表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/88

027_パワーレベリング2

 


「きゃぁぁぁぁぁぁっ!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅっ!」

 ボアグノンに追いかけまわされるカナン。

 逃げるより魔法を撃てと言いたい。

 俺は手を出さない。手を出したらカナンの戦闘勘を養うことができないからだ。

 ここは心を鬼にしてカナンを突き放そう。

「えぇぇぇぇぇぇっ!ご主人様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!鬼ぃぃぃぃぃぃぃいっ!」

 俺の方に逃げてきたカナンを文字通り物理的に突き放した俺。

 恨みたかったら恨めば良い。それがカナンの血となり肉となるのだ!

 しかしこの世界にも「鬼」という言葉があったのだな。


「ゼイゼイ……ご主人様……」

 恨めしいという感じの表情で俺を見るカナン。

 ボアグノンの群れを殲滅して戻ってきたカナンの一言目は恨み言ではなかったが、その目は恨みに似た批判を湛えていた。

「よくやった、これを食え」

 そんな視線を無視して焼肉をカナンに与える俺。

 一切れ目で外的裂傷などが治り二切れ目で健康な体に戻った。

「二切れ目で完治ではまだ温いか?」

「ご、ご主人様!?」

 俺が思わず漏らした言葉にカナンは慌てる。

「俺なんか全身骨折で動けないような目に何度もあっているんだ、まだいけるだろ?」

「ひえぇぇぇぇぇぇっ!」

 カナンが壊れた。

 冗談はさておき、今のカナンはレベル百五十に達している。

 限界突破後も何回かパワーレベリングをしたのでレベルが百五十になった時にボアグノンの群れの中に放り込み、今に至るわけだ。

 このレベルの魔術師の対多魔法は非常識な威力となっている。

 森の中にいくつも焼け焦げた地面のミステリーサークルのようなスペースが出来ている。

 今のカナンの【火魔法】なら軍隊相手でも圧倒できるレベルだ。

 木に火が燃え移ったのを消す俺の方が大変だ。


 冷静に戦えば瞬殺できるだろうが、カナンには戦いの経験があまりないようで大量のボアグノンを前に委縮して逃げ出したから酷い目にあうのだ。

 だからもう一度ボアグノンの群れと戦わせる!

「無理無理無理無理無理無理無理無理!」

「さっきやったことを思い出せば瞬殺だぞ?」

 ボアグノンを前に態々大声を出すもんだからボアグノンに気付かれ追いかけまわされているカナン。

 追いかけっこが好きなら次はハイエナウルフと遊ばせてやろう。

「お~い、早く殲滅しないと日が暮れるぞ~」

「鬼ぃぃぃぃぃぃ……」

 バタンと倒れボアグノンに周囲を囲まれるカナン。

 頑張れ!俺はいつでもお前を応援しているぞ!

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ」

 ボアグノンがカナンに石を投げつける。

 魔術師のカナンは普通なら撃たれ弱いのだが、装備が優秀なので何とかなっている。

 あとはカナンがそんな状況下でも冷静に魔法を撃てれば良いのだが……残念ながらカナンは気絶してしまった。

 仕方がないので俺が割って入り黒霧を振る。

 カナンに殺到していたボアグノンは俺が現れたと見ると一目散に逃げだした。

「今日はここまでか……気合が足りないな」

 生き抜こうという気概が足りないのだ。

 理論などではなく生き残ろう、強くなろうという根性論がこのボルフ大森林では重要だ。

 逃げたって良いが逃げきれなければ意味がない。

 それは俺が何度も味わっているのでよく分かることだが、カナンはまだそれを分かっていない。

 今のままでも人間社会なら圧倒的な強者にはなれるだろう。

 しかし危険に敏感でない奴や危機管理ができない奴は足元をすくわれ、痛い目をみるだろう。

 だから今後もカナンには地獄を味合わせてやろう。


 夕方前、俺はカナンをお姫様抱っこしてアルグリア近くまで帰ってきた。

 気絶はしているが、大怪我はしていないのでそろそろ起こそうと思う。

「おい、起きろ」

「うぅん……もう少し……」

「……」

 汚れていなければ可愛い寝顔なんだろう。

 しかし今のカナンは土埃や涙、そして鼻水で酷い顔をしている。美人が台無しだ。

 優しい俺は【クリーン】でカナンを綺麗にしてやる。

 そして両手を放すとカナンは重力によって自然落下してお尻から地面に落ちる。

「ギャウッ!」

 美人が出して良い声ではない声が聞こえた。

「いたたた……あれ、ご主人様?」

「やっと起きたか、もうアルグリアに入るぞ」

 お尻をさすりながら起きたカナンを立たせアルグリアに入った。


 屋敷に戻るとベーゼがヌーっと出てきた。

 カナンは相変わらずベーゼが怖いらしく青い顔をしているが、気絶しなくなっただけでも成長したと思う。

「何か見つかったか?」

「こちらを発見いたしました」

 ベーゼがどこからか取り出したのは紙の封書だ。

 封書といっても既に開封されている物なので俺は中に入っている書状を取り出して目を通す。

 その内容はドルチェを殺した後の実行犯たちを殺処分すること、そして主導したドックムを折を見て男爵にすることが書いてあった。

 実行犯は既にこの世にいないと思った方がよいだろう。

「これはどこで見つけたんだ?」

「ドックムという者の邸宅にて発見いたしました」

 メイド以外にドックムの家を捜索させていたのだが、予想通りあいつは黒だったようだ。

「よくこんな重要証拠を見つけたな」

「我らは壁をすり抜けることができますれば、隠し部屋や隠し金庫なども簡単に発見できまする」

「なるほど、よくやった。しかしこのアイリッヒと言うのは……カナン、アイリッヒ・フーゼルと言う奴を知っているか?」

 真っ青な顔をしているカナンに聞いてみる。

「ひゃいっ。あ、アイリッヒ・フーゼル伯爵のことだと思います」

「そいつはエイバス伯爵とどのような関係なんだ?」

「上流階級のことは流石に分かりません……でも確かロッテン様の奥方様がフーゼル伯爵の血縁者だったと思います」

「ロッテンはこの家でどんな立ち位置なんだ?」

「ロッテン様はエイバス伯爵家の分家筆頭でいずれは騎士団を預かるはずです」

「分家筆頭ということはエイバス伯爵の血縁と考えて良いのか?」

「はい、ドルチェ様がお亡くなりになった今ではアルテリアス様に次いで次期当主の可能性があるかと……」

 ふ~ん。おりこうちゃんのロッテンがねぇ~。

「だけど伯爵にはアリーがいるだろ?アリーが無理でもアリーに婿を取ってその子に跡を継がすとか?」

「その可能性はあります。その場合はロッテン様のご子息がアルテリアス様の婿になるのが有力でしょう……」

 つまり唯一の障害であるドルチェが死んだということは、どう転んでもロッテンに損はないわけだ。

 だが、この書状にはロッテンの名は出てきていない。

 それにこの書状がフーゼル伯爵が本当に書いた物なのか、も気になる。

 俺はベーゼにフーゼル伯爵の身辺を調査するように指示をする。

 そしてできれば直筆の書状を手に入れるようにとも指示する。


「ご主人様、本当に……ドックム様が……」

 ベーゼが消えた後、カナンがぽつぽつと言葉を紡ぐ。

「まぁ、男爵というエサをぶら下げられた馬鹿が主家に弓を弾くってのはよくある話だしな」

「ロッテン様は……」

「この暗殺劇に関わっているか分からんが、調べる必要があるな」

 カナンが暗い表情で何やら考えている。

 自分をハメたのがドックムで、その後ろにはフーゼル伯爵、そしてロッテンがいる可能性がある。

 相手は権力者やかつての上司、俺以上に人間不信になりそうな環境だ。


 カナンが特訓の疲れもあってか早めに寝入った。

 そんなカナンの寝顔を見て頬を撫でる。何故カナンをハメたのかいずれドックムには聞かせてもらおう。

 今は背後関係をしっかりと調べる必要がある。

 俺は隠者のコートを羽織り部屋を出る。


 騎士たちの部屋を回ってロッテンの話をしていないか確認する。

 目の前に俺がいても誰も気づかないので隠者のコート、マジ便利。

 しかし騎士たちの話にのぼるロッテンは品行方正であり、俺のイメージと合致する。

 その日は夜中まで色々調べて回ったが、騎士がロッテンの悪口を言うのを聞くことはなかったし、ましてやロッテンがドルチェ殺害に関わっている話もなかった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 氏名:カナン

 ジョブ:魔術師 レベル百五十八

 スキル:【火魔法】【魔力操作III】【魔力ブーストIII】【風魔法】【木魔法】【魔力感知】【土魔法】【雷魔法】【氷魔法】【光魔法】

 能力:体力C、魔力A、腕力D、知力B、俊敏C、器用B、幸運C


 NEW ⇒ 【光魔法】【魔力操作III】【魔力ブーストIII】


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ