024_死霊召喚
はー、何だよこの紙の束は。
ふざけているのか?俺を怒らせたいのか?こんなのが事件の調書だっていうのかよ?
領主たる伯爵家の息子が殺害された事件だぞ。
こんないい加減な調書でよくもカナンを有罪にできたな。
目撃者Aって誰だよ?そいつは本当に実在する人間か?
それに何で領主の息子が一人で外出しているんだ?護衛はどうした?職務怠慢も良いところだろ!?
これじゃぁ、誘拐するなり殺すなりしてくださいと言っているようなものじゃないか。
明らかに仕組んだ奴がいるな、それなりの権力を持った奴が絡んでいるのは間違いない。
「カナン、お前は捕まる前はどのような職に就いていたんだ?」
「はい、エイバス伯爵家の見習魔法士として仕えておりました」
「それはどの程度の権限を持っているのだ?」
「権限なんてありません。一般人よりは多少は権力に近かった程度で、見習いの私は主に城壁の補修や補強工事をしていました」
何の権限もなく城壁工事に従事していたカナンではまず犯行は無理だろう。
仲間がいたか、誰かに操られていたのなら別だが、そんな気配はなさそうだ。
俺は刑事でもなんでもない普通の高校生だったが、この調書を読んでカナンが有罪になった理由が聞きたいね。
「……疑わしくば罰しろ……か」
どうやら俺は思っていた以上に文化レベルの低い世界に来てしまったようだ。
そのことはアイツらが俺たちを拉致して、更に俺をあのボルフ大森林に廃棄したことで分かっていたはずだがな。
権力を持つ者、腐敗した者、理不尽に人を貶める者、良いだろう、俺をこんなに怒らせた貴様たちには神ではなく、この俺が鉄槌を下そう!
「ご主人様……?」
「何だ」
「怖い顔をしています」
表情に出ていたか。
「すまないな、ちょっと考え事をしていたんだ」
「そうですか……」
決めた。
カナンの強化を図ろう。彼女が一人でも生きていけるだけの力を与えてやるんだ。
そして領主の息子であるドルチェ殺害の真相を突き止めてやる。
「カナン、この町の近くにダンジョンはあるか?」
「え?、あ、はい、あります」
「魔物の強さは?」
「えーっと、ダンジョンは三ヶ所ありまして、一番近いのはイエローランクのダンジョンです。次は―――――」
「ちょっと待て、そのイエローランクって何だ?」
「え?……はい。イエローランクのダンジョンはダンジョンボスのレベルが四十程度の中規模ダンジョンのことです」
あーたしか黒霧がダンジョンのクリアボーナスガチャに色があると言っていたよな。
イエローだから黄色か。なら下から二番目のダンジョンか?
「カナン、ダンジョンについて素人の俺でも分かるように教えてくれ」
「畏まりました!」
カナンの説明ではダンジョンの凶悪度合いが色分けされており、黒霧が言っていたようにガチャの色で凶悪度合いが決まっているそうだ。
現在、アルグリアの町の傍には三ヶ所のダンジョンがあり、イエロー(中規模)はレベル四十程度、ブルー(大規模)はレベル五十程度、カラー不明(未踏破ダンジョン)があるそうだ。
その中で三番目の未踏破ダンジョンは現時点でレベル五十程度の魔物を確認しているが、当然踏破されていないのでブルーより上のシルバーかそれ以上のゴールドだと予想されているそうだ。
因みにシルバーだとレベル八十程度、ゴールドだとレベル百だという。
「ゴールドでもレベル百なのか?」
「はい」
「それじゃぁ、足りないな……」
「はい?ゴールドなんて百数十年に一回踏破されるかどうかのレベルですよ?」
限界突破には最低でもレベル百の差が必要となる。
今のカナンのレベルは二十三だから一段階目の限界突破でも百二十三の魔物を倒す必要があるし、できれば限界突破の三段階目の条件である二百二十三(二百差)の魔物がほしいところだ。
そうなるとやっぱり……あそこしかないよな……ボルフ大森林に行くか。
ボルフ大森林に行くとして問題はカナンをハメた真犯人だが……試してみるか。
「カナン、これから見ることは決して他言するな。良いな?」
「はい!」
俺は生まれて初めて……まぁ、スキルなんてこっちの世界にきたことで使えるようになったのだが、日本の頃だろうとこっちの世界だろうと初めて【死霊召喚術】を発動する。
召喚するのは魔物のイメージは隠密能力が高いゴースト系だ。
黒い霧のようなものがモワモワと集まりだし、それが一塊になっていく。
魔力がゴッソリ持っていかれた感じで倦怠感が俺を襲う。
こんなにも魔力が持っていかれるとは思っていなかった。
スキルの【クリーン】や【スキル付与】を【等価交換】で創り出した時よりも間違いなく膨大な魔力が持っていかれた。
暫くするとその黒い霧の塊の形が明確になる。
てか、魔法陣とかが光り輝くかと思ったけど黒い霧だけか?地味な召喚だな。
見た目は……リッチ?頭部は髑髏で体は黒いマントのような物でマントの中に体らしき物は見当たらない。
以前倒して黒霧を手に入れたソードリーパーに似ているけど剣はもっていない。
変わりに禍々しい大きな黒い宝石がついた杖を持っている。
「主様、ご命令を」
めっちゃ低い声で主様って言われても何か嬉しくないな。
可愛い女の子に主様って言われると嬉しいけど、そうカナンのような女の子なら最高だ……あれ?今まで嬉しいシチュエーションだったの?
カナンの方を見る。
彼女は目の前に現れた魔物を見て目を開けて立ったまま気絶していた……
そっとカナンをお姫様抱っこしてベッドまで運ぶ。
この時、俺の手がカナンの胸に当たったのは偶然であり、決して狙ったわけではない!
しかしカナンめ、しっかりとお育ちになっておられるで御座る……
「さて、お前にやってもらいたいことがある」
改めてリッチ?を見る。
「委細承知しております」
俺の思考が漏れている?いや、俺が持っていた記憶を共有しているようで、俺の言いたいことは理解しているようだ。
どうしてそう思うのか、……何故かそう感じるんだ。
「ただ、一つお願いが御座います」
「何だ、言ってみろ」
「我に名を与えて頂ければ望外の喜びにて」
名、か……取り敢えずステータスの確認をしよう。
種族:リッチデストロイ レベル百五十
スキル:【生体感知】【存在隠蔽】【透過】【吸魂】【眷属召喚】【絶氷魔法】【物理攻撃無効】【魔法攻撃耐性】
能力:体力D、魔力B、腕力D、知力B、俊敏B、器用C、幸運D
……『魔力B』と『知力B』に『俊敏B』か、まぁ、レベル百五十ならこんなもんだろう。
……って、喋ったよな?俺、普通に会話していたよな?
意思の疎通ができないよりはよっぽど良いか……さて、こいつの名だが……ベーゼ、邪悪な容姿から思い浮かべたのは死の接吻。接吻からベーゼと決めた。
「お前の名だが、ベーゼだ」
くっ、魔力が……召喚時よりも多くの魔力が持っていかれた感じだ。
これはヤバいな、何か癖になるわ。
「おおー、このように上質な魔力を……何と芳醇な、ああぁぁ!?」
何か違う方面に目覚めた感じ?
髑髏だから表情なんてわからないはずなんだが、かなり喜んでいるのは感覚として伝わってくる。
そう言えば、その髑髏の目の奥の赤く光っているのは何?触って良い?
「それでは、探ってまいりましょう」
俺が変なことを考えていたらベーゼの周りに霧のようなものが集まりそれは霧散し姿を消す。
しかし名前を付けただけでレベルが百も上がるなんて聞いてないよ?
まぁ、能力も高くなっていたし良いのだけどね。
カナンが目覚めるのを待つ間に俺は【素材保管庫】に収納しておいた素材を確認する。
カナン用の装備を創ろうと思う。
先ずはワンピースに代わる服だが、これはダークバットの皮膜でレオタードのようなピチッとした服を【等価交換】で創った。
はっきり言おう!俺の趣味だ!
カナンのような綺麗な女の子にこれを着てもらいたいと思い欲望のままに創った!
ただ、分かってほしいのはダークバットはレベル百六十の魔物でありその皮膜は軽くて丈夫、更に音を出さないという非常にハイスペックなレオタードなのだ!
当然レオタード姿で外になんてだせない。
俺だけにレオタード姿を見せてくれれば良いので、態々他人にカナンのレオタード姿を見せてやることはないのだ!
だからマントも創る。
マントはベノムウィスパーというゴースト系の魔物からドロップした霊布を素材にしている。
ベノムウィスパーはレベル百八十の魔物でその名で分かるように毒を使ってくる。
その霊布でマントを創ると毒耐性に優れ、更にゴースト系の魔物特有の気配を消す効果をもつ。
最後は武器だ。
魔法使いだから杖が良いだろうと思いエルダートレントの枝とルビーを取り出す。
エルダートレントの枝はレベル二百十のエルダートレントから得た。
剣の特訓を終えて人里に向かっていた時に出会った魔物で黒霧で一刀両断にしたのであまり覚えていないけど、【素材保管庫】にはちゃんと素材が入っている。
それとルビーもエルダートレント同様に人里を目指している時にルビーキャットという猫の魔物の額に嵌っていたものだ。
ルビーキャットは【火魔法】を使う魔物で【着火】で燃やしても火に強くて全然焼け死ななかった魔物だ。
すばしっこくて意外と強かった覚えがある。
そんな二つの素材から杖を創り出す。
魔性のボディースーツ ⇒ 快温調整、魔力上昇(大)、魔法攻撃耐性、消音(大)の効果があるハイスペック趣味装備だ、この変態め!
対毒の外套 ⇒ 毒耐性、気配隠蔽、物理攻撃耐性の効果があるハイスペック装備。この中身に興味があるのだろ!
紅き賢者の杖 ⇒ 火魔法威力増(極)、火魔法吸収の効果がある賢者装備。これで君も賢者だ!
何故普通の説明にならないのだろうか?解せぬ。




