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ガベージブレイブ(β)_052_勇者たちの逃避行3

 


「確認できた魔族の数は十体ほど、村の中にもいないとは限らないけど、そんなに多くなさそうだ」

 そして確認できた勇者の数は四人。

 その中にはタカシマの姿もあったので、助け出せば帝都までの戦力になるだろうとヒデオは考えた。

 それに、戦争で敗走した今の勇者たちの立場は微妙なはずだ。

 だからヒデオは『逃げた勇者』よりも『仲間を助けた勇者』になるチャンスだと考えたのだ。


「それで、どうするの?」

 のほほんとした雰囲気のサガミが聞く。

「彼らを助ける!」

「ヒデオがそう言うなら手伝うけど、どうやって助けるの?」

 キクチが助ける手段を確認するとヒデオは少し考える。


「暗闇に乗じて四人の縄を切って助けて逃げる」

「村人は助けないの?」

 キクチが聞いたが、サガミも同じことを考えていたようだ。

「村人を助けると魔族との戦闘が必須になる。もしかしたら、戦闘中に援軍がくる可能性もあるから、村人は助けない」

 村人は助けないという言葉に二人は少し戸惑ったようだが、ヒデオの言っていることは理解できた。

 今のヒデオたち三人は逃亡者なのだ。

 見知った仲間を助けるだけでもかなりのリスクがある。

 だから二人は村人についてそれ以上何も言わなかった。


 日が落ちたのでヒデオたちは仲間を助けるために動き出した。

 暗闇にまぎれて魔族に気づかれないように慎重にタカシマたちに近づく。

「タカシマ、起きているか?」

 囁くようにタカシマに喋りかけたクジョウ。

 キクチとサガミは別の勇者に声をかけている。

「っ!? クジョウか?」

「シッ! 大きな声を出すな」

「あ、す、すまん」

「今、縄を切るから……」

 刃物で縄を切っている感覚がタカシマにも伝わってきた。

 そして少ししたらタカシマの縄が切れたので、ヒデオは別の勇者の縄も切った。


「逃げるぞ」

「まって、村人はどうするの?」

 助けた勇者の一人、ヨシノブ・オオクボが質問をする。

 ヒデオはまたその質問かと嫌そうにしたが、小さな声で答える。

「今の僕たちには村人を助け出すだけの戦力はない。残念だけど村人は助けられない」

「そんな!」

「シッ!」

 オオクボが思わず大声を出してしまった。

 それを魔族が聞きつけて七人の方に近づいてくる気配がした。


「む、貴様ら!?」

 魔族は縄を切り逃げ出そうとしていた七人を見止めると仲間を呼んだ。

「ちっ、オオクボ、お前のせいでバレたんだ、お前が足止めしろ!」

 タカシマがオオクボを魔族の方に蹴りだした。

「うわ、そんな!?」

「クジョウ、逃げるぞ!」

「ああ、皆、逃げろ!」

 また走って逃げなければならないとはと、ヒデオはため息を吐きたくなる。


 オオクボを置き去りにして六人は走った。

 背中越しにオオクボの悲鳴が聞こえたが、誰一人立ち止まる者はいなかった。

 しかしオオクボを犠牲にしても魔族の追手が追いつくのは早かった。

「ちっ、追いつかれたか!?」

「オオクボの奴、役にたたねぇな!」

 捕虜になっていたタカシマたちはヒデオたちから短剣を渡されているが、武器となる物はそれしかない。

 戦闘はどう考えても得策ではない。


「捕虜の逃走は死刑だ! ここで始末する!」

 魔族の誰かがそう言うとヒデオたちは青ざめる。

 死刑宣告を受けた以上は捕虜になることもできない。

 戦うしかないと腹をくくる。


「タカシマ、殺るぞ!」

「おうよ!」

 ヒデオとタカシマが牛頭の魔族に攻撃を仕掛けた。

 それに続いて他の四人も牛頭の魔族に殺到する。

「ブモォォォォォォッ!」

 牛頭の魔族は持っていた巨大な斧を横に振る。

 それをタカシマは体勢を低くして躱すと、大振りの隙を突いてヒデオが剣で足を攻撃した。


 他の四人もできる限り牛頭の魔物に攻撃をしようと近づいて短剣や剣で攻撃をする。

 残念なことにここにいる六人で魔法が使えるのはヒデオだけだ。

 そのヒデオだが、戦闘のどさくさに紛れて逃げ出す算段をしていた。

(もっと奴らをひきつけろ。僕が逃げ出す隙を作るんだ!)


 そしてその時が来た。

 ヒデオは一切振り返ることなく、その場から逃走したのだ。

 他の五人は牛頭の魔族以外にも参戦してきた魔族と戦っていたのでヒデオの逃走にまったく気づかなかった。


 そうしている内に一人が胴体に大きな穴を開けて倒れる。

 それを見て縮み上がったキクチにも隙ができて首を斬り落とされた。

 次々に死んでいく勇者たち。

 そしてタカシマは気づいた。

「クジョウはどこだ!?」

「え? ヒデオ……」

「くそっ! クジョウの野郎、俺たちを囮にして逃げやがったな!」

 口汚くヒデオのことを罵るタカシマ。

 そしてヒデオに見捨てられたことを知ったサガミ。

 ヒデオに見捨てられた五人の短い人生はそこで幕を閉じたのだった。


「一人逃げたぞ」

「味方を見捨てて逃げるとは卑怯な奴め!」

 魔族たちは暗闇の中に消えていったヒデオの探索をする。

 しかし巧妙に逃げているヒデオを発見することはできなかった。


 上手く逃げ切ったヒデオは暗闇の中、とにかく見つからないように考えながら走っていた。

 ある程度走っては方角を変えているので、暗闇の中ではどこに向かっているのかさえ分からない。

「くそっ、オオクボのバカが大きな声さえ出さなければ、助かったものを!」

 そうすれば少なくとも四人を助け出したという事実が残るはずだった。

 それが今ではたった一人になってしまったのだ。

 ヒデオは暗闇の中、死んでいった元クラスメートたちに毒づいていた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 時は少し遡る。

 巨人の剣を受けて力なく地面にうつ伏せに横たわるミキに駆け寄るスズノ。

「ミキ! しっかりして!」

 ミキの血で服が汚れるのも構わずスズノは地面に座り、ミキの無くなった右腕の血を止めようと上着脱いで傷口に押し当てる。


「ス……ズ・ノ……ン……」

 うつろな目でスズノを見るミキ。

 その目は力なく、今にも光が消えそうな蝋燭のように見えた。

「しっかりして! 今、【回復魔法】を」

 しかしスズノは【回復魔法】の詠唱をすることはできなかった。

 ミキを斬った巨人がスズノの襟首を掴み、まるで猫のように持ち上げたのだ。


「は、放して!」

「その者は我の獲物だ。トドメをささせてもらう」

 ミキの傷をみればもう助からないし、仮に一命を取り留めても右腕がない以上、武人として生きて行くのは難しい。

 巨人にしてみれば武士の情けなのかもしれないが、スズノにとってはあり得ないことだった。


「止めて! ミキはもう戦えないのよ!」

「だから苦しみを長引かせないようにトドメを刺してやるのだ」

 そう言うと巨人は剣をミキに向ける。

「ダメよ! ミキは死んでいないのよ! なんでそんなに簡単に命を奪うの!?」

 巨人はギロリとスズノを見る。

(いくさ)だからだ」

 そう言うと剣をミキに向けて突き出した。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 スズノは両手で目を覆い、悲痛な悲鳴をあげる。その悲鳴は戦場にむなしく響き渡った。


 ミキはここで死ぬのだと覚悟した。

 視界がぼやけスズノの顔も見えない。

 そして耳も聞こえなくなってきた。


「スズノン……生きて……」

 その声はスズノに届いたのだろうか? 確認したくても目は見えず耳も聞こえない。

「あ・り・が・とう……ね」

 ミキの意識はそのまま暗闇へと落ちていった。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 スズノの悲鳴が戦場に響き渡る。

 巨人の剣がミキを貫く。はずだった。

 巨人の剣はミキの数センチメートル手前でピタリと止まっていた。

 巨人がどんなに力を入れようともピクリと動かない。

「むぅ……何者だ?」


 巨人が発した声でスズノは目を見開く。

 そして見たのは巨人の巨大な剣を細い剣で受け止めている黒い影のような存在。

 認識しづらい。しかしそのシルエットを見た瞬間、スズノの全身に電流が走った。


「彼女は生きているか?」

「息はありますし、細かく切った肉も食べさせました。問題ありません」

 ミキの横では地面に膝をついている燃えるような赤髪の少女がミキに水と一緒に何かを飲み込ませていた。

「そうか、彼女のことは二人に任せる。頼んだぞ」

 いつの間にかミキの横に別の女性が現れたが、その女性はメイド服を着ていた。

「「はい!」」


 巨人は自分の巨大な剣を受け止めている黒い影を睨む。

「何者だ。姿を見せよ」

 すでに姿を見せているが、『変出者』の効果によって非常に認識しづらくなっているツクルの姿がそこにあった。

「もしかして、レベルが上がって称号の効果も上がったのか?」

 ツクルは【素材保管庫】からオリハルコンの塊を取り出すと【等価交換II】を発動させて他人から認識されるリングを創り出した。

 その創ったばかりの青く輝くリングを今までのリングと交換して左手の中指に嵌めた。


「これで、見えるか?」

「む、うむ。見えるようになったぞ」

「ツクル君っ!」

 巨人に猫のように掴まれているスズノが我を取り戻し声をあげた。

「イチノセ、元気だったか?」

 この場面で言うような言葉ではないだろう。

 もっと感動的な再会の言葉をかけてほしいと乙女心を理解できないツクルに抗議の視線を投げるスズノ。

 それでもミキの絶体絶命のタイミングで現れたツクルが王子様のように見えてしまうのは仕方がない。


「おっさん、その()を下して軍を引いてくれないか?」

「……」

「何を馬鹿なことを言っている!?」

「人族などに指図は受けん!」

 巨人はツクルに即答しなかったが、周囲にいた魔族はツクルの提案を馬鹿にする。


「うるさいな。俺はこのデカいおっさんと話しているんだ、外野は黙っていろよ」

 殺気を放って外野を黙らせる。

 そのツクルの殺気によって失神したり、失禁する魔族が多数出る。


「……軍を引けばよいのか?」

 巨人がツクルに確認をしてきた。

「彼女を置いて、軍を引けば俺は何もしない」

「……分かった。軍を引こう」

 そう言うと剣を引き、スズノを丁寧に地面に下して巨人はゆっくりと後方に下がっていく。

「ガーバス様! 何ゆえに軍を引くのですか!?」

 巨人はガーバスと言うらしい。そのガーバスに喰ってかかる部下の魔族。

「引かねば全滅する。故に引くのだ」

「馬鹿な! 我らが全滅するなどあり得ません!」

 ガーバスは口答えする魔族を鷲掴みにすると、その手に力を入れて魔族を握りつぶす。

「愚か者が! あの男の強さも分からぬ者は前に出よ。このガーバスが相手になってやろうぞ!」

 その行動と言葉に魔族は引き下がるしかなかった。


 

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