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ガベージブレイブ(β)_061_ダンジョン1

 


「タロー……殿」

「なんだ?」

 俺はギルド長の部屋でお茶を飲んでいる。もちろん、お茶はハンナの淹れたものだ。それ以外のお茶はもう飲めない体になってしまった。冗談だ。

 それで、タローというのは俺の偽名だ。冒険者ギルドのような怪しい組織に本名で登録するつもりはさらさらない。

「タロー……殿は」

 このギルド長は丁寧な言葉に慣れていないのではなく、俺に丁寧な言葉を使うのが嫌なのが分かる。

「別に無理に丁寧な言葉使いをする必要はないし、呼び捨てで構わん。俺もこんな喋り方だしな」

 俺も丁寧な言葉使いは苦手だから、人に強要するつもりはない。ただ、あまりにも高圧的ならぶっ飛ばすけどな。


「う、うむ、助かる……」

「で、話はなんだ?」

 俺はギルド長とその横に座る騎士団長を交互に見た。

 なぜギルド長の部屋で向かい合って座っているかというと、ギルド長に話を聞いてほしいと泣きつかれたからだ。

 おっさんの涙など見たくないので、泣き止むことを引き換えに話を聞くことになった。面倒なことならすぐに出ていくけどな。


「実は」

 ギルド長が騎士団長の顔を見た。騎士団長がいることから、関係していると思っていたが、騎士団長絡みのことらしい。

「この町の郊外にはダンジョンが三カ所あるのだ」

「そのダンジョンは定期的に魔物を排出してこの町に被害を与えているのだ」

 騎士団長が喋り出してギルド長が引き継いだ。

「だから?」

「タローにそのダンジョンを踏破してもらえないだろうか、と思っているのだ」

「ダンジョンは踏破すると魔物を外に排出しなくなると聞く」

 こいつらは兄弟か何かか? なぜ二人で交互に話すんだろうか?

 それよりもダンジョンを踏破しないと魔物をダンジョンの外に排出するなんて聞いてないぞ。そんなことだと、ボルフ大森林はどうなるんだよ? 今まで魔物が排出されていたのか?

 後からカナンとハンナに聞くとするか。しかし、ダンジョンを踏破しろとは……面白そうだな。


「そのダンジョンはどの程度の規模でどういった魔物が現れるんだ?」

 俺がそう聞いたものだから、おっさん二人が嬉しそうな顔をした。

「ダンジョンはブルーダンジョンが一カ所、シルバーダンジョンが一カ所、ゴールドダンジョンが一カ所とワシらは考えている」

 たしかダンジョンは色で魔物の強さが区別されていたよな? ボルフ大森林は黒で過去にそんなダンジョンは確認されていない。

 まぁ、確認するにはダンジョンを踏破しなければならないので、踏破されていないダンジョンが何色かは予測に過ぎないはずだ。

「ブルーダンジョンの方は現在十五層が最下層で、既に踏破できているが、シルバーは二十層はあるだろうし、ゴールドは三十層はあるだろう」

 ブルー……って、どのくらいのダンジョンだっけ?

「ご主人様、ブルーランクのダンジョンはレベル五十くらいの魔物がダンジョンボスのダンジョンです。シルバーランクのダンジョンはレベル八十くらいです。ゴールドランクはレベル百くらいです」

 ハンナは物知りだね。しかし、たった百かよ。なんかやる気が失せたぞ。


「ワイバーンを討伐できるタローならゴールドダンジョンも踏破できるとワシらは考えている」

 なら、なんで俺のワイバーンを横取りするようなことをしたんだよ? お前たち本当に考えなしの馬鹿だろ?

「騎士団だってワイバーンを討伐できるだろ? 騎士団が踏破すればいいじゃねぇか」

「ワイバーンは数頼みの力押ししかできない。それも被害が尋常ではないほどに出る。しかしダンジョン内では少数パーティーの行動が原則だ。大軍を行軍させるだけのスペースがないこともあるし、ボス部屋には十人程度しかはいれないからだ」

 騎士団長は悔しそうな顔でそう言った。まぁ、低レベルな騎士団員だと数で押し切るしかできないわな。

 なんで騎士団員が低レベルだと知ってるかというと、目の前の騎士団長がレベル四十四なんだ。一番強いはずの騎士団長がこのレベルでは他の騎士団員のレベルも知れるというものだ。


「頼む! ダンジョンの踏破をしてくれ!」

 二人は頭を下げて頼んできた。

 俺は後ろに控えて俺たちの話を聞いていた三人の顔を見まわした。

 あ、そうだ。これ使えるかも。うん、そうしよう!


「ゴールドは踏破してやる。シルバーの方は冒険者と騎士団でなんとかしろ」

「ご、ゴールドを!? 大丈夫なのか?」

 ギルド長が頭を上げて驚いた顔をして確認してきた。

「できないと思っているのか?」

「い、いや! そんなことはない!」

 こいつはどっちなんだ? 俺が失敗すると思っているのか、それとも踏破できると思っているのか。

「一つ聞くが、この国には勇者がいると聞いた。勇者は何をしているんだ?」

 二人は気まずそうな顔をして目を合わせた。どうしたんだ?

「我が国には九名の勇者殿が所属しておられた。しかし……」

 おられた? 過去形?

「なんだよ、はっきり言えよ」

「……騎士団長殿」

「分かった。このことは内密に頼む」

 なんだよ、もったいぶって。

「勇者殿はゴールドダンジョンを踏破しようとして、九人で挑んだ。しかし、帰ってきたのは四人だった」

 つまり、五人がゴールドダンジョンで死んだというわけか。

 騎士団長は苦々しい表情でさらに口を開いた。

「帰ってきた勇者四人はそれ以来ダンジョンどころか、武器を持つことも拒否しておられる」

「ふーん、仲間が死んで精神的なダメージを負ったというところか?」

「その通りだ」

 精神的に弱いな~。そんなんじゃ、ボルフ大森林では生きていけないぞ。そもそも行かないか。

 まぁ、俺がどうこう言うことじゃないから、いいや。

「報酬はなんだ?」

「我が国での貴族位ではどうか? ゴールドダンジョンを踏破してくれたなら、伯爵は硬いぞ」

 そんな面倒な物はいらねぇよ。

「いらん!」

 俺に断られた二人はガーンという音が聞こえそうな感じで落ち込んだ。

「ならば、どのような報酬がほしいのだ?」

 考えてみたらほしいものはない。必要なら【等価交換】で創れるし、金は五千万ゴールドを得たばかりだ。

 俺ってもしかして充実しているのか?

「特にないな」

 二人が困った顔をした。

「まぁ、俺が持ち込んだ素材を適性価格で買い取ってくれて、成功報酬として一億ゴールドでどうだ?」

 何もほしい物がないので、無難に金にしておいた。

「それだけでいいのか?」

「ほしい物がないのだから、構わんさ」

 最後に一応言っておかないとな。

「今度俺をハメたらこの国ごと潰すからな」

 殺気を込めてやると、二人は青い顔をしてうんうんと頷いた。


 二日後にゴールドダンジョンに入ることにして、俺たちは町の外に出た。

「これから何をするの?」

 一ノ瀬が聞いてきたので、その顔を見つめる。なんだか、一ノ瀬の顔がほんのり赤い。綺麗な顔だ。

「一ノ瀬のレベル上げに行くぞ」

「本当に? でもダンジョンもあるんだよ?」

「ダンジョンの前に一ノ瀬だ」

「ありがとう。嬉しいな」

 一ノ瀬の笑みを見れて俺も嬉しい。

 さて、レベル上げの前に装備だ。これまでの食事によって能力は上げているし、スキルも覚えられるものは覚えている。だから、【素材保管庫】から色々取り出して【等価交換】で装備を創り上げた。


 聖女の杖 : 魔法効果上昇(極)、オヤジには触らせない! 貴方だけよ♪

 聖女のローブ : 魔法耐性上昇(極)、絶対領域を見たかったらお願いしてね♡

 聖女の髪飾り : 知力上昇、魔法効果上昇(極)、貴方につけてもらいたいわ♡


 なんだかなー。このコメントを書いている人はぶれないよな。

「すごーい、ありがとう!」

 早速、一ノ瀬がローブをまとって髪飾りをつけた。うん、似合っている。


 魔法の絨毯に乗って一ノ瀬のレベル上げをする場所に向かった。

「情報によればここら辺だけどな」

 俺たちが向かった先は海の上だ。眼下には大小複数の島が点在している。フィッツバルグで仕入れた情報では、テンプルトン王国とエンゲルス連合国の国境を西に行った島々のそばで有名な魔物が出るというのだ。

「あ、ご主人様、あの小さな島のそばに大きな反応があります!」

 カナンが何かを発見したようなので、近づいてみる。

「お、あれか。たしかに大きな力を感じるな。でかしたぞ、カナン」

「えへへへ~、褒められたのです~♪」

 カナンは【魔力感知】の範囲がとても広い。俺も【気配感知】を持っているが、カナンの【魔力感知】の範囲にはとても及ばないのだ。


 俺たちが近づいたのに気づいたのか、その反応はこちらに向かってきた。

 海面が大きく盛り上がり、ぬぼーっと出てきたのはこの海の支配者であるシーサーペントだ。

 ドラゴンのような鱗で全身が包まれた巨大なウミヘビだ。体長は優に二百メートルはあるだろう。巨大すぎて近海には現れないが、この島々のある海は水深がかなり深いと漁師は言っていた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 種族:リトルシーサーペント レベル三百三十

 スキル:【海王のブレスII】【水魔法III】【水中適応III】【両生類II】【気配感知II】【身体強化II】

 能力:体力EX、魔力S、腕力S、知力B、俊敏B、器用C、幸運D

 称号:海の支配一族


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 あれでリトルって、常識がないのか? 二百メートル越えでリトルは絶対におかしいと思うぞ。

「レベルが三百三十なんて、私なんか瞬殺されちゃうよ!」

 一ノ瀬が涙目だ。

「大丈夫だ。俺たちがおぜん立てをする。一ノ瀬はトドメだけさせばいい」

「そんなこと言ったって……」

「俺を信じろ。何があっても一ノ瀬は俺が護る」

 なんかキラキラした目で見つめられてしまった。一ノ瀬は相変わらず綺麗な顔をしているな。


 さて、一ノ瀬をなんとか説き伏せてリトルシーサーペントを倒してもらうことにした。

「カナン。潜れないようにあれごと海を凍らせることはできるか?」

「お任せください!」

 豊かな胸をぽんと叩いたカナンが紅き賢者の杖を掲げた。

「アイスフィールド!」

 カナンの魔法が発動したと思ったらリトルシーサーペントごと海を凍らせた。

「すげーな。半径千メートルくらい凍ったか?」

「今ならウミヘビも身動き取れませんから殴りたい放題ですよ、ご主人様」

「おう、カナンがせっかく動きを止めてくれたんだ。ハンナ、【手加減】を発動してあいつの体力を極限まで削ってくれ」

「畏まりました!」

 ハンナの尻尾がぶんぶんと振れているので、楽しいのだろう。

 ハンナは魔法の絨毯から凍った海面に飛び降りた。高さ五百メートルはあったんだけど……まぁ、ハンナだからな。

 ハンナは氷の上でもいつものようにスピーディーな攻撃を繰り出した。パンチが四回と蹴りが二回でリトルシーサーペントの体力を極限まで削った。


「よし、一ノ瀬の番だ。最大火力をぶち込め!」

「うん!」

 一ノ瀬は詠唱を始め、一分くらいで【聖魔法】の攻撃魔法であるホーリージャベリンを撃った。

 ホーリージャベリンは巨大なリトルシーサーペントの頭部に命中するが、何も起きなかった。

「もう一発だな」

「うん」

 再びホーリージャベリンを撃つとリトルシーサーペントの右目に命中した。すると一ノ瀬がビクンと体を跳ねさせた。おそらくレベルアップのスクロールが大量に流れたのだろう。

「凄い……レベルが百九十まで上がったよ!」

 嬉しそうにレベルアップを話してくれた一ノ瀬はとてもいい笑顔だった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 氏名:スズノ・イチノセ

 ジョブ:聖女 レベル百九十

 スキル:【聖なる癒しII】【聖結界II】【慈悲の心II】【祈りII】【魔力上昇II】【魔法威力上昇II】【魔力操作】【魔力ブースト】【魔力感知】【聖神魔法】

 能力:体力B、魔力S、腕力B、知力S、俊敏A、器用B、幸運A


 LOST : 【聖魔法】

 NEW : 【魔力上昇II】【魔法威力上昇II】【魔力操作】【魔力ブースト】【魔力感知】【聖神魔法】

 聖神魔法 : 回復系魔法だけではなく、攻撃魔法もバランスよく使える。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 

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