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ガベージブレイブ(β)_065_なんだかなぁ

 


「てやーーーっ!」

 剣を振りかぶって向かってくる騎士たち。あまりの遅さにあくびが出そうな剣だ。

「うりゃーーーっ!」

 騎士団長があれなのでば騎士の質も予想できていたが、黒霧を抜くまでもない雑魚だ。これで国防を担っている精鋭というのだから呆れる。

「はぁはぁ、防戦一方では我らには勝てぬぞ!」

 息を切らせて何を言っているのやら。十対一で戦ってやっているのに、まったくつまらない。


 なぜ俺が騎士団と戦っているのかというと、評議会議長の提案を受け入れたからだ。

 評議会議長は騎士団長やギルド長の主張だけではなく、俺の主張を聞いて「ならば、戦えば分かるだろ? 強い方の言い分が正しいのだ」と言って、この試合を組んだ。ゴールドダンジョンを踏破したのだから、強いのだろ? というのが評議会議長の主張だ。

 騎士団なのに魔法使いも二人いるのは言わない方がいいのかな? その魔法使いが火の槍を放ってきたけど、避けるまでもないほどにショボイ。

 俺の体が火で包まれると歓声があがった。期待させて悪いけど、ダメージないから。

 火が消えて俺がピンピンしているのを見ると騎士たちはあからさまに落ち込んだ。


「なぁ、まだやるのか? お前たちでは俺に勝てないのは分かっただろ?」

「う、うるさい! 私は騎士団を預かるザッコーデス伯爵だ! 冒険者になど負けるわけがない!」

「そうか、ならば俺も手加減はしないぞ」

 この試合のルールは相手を殺さないことだ。つまり、手足の一本や二本は斬り落としても死ななければいいということなのだ。

 俺は十分に騎士団長に反省をする機会を与えた。しかし、騎士団長はそれを拒否し続けた。その責任はお前の両腕で支払え。

「ぎゃーーーっ!?」

 俺が黒霧を振った瞬間、騎士団長の両腕が地面に落ちた。

「お前たちもああなりたいか?」

 騎士たちが剣を捨てぶんぶんと顔を横に振った。二人の魔法使いも杖を捨てて両手を上げて降伏の意を伝えてきた。

「そ、そこまで!」

 名ばかりの審判が試合を止めて、すぐに回復魔法の使い手が試合場に駆け込んできた。


「勝者は冒険者タローだ! 騎士たちを捕縛せよ!」

 騎士と魔法使いに憲兵が殺到して捕縛していく。

「待ってください! 私は頼まれて試合に出ただけです」

 魔法使いの一人が声を上げた。

「わ、私も頼まれて仕方がなく試合に出ただけなんです!」

 もう一人の魔法使いも声を上げた。

「この試合に出たのは騎士団長の命令だというのか?」

「はい、私たちは騎士団長殿に頼まれて仕方がなく試合に出たのです!」

 二人の魔法使いは必死に評議会議長に訴えている。

「わ、私たちも同じです!」

 騎士がそこに加わった。

「私たちも騎士団長に命じられてこの試合に出ただけなのです」

 騎士たちがうんうんと頷いている。

「その方らは自分が何を言っているのか、分かっているのか? この試合はゴールドランクのダンジョンの踏破をした者しか出ることを許していない。なのに、お前たちは何故試合に出ているのだ」

「「「……」」」

 合計九人の騎士と魔法使いの目が泳いでいる。

「その方らは冒険者の功績をかすめ取ろうとしたのだぞ、そのことをどう思っているのだ?」

「「「……」」」

「まぁいい。その方らの罪状は取り調べが済んでから確定させる。連れて行け」

 そう言うと評議会議長はギルド長に向き直った。


「さて、ギルド長。貴殿とて身の処し方を弁えているだろ」

 評議会議長はギルド長の責任を問いただしているのだと、俺にも分かった。

「何を仰るのですか、評議会議長。私は冒険者ギルドのギルド長ですぞ。例え評議会議長であっても私を罪に問うことはできないし、私は罪を犯してはいないのです」

 冒険者ギルドは世界中に拠点を持っているので、国の圧力には屈しない。だからギルド長は強気なのだろう。本当に困ったおっさんだ。


「そこまでです、ドッシガッターイギルド長!」

「だ、誰だ!?」

 声の主が訓練場の柵を飛び越えて派手に登場した。5回転3回ひねりか、俺の55回転50回ひねりの方がはるかに上だな。ハンナの56回転51回ひねりがなければ世界一だったのに……。

 血の悔し涙をながしたのを今でも覚えている。今度こそ勝つからな!


「ふふふ、誰だと聞かれては名のるが礼儀、我は世界を股にかけた冒険者ギルドのグランドマスター!」

「な、何! グランドマスター!?」

 派手な登場をしたわりに、地味な顔立ちの俺より少し年上に見える女性が自己紹介を始めた。グランドマスターといえば冒険者ギルドの頂点だ。そのグランドマスターがこの地味な女性だと?

「の直属の部下である監察官である!」

「か、監察官だと!?」

 やっぱり裏方系の人だったのね。なんだか納得してしまった。


「ドッシガッターイギルド長の罪は明白! 私は数カ月前から貴方の素行調査を行っていたのです。証拠はばっちりです! 観念してください!」

「な、なんだと!」

「ドッシガッターイ。冒険者ギルド監察官の職権をもって、貴方のギルド長としての職務を停止し、本部へ連行します!」

「な、何を根拠に!?」

「根拠なら沢山ありますよ。これまでの貴方の悪行は既にグランドマスターの知るところとなっています。観念しなさい! 連れていきなさい!」

 ギルド長はどこからか湧いて出た兵士に連行されていった。

 なんだか安っぽい喜劇を見ているようだ。なんだよ、この茶番は?


「評議会議長閣下、今回は当ギルドの長が大変なご迷惑をおかけいたしました。グランドマスターになり代わり、謝罪させて頂きます」

 地味な顔立ちの監察官は評議会議長に頭を下げた。

「うむ、後はそちらでしっかりと対処をしてくれるのだな?」

「はい。処分が決定しましたら、ご報告をさせて頂きます」

 評議会議長はその回答に満足して立ち去っていった。評議会議長には冒険者ギルドに関してなんの権限もないから、あえて何も言わなかったのだろう。


「さて、冒険者タロー。貴方にも多大なご迷惑をおかけしました」

 今度は俺に話しかけてきた。どのアングルから見ても地味な顔立ちだ。

「今回、貴方へ約束されていた報酬と魔物の買い取り金、そして迷惑をかけたことへの賠償を行います」

 ふーん、賠償までしてくれるんだ。もらえる物はもらうけど。

「細かい話をしたいので、冒険者ギルドまでよろしいですか」

 監察官の提案を受けて俺は冒険者ギルドへ向かった。

 応接間のようなところに通されてお茶とお茶請けが出てきた話し合いの場は賠償の詳細だった。

 その中で俺をSランク冒険者にランクアップさせるとあったが、俺はそれを断って金だけもらった。監察官は俺をどうしてもランクアップさせたいようだったが、そんなものに興味はない。


「残念です。タローであればSランク冒険者にふさわしい力を持っているというのに……」

 残念なのは冒険者ギルドの戦力にならないからだろ?

 冒険者ギルドの階級はFランクからAランク、その上にSランク、SSランク、SSSランクがあるそうだ。一般的な奴らはCランク止まりでBランク以上になれる冒険者は少ない。

 そして、Dランク以上にはギルドが強制依頼を発令できるのだ。だから、Fランクのままでいい。それ以前に俺は冒険者を続ける気は小指の先ほどもない。


 監察官はかなりしつこかったが、無視してダンジョン踏破の報酬とカマクモの素材の代金、そして賠償金をもらってギルドを後にした。

 こういうノリの自己完結型自己満足人間は苦手だ。人の話を聞かないからな。

「本当に、なんだかなぁー」

 今日は精神的に疲れた一日だったな。


 後日談。騎士団長は不正の数々が明らかになり、処刑されて家は取り潰された。ギルド長の方は奴隷落ちして家財の全てを没収された。まぁ、どうでもいい話だ。

 騎士団と冒険者ギルドは人事が一新された。騎士団だけではなく、冒険者ギルドの方も評議会議長の意向がかなり反映されたものになっている。これで評議会議長は地盤をかなり固めることになった。

 とまぁ、他人事のように言っているが、評議会議長は俺の【死霊召喚術】で召喚したドッペルゲンガーなので、この国の権力はかなり俺の下に集まっていることになる。

 考えたらドッペルゲンガーをもっと召喚してこの国の権力者や世界中の権力者を乗っ取っていけば人族至上主義の国を崩せるんじゃないか?


 

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