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017_奴隷

 


 サイドル総合商店で米を買ったので昼にでも米を焚いて食べようかと思ったが、考えてみたら俺は鍋の一つも持っていない。

 【究極調理】を使えば調理器具を使わなくても米を炊くことができるが、それでは面白味がない。

 折角、人の町にやってきたのだ、釜とは言わないので鍋やフライパン、それに食器類がほしい。

 というわけで再びサイドル総合商店に足を運ぶ。

「おや、先ほどぶりで御座います。今回はどのようなものをお探しでしょうか?」

 偶々?居合わせたサイドルが俺に声をかけてくる。

 商会長というのは暇なのだろうか?

「すまないが、鍋や食器などを購入したい」

「それでしたら三階ですね。ご案内します」

 ふむ、俺を案内するのだから暇なのだろう。

 できれば猫耳のプリルに案内してもらえると嬉しいのだけど……

「こちらになります」

 階段を上がり三階までやってくると色々な食器や調理器具が目に飛び込んで来た。

「いらっしゃいませ~、あ、オーナー!」

「これ、オーナーではありません。商会長と呼びなさい!」

「は~い」

 サイドルはまったくもう、と言うが嬉しそうだ。

 こういうのを見るとこのサイドルは従業員にとって支配者ではなく頼れる上司なのかもしれないと思ってしまう。

 それはそうと三階の一角に所狭しと陳列されている鍋やフライパンなどの調理器具。

 俺はそれらを手に取り見てみる。

 同じ形でも大きさが幾つかある鍋なので用途や人数の変化に対応ができる。

 しかも業務用の大きな鍋もあり品揃えは日本のデパートにも引けを取らないのではないかと思う。

 色々見て回るのだが、俺の傍にはサイドルが付いている。

 そんなに監視しなくても盗みはしないぞ、と思うがサイドルは俺がアイテムボックスを持っていると思っているのでそのせいかもしれない。

 そんなことを思いながら見ていると、それは有った。

 圧力鍋。この世界に圧力鍋があるとは思わなかった。

 日本にいたころの俺は圧力鍋を使ってはいなかったが、時間がないときなんかは圧力鍋がほしいと思ったことも一度や二度ではない。

「魔圧鍋が気に入られましたかな?」

「魔圧鍋……いや、珍しいものが置いてあるなと思っただけだ」

「魔圧鍋を知っておられるのですか?」

「知っているというほどでもないけどね」

 そう、使ったことはないし、日本の圧力鍋と多少は違うのだろうから。

 俺は普通の鍋を大中小の三種類、フライパンは大と中の二種類、そして卵焼き用の四角いフライパン、後は包丁やまな板など細々とした調理用器具を購入することにした。

 そして食器の陳列してある区画へ移動し、ご飯を食べるのに良さそうなお茶碗のような食器や平皿など色々な皿を購入を決めた。


「毎度ありがとうございます」

「しかしサイドルさんの店は品揃えが凄いな」

「当店は食糧から奴隷まで何でも扱うのが自慢でして、はい」

「奴隷……もいるのか?」

「はい、せっかくなので見ていって下さい。こちらです!」

「え、いや、俺は……」

「見るだけでも大丈夫ですよ!」

 強引に俺を連れていくサイドル。

 一階に降り、更に階段を降りる。どうやら奴隷の売り場は地下にあるようだ。

「こちらです」

 地下は地下でもしっかりと明かりがとられ、変な臭いもしない。

 檻ではなくガラス張りになった部屋に奴隷たちが五人ほどづつ分けて入れられている。

 見た目は非常に清潔的で奴隷だからといって暴力を受けているようには見えない。

「奴隷は販売、買い取り、そしてレンタルを行っております」

「レンタル?貸出も?」

「はい、お客様は奴隷にあまり詳しくないようですね。ご説明しましょう」

「お、おう。頼む」

「奴隷には二種類ありまして、一般奴隷と犯罪奴隷ですね―――――」

 サイドルの説明では一般奴隷には人権があり所有者は衣食住だけではなく法で決められた賃金を支払わなければいけないそうだ。

 しかも一般奴隷が怪我や死んだりした場合はその原因について捜査が行われるし、年に一度は行政機関に奴隷の状態を書類で提出し、その際には必ず本人確認も行われるなど厳しい管理がされている。

 逆に犯罪奴隷には人権はなく、鉱山などでの強制労働や戦争では最前線に置かれたりするそうで、致死率は非常に高いそうだ。

 しかも犯罪奴隷が怪我や死んでも捜査は行われることはないという。

 だから販売価格も使い捨てを前提とした格安となるそうだ。

 奴隷にも格差があるのだとちょっと現実を見た気がする。

 そういった説明を受けながら奴隷たちを見て歩く。

「いかがですか?」

「この店では犯罪奴隷は扱っていないのか?」

「扱っておりますが、多くはありません。犯罪奴隷をご覧になりますか?」

「参考にまで見せてもらいたい」

 折角なので奴隷格差を見てみたいと思い、サイドルに頼んでみた。

 そして連れていかれたのは厳重な扉で区切られた区画だ。

 そこにはガラス張りの部屋ではではなく檻があり、その檻の向こうに一般奴隷とは完全に雰囲気が違う奴隷たちがいた。

「けっ、若造が!?」

「お兄さん、良いことしてあげるから買わないかい?」

「黙りなさい!」

「「っ!」」

 サイドルの一括で奴隷たちがビクッとし押し黙る。

 どうやら犯罪奴隷にたいする命令は絶対のようだ。

「これが犯罪奴隷です。凶悪な犯罪を犯した者を長期刑や終身刑にして牢獄に繋ぐよりもこうして奴隷にして社会の役に立てようという考えの奴隷です」

「それが鉱山や戦争などの劣悪な環境ってわけか」

「はい、そうなります」

 だから犯罪奴隷の多くは領主や鉱山などを所有している商人が多いのだという。

 俺はそんな犯罪奴隷を見回す。

 そして一人気になる犯罪奴隷を見つけた。

 女性専用の檻に入れられ部屋の隅で気配を消すように座り込む少女。

「あの子は?」

「……あの子はですね……」

 歯切れが悪いサイドル。

「彼女は本日入荷したのですが……ある貴族の家で魔法士として仕えておりましたが、その貴族の子が殺される事件が発生しました。その時に近くにいた彼女が犯人だということになりまして……」

「彼女が犯人ではないと思っているのか?」

「分かりません。分かりませんが、裁判で有罪となりましたので……」

「ふ~ん」

 もしかしたら誰かにハメられたとサイドルの表情は語っている。

 俺も神官たちにハメられあの地獄のようなボルフ大森林に捨てられた。

 何故か人ごととは思えない。

 だからと言って彼女を購入するかと聞かれれば、そう簡単な話ではない。

 犯罪奴隷は勝手に解放ができないので彼女を買ってしまうと俺の奴隷として傍に置かなければならない。

 だが、俺はこの町にいつまでもいるつもりはない。

 俺には俺をあのボルフ大森林に送った奴らに復讐するという目的がある。

 そんな復讐の道にあの子を連れていくわけにはいかないのだ。


「サイドル殿!カナンを買い受けたい!」

 俺が考えていると後ろから声が響く。

「これはドックム殿、よくお越し下さいました」

「挨拶はよい!そこのカナンを買いに来たぞ!」

 俺の対応をしているサイドルにズケズケと近づき俺を押しのけた男はドックムというらしい。

 随分と厚かましい態度なので不快感で顔が歪む。

「申し訳ありません、カナンは……」

 俺をチラチラ見るサイドル。何だろう?……嫌な予感がする。

「ん?どうした!?……なんだ貴様は?」

 ドックムはサイドルのチラ見によって俺を初めて認識したのか、俺に誰何する。

「それは俺の言葉だ。俺が先にサイドルと話をしていたのに厚かましい奴だな」

「なっ!貴様!?」

 こんな無礼者に対して礼儀など必要はない。

 俺をボルフ大森林に送った奴らと何ら変わらぬ人間と名乗る資格もない輩だと認定する前にサッサと俺の前から消えろ!

「サイドル。カナンは俺が買うことになっていたはずだが?」

「は、はい……お客様にお売りすることになっています……はい……」

「何を言っているのだっ!あれはこのドックムが買うと決まっているのだ!」

「そうなのか?」

「い、いえ、お客様の方がドックム殿よりも先に購入するとお約束頂きましたので、はい」

「何だとっ!?」

「五月蠅いな、大きな声を出すな。まったく常識を知らぬ奴だ」

「き、貴様っ!」

 どうせ面倒事が決定しているのだ、精々煽っておこう。

(随分と楽しそうだな)

(ふん、俺は気に入らない奴は徹底的に潰すことに決めたんだ)

(ふふふ、どうなるか楽しみだ)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 氏名:カナン

 ジョブ:魔術師 レベル二十三

 スキル:【火魔法】【魔力操作】【魔力ブースト】

 能力:体力G、魔力C、腕力G、知力C、俊敏E、器用D、幸運E


 

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