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004_【調理】

 


「……おはよう」

 日が傾いて木々に日差しが遮られ薄暗い。

 化け物との死闘を終えて気絶してしまったようで今は恐らく夕方だと思う。

 俺はどうやらまだ生きているようだ。

 でも体中が激痛に悲鳴をあげている。

 このままではそう長くは生きていけないのは分かるから足掻こうと思う。

 先ず何をすれば良いか?

 目を動かし周囲を見る。

 あるのは化け物を解体したときに出た毛皮や肉、それに骨や内臓などなど……ぶっちゃけグロイ。

 幾ら俺の趣味が料理だからってこれだけの光景を目の当たりにするとグロくて吐き気をもよおす。


 次は……そうだ、ステータスを確認しよう。


 氏名:ツクル・スメラギ

 ジョブ:調理師・レベル百二十三

 スキル:【調理】【着火】【解体】【詳細鑑定】【素材保管庫】【湧き水】【回復食】【道具整備】【食材探知】

 能力:体力D、魔力D、腕力D、知力B、俊敏D、器用EX、幸運EX


 何とレベルが三桁になっていた。

 あの化け物のレベルがあり得ないほど高かったのだろう。

 今度あったら【詳細鑑定】で化け物のレベルを見てやろう。

 嘘です、もう会いたくありません!


 低かった能力も『器用EX』と『幸運EX』を除き上がっている。

 しかし百以上もレベルが上がったのに体力とかはまだ『D』なんだ……『調理師』ってやっぱ戦闘には向かない職業なんだと思う。

 そしてスキルの方に目を移す。

 何と四つもスキルも増えていた。

 この四つの【湧き水】【回復食】【道具整備】【食材探知】に【詳細鑑定】を発動してみる。


 湧き水 ⇒ 飲み水をいくらでも出しちゃうんだから!

 回復食 ⇒ 病気や怪我を回復できる食事を作っちゃうよ?

 道具整備 ⇒ 刃こぼれだって、何だって道具なら直しちゃうんだから!

 食材探知 ⇒ 食材になるものなら何でも見つけちゃうのよ!


 ステータスプレートを持っていたら投げつけていただろう。

 残念ながら今の俺にそんな余裕はない。激痛で目から汗がでるほど辛いんだ。

 しかし何はともあれ……これだ。

「【湧き水】」

 久しぶりの水を少しずつ口に流し込むようにイメージする。

 ゴクゴク……美味い。水ってこんなに美味いんだ……目から汗が出てくるよ。

「っぷはー!」

 喉は潤った。

 次はこの状況を打開するために【回復食】を試すしか手はなさそうだ。

 しかしこの【回復食】の説明文の最後は何で「?」なんだよ……不安になるじゃないか。


 痛む体を無理やり動かす。

 化け物を解体した時に出来た肉の塊が数個地面に落ちているのでそこまで必死に移動する。

 一分に一メートル進めるかどうかのスピードでほふく前進する。

 無造作に色々な部位が地面に落ちているのでそれを除け肉の塊まで近づく。

 肉の塊が幾つか落ちていたのでその内の一つに【詳細鑑定】をしてみる。


 大ジャコウネコのリブロース肉 ⇒ 脂肪が多く含まれて肉質がきめ細かく柔らかい。


 どう考えても食べられそうな説明だ。

 俺は痛む体にムチ打ちスキルの【回復食】を発動させる。


 リブロース肉が見る見るこんがりと焼けていく。

 しかも何故か食べやすい大きさに切り分けられている。


 大ジャコウネコのリブロース肉の回復焼き ⇒ 美味しいのに怪我を治す効果があるんだよ?


 だから何故疑問形「?」の説明なんだよ!?

 俺のスキルやスキルに関わった物はこんな説明しかないのか!?

 憤りを感じながらもそれを抑え込む俺の忍耐力は凄いと思う。

 だけど、そんなことよりも今は目の前にあるこの回復焼きを食べないと先に進まない。

 手を使って食べたいが無理っぽいので地面に直置きされたその肉を口で直接食べる。

 屈辱だが、今はその屈辱に耐える時なのだと自分に言い聞かせる。

 アム……口の中が切れているのでシミル。

 そして自分の血の味しかしない。普通に食べたら美味しいだろうに勿体ない。

 土や砂が肉に付いて口に入るのでジャリジャリといやな触感だけは伝わってくる。

 こういうのはいらないのに……でも飲み込まないと効果がなさそうだから嫌々ながら飲み込む。

 そうすると全身の痛みが和らいだように感じた。

 まだ完全に回復はしていないが、一切れ食べただけで大分楽になった。

 もう一切れ食べる。相変わらずジャリジャリだ。

 しかしその効果は目に見えて出る。

 今まで変な方向に曲がっていた右腕が真っすぐになり俺の意思で動くのだ。

 三切れ目、胴体が治った。

 四切れ目、足が治る。

 ここでほぼ完全な状態に回復したと思うが残りの回復焼きも食べる。

 空腹だったこともあり五百グラムほどの肉をしっかりと腹の中に収めた。

 しかも化け物に出会う前より体の調子が良いと思えるほどに体が軽い。

 それもそうか、ステータスの『体力』や『腕力』が上がっているのだから。


 周囲に散らばって落ちている化け物の部位を【素材保管庫】に収納していく。

 取り敢えずこれでよしと。

 この【素材保管庫】も収納できる容量がどのくらいあるのか確かめておかないといけないな。

 それ以前に……俺のこのボロボロの服を何とかしたいが、こんな森の中ではむりだよな。

「はぁぁぁぁ」

 化け物に弄ばれあちこち破れてしまった制服を見てため息を吐く。

 地面から直に食事をしたり、手を使わずに食事をしたり、とても現代人に見えないボロボロの服を着ていたり、俺って今日一日で人間から逸脱してないか?

 出来ることならステータスが人間から逸脱してくれれば生き残る可能性も上がるのだけどな。


「さて、森からでる前に野営できる場所を確保しないとな」

 もう日がかなり傾き森の中は非常に暗い。

 このままいけば危険な場所での野宿が確定となってしまうが、安全な場所なんてあるのだろうか?

 あってほしいものだ。


 暫く当てもなく彷徨う。

 そうそう都合よく安全地帯があるわけない。

 現実は俺に厳しいようだ。

 仕方がないので大木の上で一夜を明かそうと思うのだけど、木登りなんてしたことない。

 しかも枝は太いがそれでも寝てしまったら枝から落ちる可能性だってある。

 寝ぼけて枝から落下して首の骨を折って死んだ、なんてことになったらあの化け物との闘いを生き残った意味がない。

 蔦のような物があれば良いけどそれもない。

 周囲はもう真っ暗だ。

 仕方がない、蔦は諦めよう。


 一際大きな木によじ登った。

 木登りなんかしたことなかったけど、意外と登れてしまった。

 恐らく『腕力』が上がったからだと思う。

 地上四メートルほどにある太い枝の上で体を休める。

 特に太い枝を選んだこともあり、座り心地はそこそこだ。

 これなら何とか朝まで落ちずにいられるだろうと、思いたい。


 さて、水でも飲むか。

 スキルの【湧き水】を発動させ口に直接水を流し込む。

 コップや皿がないのでこんな飲み方になるが、本当に現代人とはかけ離れた感じがする。


 【素材保管庫】から肉の塊を取り出す。

 三キログラムほどの塊だ。

 何故か砂や土は付いていない。

 もしかしたら【素材保管庫】に収納することで不純物は取り除かれるのだろうか?

 明日になったら試してみよう。


 大ジャコウネコのバラ肉 ⇒ 脂肪は少な目で赤みのやや硬い肉。


 部位の名前は【素材保管庫】に入れたことで表示されるので分かったが、念のため【詳細鑑定】で説明を確認してみた。

 先ほどは【回復食】で怪我を治す料理をしたが、今度は【調理】を使ってみる。

 とは言え、手の上でスキルを使ったら熱々の肉の塊が手の上に出来上がるなんてことになりかねない。

 何かないかな……と周囲を見渡すと木の枝の葉が目に付く。

 しかもそこそこ大きな葉なので数枚むしり取り【湧き水】で洗う。


 カヨウの葉 ⇒ 抗菌作用があり腐りやすい肉などを包むのに最適。


 ばっちしな葉だな!

 カヨウの葉の上にバラ肉を載せ【調理】を発動する。

 見る見る火が通り美味しそうな匂いが俺の鼻をくすぐる。

「ゴクリ」

 生唾が次から次に出てくる。

 塊だったけど一口サイズに切り分けられているので食べやすいだろう。ただ、手づかみなのでそれが少し落ち込む。


 大ジャコウネコのバラ肉焼き ⇒ スキル【暗視】を覚えちゃうよ?


「はい?」

 放心して思わず肉を落としそうになったが、何とか落とさずに確保した。

 相変わらず「?」な説明文だが、その内容が驚愕するべきものだ。

 もしかして『調理師』ってスキルを覚えることができる料理を作る職業なのか?

 でもそんな素晴らしい能力があるのなら俺はこんなことになっていないはず……どういうことなんだ?


 考えても分からないものは分からない。だから食事をしよう!

 一切れ指で掴む。少し時間が経ったがまだ熱い状態なので我慢して口に放り込む。

「っ!」

 な、何だこの美味さは!?

 赤肉だったけど肉汁がジュワッと出てくるし、その肉汁がまた甘いんだ。

 しかも何故か塩胡椒の味がするし、少し醤油っぽい風味もある。

 美味すぎる!

『スキル【暗視】を覚えました』

 視界に文章が現れた!


 

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