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ガベージブレイブ(β)_075_忍び寄る闇4

 


「ツクルさん、そろそろいい頃合いかと思います」

「そうか。いつ決行するんだ?」

「そうですね。明日のルク・サンデール王国時間の正午でよろしいでしょう」

 アリーは綺麗な顔でほほ笑んだ。

 俺はその笑顔を見て頷き、視線を動かした。


「イスラフェル、首尾はどうだ?」

 視線の先で片膝を床につけ頭を下げていたイスラフェルが顔を上げた。

 今のイスラフェルはルク・サンデール王国の国王を乗っ取っているので、人族の爺さんだ。

 国王だから豪華な衣装を着ているが、白髪頭でしわしわの顔だ。

「上々でございます。主様」

「よし、一斉に人族至上主義の放棄を行うぞ。反抗するやつは容赦なく乗っ取れ」

 うわー、なんだか悪党のセリフだな。

「承知しました」

「下がっていいぞ」

「はっ!」

 俺の忠実な僕であるイスラフェルは部屋を出ていった。

 部屋に残ったのは俺とアリーの二人だけ。

 三十帖くらいの広い部屋だけど、宿屋だから二人とも浴衣姿だ。

 ちょっとはだけた浴衣から覗くアリーの白い太ももがエロく、胸元も見えそうで見えないのが俺の妄想を掻き立てる。


 カナン、ハンナ、一ノ瀬は海にいっている。

 三人の水着姿を見てみたいが、泳ぎには少し早い。

 三人で漁をしているのだ。どうやって魚を獲るのかは三人が考える。

 美味しい魚を獲ってきてほしいものだ。


「ツクルさん……」

「なんだ……?」

 振り向くとアリーの顔が目の前にあった。

「私はツクルさんの妻になりにきたのです。妻にしてもらえますか?」

 アリーの息が俺の唇に当たる。

 切れ長の色っぽいブラウンの瞳に俺が映っている。

 心臓が飛び出すんじゃないかと思うほど心臓が早く鼓動する。


「お、俺は―――」

「ただいまなのです~♪」

「っ!?」

 カナンが帰ってきて部屋の戸を開けた。

 俺とアリーが見つめ合っているのをカナン、ハンナ、一ノ瀬がジーっと見ている。

「「「………」」」

「お、お帰り……」

「あら、もう帰ってきたのですね。もう少しゆっくりされていてもよろしかったのですよ」

 アリーは俺に抱きつき頬ずりをしてきて、そのまま唇を俺の唇に押しつけてきた。

「「「っ!?」」」


 うっ、し……舌が……。

「うふん……ツクルさん。いい加減、私たち誰かを選ぶか、全員を受け入れるか決めてはいかがですか?」

「………」

「ツクルさんは決断力のある方です。なのに、私たちのことは決断されない……。ズルいですよ」

 ズルい……か。

 たしかにアリーの言うとおりなのかもしれないな。

 俺は決断するべきなのかもしれない。そうでなければ、四人をそばに置くことはできない……だろうな。


「あ、アリーさん、何を!?」

 一ノ瀬が挙動不審だ。

「私はツクルさんの妻になるのです。ですから、ナニをしようと思ったまでですよ」

 ナニってなんだよ?

 気まずい。どうしたらいいんだろうか?


「主様」

「べ、ベーゼ!」

 ナイスタイミングだ、ベーゼ!

「どうした、ベーゼ」

「あの者の拠点をつきとめました」

「そうか! よし、乗り込むぞ!」

 俺は立ちあがり、何もなかったかのように歩き出した。

 リムレイはオールド種だ。その後ろにはエンシェント種やそれよりも大きな存在がいるはずだ。

 どんな奴が後ろにいるのか、見極めて邪魔するなら潰すし、何もしないなら放置だ。それを見極める。


「あ、もう、意気地なしなんですから……」

 アリーが何か言っているが、聞こえない!

「皆、何をしている。いくぞ!」

 先ほどの雰囲気を吹き飛ばすように、俺は明るくふるまった。


 ▽▽▽


 なんとか気まずい雰囲気をぶち壊して、魔法の絨毯に乗ってリムレイというオールドゴーストの本拠地に向かった。

 ベーゼは自力で飛べるので、俺たちはベーゼのあとについていく。

 魔法の絨毯は乗っている人間に風圧がこないようにと、気温の変化にも対応できるように改造してあるので、快適な空の旅だ。


「ベーゼの話だと、あと五時間はかかるそうだから、今のうちに腹ごしらえでもするか」

「「「「………」」」」

 おかしいな、空気が重い。

 魔法の絨毯は気圧の変化にも対応しているはずなんだが……。


「み、皆?」

「ご主人様、アリーさんだけチューして、ずるいです」

「ハンナは全てをご主人様に捧げております」

「あの……ツクル君が……したいなら……」

「ツクルさん、皆の気持ちを受け入れる時だと思いますよ」

 アリーの行動に触発されたのか、皆の言動が……。

 俺はどうすればいいんだ?


「わ、分かった。今回のことの決着がつけば、俺も決断するよ」

「本当ですか?」

「ああ、本当だ、アリー」

「ツクル君……」

「一ノ瀬のこともちゃんとするから」

「ご主人様」

「カナンもな」

「ご主人様……」

「もちろん、ハンナもだ」

 こうは言ったが、俺は四人のことに結論を出せるだろうか?

 くそ、このヘタレめ。


「主様、そろそろ到着します」

「分かった」

 ゴーストは死霊族というくくりで呼ばれることが多い。

 ゴーストにかぎらず、ゾンビやデュラハンなどの物理的な体や体に類するものを持った種族も同じように死霊族だ。


 死霊族の本拠地は俺たちがいた大陸から海を越えて別の大陸にある。

 かつて神々の戦い(ラグナロク)の場になった大陸で、今は死の大陸と言われる大陸だ。

 俺たちがいた大陸と、魔族が住んでいる大陸を足しても死の大陸の方が大きいので、広大な土地だ。

 あの短い時間でこれだけの情報を集めてくるベーゼはとても優秀だ。


「なんだか気持ち悪いのです……」

 この大陸には生者はいない。いるのは死者ばかりなので、その異様な霊気ともいえる魔力にカナンは敏感に反応している。

「たしかに陰気な臭いです」

 ハンナが鼻をひくひくさせている。あれは【嗅覚強化III】で周囲の臭いをかぎ分けているのだろう。

 しかし、陰気な臭いってどういう臭いなんだろう?


「主様、この大陸の中央に死者の国への入り口があります」

 この大陸が本拠地ではなく、この大陸に死者の国への入り口があるだけなんだな。

 生者の暮らす土地よりも広い大陸なのに、死者の国の入り口があるので、生者が住めないなんて、なんて勿体ないんだ。


「一見すると、草木も生えていますので、生者が住むことはできるのではないでしょうか?」

 アリーは入植できそうだと考えているようだけど、いつ死霊族に襲われるか分からない土地に入植する奴なんているのか?

「でも、なんだか毒々しい感じがしますよ」

 一ノ瀬の言う通り、生えている草木はなんだか毒々しい。

 俺の【詳細鑑定】で見てみると、霊気にあてられて食用には向かないと出た。まさに死の大地だ。


「ん……あれはなんでしょうか?」

 ハンナが何かを見つけた。目を凝らすと何かの石碑だというのが分かった。

「いってみるか」

 石碑に近づき死の大地に降りる。

 その瞬間、俺たちの周りの地面からゾンビが這い出てきた。


「ツクル君!」

 一ノ瀬がガタガタ震えて俺にしがみついてきた。

「そういえば、一ノ瀬はお化けが苦手だったな」

 小学生の頃に妹の歩と一ノ瀬の三人で遊園地にいったことがある。

 その時に入ったお化け屋敷で一ノ瀬は動けなくなるほど怖がってしまって、俺がおんぶしてお化け屋敷を出てきたな。

 考えたら、ベーゼを見る目もかなり怖がっていた気がする。

 思わず連れてきたが、可哀そうなことをしてしまったな。


「一ノ瀬は俺が必ず守るから、安心しろ」

「ほ、本当に……?」

「ああ、俺は嘘はつかない」

「うん、ありがとう」

 一ノ瀬の目に浮かんだ涙を指でなぞって取ってやる。

「ツクル君……」

「一ノ瀬……」

 綺麗な瞳だ。吸い込まれそうになるほどに黒いけど、光り輝いているように見える。

 日本人でもここまで黒い瞳を持った者は少ないだろう。多少はブラウン系の色が入るからな。


「ゴホン! いい雰囲気のところ申し訳ありませんが、ゾンビに囲まれていることをお忘れなく」

 アリーの指摘で今の状況を思い出す。

「すまん……」

「いいですよ。私もツクルさんに甘えさせていただきますから」

「カナンも~」

「僭越ではございますが、このハンナも仲間に入れていただけますでしょうか?」

「それに関しては今回のことが終わってから!」

 収拾がつかないので、無理やり切り上げる。


「ベーゼ、このゾンビどもを従えることはできるか?」

「問題ございません」

「なら、お前に任せる。せっかくの死の大地だ。お前の戦力に加えていけ」

「承知しました」

 俺の命令を聞くと、ベーゼは俺たちを囲むゾンビを使役した。

 ベーゼがゾンビを使役すると、次から次にゾンビが地面から這い出てくるようになった。


「また出てきた!? ご主人様、燃やしますか?」

「出てくれば、出てくるほどベーゼの戦力になるんだから、構わないだろう」

 カナンが紅き賢者の杖を構えるのを制止する。


 無限ループかと思うほど、ゾンビは使役されてはポップするを繰り返す。

 根競べの様相だが、ベーゼに疲れの色は見えない。

 そもそもベーゼには疲れという概念がない。

 休憩も睡眠も必要ないベーゼなら、根競べに負けるなんてないだろう。

 それに使役する死霊族が増えれば増えるほどベーゼの能力は上がっていく。

 ゾンビ一体では微々たるものだが、それが千、万と増えていけばいくほど、ベーゼは強くなる。

 この死の大地はまさにベーゼのためにある場所と言えるだろう。


 

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