ガベージブレイブ(β)_069_オース海洋王国1
皆と別れた。久しぶりの一人である。
そんな俺が最初に向かったのはオース海洋王国だ。
このオース海洋王国は人族至上主義の国で、ラーデ・クルード帝国とルク・サンデール王国に次ぐ大国である。
ここでこの大陸の地理についてちょっとだけ話しておこうと思う。
俺が捨てられたボルフ大森林はこの大陸の北側に広がる広大な土地だ。
面積で言えば、大陸の三分の一くらいあるかもしれない。正確に測れないので感覚だ。
そして、このオース海洋王国はボルフ大森林とは真逆の南端にあり、幾つかの島を有している。
国の名前でも分かると思うが、オース海洋王国は海上貿易で栄えている国だ。
大陸側の国土は砂漠ばかりなので、王都は大陸ではなく島にある。
特産は胡椒を始めとした香辛料で、地球でいうインドや東南アジア諸国のイメージで、住んでいる人の特徴もインド人である。
幸いなことに中世のインドや東南アジア諸国のように植民地にはなってはいない。
オース海洋王国の北側にラーデ・クルード帝国やルク・サンデール王国がある。
このオース海洋王国はオースと略されて呼ばれるそうだから、俺もそう呼ぶことにしよう。
エンゲルス連合の使節団の一員に紛れてこのオースに転移門で入った俺は、使節団から早々に離れて町中を歩いている。
もちろん、使節団にはイスラフェルもいたので、俺が別の国にいく頃には、この国の首脳陣はイスラフェルの支配下にあるだろう。
町並みは石造りの建物が多く、狭い路地に多くの店がテントを張っているので、人でごった返している。
本当にインドのように見えてしまう。インドにいったことなんてないけど。
「へー、香辛料だけかと思ったら、綿製品も豊富なんだ」
このオースから西周りの海上交易でエンゲルス連合国にも香辛料が流れてくる。
エンゲルス連合国と呼ぶのも面倒だな、略してエンゲルスと呼ぶことにしよう。
転移門は国家が管理しているので、交易は陸路か海路になるのだ。
オースからエンゲルスへいく距離としては、陸路の方がはるかに短いが、オースの国土の多くは砂漠なので海上貿易が発達した歴史がある。
「カラフルな魚が多くて、食欲をそそられないな……」
「兄ちゃん、何言ってるんだ!? このバブカはうめぇーぞ!」
五十センチメートルほどのコバルトブルーの魚を持ち上げて、店のおっちゃんがぐいぐい勧めてくる。
「それはどんな料理が美味いんだ?」
「バブカはガリムが一番だ!」
「ガリム?」
「なんだよ、そんなことも知らないのか? スパイスを混ぜてスープにしたところにバブカをぶつ切りにして入れるんだ。スパイスがバブカの臭みを消して美味いぞ!」
なるほど、カレーだな。インドは各家庭でオリジナルのレシピがあるって聞いたことがあるけど、本当かどうかは知らない。
このオースでもカレーはインドのようにスープカレーが多いようだ。
露店のあちこちでナンとカレー、米とカレーが売られている。
いいだろう。食わず嫌いは俺の主義に反するから、そのバブカを買ってやろう!
「三匹くれ」
「あいよ!」
勧めたバブカが三匹も売れたせいか、いい笑顔のおっちゃんである。
せっかくなので、ガリムを食ってみよう。
「おっちゃん、一つくれ」
「おう、ちょっと待ちな」
この国の男連中は女性が着るようなワンピースのような服の下にズボンを履いている。たしかクルタという服だったと思う。
白色が多いようだが、金色や紫色もあって、結構色鮮やかだ。
そして、男性のクルタ以上に綺麗なのが、女性の服だ。
布を巻いたようなサリーが多く、とてもカラフルで俺の目を楽しませてくれる。
「おまちー!」
ナンとガリムが乗った金属製の皿を受け取る。
フォークやスプーンがないので、手で食えということだろう。他の人たちも手で食っている。
ナンをちぎってガリムにつける。ガリムは緑色をしていて、スープカレーのようにサラサラで具は入っていないようだ。
口に放り込む。
「っ!?」
これは……美味い! 数種類の香辛料が混ざり合った複雑な味だが、それぞれの香辛料がお互いの存在感を高め合っている。
俺の作るカレーは日本人が作るようなドロドロカレーだが、このガリムは北海道でよく出てくるスープカレーでも、最上級の美味さのものだ。
こんな露店でこれだけ美味しいスープカレーが食べられるとは、オース恐るべし!
「おっちゃん、美味いよ」
「おう! 自慢のガリムだぜ!」
褒めたら親指を立てて嬉しそうに返事をしてくれる。
人々が活き活きとして、人当たりがいいので好感が持てる。
「それにしても獣人も町中にいるんだな……?」
人族至上主義の国では獣人は奴隷にされるか隠れ住むしかないが、オースの王都では奴隷でもない獣人が普通に歩いて活き活きしている。
俺が改革する前のエンゲルスは獣人を見ると入店拒否されたりしたが、ここではそういうことがないようだ。
「なんか、人族至上主義の国のイメージが分からなくなってきたぞ?」
このオースにはベーゼの手の者を入れていなかったので、情報がまったくなかったが、ここまでイメージと違っているとは思わなかった。
だからこそ、俺自身で情報収集しようと思ったんだけど。
「なんだあんちゃん、人族至上主義なんて古いことまだ言っているのか?」
俺の呟きに反応したのは、犬耳の渋面の中年男だ。
「古い? この国にきたばかりなんでな」
「流れ者ではないな? 冒険者か?」
男は俺を値踏みするかのように見てくる。あまり気分のいいものではない。
「まぁ、そんなもんだ」
「そうか、このオースじゃぁ、人族至上主義を口にするのは対外的な仕事の時だけだぜ。他の種族をいちいち迫害してたら貿易なんてできねぇからな」
男の話によれば、オースでは海上貿易が盛んで、他人種の国とも取引をしているそうだ。
考えてみたら、アリーの母国であるテンプルトン王国では生産できない香辛料が普通に手に入った。
表向きは人族至上主義といっているが、裏では非人族至上主義というわけだ。
他の人族至上主義の国とは違った顔を持つ国と言うわけだな。
「色々教えてくれて、ありがとう」
「なぁにいいってことよ。俺の祖国が悪く思われているのは、気分がいいものじゃねぇからな」
男は渋面に笑顔を浮かべて立ち去っていった。
このオースでは人族とそれ以外の種族が、上手くつき合っているのが分かる笑顔だ。
しばらく町中を見て回ったが、活気のある町なのは変わらない。
すると、町中が騒がしくなった。大勢の人が港とは逆の方に駆けていく。
俺は人の波に逆らって港の方に歩いていくと、煙が見えて爆発音が聞こえてきた。
「ふーん、魔物の襲撃ってわけではないんだ」
「おい、何してるんだ!? 早く逃げろ! 海賊だ!」
この声は俺へのものではない。逃げ惑う人の中の誰かが誰かに言ったものだ。
それにしても、オースは海洋王国というだけあって海軍も強いと聞いたが、まさか王都の港を攻めるとはなかなか大胆な海賊だ。
俺は倉庫のような建物の屋根の上からこの状況を確認したが、海賊はすでに港に上陸して近くの倉庫や店から略奪している。
さすがは海賊だけあって、手慣れているように見える。
海賊の船は沖に一隻、港に二隻あって、その二隻に略奪した荷物をばんばん積み込んでいる。
海賊の前に現れた人は抵抗しなくても無残に切り殺されている。
海賊というのはこういうものなんだろうと思うが、無抵抗な人を無残に殺す姿は見ていて気分が悪い。
「はぁ、なんで俺がいる時にこういうことをするかな」
「なんだ、やるのか? 海賊なんて雑魚中の雑魚だ。私を使わずに殺せよ」
「お前なぁ……。まったく」
最近の黒霧は強敵に出会わないとやる気を見せない。
以前はもっとテンション高かったのに、刀でも倦怠期なのか?
黒霧のやる気がないので、今回は魔法を使うことにした。
「ベーゼ」
「ここに」
俺が呼ぶと何もない空間から顔だけ出してきた。便利なものだが、俺だってそのくらいはできるぞ。
「死んだ人間の魂を集めておけよ」
「お任せを」
顔がすーっとなくなり、何もない空間だけが残った。
「さて、やるか」
俺は【木魔法】を発動させる。
すると、百人ほどの海賊の足元から木が生えてきて海賊を拘束する。
港で略奪していた海賊の全てをこれで拘束したことになる。
「な、なんだこれは!?」
「動けないぞ!?」
「誰だ!? 姿を見せろ!」
海賊はお宝を持っていたり、気絶している若い女性を抱えていたりと色々だが、俺が拘束したのは海賊だけなので、若い女性は気がつけば逃げることが可能だ。
ん、俺が助けないのかって? ここまでやったんだから、これ以上俺が何かする必要はないだろ? 自分で逃げられるんだから。
俺は拘束した海賊をこのままにする気はない。
こういう奴らは生きていてもまた同じことをするから、殺しておくのが一番だ。
ただし、簡単には殺さない。
じわじわと死の恐怖を味わいながら死んでいけ。
「ライフドレイン」
この言葉で海賊を拘束している木の枝の先が海賊の皮膚を突き破り体内に入り込む。
「ぎゃぁぁぁっ!?」
「な、なんだこれは!?」
「だ、誰か助けてくれぇぇぇっ!?」
ライフドレインは体内に入った枝から海賊の生命力を吸い取る【木魔法】である。
生命力を一気に吸わず、じわじわと吸うので海賊は自分たちが死んでいく様を苦しみながら実感するのだ。
惨い殺し方だが、海賊にはこれくらいがちょうどいい。
港に停泊している海賊船はせっかくなのでもらっておこうと思う。
俺の【素材保管庫】に放り込むと、生きているものは海の上に放り出されるが、木に絡みつかれているので浮くことはできても泳ぐことはできない。
顔が水中から出ていればいいが、水中にあればライフドレインで死ぬよりも先に溺れ死ぬことだろう。




