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ガベージブレイブ(β)_063_ダンジョン3

 


「はいはいはーい。次はカナンがやるのです~」

 カナンが名乗りを上げた。皆に等しくチャンスを与えるのが俺の主義だ。

「はぁぁっ、アースホール!」

 カナンが紅き賢者の杖をひと振りすると、ゴゴゴーと地面に穴が開いていった。

「とーーーっ!」

 カナンが穴に飛び込んだ。む、20回転……25回転、11回ひねり……14回ひねり……35回転25回ひねりだと!?

 べちゃっ!

「「「……」」」

 カナンは着地を決めようとしたけど、カエルのように腹から落ちた……。

「カナンさん!?」

 気を取り直した一ノ瀬が回復魔法を詠唱し出した。

 普通なら死んでいるけど、そこはカナンだから問題ないだろう。

「ううぅ……鼻が痛いのです……」

 50mの高さから落ちてそれだけで済むのだからレベル四百は伊達ではない。


「次はボクだぞ~」

 アクアが穴に飛び込んだ。くるくる……。いつまで経っても落ちて行かない。

「アクア失格!」

「なんで!?」

 ガーンと額に縦線が入ったように落ち込んだアクアは空を飛べるから自然落下での競技にはあわない。


 俺たちは順番に穴を開けて行った。一ノ瀬は参加しなかったけど、アクアは何度も反則を繰り返して、永久追放になった。

 そして、俺とハンナは何度も新記録を更新した。主に俺とハンナだけど。あと、カナンはお笑い枠だからな……言わないであげよう。


「えーっと、ここが一番下の階らしいぞ」

 くそ、ハンナに負けた! やっぱ身体能力はハンナの方が上のようだ。

「30階をたった30分くらいで降りてきたのは私たちが初めてだよね?」

「一ノ瀬の言う通りだな。ここでも世界記録を作ってしまったな!」

「やりましたね! ご主人様!」

 俺に勝ったハンナがいい笑顔だ。

「む~、結局着地が決まらなかったのです!」

 カナンは悔しそうだ。

「そんなことより、あの魔物をどうするの?」

 一ノ瀬が冷静に問いかけてきた。

「あれって、ダンジョンボスだよね?」

 そう、俺は位置を調整しながらダンジョンボスの部屋に到着できるように穴を開けていたのだ。


「よし、ダンジョンボスは一ノ瀬に任せた!」

「えっ!? 私!?」

「余裕だし、行ってこい!」

 ぽんと一ノ瀬の背中を押してやった。

 そもそもダンジョンボスのレベルは百前後なのに、一ノ瀬のレベルは二百近い。これで勝てなければ一ノ瀬には圧倒的に戦いのセンスがないということだ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 一方、地上ではツクルたちにつけた密偵がそそくさと帰ってきたのを見てギルド長と騎士団長がどうしたのかと密偵に尋ねた。

 密偵は見たままを報告した。

「ダンジョンの床に穴を開けて下の階へ行っただと……そんな馬鹿な……」

 しかし4人の密偵が全員同じ報告をしたことで、ギルド長と騎士団長は信じるしかなかった。

「規格外すぎるだろ! 誰がダンジョンの床に穴を開けるなど想像できたか……」

 ダンジョンの床や壁は非常に頑丈で傷がついてもすぐに修復してしまう。これまで傷をつけることができた者は何人もいたが、破壊というレベルの話は誰も聞いたことがないのだ。


「ギルド長、本当に大丈夫なのだな? 我らが彼らを騙していると知られても本当に大丈夫なんだろうな!?」

 騎士団長は規格外のツクルたちを騙していることが、ツクルたちに知れたらと顔を青くした。

「大丈夫だ。彼らが持って帰ってくる魔物の素材は普通に高値で売れるのだ、ピンハネをしても気づかれない」

 あんなことがあったのに、まだ懲りていない2人だった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ダンジョンの最奥にいるボス魔物はダンジョンボスと言われるらしい。今は懐かしいエンペラードラゴンもダンジョンボスだ。

 今回、俺たちの前に現れたボス魔物はカマキリの上半身にクモの下半身を持っていた。

「ツクル君。あの魔物、なんかグロテスクなんだけど……」

 たしかにクモの下半身がすこし気持ち悪い。だけど、もっと気持ち悪い魔物だっていたぞ。

「魔物なんだから、どんな姿をしていても驚かないけどな。それに魔族の中には上半身人間で下半身がクモだっていたぞ」

「そ、そうなんだ……」

「まぁ、危なくなったら助けるからさ」

 そうならないように一ノ瀬にはしてもらいたいけど。



 種族:カマクモ レベル百十

 スキル:【真空刃】【クモの糸】【立体起動】

 能力:体力B、魔力C、腕力B、知力D、俊敏B、器用B、幸運F

 称号:昆虫迷宮の王


 カマキリの上半身とクモの下半身の魔物はカマクモというらしい。そのままじゃん!

 だいたいさぁ、ボルフ大森林の最外周にいるオーガキングの方が強そうだし。

 ダンジョンボスって言ってもその程度なんだから、何も心配はしていない。


「キシャーーーッ!」

 カマクモがカマキリの鎌を振ると真空刃が放たれた。この攻撃でカマクモと一ノ瀬との戦闘の火ぶたが切られたのだ。

「きゃっ!?」

 一ノ瀬は真空刃に怯えて身をよじった。

 だけど一ノ瀬は俺が創った聖女のローブを着ているので真空刃は一ノ瀬に傷をつけられなかった。あの程度の攻撃力では聖女のローブに守られた一ノ瀬に傷などつかない。


「一ノ瀬、攻撃だ。攻撃しないと戦いは終わらないぞ」

「う、うん」

 不安そうな目をして一ノ瀬は魔法を詠唱した。やっぱり詠唱は邪魔だな。

 十数秒の後、一ノ瀬はホーリーランスを放ったが、これだけ時間があってはカマクモも余裕をもって一ノ瀬の攻撃に対することができて、ホーリーランスは簡単に避けられてしまった。


「詠唱するより、イメージで魔法を発動させるんだぞー」

「そんなこと言ったって……」

 一ノ瀬はイメージを固めようと目を閉じた。いや、今は戦闘中なんだから、目を閉じちゃダメでしょ!

 一ノ瀬が目を閉じた隙を見逃さなかったカマクモは再び真空刃を放ち、さらに直接攻撃をしようと一ノ瀬の方に走り出した。

 真空刃は一ノ瀬に命中したので、衝撃を受けた一ノ瀬はイメージを固めることができずに目を開けた。その開けた目に迫りくるカマクモの姿が飛び込んできたので、みっともない声をあげてうずくまってしまった。

 てか、なんでアクアを使わないんだ? アクアなら瞬殺できると思うんだけど。


「ハンナ」

「はい!」

 ハンナが一ノ瀬の前に瞬時に移動してカマクモを受け止めた。一ノ瀬には魔物との戦闘は難しいようだ。

 まぁ、聖女なんてのは前線に立って戦う職業ではないからな。ただ、俺と一緒にくるのであれば、自分で自分の身は守れるようにしてもらわないといけないから、アクアとの連携を訓練させるとしよう。


 ハンナはワンパンでカマクモを倒した。一ノ瀬の噛ませ犬にしたつもりだったけど、姿がだめだったのかな?

 もっとまともな見た目の魔物で慣らしてからの方がよかったか? カナンみたいにボアグノンの群れの中に投げ込んでも無理だろうな……一ノ瀬には火力がないからな。あれは火力のあるカナンだからできたことだ。


 カマクモの死体をハンナが収納していると、例の物が出た。

「今回は何が出るかな」

 がちゃがちゃとレバーを回して出てきたのは金色の球だった。

「よし、帰ろうか」

「「はい」」

「……」

 元気に返事をしたのはカナンとハンナだった。一ノ瀬はしょんぼりとしていた。理由は分かっているけど、なんと声をかければいいか分からない。

「スズノさん、そんなにしょげないでください」

 カナンが声をかけても一ノ瀬は上の空で小さく「うん」と頷くばかりだ。


 地上に帰るのは難しくない。こういったダンジョンにはボス部屋の奥には地上に帰るための転移魔法陣が現れるのだ。いやー、本当に便利だな。

 待てよ、この転移魔法陣を解析したら日本に帰るための魔法陣を作れないかな?

「なぁ、カナン。この魔法陣を解析できないか?」

 カナンには【全魔法】というユニークスキルがある。全というくらいだから、転移魔法だって使えないかなと思ったわけだ。ダメでも現状以下になるわけじゃないし、聞いてみるのはタダだ。

「この魔法陣をですか? ……う~ん、なんとなくですが、できそうな気がします」

「マジか!?」

 転移魔法が使えるようになれば移動が便利だし、日本にだって帰れるかもしれない。

「解析をしてくれ。ダメでもいいんだ」

「はい!」

 ちょっとでも可能性があるなら、その望みにかけてみよう。


 

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を宜しくお願いします。

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