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ガベージブレイブ(β)_032_フーゼルの苦難

 


「それで三つ目は何だ?」

「うむ、連れてまいれ」

 誰かを連れてくるのか?

 その誰かに関することか?


 扉が開き入ってきたのは執事だった。

 この屋敷に逗留しているのでその顔は見慣れたものだ。

 だが、その後ろにいるのは……。

 何で彼女がここにいるんだ?


「この者のことは紹介しなくても分かるだろうが、一応紹介しておく。スメラギ殿を毒殺しようとしたハンナだ。今は犯罪奴隷になっている」

「ああ、顔は覚えている……」

 だから何だよ?

 何でハンナを俺に紹介するんだ?


「このハンナをスメラギ殿に預けたい」

「はぁ?」

 伯爵は真面目な顔をしてフザケタことをいう。

 一度殴ってやろうかな。大騒ぎになるな、今はまだ止めておこう。

 それはそうと俺を殺そうとしていたメイドを何で俺が預からなければならないのか?

「色々言いたいことがあるが、理由を話せ。場合によっては伯爵と俺の良好な関係はここまでになるぞ」

 凄んで見せたら伯爵の額に汗が滲む。

 殺気は出していないので伯爵の方で色々と考えた結果の冷や汗だろう。


「彼女はかわいそうな娘なのだ。本来であれば彼女も被害者の一人と言っても過言ではない。しかしスメラギ殿に毒を盛ったのも事実。だから犯罪奴隷としたが、その背景を考え被害者であるスメラギ殿に彼女の身を預け罪滅ぼしの機会を与えてやりたいのだ」

 伯爵の説明に嘘はないと思う。

 そしてその内容についても理解ができる。

 まぁ、打算がないとはいわないが。


 罪滅ぼし……か。確かに妹を人質にされ無理強いされたのだから可哀そうだともいえる。

 だが、それで毒を盛られた俺はどうなる?

 毒が効かなかったから良いものの、毒が効いていたら今頃俺は死んでいたかもしれないんだ。

「どうだろうか、スメラギ殿にも含むところはあろうが、あの者に罪滅ぼしの機会を与えてやってはくれぬか?」

「……」

 まったく、この伯爵も人が良いというか、なんというか。


 俺は部屋の隅で小さくなり俯いているハンナを見る。

 イヌミミ……いや、オオカミミミか。

 今はそんなことはどうでもよい。

 こんな雰囲気を作られてはなんだか俺が悪者のようだ。

「はぁ、良いだろう、その茶番に付き合ってやろう」

「そうか!すまない!」


 ため息まじりに再びハンナを見て視線を伯爵に戻す。

「俺は厳しいぞ」

「それはハンナも覚悟していることだ」

 伯爵が答えるか。まぁ、この場で奴隷のハンナに発言権はないのだろう。


「俺が罪滅ぼしが終わったと判断したら奴隷から解放してもいいのだな?」

「む、それは……」

「そのくらいの便宜を図ってくれてもいいと思うが?」

「む~。分かった。何とかしよう」

 犯罪奴隷は簡単に解放できないという。

 だが、俺の気がすみ、ハンナも納得できた時、奴隷から解放してやろう。

 その位の自由は俺に与えられても良いだろう。


「約束だ。口約束だからと反故にするなよ」

「スメラギ殿との約束を反故にするような恐ろしいことはしないさ」

 俺と伯爵は笑いあい握手をする。

 ちょっときつめに握ってやったから伯爵は涙目になっていた。


 因みに犯罪奴隷のハンナの売値は五万ゴールドだった。

 かなり安いが、毒を使っての暗殺未遂ではなかなか買い手がないという。

 俺なんか一万ゴールドでも落札されなかったから親近感がわくぜ!


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「俺の為に働くのは問題ないな?」

「はい、この命の限り!」

 ハンナは俺の前で跪いて忠誠を誓う。

 ハンナとしても俺を毒殺したかったからそうしたわけじゃなく、妹を人質にとられてやむなくやったことだ。

 だからと言って簡単に信用はしないが、引き受けた以上は俺にも責任があるからな。


「よし、今からお前の妹を助けに行くぞ!」

「え?」

「流石はご主人様です!何という慈悲の心!神のようです!」

 ハンナは驚き、カナンは俺を慈悲深いという。

 だがな、俺は慈悲深くもなければ神でもない。

 ただ単にハンナの弱みをフーゼルというクソ野郎が握っているのが気に入らないだけだ。

 俺の奴隷の弱みを誰かが握っているなんて許せん!

 それにハンナが俺に毒を盛ることになったのはフーゼルのせいだ。

 ケジメは必要だろう。


 そんなわけでフーゼルが治めるサーダイスの町にやってきた。

 二人を抱えて走ったよ!

 時速三百キロメートルは出ていたと思う。

 おかげで馬車なら二日かかる道を一時間もかからずに走り抜けたぞ!


 フーゼル邸は豪華だった。

 エイバス伯爵の屋敷は格式がある豪華さだったが、フーゼルの屋敷は趣味の悪い成金臭がプンプンしそうな感じの豪華さだ。

「趣味わり~な~」

「本当です。何ですかこのキンキラは!?」

「当主のフーゼルはもっと趣味の悪い服や装飾品を身に着けています……」

 ハンナの言うことが嘘じゃないと屋敷を見ただけで分かるぞ。


 悪趣味な屋敷に正々堂々と乗り込んでもよかったが、それでは面白みがないので忍び込む。

 俺とハンナは自前で気配を消せるのでカナンに隠者のコートを使わせる。

 隠者のコートの効果によって俺以外の奴はカナンを認識できないだろう。

「え?カナンさんが……」

「あれはアイテムで気配を消している」

「ご主人様は素晴らしいアイテムをお持ちなのですね!」

「誰にも言うなよ」

「はい!」


 ベーゼの誘導で屋敷の地下に向かう。

 地下に地下牢があるのだ。

「こちらがハンナ殿の妹君の牢です」

 ベーゼに案内された牢の中にはハンナによく似た女の子がいた。

「サーニャ!」

「今は寝ているようだ。騒がないよう寝かせたまま運び出すぞ」

「それでは私がサーニャを」

「ハンナより俺の方が力がある。俺に任せろ」

「し、しかし……」

「奴隷とか、そういうのは無視しろ。これは俺が助けたいと思ったから助けるのだ。分かったな?」

「は、はい!」


 先ずは【闇魔法】でサーニャにスリープをかける。

 サーニャは寝ているし、俺と圧倒的にレベルが違うのでレジストはない。

 次はスキルを使うことなく鉄格子をぐにゃぐにゃに曲げて牢の中に入るとサーニャを抱えようとしたらカナンに止められた。

「どうした?」

「サーニャに【クリーン】をかけます。少しお待ち下さい!」

 あ~、ここ牢屋だし、トイレも風呂もないし、女の子だしな……そうだよな~。


 カナンが気を利かせてくれて【クリーン】をかけ、更に回復までしてくれた。

 カナンの魔法で回復したサーニャを優しくお姫様抱っこをしてやる。

 ん、カナンとハンナの視線が……き、気のせいだよな?


「ベーゼ、この屋敷に溜め込まれていた金銀財宝、武具、食糧など金目の物ならなんでもかんでも回収しておけ」

 ハンナの妹を人質に俺を毒殺しようとしたのだから賠償金を勝手にもらっておこう。

「そうだ、フーゼルの屋敷は王都にもあると言っていたな、その屋敷にある物も回収しておけ」

「畏まりました」

 消えていくベーゼを見送り俺たちは屋敷から撤収する。


 サーダイスにいるとフーゼルの手の者がウザそうだから近くのポートという港町へ向かった。

 流石に三人を抱えられないのでハンナとカナンには頑張って自力で走ってもらった。


「はぁ、はぁ、はぁ……み、みず……」

「……」

 息も絶え絶えのカナンと平然としているハンナ。

 おかしい、カナンの方が圧倒的にレベルが高いはずなんだが?

「ほれ、水だ」

 俺はカナンの希望通りに【湧き水】で水を出しカナンの口に直接流し込んでやった。

「ごく、ごく。ごぶっ、げぼっ、うっぷ、じ、じぬーーー!」

 せっかく飲ませてやったのに思いっきりこぼしたりして贅沢なやつだ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふざけているのか!?」

「も、申し訳ありません!」

 フーゼルは屋敷内のありとあらゆる金銀財宝、それに備蓄していた小麦などの穀物類、屋敷に収められていた金目の物が全て消失していることに気が付いた家臣からの報告を聞き激怒していた。

 これまで不正に手を染め蓄財してきたものが全て消失しているなど考えられない。


 機密書類を紛失して以来、屋敷内の警備を見直し高価なマジックアイテムまで導入していたというのにこの有様だ。

 サーニャという狼獣人の娘も地下牢から脱獄していることから、その姉のハンナが関与していると思われるが、ハンナは犯罪奴隷として売られ行方が分かっていない。

 地下牢が破られて警報が鳴ったことで脱獄したのは理解しているが、この厳戒態勢の中でどうやって逃げおおせたのか、さっぱり分かっていない。


「陛下からの呼び出しがあったのだ、色々と根回しがいるのだぞ!それを金がまったくない?しかも宝物庫だけではなく食糧庫も空?お前たちは何をしていたのだ!?」

 怒髪天を衝くとはこのことだろう。それほどの形相でフーゼルは怒っていた。

 貴族たちの弱みを書き記した極秘書類がなくなり、金で縛り付けていた借用書もない。

 このことが明るみに出れば誰も自分を擁護しないどころか、自分を糾弾する側にまわるのは火を見るよりも明らかだ。

 頭痛がするのをこめかみに手をやり揉み解す。


 ここでフーゼルがとった策は税を増額することだった。

 しかも入町税は五倍、商人たちが持ち込む商品にも今までの三倍もの関税をかけ、更に農民には今まで七割もの税をかけていたにも関わらず更に二割の追加徴収をする有様であった。


 そんなことをすれば当然のことだが、町の物価は一気に上がり更に旅人や商人は町を避けるようになる。

 農民はもともと高い税を徴収されていたのに更に税を取られては食べる物もなくなり生きていけないと土地を捨てて逃げる者があとを絶たない。

 逃げ出そうとする町民や農民を取り締まる兵も逃げ出す有様では治安も加速度的に悪化する。


 

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