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030_閑話:勇者

短いです。

 


 時は遡りツクルたちが勇者召喚された日より三日後のこと。

 ここは勇者召喚とオークションが行われた神殿のあるラーデ・クルード帝国の帝都アクセ・レド・ラーデである。

 帝都の中央には巨大で幻想的な白亜城がそびえ立ち、その城に隣接する訓練場にはラーデ・クルード帝国に落札された勇者たちが集められた。

 初日に皇帝への謁見が終わり、勇者たちの歓迎パーティーが二日目に行われての三日目の今日は初めて勇者たちの訓練が行われる。

「今日より約一ヶ月ほどを勇者殿たちの訓練にあてる。その後は実際に魔物と戦ってもらうことになるので気を引き締めて訓練に打ち込んでほしい」

 勇者たちに声をかけているのは大国と言われるラーデ・クルード帝国の軍部において双璧とうたわれる二人の重鎮が一人であるデールスタックである。

 彼はラーデ・クルード帝国の騎士団を預かる騎士団長の職に就いている。

「一ヶ月で魔物と戦えるようになるのか?」

 ラーデ・クルード帝国は誰もが知る大国であり、その大国の騎士団長であるデールスタックに敬語も使わず話しかける勇者の一人に騎士団員が良い顔をすることはない。

 しかしそれでも騎士団員は何も言わない。

 それは騎士団長が何も言わないからである。

「勇者である貴殿らであれば問題ないだろう。だが、決して油断することのないようにしてほしい」

「訓練は何をするのですか?」

 別の勇者が再び質問をする。

 騎士団で厳しく上下関係を躾けられている騎士団員にとっては発言を許してもいないのに発言や質問をする勇者たちを軽蔑の目で見る者が多い。

 だが、それは彼らの価値観であり、別の世界から召喚されてこの世界にきた勇者たちにあてはまらないと思う者も少なからずいる。

「先ずは防具を着けてもらう。前衛系の職業に身に着けてもらう金属鎧は非常に重いが、その重さが自分の命を預ける鎧の頑丈さに比例するのだから、先ずはこれに慣れてもらうことになる」

 戦う以上は防具を装着する必要があるのは勇者たちにも理解ができる。

 そして前衛系の職業である勇者の多くはそのことに理解を示す中、不機嫌さを隠しもしない者がいた。

「頑丈な鎧が重いのは分かるがよ~、そんな重い鎧を着て戦えるのか?」

 支給された質の良い服をだらしなく着崩し黒髪の多い勇者の中にあって目立つ茶髪をした高島鋼牙だ。

 高島鋼牙の質問にデールスタックは口元に笑みを湛える。

「動けなければ死ぬだけだ。他に質問はあるかな?」

 大したことではないとばかりに死ぬという言葉を口にしたデールスタックに高島鋼牙だけではなく多く勇者の顔に緊張が走る。

「質問がなければ訓練を始める!」

 デールスタックの後ろに控えていた騎士たち、そして魔法士たちがきびきびと動き勇者たちを先導する。

 勇者たちは三チームに分けて訓練が行われるようで、前衛、後衛、そして職業に『聖』がつく者に分けられた。

 この『聖』につく職業の勇者は五人おり、その中心人物が聖騎士の九条英雄である。

 彼は元々生徒会長をしていたこともありリーダーシップを発揮し不安がる勇者たちをまとめていた。

 そんな英雄は『聖騎士』という勇者の中核をなす職業であることから他の『聖』が付かない勇者に比べると非常に好待遇の扱いである。

 訓練では二人の教官がつき鎧の着方から剣の扱い、そして魔法の訓練まで朝から晩まで行われる。

 今後は完全装備でスムーズに動けるようになるまで彼と教官二人の計三人での行動となる。

「皆はどのような訓練をするのでしょうか?」

「他の勇者様方にも教官がつきますので安心して下さい」

 教官は安心しろと言うが『聖』つきの勇者と、そうでない勇者では明らかな差があった。

 九条英雄のような『聖』つきの勇者にはそれぞれに一人ないし二人の教官がつくが、そうでない勇者全員に対しては数名の教官がつくだけである。

 個人レッスンを受ける『聖』付き勇者と集団レッスンを受ける勇者たちには明らかな待遇の差が見える。

 このような差別化が行われたのはラーデ・クルード帝国において、いやこの世界において『聖』付きの職業がそれほど重要視されているからだ。

 その差別化は部屋割にもついてまわる。

 九条英雄たち『聖』付き勇者には個室(二十畳ほどの広さ)が与えられたが、そうでない勇者は基本的に二人部屋(十五畳ほどの広さ)である。

 二人部屋でも十分に広いのだが、当然のように『聖』つき勇者への妬みが出てくるのは仕方がないだろう。

 デールスタックなどはそういった気持ちを向上心に切り替え勇者として成長してほしいと思うが、勇者は元々平和な日本でただの高校生だったためにそういった差別に慣れてない。

 それぞれの思惑と気持ちが複雑に入り混じり勇者たちは訓練の毎日を送るのだった。


 場所は変わり、こちらはルク・サンデール王国の王都サン・セットである。

 常任理事国の一角であり、ラーデ・クルード帝国に次ぐ大国である。

 この国にも勇者はおり、その勇者の中には一ノ瀬涼乃もいる。

 彼女の職業は『聖女』であり攻撃はあまり得意ではないが支援や回復においては非常に優秀な職業である。

 彼女も訓練を行っているのだが、その訓練が酷いものであった。

 前衛系の勇者が訓練で怪我をしたら彼女がその怪我を癒すというもので、彼女の【回復魔法】以外で勇者の怪我を治す手段をルク・サンデール王国は用意しなかったのだ。

 つまり彼女の両肩には勇者たちの命が圧し掛かっており、彼女はそんな重圧の中で毎日魔力が欠乏し倒れるまで治療を行っている。

「スズノン、大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」

「あんまり無理しちゃダメだよ」

 涼乃を気遣い優しく声をかけるのは同じクラスだった葉山美紀である。

 涼乃と美紀はクラスの中でも仲が良いので涼乃が倒れるまで頑張っているのを見て気にかけているのだ。

「目の下にクマができてるよ。美人さんが台無しだよ?」

「え?……クマできてる?」

「もうクッキリと」

 あからさまに落ち込む涼乃を励ますように美紀が言う。

「彼に会うまでにクマをなくそうね!」

「……うん。でもいつ会えるのかな……」

 彼と言うのが涼乃の思い人であるのは話の感じで分かる。

 聞き耳を立てていた男性陣は明らかに落胆し、女子たちは恋バナなのね!という感じで二人の話に入っていく。

 一体誰が男子生徒たちの憧れであった涼乃の思い人なのかと食堂内は久しぶりに騒がしくなるのだった。


 

次回から三章が始まります。

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