ガベージブレイブ(β)_038_くんくん
アルグリアへ戻ったのは明け方近くだった。
あのアンティアの住居がアルグリアからめちゃくちゃ遠かったので帰るまでに時間がかかったのだ。
途中、ボルフ大森林内で魔物が集まっている周辺を通った時が、千体以上の魔物がいた。
アンティア曰く、森の番人であるエンペラードラゴンが何度も討伐されたことに対する森の自衛本能のようなものが働いているのだとか。
あれだ、俺のせいだな。
さて、アルグリアに戻った俺はカナンに問い詰められているところだ。
朝帰りで服も着替えて何をしていたのだ、とね。
俺死にかけてました、なんて言おうものなら煩そうだし。
女性のところにいましたと言うのも何か違う気がする。
いや、違わないのだけど、納得がいかない。
「くんくん。っ!? 女の匂いがします!」
「え?」
匂いで分かるのかよ!?
てか、獣人ならともかく、何で人族のカナンがそんなに鼻がいいんだ!?
「ご主人様、正直に仰って下さい!」
「え~っと……」
「性処理が必要でしたらカナンを使って頂いても結構です! ですから正直に言って下さい!」
ははは、何かスイッチが入ってしまったようだ。
てかさ、性処理って何だよ? 俺は別に性処理が必要ってわけじゃないぞ。
寧ろ生処理の方が必要だったわけでだな……。
「何と言えば良いのか……すまん」
俺は何で謝ったんだ!?
俺は何も悪いことはしていないぞ!
濡れ衣だ!
「今度からはカナンがお相手します!」
「えーっと、それは……」
「いいですね!?分かりましたね!?」
「お、おう……」
何故だか押し切られてしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ゴリアテたちを訓練している間にサーニャの体調は万全となったようだ。
だからサーニャに服を買ってやろうと思い服屋にきている。
「好きなものを選べ、遠慮せずに三着くらい買っておけよ」
「いいのですか?」
「勿論だ、服がないと不便だからな」
ボルフ大森林で原始人のような生活をしていた俺にはわかるんだ。
服は文化人として重要なアイテムだと。
「カナンとハンナも服を買っていいぞ」
「でも私たちは奴隷ですし……」
「奴隷なのに新品の服など贅沢です……」
「お前たちが綺麗な服を着てくれると俺も嬉しいんだ。だから選んでこい」
そう言ってカナンとハンナの背中を押す。
カナンとハンナは最初は良いのかなといった感じだったが、次第に服選びに熱中していく。
こういうのを見ると二人も女の子なんだと思う。
「これなんてどうでしょうか?」
サーニャが俺の前で薄いピンクのワンピースをあてて見せる。
「いいんじゃないか、サーニャに合うと思うぞ」
サーニャは五年も牢屋に閉じ込められていたことを感じさせないほど明るい。
多分、天性の明るさなんだろう。
「今日は今まで生きてきて一番楽しかったです!」
そんなこと言われるとおいちゃんグッとくるぜ。
思わずサーニャの頭をナデナデしてしまった。
「わふ~」
サーニャも気持ちよさそうだからいいか。
「あ~ご主人様、ずるいです!カナンも撫でてほしいです!」
「は、ハンナも……」
何故か三人の頭を順番に撫でることになってしまった。
これはこれでありだな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「教官殿、俺たち強くなりました!」
猿顔じゃなかった猿獣人のファルケンが馴れ馴れしく喋りかけてくる。
バチコーンとデコピンをする。
「ギャァァァァァァッ」
額を手で押さえながら転げまわって痛がるファルケン。
エンシェントエルフのアンティアとの戦いで完全に敗北した俺。
アンティアが特別強いのか、俺が弱いのか。
多分、前者なんだろう。
しかし帰り際にアンティアが気になることを言っていた。
エンシェント種は人族にもいると。
そう考えると俺の復讐対象である人族の国々にエンシェント種が所属している可能性が高いと考えるべきだろう。
復讐しに行って返り討ちに遭うなんてシャレにならんからな、もっと強くならないと。
しかしエンシェント種なんているんだったら勇者なんて要らなくね?
頭の腐った奴らの考えることは分からんなぁ~。
「何調子くれちゃってるんだ!お前たちなどまだまだ雑魚だ!」
そんなわけで、絶賛八つ当たり中だ!
教官の権力を使って何が悪い!
はい、御免なさい。カナンの目が怖いです。
俺は【素材保管庫】から訓練生のステータスカードを取り出しゴリアテに渡す。
レベル上げにステータスカードは不要だと俺が取り上げていた。
「配ってやれ」
「い、Yes,sir」
ゴリアテが全員のステータスカードを配り終わったのを確認したので喋る。
「お前たちの今のレベルを確認してみろ」
訓練生からため息のようななどよめきが起こる。
ボルフ大森林に入って訓練をした甲斐があって訓練生のレベルは軒並み八十を超えている。
ゴリアテは九十四、ロッテンは九十三、九十代はこの二人だけだ。
しかし大盾騎士のエーデルと闘弓士のシュバルツはギリギリ九十に届かなかったが、八十九となっているし、闘槍士のブルガと精霊術師のオブリは八十八だ。
他の四人も隠密短剣士のファルケンが八十六、踊り子のフリンと魔導士のジャマランが八十五、治癒士のアクラマカンが八十四となっている。
訓練生全員を整列させる。
「いいか、お前たちのレベルは他の奴から見れば相当高いだろう。しかし所詮は雑魚だ。ゴリアテ、ボルフ大森林に住む魔物の最高レベルを知っているか?」
「はい、レベル百五十が過去に確認されております!」
自信満々に百五十が最高レベルだと言うゴリアテをソフトタッチで殴り飛ばす!
あ~力いっぱいゴリアテを殴りたい!
「馬鹿野郎!そんなに低いわけがあるか!その倍だ!」
全員が騒つく。そりゃ~そうだろう、自分たちが考えているレベルの倍もある魔物が存在するなんて思ってもいなかっただろう。
「お、お言葉ですが、そんな魔物がいたら人間は壊滅してしまいます!」
俺は【素材保管庫】からエンペラードラゴンの頭部を取り出す。
俺が剣の訓練の為に戦った一体の頭部だ。
俺の背丈よりも大きなその頭部を見せこれがレベル三百の化け物のものだと教えてあげる。
本当は今日、レベル四百の化け物と戦ってきたと言ったら何と言うかな?
因みに黒霧はアンティアに放置されていたので俺とアンティアが戦った付近の地面に突き刺さっていたのを回収している。
その時に散々修業が足りないとか煩かったのでなだめるのに大変だった。
「そ、そんな……」
絶句する訓練生たち。
エンペラードラゴンは雑魚でした。と言ったらこいつらの心臓が止まるかもと少し試してみたくなったが、ぐっと堪える。
「今の貴様らでは決して太刀打ちできない化け物だ」
そして俺はアクラマカンとジャマランの前に立ち言う。
「特にお前たち二人はやっと詠唱破棄ができただけの雑魚中の雑魚だ。詠唱破棄ができたからと言って努力を怠ると一瞬であの世に行くことになるぞ!」
「Yes,sir」
「甘い考えは捨てろ、出来なければ死ぬと思え、分かったか!?」
「Yes,sir」
目つきが変わった二人の表情に一応の満足をして再び全員の中心に立つ。
「いいか、常識に囚われるな、常識に囚われた時点でお前たちの成長は止まる!逆に常に工夫し強くなろうとしようとする者は強くなれる!失敗したらやり直せば良いが戦場では失敗は即ち死につながる。だから訓練をするのだ!実戦で失敗しないように訓練で自分を虐めぬき強くなれ!」
「Yes,sir」
全員が真剣な眼差しで俺を見つめる。
俺のミッションもここまでだ。後はこの十人が試行錯誤して強くなり後輩たちに引き継げばよいだろう。
今度はエーデルの前に移動する。
そして【素材保管庫】から俺が二人は入りそうな大きな鎧を取り出す。
「卒業祝いだ」
この鎧はオーガジェネラルが着ていた鎧とアイアンキャンサーという蟹の魔物の甲殻を素材に【等価交換】で造り直した鎧だ。
オーガジェネラルの鎧は純度は低いがアダマンタイトの鎧だったので、そこにアダマンタイトのように硬いが軽量なアイアンキャンサーの甲殻を合成して造った一品物の鎧だ。
「あ、アイアンキャンサー!確か王家の宝物庫に収められている鎧がアイアンキャンサーの鎧だったと聞いたことがあります!そんな貴重なものを宜しいのでしょうか!?」
「何だ、いらんのか?なら―――――」
「いります!いりますとも!使わせて下さい!」
そしてもう一つ、鈍い銅褐色の大盾を取り出す。
「これはゴールドワームと言う魔物が体内にため込んでいたゴーザルドという金属で造った盾だ」
「ゴーザルド?」
優れた強度があるのに弾性がある特殊な金属で物理耐性だけではなく、魔法耐性にも優れた性能を見せる大盾だ。
エーデルの大盾や鎧は仲間を守る代償として消耗が激しいのでこれらには自己再生の能力が付与されている。
しかも時間はかかるが大きな傷を再生するとより強固な防具となる自己進化までついている。
エーデルはその防具を抱きかかえ「もう返しませんよ!」と言う。いらんわ!
俺とエーデルのやり取りを見ていた他の訓練生たちが俺に期待の視線を向ける。
ゴリアテの前に立つ。嬉しそうにしやがって。
「ゴリアテ」
「Yes,sir」
「お前にはない」
「え……」
ガーンという音が聞こえそうなほどに地面に両手両膝をつき落ち込むゴリアテが面白い。
「冗談だ、ほれ」
四つん這いになっていたゴリアテの頭のすぐそばの地面に巨大な剣を突き刺す。
ガバッと立ち上がりその大剣の柄に手をかけるゴリアテを俺は制す。
「この大剣を使いこなしてみろ。中途半端は許さんぞ」
「Yes,sir」
敬礼までして嬉しさを表現するゴリアテが大剣を地面から抜く。
この大剣は純度の高いアダマンタイトでできているので滅茶苦茶重い。
剣としてだけではなく鈍器のような破壊力も持っている。
嬉しそうに大剣を抱きかかえエーデル同様に「もう返しません!」と言うが、こんな大男たちからではなく可愛い女の子に言われたいな。
ブルガには槍を与える。
槍頭の金属部分はアダマンタイトとミスリルの合金でできており丈夫で魔力を流すと貫通力が上がる優れモノだ。
そして柄はオールドトレントなので硬いのにしなやかな弾性も持っている。
シュバルツには弓を与える。
この弓はオールドトレントとグリーンドラゴンの髭を素材にして造っている。
ドラゴンと言っても低級竜種のグリーンドラゴンなのでレベルは百六十しかない。
低級とは言えドラゴンなので同じレベル帯の魔物の中では強いが、その程度だ。
この弓は矢に魔力を纏わせると命中率と貫通力を向上させる能力があるのでシュバルツの力になってくれるだろうと思う。
ファルケンにはミスリルの短剣(二本一対)を与える。
ミスリルは軽く魔力を纏わせることで切れ味が向上する。
素材がありふれたミスリルなのでこれ以上言うことはないが、贈られた本人はバク宙などして喜びを体で表していた。
オブリ、ジャマラン、アクラマカンの魔法系の三人には杖を与える。
オブリは風属性の威力が上がるようにオールドトレントを本体として魔法発動体としてエメラルドキャットの目を取り付けた杖だ。
ジャマランは氷属性の威力が上がるようにオールドトレントを本体として魔法発動体としてサファイアキャットの目を取り付けた杖だ。
アクラマカンは回復の効果が上がるようにオールドトレントを本体として魔法発動体としてパールキャットの目を取り付けた杖だ。
これらのキャットシリーズの魔物には三番目の目があるのだが、その三番目の目が名前の由来にもなっている宝石になっているのだ。
倒すとその目が素材として入手できるのだ。
フリンには日本のアイドルが身に着けているようなフリフリが付いた衣装を与える。
物理攻撃と魔法攻撃に耐性がある衣装だが、何よりも踊りの効果が上がる仕様だ。
しかしだ、幼女ならともかく、幼児なのが残念である!
最後にロッテンだ、ロッテンには双剣を与える。
「こっちのが『絶』と言う、ミスリルに僅かだがオリハルコンを混ぜており魔力伝導率に優れ強度も申し分ないだろう。そしてこっちが『喰』だ、ブラックドラゴンの牙から削り出し鍛えた逸品だ」
「このような物を……」
贈った双剣の『絶』はその鋭い刃で敵を切り裂き、『喰』は倒した魔物の魂を喰らい成長する。
特に『喰』の方は成長する剣なのでしっかりと育ててくれとロッテンに渡す。
「ありがとうございます!」
「色々面倒なしがらみがあるだろうが、お前はお前の信じる忠義を尽くせばいいと思うぞ」
「っ!はい!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔物の大群がアルグリアへ向かっているのはほぼ確定だ。
俺がアンティアの家から帰る途中で確認した時よりもアルグリアへ近付いてきている。
俺が魔物の群れをせん滅するのは簡単だ。
しかしせっかくなので利用させてもらおう。
「カナン、ハンナ、サーニャ。これからボルフ大森林の中をアルグリア方面に移動をしている魔物の群れをせん滅しにいく。一緒にくるか?」
俺のカナンとハンナは俺の奴隷。
サーニャはハンナの妹で俺によってフーゼルの屋敷から助け出しているので俺が面倒を見ている。
その三人を前にボルフ大森林の中で起こっていることを伝え、そして俺についてくるか確認をする。
「勿論です!ご主人様の行くところ、カナンはどこへでもお供いたします!」
カナンは予想通りの答えを返してきた。
俺に助けられた恩を感じているようで、律義な娘だ。
「私などが付いて行って足手まといになりませんでしょうか?」
「それは大丈夫だ。そのためのレベル上げも行う。ただし、命がけだと思ってくれ」
「足手まといにならないように努力致しますのでお供ささせて下さい!ご主人様への恩をお返しさせて下さい!」
「恩を返すなどということは考えるな。自分のことを考えろ」
「はい!」
本当に分かっているのだろうか?
「ご主人様、サーニャもお供させて頂きます!」
「サーニャは俺の奴隷じゃないのだからご主人様は止めてくれ」
カナンとハンナはどうしてもご主人様を止めないので、せめて奴隷じゃないサーニャには勘弁してほしい。
「いいえ、姉ともどもお世話になっている身。ご主人様と呼ばせて頂きます」
何故ここまで頑固なんだろうか。
氏名:ハンナ
ジョブ:武闘王 レベル二十八
スキル:【剛腕】【棒術】【格闘術】【屈強】
種族スキル:【嗅覚強化】【聴覚強化】
能力:体力C、魔力G、腕力C、知力E、俊敏C、器用D、幸運E
氏名:サーニャ
ジョブ:アウトファイター レベル八
スキル:【投擲】【腕力強化】【気配遮断】
種族スキル:【回避】
能力:体力E、魔力G、腕力C、知力D、俊敏C、器用C、幸運F
 




