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029_●真相

本話には簡単な地図が掲載されています。

素人なので出来に関しては言わないでください。

 


 エイバス伯爵家の屋敷に逗留してから六日が経過した。

 ドルチェ殺害に関する実行犯は分かった。

 背後で糸を引いている奴も分かった。

 しかしロッテンが関与しているか、それが分かっていない。

 そんな中、六日目が更けようとしている時分にベーゼが現れた。

「主様、こちらを」

 ベーゼが差し出してきた物は手紙だ。

 俺はその内容を確認して苦虫を嚙み潰したような顔をしていたと思う。

 カナンは既に寝ていたので良かったが、起きていたら俺の表情を見て心配していただろう。

 しかしこれで全てのピースがハマった。


 翌日、俺はエイバス伯爵に面会を求める。

 エイバス伯爵の執務室に伯爵、アリー、ロッテン、ゴリアテ、ドックム、ジバンが集まる。

 応接セットのソファーに座る俺の前に伯爵とアリーが座り、ゴリアテがエイバス伯爵の左後ろ、ロッテンが右後ろ、ドックムは少し離れたところでジバンと一緒に俺を睨んで立っている。

 ドックムと一緒に立っているジバンはゴリアテ、ロッテンに次ぐ騎士団のナンバースリーだ。

 因みにカナンは俺の後ろだ。


「スメラギ殿、ドルチェのこと何か分かったのだろうか?」

「その報告を、と思ってね」

「スメラギ様、本当ですか!?」

 エイバス伯爵の質問に答えるとアリーが手を胸の前で握って立ち上がりそうな勢いだ。

「先ずはこれから見ることは絶対に口外しないと誓ってもらう」

「それで真相が分かるのであれば誓おう!」

「私も誓います!」

 俺はゴリアテとロッテンの顔を見ると二人も誓うと言う。

 そしてドックムとジバンを見ると憮然とした表情で頷く。

 口約束なのでなんの拘束力がないと思っているのだろう。

「では、これを見てもらおう」

 俺は指をパチンと鳴らす。

 そうすると床からスーッと浮かび上がる影。

 ゴリアテとロッテンは伯爵とアリーを守ろうと動こうとしたが、俺が殺気をピンポイントで当てたので動けない。

「なっ!ど、ドルチェ!?」

「ドルチェなの!?」

 伯爵とアリーはその陰の主を見るとすぐにドルチェだと分かったのだろう、立ち上がる。

 伯爵とアリーが言うように俺たちの前に現れたのはドルチェだ。

 これはドルチェの魂を呼び出したもので、ベーゼの活躍によって可能となった裏技だ。

 俺にも【死霊召喚術】という死霊系の魔物を召喚するスキルはあるが、このスキルではドルチェの魂は呼び出せない。

 この【死霊召喚術】は死体などを使っても死霊として呼び出せるのだが、この時の死霊に元の魂は定着していないのだ。

 だから死ぬ前の記憶や自我が希薄な死霊となってしまう。

 自我のない魔物として呼び出すか、俺が自我を与えた魔物を呼び出すことは可能だが、【死霊召喚術】は今回のような時には使い勝手が悪いのだ。

 だが、ベーゼが持つ【吸魂】は死んだ人間の魂を吸い上げることが出来る。

 そしてその魂を実体のないゴーストとして呼び出すことも可能なのだ。


「落ち着け!」

 俺が一括すると二人はビクッとし俺の顔を見る。

「これはドルチェの魂を召喚したものだ」

「た、魂……を……」

「そんなことが……」

「ドルチェの記憶は問題ない。誰がドルチェを殺したか聞けるが、その前にこれがドルチェの魂だと立証するために俺が知らないような質問をしろ」

 後から偽物だと言われても面倒だから最初にしっかりと本物のドルチェだと確認をしてもらう。

「喋ることが……できるのか?」

「勿論だ、でなければ意味がない」

 未だ中腰で固まっている伯爵とアリーの代わりにロッテンが聞いてきた。

「父上、姉上、先だったドルチェをお許し下さい」

「「っ!」」

 ドルチェには自我がしっかりとある。

 記憶もしっかりしており、記憶が曖昧な怨霊ではない。


「お館様、アルテリアス様……ご質問を」

 冷静になった二人は目に涙を浮かべ暫くドルチェを見つめていたがゴリアテの促しによって我を取り戻す。

 ソファーに座り直した二人はそれぞれが家族しか知らないようなことをゴースト・ドルチェに質問していく。

 そして感極まり泣き出す。

「またドルチェに会えるとは思ってもいなかった!」

「私が代わりに殺されてあげられなくてゴメンね、ドルチェ」

「父上も姉上も気を強くして僕の分も長生きをしてほしいです。こんな姿の僕ですが願いを聞き届けて下さい」

 頭を下げるドルチェに伯爵は目頭を押さえ泣きじゃくり、アリーはハンカチで目を押さえる。


「家族の対面中で悪いが、話を進めても良いだろうか?」

 暫く様子を見ていた俺だが、いい加減話を進めないと日が暮れてしまう。

 それとゴリアテとロッテンまで泣いているが、お前たちそれで護衛になるのか?

 ドックムとジバンはゴーストをみたからなのか、それとも他に要因があるのか真っ青な顔をして落ち着きがない。


「すまなかった、話を進めてくれ」

 まだ目に涙を湛えているがしっかりとした声の伯爵は流石だと思う。

 俺は小さく頷くとドルチェに向き直る。

「ドルチェ、お前を殺したのはここにいるカナンか?」

 俺の質問は冤罪によって犯罪奴隷に落とされたカナンのことだ。

 ドルチェは首を横に振り答える。

 そりゃ~そうだ。カナンが犯人なら態々ドルチェの魂を呼び出すまでもなく、カナンが犯人だと言う。

「いいえ、私を殺したのは三人組の男たちでした」

「それは間違いないな?」

 伯爵が大きく頷きドルチェに聞き返した。

「間違いありません。見覚えのない三人の男でした」

「スメラギ殿、その男たちは今どこにいるのだ!?」

「俺の調べではスラムの者だと分かっている」

「ではそのスラムの住人がドルチェを殺したのは間違いないのか?」

「そうだ」

「おのれ!ゴリアテ、今すぐスラムを―――――」

「そいつらはスラムにはいないぞ」

「く、逃げたか!?」

 伯爵の表情が憤怒というべきか、鬼のように険しい。

「そう熱くなるな、俺の話を聞かないのか?」

「うっ、すまない……続きを頼む」

 伯爵は握りこぶしはそのままだが、何とか平静を保とうとしている。

 アリーの方は膝の上で両手をしっかり握り俺の話を聞き漏らさないという姿勢をみせている。


 二人が、特に伯爵が落ち着くのを待って俺は再び指を鳴らす。

 そうすると今度は三つの陰が床からスーッと現れる。

 伯爵、アリー、ゴリアテ、ロッテンの四人はこの三人に見覚えはない。

 しかし顔を真っ青にしている一人、ジバンは額から大粒の汗をダラダラと流し挙動不審に拍車がかかる。

 それを見たドックムもこの三人が誰なのか分かったのだろう、焦った表情を隠そうともしない。

「こいつらがドルチェを殺した三人だ。こいつらは見てのとおり既に死んでいる」

「「「「っ!」」」」

 ドックムとジバン以外がいきり立つ。

 可愛い顔をしたアリーでさえ三人を呪い殺さんばかりに睨んでいる。

「貴様らがドルチェを!」

 伯爵が立ち上がりゴリアテが持っていた剣を取り抜こうとする。

 それを俺が殺気で止める。

「っ!」

 ピンポイント殺気はとても便利だ。

「怒りを抑えられないのは分かるが、こいつらは既に死んでいるのだ、剣で切りかかっても意味はないぞ」

 剣では魂に傷をつけることはできない。

 もし魂を傷つけたいのであればそれなりの特殊な武器や聖属性系の魔法でなければ難しい。

「スメラギ殿の言われることは正しい!しかしどうにも怒りを抑えられないのだ」

「ならここで話は終わりだ。俺はドルチェを殺した三人を突き止めたのだからな」

「……スメラギ様……この三人以外にドルチェ殺害に関わった者がいると仰るのですね?」

 アリーは怒りを湛えた目だが、冷静に質問をしてくる。

 気丈な娘だ。そして頭も良い。父親よりよっぽど貴族の素質があるのではないか?

「ああ、こいつらは単なる実行犯だ。命令を下した奴は他にいるぞ」

「なっ!」

「父上は黙っていてください!」

 何か言おうとした伯爵をアリーが一括する。こわ~。

 それに驚いた伯爵だったが、伯爵だけではなくゴリアテやロッテンも驚いていた。

 いつもはお淑やかなアリーがそんな大声を出して父親を窘めたのだから無理はない。

「スメラギ様、話の続きをお願いします」

「おい、お前たちに命令した奴はここにいるか?」

 三人のゴーストはコクリと頷く。

 それに反応し伯爵やゴリアテなどはいきり立つが俺がピンポイント殺気で押しとどめる。

「そいつを指させ」

 そうすると三人のゴーストは一斉に青い顔をしているジバンを指さす。

「「「「えっ!?」」」」

「なっ!私は知らん!これはそいつの陰謀だ!」

 後ずさりながらジバンは俺が仕組んだ陰謀だと喚き散らす。

 そしてドックムに助けを求める視線を送る。

 そんなジバンに詰め寄るゴリアテとロッテン。

 二人は剣の柄に手を添えながらジリジリとドックムに詰め寄っていく。

「誤解だ、そいつの嘘だ、私は何もしていない!」

 逃げ出そうと部屋のドアの方に駆け出したジバンに一足飛びで詰め寄って剣を振るゴリアテ。

「ぐあっ!」

 剣を肩口に受け倒れるジバン。

「殺したのですか!?」

「鞘で殴っておりま―――――」

 アリーがジバンの生死を確認しゴリアテが返答をしているさ中、ジバンの頭が爆ぜた。

 ドックムが魔法を放ったのだ。

「ドックム!何をしているのですか!?」

「ど、ドルチェ様を殺害の主犯を捉えようとしたのですが、当たり所が悪かったようです」

 青い顔だったドックムはジバンを実行犯に仕立て上げ逃げ延びようと考えたようだ。

 明らかな証拠隠滅、証人がいなければ問題ない的な考えだ。意外と頭が回る。

 このドタバタのさ中であれば間違って殺してしまっても処罰されないだろうし、上手くいけば褒美だってもらえる。

 だけどな、ここには俺がいるんだぞ?ジバンを殺しても魂を呼び出すことができる俺(正確にはベーゼ)がいることを忘れていませんかね?

「既に私が無力化していたのだぞ!」

 ゴリアテがドックムに詰め寄ろうとするが、それをアリーが止める。

 一度全員が冷静になるまで少し時間を置く。面倒な話だ。


「さて、あの騎士は死んだが続きを聞きたいか?」

 全員が冷静になれたころ合いを見計らって俺は伯爵に声をかける。

 伯爵は首に横に振ろうとしたが、途中で考え直したようで俺に報告を促す。

「そうか、なら……」

 全員が落ち着く間に仕込んでおいた、ジバンの魂を召喚する。ベーゼ、マジ便利!

「っ!?」

 驚いた顔をしたのはドックム以外の全員。

 俺が魂を召喚できるのは知っているのだから、驚くことはないのにな。

 そしてドックムは先ほどまでのホッとした表情からは想像もできないほどの落胆ぶりだ。

 ドックムは多少頭は回るようだが目先のことにしか見えてない小者だな。

「伯爵、質問があればしてくれ」

 俺は敢えて真相を話さない。

 この先の話を聞く判断は伯爵がするべきであり、これはエイバス伯爵家のお家騒動なのだから。


 暫し瞑目した後、伯爵は真相に切り込んだ。

「ジバン、お前にドルチェを殺せと指示をしたのは誰だ?」

「はい、そこにおりますドックムです」

 応接間の中に殺気が膨らむ。ドックムは後ずさり首を左右に振って「違う」などとほざいている。

 そして先ほどのジバンのように逃げ出そうとするが、その前にロッテンが立ちはだかりドックムの鳩尾に拳をめり込ませる。

 綺麗にボディーブローが決まりドックムの体がくの字になる。

 そして床に倒れ込むとドックムをロッテンは受け止めもしなかったので顔面からモロに倒れ込む。

 息が出来ずにのたうち回るドックムが声にならない声をあげる。

「貴様!貴様が!」

 伯爵が汚物でもみるような視線で苦しんでいるドックムを見下ろす。

 そして追い打ちをかけるように蹴りを顔面に入れるとドックムは情けない声をあげて気絶する。


 ロッテンがドックムを縛り上げる。

 ドックムにはきっちりとその罪を償ってもらう。

「拘束できたのは良いですが、問題が御座います……」

「裁判だな……」

 ロッテンがドックムを有罪とするには問題があると言い、伯爵が眉間にシワを寄せて答える。

 この世界では良い意味でも悪い意味でも裁判なしに有罪にはできないらしい。

 カナンの場合は動機がなくても証言があったことから有罪となったが、今回の場合はゴーストのドルチェやゴーストの実行犯三人、そしてゴーストのジバンの証言なのだ。

 俺は人前でゴーストを出す気はないし、仮にゴーストが証言をしたとしてもドックムを有罪に出来るかは分からない。

「証拠があれば……」

 伯爵が呟く。

「あー、証拠ならあるぞ」

「何!?それは本当なのか!?」

 俺は懐から開封済みの封書を取り出して伯爵の前に置く。

 言うまでもないが、これはフーゼル伯爵からドックムに宛てた書状だ。

 勿論、署名と紋章の確認は事前に済ませ本物だと断定できている。

 伯爵はその書状を読むと顔を真っ赤にして書状をクシャクシャにする。それ証拠だぞ?

「おのれぇぇぇっ!」

 伯爵が怒声を発っし、書状を机に叩き付ける。

 そのクシャクシャになった書状を拾い上げたのはアリーだ。

 アリーは書状を読むと口に手をあて驚く。

 そしてゴリアテも書状に目を通す。

 書状を読んでいないのはドックムを縛り上げていたロッテンだ。

「ゴリアテ、戦の支度だ!」

「はっ!」

 伯爵がゴリアテに戦争の準備をしろと命じるが、それを止める声があった。

「父上、お止め下さい!」

 ドルチェだ。

「何故だドルチェ!?」

「戦をすれば民が不幸になります!私のことで民が不幸になるところを見たくありません!」

 ドルチェは人の上に立つには優しすぎると思う。まぁ、死んでしまっているので人の上に立つことはないと思うけど。

 庶民の俺でも分かるが、貴族の世界は舐められていては成り立たない。

 今回の伯爵は怒りに身を任せて冷静な考えができていないと思うが、冷静になっても結果的に戦争になりかねない案件だと俺でも分かる。


 ドルチェが必死に伯爵を説得している傍でロッテンはクシャクシャになった書状に目を通す。

 カッと目を開くと数秒で瞑目するロッテン。

 そしてそっと書状を机の上に置いてスーと後ろに下がると徐に剣を抜き自分の首に当てて引く。

 そうなれば当然のようにロッテンの首からは大量の血が噴き出す。

「ロッテン!」

 ドサッと音を立てて倒れるロッテンに気が付いたアリーが叫ぶが、既にロッテンの首からは大量の血が噴き出しており、助からないだろうと分かる。

「なに!」

「ロッテン!」

 伯爵とドルチェもロッテンの異変に気が付き言い合いを止める。

 何か言おうとするロッテンを抱え上げるアリーが必死に首筋の傷口を手で押さえる。

 恐らくロッテンは謝っているのだろう。もしくは今まで引き立ててくれた伯爵やアリーに感謝しているのだろう。

 押さえても押さえてもドバドバと血が流れ出る。

 先ほども触れたが普通ならまず助からないだろう。しかしここには俺がいる。

 まぁ、俺は何もしないけどね。

 俺が視線でカナンに合図をするとカナンが魔法を発動させる。

 ロッテンを温かな光が包み込み蒼白だった顔色に血色が戻ってくる。

 これは【光魔法】の中でも上位にある回復魔法のエクストラヒールで、死んでいなければどんな怪我でも治す魔法だ。

 普通の魔法使いや神官では発動などできないほど高位の魔法なので使えるのはカナン以外に殆どいないだろう。

 今のカナンは俺の薫陶宜しく無詠唱で魔法を発動できるようになっているので、ロッテンが死ぬ前にヒールをかけることができた。

 昨日の今頃だったら無理だったが、地獄のパワレベを乗り切ったカナンは無詠唱で魔法を発動できるのだ。

 パワレベなのに地獄を見せてしまうのは俺の愛嬌だと思って流してくれ。


「大丈夫だ、今は気を失っているだけだ。傷は完全に治した」

 俺がそう言うとアリーが血まみれの姿で俺とカナンに礼を言う。

「スメラギ殿、何故ロッテンがこのようなことを!?」

 伯爵の問いに俺は懐から二通目の書状を取り出し渡す。

 その書状はフーゼル伯爵がその姪でありロッテンの妻に宛てたものだ。

 内容はドルチェ亡き後はその姪の息子、つまりロッテンの息子を伯爵の跡取りに、という感じの文面が記載してある。

 頭の良いロッテンは一通目の書状でフーゼル伯爵がドルチェ殺しを命じた真犯人だったのを読み妻の関与を悟ったのだろう。

 もしかしたら家庭内でそのような話が出ていたのかも知れない。

 いやだ、いやだ。どろどろとした貴族の社会の奥底を覗いた気分だ。


 まとめると、ドルチェ殺害の実行犯三人は既に死んでおり、その家族もいないと分かったことから三人に関しては何もできない。

 実行犯に指示していたのはジバンで、ジバンはドックムの指示でドルチェを殺した罪をカナンに擦り付けた。

 今回の企みはドックムとジバンだけで行ったわけではない。

 ドックムに弱みを握られたり金や物で買収された者がけっこういた。

 そしてそのドックムの裏で糸を引いていたのはフーゼル伯爵。

 俺に毒を盛ったメイドはフーゼル伯爵に家族が囚われていたことからドルチェ殺害に関する調査を行う俺を殺せと脅されたらしい。

 考えてみればメイドも被害者なのだろうが、俺に毒を盛っていたことが知られたので投獄された。

 俺のせいではないが気分が悪い。


 ドックムがカナンに罪を擦り付けたのは魔法士見習としてエイバス家に仕え始めたカナンの才能に嫉妬したからだ。

 俺から見たら詠唱破棄もできないカナンのどこに才能を感じたのかさっぱり理解ができないが同じ魔法士として何か感じたのだろう。

 つまるところ、ドックムはカナンなど才能ある若手が育てば自分の地位が脅かされるので貴族位を欲したようだ。

 それに付け込んだのがフーゼル伯爵だな。


 ドックムの勢力は意外と多く二十人規模の騎士と魔法士が従っていた。

 騎士の下には従者と呼ばれる者がいる。

 従者とは、もうすぐ騎士になれるかもしれない準騎士、もうすぐ準騎士になれるだろう騎士見習い、そして雑用などをする兵卒がいるので騎士の下には最低でも十人程度の従者がいるらしい。

 魔法士も同様だが、魔法士は数が少ないので一人の魔法士の下にいる従者は五人もいないらしい。

 今回摘発したドックムの勢力はエイバス伯爵家の家臣団の約二割にもなった。


 今回、フーゼル伯爵がドルチェを殺しを主導したのはエイバス伯爵家の乗っ取りを企てたためで、勢力の拡大と陞爵(しょうしゃく)(爵位を上げること)を狙ってのことだと分かっている。

 そしてロッテンに関してはドルチェ殺害を示す証拠はなかった。

 ロッテン自身は今回のことに関わっていなかったことから証拠などでるはずがない。

 実際はロッテンの妻がフーゼル伯爵に次ぐ主犯に近い状況なので連座制でロッテンやその子はそれなりの処罰があるだろう。


 因みにドルチェ殺害の実行犯である三人はアルグリアの町の外で殺され死体は魔物に食われていた。

 そんな中でどうやってその死体を実行犯たちと断定したかというと、それはベーゼの活躍による。

 ベーゼには先にも述べたように【吸魂】というスキルがある。

 この【吸魂】というスキルは魂を吸い取るスキルなのだが、これは生者だろうと死者だろうと関係なく魂を吸い取れるスキルなのだ。

 死者に関しては死んでから一ヶ月程度まではほぼ確実に死体付近に魂が存在しているが、その期間を過ぎると魂が輪廻転生するためにその場から消失したり悪霊(魔物)となって彷徨うことになるので経過時間によっては魂を見つけるのは難しくなる。

 しかしドルチェ殺害事件からまだ一ヶ月も経っていなかったことが幸いしドルチェ自身や実行犯三人の魂を探し出してそれを吸収できたベーゼはその魂が持つ記憶を共有できたのだ。


 実行犯の三人の記憶を得たベーゼによって三人に直接命令を下したのはドックムではなくジバンだと分かった。

 三人はドックムのことは知らないし、その背後に誰がいるのかも知らなかったのでここからは物証を積み上げていくしかなかった。

 勿論、三人は他の仲間に関しても知らないという。

 まぁ、ドックムも実行犯と直接コンタクトするほど馬鹿ではなかったということだ。


 三人の実行犯に関してはドルチェを殺したら金をもらい町を離れる予定だったが、ジバンたちが裏切り三人はあえなく殺されてしまったそうだ。

 三人が殺されたのは魔物が出る地域なので殺した後は魔物が死体を処分してくれる算段だったのだろう。

 直情的に俺を殴ったりする馬鹿かと思っていたがドックムも意外と用心深い。

 こうして考えるとドックムは直情的な面もあるが、ある程度は計画性のある馬鹿というのが分かる。

 どっちにしろ主家の嫡男を殺したのだから大馬鹿だけどな。


挿絵(By みてみん)


 

二章、アルグリアは本話で完結です。

閑話を挟んで三章が始まりますのでこれからも読んで下さいね。

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