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ガベージブレイブ(β)_037_半殺しにされた敵は今日の友

 


 暗い。

 闇の中で生活をしていた頃によく見た。

 どこを向いても真っ暗。


 光が差す。

 一筋の光。

 俺を照らすように光の筋が太くなっていく。

 これはあれか?死後の世界なのか?


 そうか、俺は死んだのか。

 短い人生だった。

 そして悔しい。

 あのクソジジィに復讐できなかったのが心残りだ。


 あ~カナンたちは大丈夫だろうか?

 カナンは既に限界突破をしているから努力次第で俺程度にはなれるだろう。

 彼女の魔法の才能は本物だからな。


 ハンナとサーニャは俺がいなくなったらどうなるのかな?

 伯爵が何とかしてくれると思うけど、せっかく姉妹が一緒に過ごせるようになったのだからそのまま二人で手を取り合って生きていってほしい。


 眠い。寝よう。次起きたら天国か地獄か、それともどこかの世界に転生しているのか……もし天国へいけるのなら父さんや母さん、そしてアユムに会えると嬉しいな。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 まどろむ……。

 意識があるのにはっきりとしない。

 まぶたを力なく開ける。

 光が瞳を刺激する。

 まさか生きている?


 知らない天井だ。

 一度言ってみたかった。

 薄茶色で木目が美しい天井。


「気が付いたようですね」

「……」

 凛とした声が聞こえた。

 どこかで聞き覚えがあるような声だが思い出せない。

「まだ意識がはっきりとしませんか?……仕方がないですね。もう少し眠りなさい」

 体が温かい。

 ……。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 知らない天井だ。

 いや、前回見た天井だな。

「ここは……?」

「ここは私の住居です」

 耳に心地よい声が入ってくる。


 声のした方に顔を向ける。

「……アンティア?」

「はい、アンティアですよ。やはり鑑定系のスキルを持っていましたね」

 そこには美しい佇まいでティーカップを持ち飲み物を飲んでいるエンシェントエルフのアンティアの姿があった。

 飲み物は恐らくハーブティーだろう。

 カモミールのような香りがする。


「……」

「私の顔に何か付いていますか?」

「……いや、アンティアが俺を助けてくれたのか?」

「うふふふ、結果的にそうなりますね。その前にあなたを殺そうともしましたが?」

「……俺を殺すのか?」

 アンティアは上品な仕草で手を口に当て楽し気に笑う。


「殺すのでしたら態々治療は致しませんよ」

「あれほどの攻撃をしておいてどの口が言うかな……」

「あら、辛らつな仰りようですね。あの時は本気で殺そうとしていたのですよ」

 再びティーカップを口に持っていくアンティア。


「何故俺を助けた」

「あなたの勝ちだからです。勝者には敬意を払わねばなりませんからね」

「俺の……勝ち……?」

「そう、私は一度死にました。あなたが何をしたのかは分かりませんが、間違いなく私の命は消滅しました」

 この美人は何を言っているのか?

 死んだのなら何故俺よりもピンピンして優雅にお茶を楽しんでいるのだ?


「分かりませんか?うふふふ、私には命が二つあるのです。あなたは私の命を一つ奪ったのですよ」

 ……あ~、あれか。思い出した。

 たしか、アンティアのスキル、正確にはエンシェントスキルにある【第二の命】か。

 俺の【詳細鑑定】で内容を確認しようと思ったけど弾かれて見ることができなかった。


「思い当たったようですね。そう、私が持っている【第二の命】です。私には命が二つあるのです。これがなければあなたの攻撃で私は完全に死んでいました」

「あんたの貴重な命を奪った俺をどうする気だ?」

「うふふふ、それほど貴重でもありませんよ。失われた命は一日で元に戻ります。ですから私のようなエンシェント種は不死だと言われていますね。本当は老衰で死んでも命が一つ失われるだけで年齢がリセットされるだけなのですがね」

「一日で命が復活するか。ずいぶんと便利なものだな」

「そうでもないのですよ。命が二つあることで永遠に生き続けるのですから」

 そうか、寿命がきて死んでも寿命がリセットされるから老衰では死ねない。

 しかもレベル四百オーバーだからめちゃくちゃ強いので戦闘でも死ねない。

 自殺はどうなんだ?

 まさか宗教的な理由で自殺はできないとか言うんじゃないだろうな?

 そんなことはどうでもいいか。


 永遠に生きるってどんな気分なんだろうか?

 俺なら御免こうむりたいな。永遠の命があっても楽しくないだろ?

 いつか飽きがくると思うんだ。

 それに命に限りがあるから一生懸命生きるんだ。

 一生懸命生きるから楽しいんだ。

 今ならそう思える。


「私の命のことは良いでしょう。今はあなたのことです。あなたは既に私の名を知っているようですが、改めて名乗りましょう。私はボルフ大森林に住まうエルフ族の長でアンティアと申します」

「ご丁寧な挨拶を頂いて恐縮だ。体が思うように動かせないのでこの姿で失礼する。俺はツクル・スメラギ。人族のしがない復讐者だ」

「復讐者?面白い自己紹介ですね?人族の間ではそのような自己紹介が流行っているのですか?」

「いや、これはアンティアに対して最大限の敬意を評して俺の生きざまを述べただけだ」

「生きざま……ですか?……なるほど……その復讐の対象を聞いても?」

 アンティアは目を細め俺を見る。

 俺の復讐対象がアンティアじゃないのかと懸念しているのかも知れないな。


「その前に体を治すから少し時間をくれ」

 話していて気付いたが俺の体は酷いありさまだ。

 右手は肩口からなく、おそらく足もないのだろう。

 見える範囲で包帯だらけ。

 喋っているのも不思議な感じがする。


「それは構いませんが、ツクルの【超再生】は効きませんよ?それに治癒魔法も効きません。私の本気の攻撃は治癒系のスキルを全て遮断する効果があるのです」

「大丈夫だ、アム……カミカミ……ごっくん」

 言わずと知れた焼き肉様だ!

 焼き肉の治癒はスキルではなく、効果だ。

 だから大丈夫だと勝手に思い込む。


 あ、しまった!傷口は包帯でぐるぐる巻きになっていたんだった。

 俺が懸念したように右手の再生が始まり包帯がぐにゃぐにゃと動き出したと思ったら包帯を突き破って手の肉がもこもこと再生しだした。

「え?」

 流石のアンティアもその光景に驚いているようだった。


 右手の再生をしている間に焼き肉を食べる。

 足の方も再生が始まったようで感覚が徐々に戻ってくる。

 この感覚が戻ってくるときが一番つらい。

「ぐぁっ!」

 痛みも一緒に戻ってくる。本当にえげつない痛みなんだぞ。


 三切れ目、四切れ目、念のために五切れ目を頬張る。

「よし、完全復活!」

 全身に【クリーン】をかけ、新しい服を着てアンティアを見る。

 アンティアは口をポカーンと開けて俺を見ていた。


「何と言えばよいのか……数万年の歳月を生きてきましたがあなたのような人族、いえ、エルフや他の種族を含めてですが、初めて見ました」

「それは褒めてもらったと思っていいのか?」

「もちろんです。最上級と付け加えておきます」

「なら、素直に喜んでおくぞ。座ってもいいか?」

「はい、どうぞ」


 不思議な光景を見た後なのに平然と俺と会話をするあたり、流石と言えるな。

 丸テーブルを挟んでアンティアの反対側に座った俺にアンティアがお茶を淹れてくれた。

 やはりハーブティーのようなお茶で二種類のハーブのブレンドのようだ。

 香りが鼻を通り気持ちを落ち着かせてくれる。

 先ほど焼き肉を五切れも食べたので精神疲労も回復しているが、これはまた別だ。


「さて、俺を助けてくれたことには感謝するが、理由を聞いても?」

 問答無用で殴りかかってきたくせに何で俺を助けたのか理由を聞かないとな。

「先ほども言いましたが、あなたが勝ったからです。勝者には敬意をもって接するのが普通ではありませんか?」

「俺が勝ったなんて俺自身は思っていない。現にアンティアはピンピンしており、俺は死にぞこないだったわけだからな。どちらが勝者かは明らかじゃないか?」

「そのような見方もありますね。しかし私のような見方もあると思って頂き、お互いに尊重しあえば良いではないですか?」

 たしかにそうだな。

 すくなくとも今のアンティアからは殺気や嫌な感じは受けない。

 俺の【野生の勘】がアンティアは信じても良いといっている気がする。


 一回だけ頷いておく。

「俺が意識を失ってからどのくらいの時間が経っているか教えてもらえるか?」

「半日は経っていると思いますよ。外は既に日が落ちています。しかしあなたの生命力には驚きました。あの状態で死ななかったのは本当に素晴らしい生命力です」

「何度も死にかけてきたが、今回が一番酷かったぞ。だが、俺の生への執着はこの世界一だ」

「あらあら、面白いこと」

 良く笑う。半日前に俺を半殺しにした奴とは思えない。


「そろそろ帰らないとな」

「もう帰るのですか」

「ああ、俺の帰りを待っている奴がいるんだ」

「まぁ、それは女性ですの?」

「女性は女性だが、アンティアが考えているような関係ではないぞ。あいつは俺の料理を待っているんだ」

「料理ですか?……今度、私にもご馳走して頂けないでしょうか?」

「ああ、任せておけ。今回の借りもあるしな、料理くらいなら作ってやる」

「待っていますね」


 こうして俺はカナンたちの待つアルグリアへと帰還するのだった。


 

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