で口が閉じて、顔が膨張したと思ったら爆発した。

「「ガルゥゥゥッ!?」」

 なんてタイミングのいいアッパーカットなんだろうか。


「面倒なブレスですね。ですが、ご主人様のお力の前には無力です」

 何食わぬ顔のハンナがそこにいる。

 ハンナは足首の下が石化した足をこんこんと地面に軽く打ちつけると、ぽろぽろと石が落ちた。

 石化して蹴り飛ばされた時に俺の焼肉を食べたのが見えた。

 ケルベロスの三つの顔についている合計六個の目からは死角になった時に口に放り込んでいた。

 俺の焼き肉はどんな傷も治すし、状態異常だって回復する。

 さすがに欠損があるとひと切れで再生までは無理な時もあるが、足首から下の石化くらいなら問題ない。

 しかし、あの一瞬でケルベロスに気づかれずにそれができるのだから、さすがとしか言いようがないな。


「さて、ご主人様をあまりお待たせするのは失礼ですから、終わらせますね」

 いや、俺はそんなことを思ったことはないから、いいんだぞ。

「ご主人様にいただいた、この力を受けてみなさい!」

 ハンナの体が発光した。

 すでに頭が再生したケルベロスが、その光を見て後ずさった。

 ハンナの光は……【覇動】に似ているが……?


「さぁ、調教の時間です!」

 ハンナが消えた。と思ったらケルベロスの真ん中の頭が爆発した。

 さらに、左の頭、右の頭と弾けて消滅した。

「まだです。こんなもので終わると思ったらいけませんよ」

 左前足、右前足、右後ろ足、左後ろ足が弾けて消滅した。

「何もできないからって、容赦しませんよ」

 ハンナはさらに胴体を何度も殴りつけ、ケルベロスを肉の塊にした。

 レベル差があるのにこの圧勝劇はさすがとしか言えない。


 手でぱんぱんと体についた汚れを払いながら俺の前にきて、綺麗にお辞儀をする。

「ご主人様、駄犬を倒してまいりました」

「お、おう……ご苦労だったな」

「いえ、大したことではありません」

 いい笑顔である。

 ハンナの尻尾がぶんぶんと揺れているので、褒めてほしいのが分かる。

「よくがんばった。ハンナはすごいな」

 頭を撫でてやると、尻尾の揺れの速度がさきほどの倍以上に……。


 ハンナをひとしきり褒め終わる頃、門の前にケルベロスが復活した。

「さっきと毛色が違うように見えるのは気のせいか?」

「カナンにも違うように見えるのです」

「私も違って見えますよ、ツクルさん」

「私にも違って見えるよ、ツクル君」

「たしかに、先ほどよりも明るめの色です。ご主人様」

 毛色が青っぽくなっているんだよ。


 復活したケルベロスを【詳細鑑定】で見てみると、先ほどハンナが倒したケルベロスと違う点があった。

 それは、種族スキルの【豪雷・猛毒・石化のブレスIII】だ。

 先ほどのケルベロスは【業火・猛毒・石化のブレスIII】だった。『業火』が『豪雷』に代わっているのである。

 ケルベロスは復活すると何かしらの変化があるのだろうか?

「まぁ、こいつを倒せば分かるか」

「ご主人様、今度はカナンに戦わせてください!」

「いいぞ。次はカナンに任せる」

「はいなのです!」


 カナンが二・三歩前に出ると、紅き賢者の杖を掲げる。

 カナンは遠距離攻撃のプロフェッショナルなので、ハンナのようにケルベロスに近づく必要はないのだ。

「燃え尽きるのです!」

 ケルベロスを囲むように魔法陣が現れる。

 当然のことだが、ケルベロスは魔法陣に気づき、その場を離れようとした。

 しかし、魔法陣から現れた複数の手によって押さえ込まれてしまった。

 触手にも見える魔法陣の手はいったいなんなんだ?

 まさか、カナンが触手プレイを?

 驚きながら見ていたら、ケルベロスが炎に包まれた。

「さっきの触手はなんだ?」

「触手ではないのです! あれはケルベロスちゃんが逃げないように、『魔力』で作った手なのです」

 やっぱり触手でいいじゃん。

 今度やり方を教えてもらおう。そうしたら、俺も……むふふふ。


「ツクル君?」

「ツクルさん?」

「「ご主人様?」」

「「「「いやらしい顔をしています」」」」

「ぐっ!?」

 肘鉄を入れられた。

 てか、カナンは魔法を発動させながら喋ったり他ごとができるんだな。さすがは賢者だ。


 そうこうしている間に、ケルベロスはこんがりと焼かれてしまった。

 ハンナが戦ったケルベロスは『業火』のブレスを持っていたから、もしかしたら火に強かったかもしれないけど、今回のケルベロスは『豪雷』だったから火に対しての耐性がなかったのかもしれない。


 ケルベロスはまたすぐに復活した。

 今度は『豪雷』が『洪水』になっていた。

「今度は俺だな」

「ツクルさん、気をつけてくださいね」

「ご主人様なら一発なのです!」

「ツクル君、がんばってね」

「駄犬などご主人様の敵ではありません!」

「おう、いってくるぞ」


 俺がケルベロスに近づいていくと、黒霧が話しかけてきた。

「久しぶりに戦えるな」

「最近、体をあまり動かしていなかったからな」

「ツクルは体が鈍っているんじゃないか?」

「そうかもしれないぞ」

「私の持ち主として、恥ずかしくない戦いをしてもらいたいものだ」

「ふっ、俺もそうありたいと思っているよ。相棒」

 話をしながらケルベロスの前までいく。

 自分でも緊張感がないと思うけど、それが気に障ったのか、ケルベロスはいきなりブレスを吐いてきた。

 しかも、三つの顔が同時に、三種類のブレスだ。

 俺だけ特別待遇なのか?


 吐き出されるブレスを【覇動】を纏ってやりすごす。

 ブレスを吐き終わったケルベロスの顔は間抜けなもので、俺がなんのダメージも受けていないことに驚いている。

「いきなりだな。挨拶もなしか?」

「犬を躾けるのは主人の役目だ。この犬の飼い主は無能なんだろう」

「黒霧も言うよな」

 だが、黒霧の言う通りだ。

 飼い主ができないのであれば、俺が躾けてやろう。


 スーッと黒霧を鞘から抜く。

「いくぞ、犬ころ」

 俺が動くとケルベロスも動いた。

 今回のケルベロスは最初からトップギアのようだ。

 だが、そのていどの動きでは、俺を上回ることはできないぞ!


「ほら、お座りだ!」

 後ろ足を共に斬り飛ばし、尻を地面につける。


「次はお手!」

 黒霧の背で右前足を跳ね上げる。


「お代わり!」

 同じく黒霧で左前足を跳ね上げる。


 ケルベロスの三つの顔が無防備になると、苦し紛れにブレスを吐こうとした。

「甘いっつーのっ!」

 剣技、三枚おろし!

 この技は『調理師』ならではの剣技を編み出したいと思って創り出したもので、鋭い斬撃を数回発生させる剣技だ。スキルではない。

 三枚おろしでケルベロスの三つの顔を斬り飛ばした。

 ぼとぼとと地面に落ちる三つの顔は、自分が斬られたとにまだ気づいていないようだ。


「皮剥ぎだっ!」

 これも俺のオリジナル剣技で、魚をさばく工程にヒントを得た剣技だ。

 威力は三枚おろしに譲るが、手数はこちらの方が上である。


「いっちょあがり!」

 ケルベロスの毛皮を剥いでやった。

 グロテスクなので表現は控えるが、肉がむき出しになった状態だ。


 その後も俺たちはケルベロスによる経験値稼ぎをした。

 それにケルベロスは【神々の晩餐】の素材になり得るので、今の俺には貴重なのだ。

 まぁ、【神々の晩餐】を使う機会がないほうがいいんだが、切り札として持っているのはいいことだろう。


 今回のケルベロス祭りで、俺たちはまたレベルを上げることができた。

 最初は一人でケルベロスを倒せなかった、一ノ瀬とアリーも今ではケルベロスを単独討伐できるまでになった。

 俺とのレベル差もかなり詰まってきて、本当にケルベロスには感謝だ。

 ごちそうさん。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 本話で出てきた剣技は以前はスキルでした。

 申し訳ありませんが、書籍の方に設定を合わせさせていただきます。

 

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