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ガベージブレイブ(β)_058_冒険者ギルド

 


 魔法の絨毯の上で宴会をする。この魔法の絨毯は乗り心地がいい。おかげでこうやって宴会ができるのだ。

「空の上で鍋パーティーをするとは思ってもいなかったわ」

 一ノ瀬がタイの切り身をほぐして可愛らしい口に放り込んで目じりを下げた。

「はふはふ、なんでこんなに複雑な味なのに美味しいのですか!? はふはふ」

 カナンは巨大な土鍋に入っているタイ、エビ、イカ、ハマグリ、鶏肉、白菜、ネギ、ニンジン、えのきだけ、焼き豆腐、麩のほとんどを喰い尽くさんとする勢いだ。

 俺が作ったのは魚介と鶏肉の寄せ鍋だ。鶏肉はロックバードという鳥型の魔物の肉だが、焼いてよし、揚げてよし、煮てよしの優れた素材だ。

 昆布と煮干しでとった出汁に魚介や鳥の旨味がたっぷり出たスープになっている。これで不味いわけがない。

「ハンナも食べろよ。給仕ばかりしていると全部カナンに食べられるぞ」

「そんなことはしません! ハンナさんの分はちゃんと残していますよ、ちょっとだけ……」

 カナンの声の最後の方が小さくて聞き取りにくい。

「私も食べていますので、大丈夫です」

 そうは言っても給仕九割、食事一割だろ? 本当にハンナは……。

「ご主人様! 白身の魚がなくなりました!」

 カナンがタイの切り身がなくなったと悲しそうな目をして訴えてきた。

「大丈夫だ。まだあるから」

 【素材保管庫】からタイの切り身を取り出して鍋の縁に入れる。生でも美味しいから火が完全に通ってなくても食えるけど、俺が入れた瞬間に取ろうとするなよ。

 そうだ、タイなど魚のしゃぶしゃぶもいいな。空の上は寒いので鍋にしたが、以前考えていた寿司の他に魚のしゃぶしゃぶもやらないとな。

 う~ん、食べたいものが沢山あって、困ってしまうな。


「ご主人様、今日宿泊する町が見えてきました」

 目のよいハンナが町を発見した。

「おう、なかなか大きな町だな」

「あれはエンゲルス連合国の町だからハンナさんが嫌な思いをしなければいいのですが……」

 一ノ瀬はルク・サンデール王国で人族至上主義を目の当たりにしてきたから、人族至上主義の国がどれほど獣人に厳しい政策をとっているか知っている。

「あまり酷いようなら、町の外で野宿をすればいいさ」

「申し訳ございません、ご主人様」

「ハンナが悪いわけではないから、気にするな」


 しかし、町の中は酷い有様だった。ハンナに対する蔑みの視線だけではなく、子供が石を投げてくる始末だ。

「この町は腐っているな……」

「この町だからじゃないわ。人族至上主義の国ではどこもこんな感じなの」

 一ノ瀬が悲しそうな目をした。実際に悲しいのだろう。

 憂う美女、絵になるな。


「なんだい、この金は? あんたゴールドを持っていないのかい?」

 露店で売っている野菜を買おうとして大銀貨を出したら、こう返ってきた。

 俺が出したのはテンプルトン王国で流通している一万ゴールドの大銀貨だけど、この国ではこの大銀貨は使えないようだ。同じゴールドなのに流通している硬貨は違うようだ。

「買い物もできないのかよ……」

「人族至上主義の国内だと同じお金が流通していると聞いたことがあるけど、獣人の国と違うとは知らなかったわ……」

「なら、何かを売って金を得るしかないな」

「売るって何を売るの?」

 一ノ瀬が可愛らしい大きな黒い瞳で俺を見てくる。そんなに期待するなよ。

「今日、討伐したワイバーンがあるから、それを売ろうと思う」

 近くの大きそうな商店に入ったが、ダメだった。ハンナを見るなり出て行けと言われたのだ。ここまでくると笑えない。


「ご主人様、申し訳ございません」

「この国がおかしいんだ。ハンナのせいじゃない。気にするな」

 とは言え、困った。

「冒険者ギルドなら買い取りをしていると思いますが?」

 カナンの言う通り、冒険者ギルドなら買い取りをしているだろう。

「冒険者じゃない者が冒険者ギルドで素材を売れるのか?」

「それなら、私が冒険者なので素材を売ってきましょうか」

 一ノ瀬はどうやらルク・サンデール王国で冒険者登録をしたようだ。

「いや、一ノ瀬が冒険者ギルドを使用すると、一ノ瀬が生きているのが人族至上主義の国に知られる可能性が高いからダメだ」

 以前、サイドルに聞いたことがある。冒険者ギルドのような世界中に根を張る組織はどの支部に誰が現れたかすぐに他の支部にも分かるようになっているそうだ。


「仕方がない、ここは冒険者ギルドに行って買い取りをしてもらうか。最悪は俺が登録するよ」

 俺の【等価交換】で金を金貨に変えることはできるが、それをするのは最後の手段だ。


 冒険者ギルドの建物に入った。臭い。

 それに敵意のこもった視線をビンビン感じる。

「……どのようなご用件でしょうか?」

「素材を買い取ってほしい」

 受付嬢が四人いて、丁度一カ所空いていたのでそこの受付の前に行った。受付嬢は四人とも美人だけど、俺の後ろにいるハンナを見ると顔を歪めた。もう同じ反応には飽きた。

「登録証をご提示ください」

「登録はしていない」

「そうですか、未登録の方の買い取りは行っておりませんので、登録をしてください」

 やっぱり登録しなければダメか。

「では登録を頼む」

「登録はこのカウンターでは行っておりません。あちらの登録用のカウンターでお願いします」

 たらい回しかよ。まぁいい、それがルールなら我慢しよう。


「それではこちらに必要事項をご記入ください」

 三人の後ろに並んで登録用紙に必要事項を記入して受付嬢に渡した。登録の受付嬢は40歳代のオバサンだった。

「それでは冒険者と冒険者ギルドについて説明をいたします」

 オバサンの説明はおよそ五分で終わった。前の三人も同じ説明をされていたので、いい加減覚えてしまう。

 しかし、冒険者ギルドは冒険者の支援組織だと言っているくせに冒険者どうしの喧嘩には不介入かよ。冒険者と冒険者の喧嘩が殺し合いになったらどうするんだよ?


「買い取りは?」

「それでしたら、あちらのカウンターに行ってください」

 最初の受付に並ぶ。うぜー。


「どのようなご用件でしょうか?」

 さっきこの受付嬢に要件を言ってから一時間も経っていない。この受付は馬鹿かよ。

「買い取りを頼む」

「では、こちらにお出しください」

「このカウンターの上にか?」

「はい」

「大きいのだが?」

「そうですか?」

 登録したばかりの俺が持ってくる物なんて大したことないと思っているんだろう? それとも何も持っていないと思っているのか?

「……」


 まぁ、いいか。この受付嬢の言う通りにするだけだ。

 ドンッ。バキバキッドッガーーン。

「……」

 カウンターの上に体長五メートルのワイバーンを出したら木でできたカウンターが潰れた。

「……」

 ワイバーンの向こうでポカーンと間抜けな顔の受付嬢が椅子に腰かけたまま倒れている。パンツ見えてるぞ。

 後ろの方では冒険者たちがギャーギャー騒いでいるが、無視して受付嬢を見る。別にパンツが見たいわけではない。

「早く査定して買い取ってくれ。時間が惜しい」

「……」

 声をかけても反応がない。ただのパンチラ痴女のようだ。


「何事だ!?」

 五十代くらいのおっさんがやってきた。

「なんだこれは!? まさかワイバーンか!?」

 おっさんがワイバーンを見て目を剥いた。

「お前がワイバーンを倒したのか?」

 おっさんが油断なく俺を見てくる。

「ああ」

 言葉少なく答えたのが気に入らなかったのか、おっさんは殺気を放ってきた。ただ、その殺気は俺にとってはそよ風程度のものだ。いや、そよ風にもならないな。

「はん、小僧、このワシを知らんのか!?」

「知るわけがない。おっさんと会ったのは初めてだ」

「減らず口を!?」

 殺気を強めた。蚊に刺されたほどにも感じない。

「そのぬるい殺気を止めろ。俺は構わんが、そこの受付嬢はちびってるぞ」

 受付嬢はさんざんだな。パンチラ痴女疑惑から失禁痴女に格上げだ。


「ワシはこの冒険者ギルドのギルド長だ! 驚いたか、小僧!」

 おっさんは胸を張っているが、胸を張るほどのことか? 俺には分からない。

「だから?」

「小僧! 元Aランク冒険者のこのワシを知らんのか!?」

「知るわけがない。俺はあんたと会ったのは初めてだからな」

「ぐぬぬぬ……」

「どうでもいいが、早く買い取りをしてくれ」

「ワイバーンの査定には時間がかかる! 明日のこの時間にこい。金を用意しておく」

「おいおい、幾らになるかも分からないのに売ると決めるなよ」

「小僧! ワイバーンなんてそうそう討伐されない魔物だ。貴様が今までに見たこともない金額になる。楽しみにしておけ!」

 このギルド長は人の話を聞かない奴だな。

 まぁいい。明日またくるとしよう。


 

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