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ガベージブレイブ(β)_051_勇者たちの逃避行2

 


「はぁはぁ……逃げ切れた……のか?」

「ヒデオ~、待ってよ~」

「走るの速いよ……」

 ヒデオは魔族の追撃から逃げきれたとホッと息を吐いた。

 そのヒデオについてきたのは日本で高校生をしていた頃からヒデオの取り巻きをしていたイズミ・キクチとオウカ・サガミだ。

 二人はルク・サンデール王国に所属しているが、今回の戦争でヒデオと再会した。

 それ以来、ヒデオの傍から離れないのだ。

 そして魔族に追い立てられていてもそれは同じで、二人のヒデオ愛が窺える。


 ここまできたら追っ手もこないだろうと、少し休み歩いて帝都を目指す。

 途中、小さな村を発見したので、立ち寄って食料を手に入れようとしたが、そこには既に魔族の姿があった。

「ちっ、こんなところにまで……」

「あ、ヒデオ、あれ!」

 キクチが何かを見つけたようで、指し示した方を見るとそこには見知った顔があった。


「あいつら……魔族に捕まったのか?」

 数名の同級生が縄で縛られていたのだ。

「どうするの? 助ける?」

「……」

 ヒデオは迷った。ここにいる魔族がどれほどの規模か分からないし、魔族が自分より強かったらシャレにはならない。

「少し様子を見て助け出せそうなら助ける」

「そうだよね。魔族がいっぱいいたら私たちまで捕まってしまうかもしれないもんね」


 村の周囲を探るように移動するヒデオたち。

 しかしヒデオたちの姿が隠せる場所があまりなかった。

「魔族は数人しかいないようだけど……」

「夜を待って村に潜り込もう。だけど危なそうだったらすぐに逃げるよ」

「「うん」」

 ヒデオたちは夜を待つことにした。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 人類の中では比較的レベルが高い勇者だが、圧倒的強者ではない。

 二十や三十のレベル差は能力によっては誤差範囲だし、数によってその差はもっと小さくなるだろう。

 つまり、レベル百が上限の勇者では圧倒的戦力にはなり得ないのだ。

 では、何故勇者召喚が行われたのか?

 それはそれほど難しい話ではない。

 勇者はこの世界の人間よりも成長が早いという特徴がある。

 さらには優良な職業に就いていることが多いのだ。

 つまり比較的使えそうな戦力を短期間に作り上げることができるのだ。


 しかし、時々イレギュラーがある。

 それはレベル百を超えて成長する者がいるのだ。

 一般的に知られていないが、レベル上限を超える条件は自分よりも百以上高いレベルの相手を倒せばよい。

 だが、いくら能力がよくても普通であればレベル百もの差は埋まらないので誰もチャレンジしない。


 そこで勇者だ。勇者はレベル差に関係なく限界を越える場合がある。

 それはどういった理由なのか判明していないが、突然変異のようにスーパー勇者が現れるのだ。


「テマスよ。勇者は覚醒したか?」

「いえ、未だに……」

「そうか、ならばもっと勇者を追い込むのだ」

 そうすれば勇者の中からレベル百を超える者が現れるだろう。

 テマスは自分の創造主であるノーマに跪いて決して頭は上げない。


「ん? 何かあるのか?」

 テマスが何かを思い出したかのように目を伏せたのを見てノーマは尋ねた。

「……以前、ボルフ大森林で人族を確認しました……」

「ボルフ大森林……エントの……その人族が何だと言うのだ?」

「は、分かりませぬ。が、あの者、今思えば……レベル百を超えていたかと」

 微妙な沈黙が流れる。

「殺したのか?」

「いいえ、アンティアが現れましたのでボルフ大森林より帰還しました。しかしかなりの手傷を負っていましたのでその後のことは……」

「まさかレベル百の壁を越えた我が眷属がボルフ大森林にいたとはな……あの場所であればレベル的には可能だが……」

 レベル差百以上の討伐は容易なことではない。

 圧倒的強者がお膳立てしてくれれば、また違った話だが。


「その者が勇者でないのであれば放置して構わぬ。今は手持ちの勇者の覚醒を促すのだ」

「はっ!」


 自分がツクルをボルフ大森林に捨てたことさえテマスは忘れていた。

 あの日、テマスがツクルを捨てた転移門の行先は無設定。

 つまりどこにツクルが飛ばされたのか分からないのだ。

 それに黒髪の者はこの世界では珍しいが、まったくいないわけではない。

 そんなテマスがツクルのことを思い出すのにはまだ時間がかかる。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 剣が走ると魔族の腕が斬り落とされる。

「ぐぎゃぁぁぁぁぁっ!?」

 腕を斬り落とされたことで魔族が叫び声をあげるとスズノが息を飲んで立ち止まる。

「止まっちゃダメ! 走るのよ!」

「う、うん」

 ミキがスズノの手を引く。

 勇者たちが逃亡を図ってからそれなりの時間が経過していることから援軍は期待できない。

「クジョウたちはもういないか……」

 ミキはぽつりとつぶやく。その呟きはスズノにも聞こえなかった。


 ミキは夢中で剣を振った。

 一人で逃げるのであれば、もしかしたら助かるかもしれないが、親友のスズノを見捨てることはできなかった。

 手に持つのはルク・サンデール王国から支給されたミスリルの剣。

 魔力を流すと切れ味がよくなるその剣は多くの魔族の血を吸いさすがに切れ味が落ちている。

 今まで多くの魔物討伐を乗り越えてきた相棒も魔族の数を考えればどこまで切れ味が続くか不安がある。


「ミキ、私を置いて逃げて」

「ダメ! スズノンを置いていくくらいなら死んだ方がまし!」

「でも……」

 ミキは強引にスズノの手を引き剣を振る。

 しかし回りは見渡す限りの魔族とドーピング勇者改め化け物勇者しかいない。絶望的な展開だ。


「はぁぁぁぁっ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「せいっ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 ミキはスズノと言う足手まといを連れてよく戦っただろう。

 しかし剣を握る手の握力が落ちてきているのを感じていた。


「なかなかやるようだな。それにその娘を庇っての戦闘、見事だ」

 ミキとスズノの前に巨大な剣を持った巨人が現れた。

「で、デカいわね……」

「我は巨人族であるからな。これでも巨人族の中では小さいほうだ」

「巨人族のデカさ、半端ないわね」

 身長が五メートルはありそうな巨体の戦士がミキとスズノの行く手を阻む構図は何かの怪獣アニメの一シーンのようだ。


(こんなデカい奴を倒せるのかしら……右手の握力がもうない……でも、スズノンだけは、絶対に逃がして見せる!)

 ミキがこれほどスズノのことを護ろうとする理由は中学生の時にある。

 当時のミキは目立つソバカスのおかげで内向的な性格だった。

 心無い同級生からもソバカスのことをからかわれることが多かったが、スズノとツクルはそうではなかった。

 スズノはミキのソバカスのことはチャームポイントだと言ってくれた。

 ツクルはアニメのキャラクターみたいでとても可愛いと言ってくれた。

 二人がいなければもしかしたら引きこもりの生活をしていたかもしれない。

 二人がいたから同級生とも話せるようになったし、こんなに活発にもなれた。

 この世界でツクルとは生き別れになってしまい、今どこにいるのかさえミキには分からない。

 だからツクルの分までスズノを守って見せると心に決めているのだ。


「ミキ、勝てっこないよ……降伏しようよ」

「スズノン、私が死んだら降伏していいわ。でも私が生きている限り降伏はダメだからね!」

 ミキの目に強い意志のようなものを感じたスズノはそれ以上何も言えなかった。

 こういう時のミキは何があろうと絶対に引かないことをスズノは知っている。


「我を倒してみよ! さすれば道は開けるぞ」

 豪快に笑いミキを煽る巨人。

「倒してみせる!」

 握力の落ちた手を鼓舞して剣を握り直すミキ。

 そして左手にも剣を持ち、ミキ本来の戦闘スタイルで巨人と対峙する。


「っしゃぁぁぁぁぁっ!」

 気合を入れるミキ。魔力を剣に流す。

 残っている力はわずかしかなく、長期戦は不利なのは言わなくても分かっている。

 この時のミキはこれまでで一番神経が研ぎ澄まされていたかもしれない。

 ミキは引き絞られた弓から矢が放たれるかのように飛び出した。

 巨人の巨体に力では対抗できないのは分かる。

 だから自分の持ち味であるスピードで対抗するしかないと考えたのだ。


 巨人の右足に迫ったミキが脛を斬りつけようとした時にミキの直感が危険を感じた。

 スキルに【直感】は持っていないが、今までの魔物討伐の中で培ったものだ。

 攻撃を途中で止めてその場を大きく飛びのいたミキ。

 そして今までミキの体があった場所を巨大な剣が風切り音をたてて通り過ぎた。

「ほう、これを躱したか。少しは楽しめそうだ」

 巨人はそれだけで肉体を貫きそうな鋭い視線をミキから離さずに舌なめずりをする。


(参ったわね、何よあの剣の速さ。あんなのを受けたら一撃で終わっちゃうわよ)

 ミキは決して剣を受けてはいけないと、さらにスピードを上げるしかないと、ため息を吐く。


「来ぬのか? 我から行くぞ?」

 巨人はその巨体に似つかわしくないほど早かった。

 気づいた時にはミキの目の前に剣が迫っていたのだ。

 反射神経だけでその巨大な剣を両手に持ったミスリルの剣をクロスさせて受ける。

「きゃっ!?」

 ミキは十メートルほど吹き飛ばされて地面に激突する。

「ミキ!」

「来ちゃダメ!」

 ミキが吹き飛ばされたのを見たスズノが駆け寄ろうとしたが、それを制止するミキ。


 痛む体を起こす。

 巨大な剣を受け止めた代償は大きかった。

 右手のミスリルの剣は粉々に壊れてしまったし、ミキの右腕も骨が折れている。

 そんなミキを見てスズノが【回復魔法】を発動したので、右腕の骨折は何とか治ったが痛みはまだある。


 残ったのは一本の剣と諦めないミキの気持ちだけである。

 しかしそれだけで目の前に聳え立つような巨人に勝てるほど世の中甘いものではないことはミキも分かっている。

 チラリとスズノを見る。

 どうすればスズノを助けることができるのか、考える。


「何を考えておるのだ? その娘を逃がそうとでも思っておるのか?」

「くっ……」

 ミキは考えを見抜かれて奥歯を噛む。


「弱い者をいたぶるのは我の趣味ではないが、これは(いくさ)。容赦はせぬぞ」

 そう言うと巨人は腰をやや落として、いままで片手で持っていた巨大な剣を両手で持つ。

 ミキには巨人の本気が見て取れた。

 そして次の瞬間、ミキは無意識に大きく飛びのいて地面を転がる。


「ミキィィィィィィッ!」

 スズノの悲鳴のような声が聞こえた。

 一体何をそんなに焦っているのか? と地面から起き上がろうとした。

 しかし地面に手を突いて起き上がろうとしたが、思うようにいかなかった。

「……」

 そう、ミキの右腕がなくなっていたのだ。

 地面は肩口から流れるミキの血で赤黒く染まり、大地がミキの命を吸い取っているかに見えた。

「え? 何……これ……ゴホッ」

 血を吐くと体中から力が抜けていく。


 

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