003_死線
「参ったぞ、喉がカラカラだ」
ボルフ大森林という森の中に捨てられた俺。
今は絶賛迷子中なわけで、三時間以上歩いても同じような景色しか見えない。
幸いと言うべきか魔物とは遭遇していないのでまだ生きているが、もし魔物が出てこなくてもこのままではヤバいのは分かる。
先ず、水がない。これがひっ迫した状況なのは体で分かっている。
体力に自信はない。
体育の授業で何かしても良くて中の中の俺に何の装備もなく森歩きはキツイ。
それはステータスでも分かる。『体力G』、今の俺を物語っている表示。
フザケルナ、と言いたい。職業が戦闘職じゃないからってこんな森の中に捨てやがって!
見てろよ、この森から抜け出したら復讐に行ってやるからな!
座るのに丁度良い石があったので腰を降ろす。
この森は暑くはないけど、森だけあって湿気が多いので気分的に気持ちわるい。
しかも歩き詰めで汗もかいており気分が乗らない。
お尻の下の岩がひんやりとして気持ち良い。
ガサガサ。
「っ!……」
何かが草を踏む音がした。
俺は音がした方にゆっくりと顔を向ける。
……なんだネコか。
……日本で見たらカワイイのかもしれないネコ。
でもここは魔境であり、魔物の闊歩する森らしい。
俺の前には確かにネコなのだが、どう考えてもオカシイ大きさのネコがいた。
ネコはネコでもライオンよりも大きくそして凶暴そうなネコだ。
俺の身長よりも高い体高に口から大きくはみ出した二本の牙。
俺の本能が無意識に体を動かす。
岩から立ち上がり一目散に走り出したのだ。
しかし分かりたくはなかったが、分かっていた。
ライオンよりも大きい、そしてライオンよりも強そうなその生き物の方が俺よりも瞬発力がありそして速いのだと。
数メートル走ったところで俺は空中を舞いそして地面に叩き付けられる。
同時に激痛が俺を襲う。
右腕の骨が折れたようで、あらぬ方向に曲がっていた。
それでも本能がもがこうと左手や両足を使いほふく前進しようとするが、背中にグワッと荷重がかかり俺は「グエッ」と声を出し肺の中の空気を吐き出す。
そして次の瞬間、俺はまた空中を舞っていた。
一瞬だが視界に収めたあのネコの化け物が俺を前足で蹴り上げたのだ。
ネコがネズミを弄ぶように俺を弄ぶネコの化け物。
何度も空中を舞い、俺の体はズタボロの状態になっていく。
「俺、十七歳童貞のままで死ぬのか……」
声にならない声が口を伝いでる。
体中の骨が折れ、折れてなくてもヒビが入っているようで、激痛しかない。
ネコの化け物は俺で遊ぶのがそろそろ飽きてきたのか、その瞳は俺をエサとして見ているようだ。
一方的な暴力ってのはこんなにも理不尽なものなんだと今更ながら思う。
死にたくはないけど、今の状況で俺の未来は死しかないと諦める。
……諦める……こんなところで諦めて死ぬのか?……俺はあのクソジジイに復讐し、クソったれな国の連中に復讐したいのに、こんなところで諦めて復讐なんてできるのか?
死にたくない!クソジジイをぶっ飛ばし、クソったれな国の奴らを蹴り飛ばし、そして俺を弄んだこのクソな化け物をぶっ殺す!
でもどうやってこの化け物を殺すんだ!?
俺のスキルは【調理】【着火】【解体】【詳細鑑定】【素材保管庫】の五種類しかない。
しかも戦闘に役立つようなものはない……まてよ、もしかして……やってみるさ、やってみてダメならまた足掻くだけだ!
化け物が俺を前足で押さえつける。
俺の肉を食おうと顔を近づけてくる。
凶悪な牙で俺を突き刺そうと大きな口を開ける。
今だっ!
「【着火】【着火】【着火】【着火】【着火】【着火】【着火】【着火】【着火】」
化け物の顔に火をつける。成功だ。
化け物が俺から飛びのき顔についた火を消そうと地面に顔を擦り付ける。
「【着火】最大火力だ!」
ボワンッと火柱が立ち上る。
化け物がのたうちまわり、苦しそうに叫び声をあげる。
俺を殺そうとするなら殺される覚悟をしてこいってんだ!
化け物の顔が焼け爛れていく中、俺を恨めしそうに見つめる目。
こいつ俺を殺して火を消そうと思ったようだ。
苦しそうにヨタヨタと俺の方に歩いてくる化け物。
俺は全身の骨を折られ動けないので化け物が俺に接触したら防ぐ手段がない……
俺のところまでたどり着いたら化け物の勝ち、たどり着けなかったら俺の勝ちだ。来るな!?
二メートル……一・五メートル……一メートル……俺の負けか……でもこの化け物だってかなりのダメージを負ったはずだ。
悔いは……ある。もっと生きたかった。
楽しい人生を送りたかった……そうだ、生きていたら自由に生きよう。
誰からも縛られない、好きなことをして嫌なことはしない、そんな自由な人生をおくろう……
化け物が俺のところまでやってきた。
俺の負けのようだ……顔中を火で覆われているのでこの化け物だって虫の息だ。
俺はこんな化け物を相手によく頑張ったと思う。
……っ!
化け物の前足が俺の顔を踏みつける。このまま顔を潰す気だ。
ミシ……ミシミシ……頭蓋骨がきしむ……
そうだ、あれを……ふと頭に浮かんだ言葉を口にする。
「【解体】」
触っているものなら何でも解体しちゃうぞ!という説明……を思い出したからだ。
ボトッ、ボトボトッ、ボトッ、ボトボトッ、ボトボトッ……
目の前で原形を留めない姿に変わった化け物……今度こそ俺は生き残った……
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
視界の先にエンドロールのように文字が流れていく。
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルがあがりましたのでスキル【湧き水】を覚えました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
レベルアップの文章が俺の視界に浮かぶ。
それが大量にロールしていく。ウザい。
何やらスキルを覚えたと見えたがあっという間に見えなくなった。
まぁ、あれだ、俺は生き残ったんだ。
そう思った瞬間、意識が遠のいていくのが分かった。