表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/88

006_ヒエラルキー

 


 ハイエナウルフとの我慢比べは意外なことで幕を降ろした。

 明け方、俺が弱らせたハイエナウルフ六頭(一頭は一番最初に戦ったやつ)が急に怯えだし逃げ出したのだ。

 そんな光景を見せられては俺はホッとするよりも次の危機を感じてしまうわけで……それは現れた。


 種族:ヘルベアー レベル二百十

 スキル:【怪力】【屈強】【剛腕】【咆哮】【突進】

 能力:体力A、魔力G、腕力A、知力E、俊敏C、器用D、幸運E


 背中の嫌な汗が止まらない。

 ハイエナウルフの三倍はある巨体に真っ黒の毛皮の死神に見えた。

 俺はその化け物に見つからないように更に木の上に登っていく。

 しかし【怪力】と【剛腕】という力系スキルの二本立て……羨ましい。

『魔力』と『知力』が低いことから脳筋だと思うけど、レベルの高さもあるので洒落にならない強さだと思う。

 しかしこの森は本当に魔境なんだなと思う。

 俺はこの眼下で死んだハイエナウルフの死肉をむさぼっている強者から逃げおおせて、そしてあの神殿のクソジジイに復讐できるのだろうか?

 いや、いや、絶対に復讐してやる!

 強い意志でこの魔境を生き残り抜け出して復讐をするんだ!


 ヘルベアーは一時間ほどで三頭のハイエナウルフを食い尽くした。

 凄い食欲だ。熊っていうのは冬眠前に食い溜めするって聞いたけどこれから冬眠でもするような食欲だな。

 ……まさかとは思うけどもうすぐ冬になるってことはないよな?

 夏とは言わないけど温かいし夜もそんなに冷えなかったから大丈夫だよな?


 三頭を食い尽くし満足したのかヘルベアーは周囲をウロウロしたがノッソノッソとどこかへ行った。

「ふ~助かった」

 あんなの相手に勝てる気がしない。

 あれだけの巨体だと【湧き水】で流せるかも分からないし、【着火】の射程に入る前にぶっ飛ばされて死ねる自信がある。

 それはともかく、俺は急いで大木を降りる。

 この場から早く移動したかったからだ。

 幸いなことに周囲には魔物の気配はない。

 あのヘルベアーがいたことで寄ってこなかったのだろう。

 ヘルベアーはこの森でヒエラルキーの頂点に君臨している魔物なのだと思う。

 ハイエナウルフでもレベル百五十なのにヘルベアーのレベルは二百十だから六十もレベルが高い。

 六十なんて埋めようと思っても埋められる差じゃないはずだ……あれ?俺って何であのネコの化け物に勝てたんだ?

 それにレベル百二十三でレベル百五十のハイエナウルフを倒せている……この世界のレベルって結構いい加減?


 先を急いだ。

 ヘルベアーが俺の匂いを追ってこないとも限らないし、ハイエナウルフだって近くにいるかもしれない。

 それに俺は見つけてしまったんだ。

 ヘルベアーを避け大木の上へ上へと登ったときに岩山と川が見えた。

 だから急いでそこに向かっている。

 今の俺には【湧き水】があるので飲み水目当てで川に行く必要はないが、川を下れば人間の住む村や町に行けるかもしれないから川を目指した。


 川だ!

 レベルが上がったことで『体力』や『腕力』が向上したためか日本なら全力というほどのスピードで一時間ほど走っても多少息が弾む程度だった。

 レベルアップって凄いと実感した。


 森の中からだと鬱蒼と茂る樹木の葉で見えなかった岩山、そしてその麓を流れる川。

 川は大河というほどの幅はないが、河原が結構広い。

 もしかしたら雨季とかあって雨季だと増水して河原も水の下になるのかな?

 森の中で冬を迎えるのはいやだが、雨季も嫌だ。

 今くらいの気候の内に森を抜けて人間のいる地域へ行きたい。


 河原は大小さまざまな石が転がっており、歩きにくい。

 川の水をのぞき込む。綺麗に見えるけど一応【詳細鑑定】で確認だ。


 エルリン川の上域の水 ⇒ ボルフ大森林に降った雨が地面に浸透し栄養を得て湧き出している水が集まり川となる。ミネラルを多く含みとても美味しい。


 とても美味しいらしい。

 手をジャブジャブと洗い水をすくい上げ飲んでみる。

 ……美味い!確かに美味いぞ、この水。

 この水を持っていきたいが、水筒なんて持っていないし【素材保管庫】に直接入れるなんて出来ないよな?

 試してみた……【素材保管庫】ってメッチャ便利。

『エルリン川の上域の水×十リットルを保管しました』

 視界に浮かぶ文字。

 だから調子にのって沢山保管してみた。その量は三千リットル。

 やり過ぎた感はあるが、これでも【素材保管庫】は限界になっていないことの方に驚く。

 もしかして無限に収納できるのでは、と期待してみる。


 ガチャ。

 後ろから音が……振り向く。

 そこにいたのは小学校低学年ほどの大きさの猿だ。

 日本猿を大きくしたような容姿なので体毛は薄い茶色で顔の皮膚は赤みを帯びている。


 種族:ボアグノン レベル百四十

 スキル:【投擲】【集団行動】【引っ掻く】【木魔法】

 能力:体力C、魔力C、腕力C、知力C、俊敏B、器用B、幸運E



 俺よりもレベルが高いが今まで見た魔物の中では一番レベルが低い。

 ちょっと安心する。

 そう思っていた時もあった。

 俺と目が合ったボアグノンは「ウキィィィッ!」と雄叫びを上げると、次の瞬間、森の木々の枝の上にボアグノンの群れが現れた。

 十や二十ではないその数に俺は後ずさりをする。

「こんなんばっかだなっ!?」

 脱兎のごとく走り出す俺。

 あんな数を相手にできるわけがない!


 大量の足音、そして「ウキキ」「キィー」とか聞こえる声。

 それらがどんどん近づいてくるのが分かる。

 河原なので走りにくいし、もう最悪だ。

「ぐあっ!?」

 背中に激痛が走る。倒れ込む俺。

 どうやら河原に大量にある石を投げられたようだ。いってーな!

 ガシッ。背中に猿がのしかかる。

 俺はそれをエルボーで跳ねのけようとしたが、軽々と避けられた。

「キィィィッ!」

 立とうとしたらまた石を投げられたので立てず腕で顔を覆う。

 ガシッと俺の腕に衝撃が走る。

 その次の瞬間、河原の石の隙間から葦のようなロープ状の植物が俺を拘束する。

 【木魔法】という言葉が頭をよぎる。

 拘束された。囲まれた。死ぬ未来しか浮かばない。


 拘束された俺の周囲をボアグノンたちが踊っている。

 こいつら獲物を食べる前に踊る習性でもあるのか?

 拘束されていなければ猿が踊っている微笑ましい光景だが、この後の展開を考えると笑うどころか冷や汗しか出ない。

 困った。どうやってこの危機から脱せるのだろうか?

 この葦のような植物は【着火】で燃やすとして……俺も火傷は覚悟しないといけないよな……群れている猿は【湧き水】で押し流せばいけるか?

 やってみるしかないな。

「【着火】!」

 葦のような俺を拘束している植物を燃やす。

 熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!

 植物なので魔物よりも燃えやすいようで俺の体もかなり焼かれてしまった。

 猿たちはいきなり燃え上がった俺(葦のような植物)を見て固まる。

 踊りの途中で固まっているので滑稽な格好の猿が多い。

 体中が熱くそして痛いが、猿たちが固まっている間に攻撃をする!

「【湧き水】!」

 ドバーッ!

 俺を中心に全方向に向かって激流が発生する。

 固まっていた猿を激流が押し流す。

 俺の【湧き水】によってエルリン川に押し流されそのまま川を溺れながら流れていく猿が見えた。

 どうやら猿たちは泳げないようだ。

 もう一回、ダメ押しの【湧き水】を発動する。

 そして【素材保管庫】から回復効果のある肉を取り出して頬張る。

 激痛が収まるが、まだ完治できていないのでもう一切れを頬張る。

 そろそろ回復肉を補充する必要がある。

 幸いなことにネコの化け物の肉はまだある。

 そう考えていたけど、猿たちはかなり疲弊しておりこれは俺にとってチャンスじゃないかと思った。

 一番近い猿に近づき【着火】を発動する。約一メートルほどの距離で発動したので猿の顔が火で覆われる。

 そして次々に倒れている猿に【着火】をしていく。

 その俺を見て逃げていく猿もいるが、俺は十二体の猿に【着火】できた。

 三体目が死んだときにレベルアップのアナウンスが流れ、十一体目が死んでまたレベルアップした。

 十二体を倒した俺は十一体を【素材保管庫】に収納し一体を解体する。

 ボトボトと毛皮や幾つかの肉に解体された猿。

 肉以外の全部【素材保管庫】に収納する。

 手にした肉を平たい石の上に置き【調理】を発動する。

 見た目は美味しそうな焼かれた肉が一口サイズに切り分けられて現れる。


 森猿のトモ肉焼き ⇒ スキル【木魔法】を覚えちゃうよ?


「っ!?」

 おお!俺もとうとう魔法使い!?

 喜び勇み一切れ頬張る!……不味い!我慢して飲み込む。

『スキル【木魔法】を覚えました』

 視界に現れる文章。

「よっしゃーっ!」

 ふふふ、俺の手が疼くぜ!

 いかん、昔の黒い記憶が……中二の頃の……ダメだ!


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ