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ガベージブレイブ(β)_053_化け物勇者1

一二三書房様より書籍化される事となりました!

詳しくは活動報告をご覧ください。

書影がカッコイイです!

 


「ツクル君!」

 イチノセが俺の胸に飛び込んできた。

 ……どうすればいいのだろうか?

 しっかりと受け止めてやればいいのだろうか?

「イチノセ、遅くなってすまなかった」

 とりあえず、謝罪から入った。

 怖い思いをしただろうからな。


「会いたかった……今までどこにいたの?」

 話せば長くなる。

「色々積もる話もあるけど、今はこの場から離れることを考えよう」

 戦場でゆっくりするほど俺も酔狂ではない。


「ミキは!? ミキは無事なの?」

 俺の胸に顔をうずめていたイチノセがガバッと顔を上げる。

 ハヤマは既に右腕が再生していて、それを見たイチノセが目を白黒させる。

「え? え? えぇぇぇぇぇぇっ?」

 理解が追いつかないようだ。

 先ほどまではハヤマの右腕は完全に切り飛ばされていたのに、今は傷口も分からないほどに治っているのだから驚くのも無理はない。


「イチノセ、話は後だ」

 そう言うと俺はハヤマを抱きかかえた。

 気絶していて歩けないハヤマを抱きかかえたはいいが、何故か殺気のような物を三人から感じる。

 嫁入り前の女の子を抱きかかえてはいけないのだろうか?

 でも今は非常事態だから勘弁してもらおう。


「行くぞ」

「待って! 皆が……あそこで戦っているの」

 イチノセの指した方向には魔族以上に異様な姿をした何かが魔族と戦闘をしていた。

「何だ、あれは?」

「サルヤマ君たちなの……クジョウ君が神官さんからもらったって言う丸薬を飲んで……」

「神官……?」

 その瞬間、俺の脳裏にはあのクソジジィの顔が浮かんだ。

 ぐはははと笑っていてるムカつく顔が何故か浮かんだ。

 クソジジィなら勇者を使い潰すためのドーピングをしても俺は不思議には思わない。

 あれ、一人普通の姿の奴がいるな……名前は思い出せないが、顔は何度か見たことがあるような? まぁ、いいや。


「変な物を飲まされて、ああなったのか……自業自得だと思うし、さすがにあれをどうこうできるとは思えないが……」

 とても人間とは思えない、魔族の方がよっぽど人間に近いと思うような姿は、もう人間を止めているだろうと思えた。

「放ったまま行けないよ……」

 イチノセは優しいな。

 仕方がない。できるかは分からないけど、やるだけやってみますか。


 先ずは戦闘を止めないとな。

 俺は殺気を広範囲に振りまく。

 その殺気を受けて本能的に危機感を持った者は動きを止める。

 殺気は抑え目で広くいきわたるようにしているから、前回と違って倒れたり失禁する者はいない。

 だから俺の殺気を受けた魔族たちはブルブル震えている奴が多い。

「魔族は引け! さもなければ殺す!」

 俺の言葉で魔族たちは一目散に逃げ出した。

 いつもそうやって聞き分けがいいと助かる。


「ハンナ、あの化け物に焼き肉を食わせてやってくれ」

「畏まりました」

 俺が指示をするとハンナの姿が消えた。

 あまりに速い動きなので消えたように見えた、と言わなくても分かるだろう。


 ハンナがドーピングによって異形の者となってしまった勇者たちの口に焼き肉を放り込んで飲み込ませる。

 ある者は腹パンされて口を大きく開けた時に放り込まれたり、ある者は顎を持たれて口をこじ開け無理やり放り込まれる。

 うん、見なかったことにしよう。


「凄い……」

 ハンナの動きが見えないイチノセは、見えないことが凄いことだと理解できたようだ。

 ハンナのように素早く動ける奴は勇者の中にはいないだろうからな。

「ご主人様、任務完了いたしました」

 汗一つかかずに戻ってきたハンナは相変わらずのクールビューティーだ。

「ありがとう。さて、これで改善すればいいけど……」

 様子を見たが、怪物のようになった外見は治りそうになかった。


「悪いが、あれは治りそうにない」

「……そんな……」

 俺の焼き肉は状態異常も治すが、あの怪物姿には効果がないようだ。

 俺は【詳細鑑定】で化け物勇者を見てみる。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 氏名:ガイ・サルヤマ

 種族:クリエイトモンスター レベル百三十

 スキル:【魔闘術II】【身体強化II】【剛腕II】【屈強II】

 能力:体力B、魔力B、腕力A、知力G、俊敏B、器用C、幸運G

 称号:創られた魔物


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……」

 普通の人間相手ならまず負けることはない能力構成だ。

 それに職業がなくなって種族になっている。

 称号を見れば一目瞭然だ。サルヤマは魔物になっている!

 それに魔物になったことでレベルの上限が解放されたのか、サルヤマのレベルは百三十になっている

 ……そうか、称号の『創られた魔物』の効果でレベル上限が上がったのか。


「サルヤマたちは既に人間ではなく、魔物になっている」

「え? 魔物?」

「ああ、おそらくはクジョウが飲ませた薬の効果だと思う」

「そんな……」

 イチノセが落ち込む。


 しかしクジョウも鬼畜なことをするな。

 いや、クジョウもクソジジィに騙されたと考えられるが……あのクジョウなら知っていてサルヤマたちを化け物に変えたと言われても納得する。

 あいつ、日本にいた頃から先生や多くの生徒にはめちゃくちゃいい顔するけど、裏では色々と悪さをしていたからな。

 陰険さならピカイチのクジョウとクソジジィが組んだら面倒くさそうだな。


「な、なんだ……何が……」

 化け物勇者が喋った……。

「俺は何をしていたんだ?」

 他の化け物勇者も喋り始めた。

 まさか焼き肉の効果で自我を取り戻したのか?

 姿はそのままの化け物なのに自我だけ取り戻すなんて……ないわー。


「サルヤマ君!?」

「ん? イチノセ……てめぇ……スメラギか!?」

 お~、イチノセのことだけではなく、俺のことも覚えているようだな。

 つまり……余計に面倒な話になりそうだ。

 こいつ、イチノセのストーカーだったもんな。

 イチノセの周囲に男がいるのが気に入らない奴だったもんな~。


「イチノセ、あいつらに現状を話してやってくれるか?」

「うん、分かった」

「ハンナはイチノセについていってやってくれ」

「畏まりました」

 イチノセに化け物勇者の現状を話してもらっている間に俺はカナンに目配せをする。


「何だよこれ!?」

「俺たちどうなっちゃったんだよ!?」

 かなり騒がしい。まぁ、あの姿だからな。

 俺が化け物勇者たちの立場だったら自殺物だよ。

 これからどうやって生きて行けばいいか、途方に暮れるだろう。


 イチノセが化け物勇者たちと話をしている間に、カナンには俺たちから離れた場所でお仕事をしてもらった。

 血の臭いに誘われた魔物が押し寄せてきていたのだ。

「燃え盛れ、ファイアウォール!」

 とカナンが言っている気がした。

 その瞬間、カナンが向かった先で炎の壁が立ち上る。

 こんがりと焼かれたであろう魔物に手を合わす。南無三。


 化け物勇者たちとイチノセの話し合いは佳境を迎えているようだ。

 地面に両手をついて泣き崩れる奴が多い。

「くそっ! クジョウの野郎、騙しやがったな!」

 まぁ、そうなるわな。

 神官が誰か知らないけど、直接こいつらに薬を飲ませたのはクジョウなんだから、クジョウを恨むのは当然だ。


 さて、問題だ。

 狂戦士のフジサキは人間の姿なのでいいが、他の奴の姿は化け物なので人里では暮らせないだろう。

 一歩譲って暮らしてもいいという村か集落があったとしても相当田舎なのは間違いないだろう。

 人口が多くなればなるほど、NOと言う人の方が多くなるはずだからなん。


「なんで、お前がいるんだよ!?」

 急にサルヤマと思われる化け物勇者が俺に絡み始めた。

「お前、誰だよ!?」

 他の化け物勇者も便乗してきた。

「止めて! ツクル君は私たちを助けてくれたんだよ!」

 イチノセが化け物勇者を止めようとするが、俺がもっと早く来ていればこんなことにはならなかったとか言い出した。

「てめぇがいなかったから、俺たちはこうなったんだ!」

 すっげー責任転嫁だ。さすがの俺も引くわ。

 これ、ハンナ。化け物勇者たちを殺そうとしないの。その殺気を治めなさい。


「どーでもいいが、その姿では人間が住む場所には行けないぞ。どうするんだ?」

「っ!?」

 化け物勇者に現実を突きつけてみた。

 俺に責任を擦りつけるくらいに元気ならこの程度のことはなんでもないだろう。


 

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