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015_アルグリア

二章アルグリア開始です。

 


「うぉぉぉぉぉっ!俺は帰ってきたぞぉぉぉぉぉっ!」

『急に叫んでどうしたのだ!?』

「いや~もうすぐ人が住む町に辿り着けると思うとテンションが上がってしまったんだ!」

 まだ町は見えないが道に出た俺はテンションが上がってしまった。

 道には最近付いたと思われる轍や馬の蹄のあとがあるので町はもうすぐだと思う。

 そう思うと歩く速度も自然と速くなる。


 暫く歩くと前方より喧噪が聞こえてくる。

 何だろうと小走りになり喧噪の元を確認。

「あれは戦っているのか?」

『聞くまでもないな、戦いだ』

 視界の先には豪華な馬車を中心に展開する鎧姿の八人とそれを包囲するように展開するみすぼらしい三十人ほどの集団。

「どうしたら良いのだ?」

『どう見ても馬車を守っている方が襲われているぞ』

「だからって馬車を守っている方が良い人とは限らないだろ?助けたら悪徳貴族で平民を搾取したり犯罪に手を染めていたらどうする?」

『なかなかヒネタ考え方だが、可能性としてはあるな』


 暫く傍観することに決めた俺は俺自身の姿を空気に【偽装】し、更に【気配遮断】も併用する。

 この状態であれば例え人の目の前にまで行っても気づかれないだろうと思ったのだ。

 馬車に近づくと鎧姿の一人が倒される。

「ブラド!よくもブラドをっ!」

 兜を被っているので顔は分からないが仲間の騎士が倒されたことで激昂した若そうな声が響く。

「落ち着け!隊形を崩すな!」

 若者を諫めるのは指揮官らしき双剣の騎士だ。

 対してみすぼらしい大人数側の声はというと、まぁ、金と女を置いて行けば助けてやるという盗賊的な発言が目立つし、他にも人格を疑う発言が多く聞かれた。

「これは鎧側が正義でなくてもみすぼらしい方が悪なのは決定かな」

『なんだ、結局助けるのか?』

「もう少し考えるわ。両方とも悪ってこともあるからな」

『人間不信ってやつか?』

「疑い深いと言ってくれ」

 黒霧とこそこそ話していたので誰にも聞こえないはずだった。

 しかし馬車の中から声がした。

「そこのお人、どうかご助力を!」

 鈴を鳴らしたように耳に優しく響く声。

 俺を認識した?レベル三百を超える俺が【気配遮断】を使用し更に【偽装】まで施しているのにだ。

「姫様、急にどうされたのですか?外に誰かいるのでしょうか?」

「ばあや、馬車の外で人の声がしたのです」

「そんなはずは……」

 どうやら馬車の中にいる姫と呼ばれる女性はそうとうに耳が良いようだ。

 もしかしたらスキルなのかも知れないな。

 馬車内が騒がしくなったので騎士の一人がどうしたのかと馬車の中に確認をする。

 しかしその隙を突き馬車側の守りを抜けた盗賊的な数名が馬車の御者台に乗って馬を走らせた。

「ヒャッハー、馬車は頂いたぜ!」

「キャッ」

「姫様!」

 どう見てもヒャッハーの方が悪役に見えてしまう。

 仕方がない、とため息を吐きながら指先に小さな魔力の球を創り親指でピンッと弾く。

 ヒュンッ、ブシャッ。男の頭がスイカを地面に叩き付けたように弾けて真っ赤な血と脳をまき散らす。

 しかし走り出した馬は止まらない。仕方がないので俺は御者台に飛び乗り馬を止める。

 そのまま走り抜けても良いけどそれだと俺が盗賊みたいなので止めた。

 しかし【闘神】ってのは便利なもので、【剣術】や【格闘術】だけではなく、【戦車戦闘術】なんていう馬車を使った戦闘術にも長けているので馬の制御もなんとなくわかった。


「き、貴様は何者だ!?」

「何だ、お前は!?」

 両サイドから誰何され、頬をかく。

「中の姫様が俺に助けを求めてきたので助けた」

 俺の言葉を聞いて反応は分かれた。

 騎士たちは「忝い」と言葉短く礼をいうが、盗賊(認定)は言葉より先に剣で切りかかってきた。

 切りかかってきた数人の盗賊を魔力弾で頭を吹き飛ばす。

 黒霧を使うまでもない相手だ。

 この魔力弾はスキルではなく、俺の努力の賜物で使えるようになったものだ。

 魔力を小さく収束させ指で弾くだけなのでそれほど難しくはない。


「ふざけやがって!」

「そういうの良いから、逃げるなら俺は追わないぞ」

 そう言いながら左右から挟み撃ちにしてきた盗賊の頭を吹き飛ばす。

 逃げてくれるなら追う気はないが、向かってくるなら力でねじ伏せるのみ!

 そんな感じで二十人程を殺したかな。

 初めての人殺しだけど、ボルフ大森林で散々グロイ光景を見てきた俺は何とも思わなかった。

 これから復讐をするのだから当然人殺しもすることになる。

 この調子なら復讐時に躊躇しないだろうと、少し嬉しくも思うのは異常なのだろうか?


 数が減った盗賊を騎士たちが追い詰める。

 俺は御者台から馬車の上に移動し目を光らせているので、盗賊は近づくこともできない。

 目端の利く盗賊はサッサと逃げ出す。


 やがて周囲の状況が落ち着き騎士が馬車の周囲に集まる。

 俺も馬車の上から地上に飛び降りる。

 馬車の中には姫様と呼ばれる女性が乗っていることからこれは貴族が絡むと思い俺は道にそって走り出す。

 逃げ出すようで気分はあまり良くないが、面倒事は御免だ。

 下手に関われば厄介なことになるのは分かっている。

 残念ながらもう関わっているが、これ以上は御免だ。

「ま、待て!?」

 騎士たちが待てと言っているが待てと言われて待つ奴はいるのだろうか?

 俺はスキルを使わないでも馬より遥かに早く走れるので止まらなければ追いかけては来れないだろう。


 馬車や騎士たちが見えなくなってから暫くするとそれが目に入った。

「ま、町だっ!」

『町は良いが、先ほどの馬車を放置して良いのか?』

「面倒事は御免被る。それよりも町だぞ!」

『うむ、町だな。私の記憶よりも遥かに大きくなっているようだ』

 数百年ぶりにこの町にきた黒霧の記憶と違っていても不思議はない。

 寧ろ町が今もあって助かったと言うべきだ。


 町は大きな壁に守られており、中に入るには門を通る必要があるようだ。

 しかしその門の前には入門待ちの長蛇の列ができている。

 小走りで近づく。次第に列がよく見えるようになる。

「……あれはっ!?」

『どうした?』

 列に並ぶ人たち。その姿は俺とあまり変わらない。

 そう、まったく一緒ではないのだ。

 頭の上に耳があったりお尻付近から尻尾が出ていたり……そう獣人!

 この世界では獣人と言うのか分からないが、獣人だ!ケモミミだっ!

 列に並んでいる半分以上が獣人で残りが俺と同じ人だ。

「おお、獣人だぜ」

『なんだ、ツクルは獣人を見たことなかったのか?』

「ああ、俺の世界には獣人はいなかったからな。初めて見るよ」

 コスプレイヤーの獣人はいたが、本物を見るのは初めてだ。心が躍る。

『そうか、この町は獣人の方が多いぞ。人族は三割程度だったと思う。今は少し変わっている可能性もあるがな』

 獣人と人が共存する町か、いいねぇ~。

 興奮しながら列に近づく!

 女性もいれば男性もいる。当然か。

 でも獣人と最初に遭遇できるなんて俺の運も捨てたもんじゃないぞ!

 流石、『幸運EX』様だぜ!


 待つこと一時間。もうすぐ俺の番だ。

「なぁ、あれって、お金取るのか?」

 入門時になにやら門番が徴収している。

『ふむ、私の頃では入町税はなかったのだがな』

 数百年も経てばシステムが変わっても仕方がないが、金か……たしかクソジジイにもらった金が……あった、あった。

 コートのポケットに金が入った小さな革袋を入れる。

 そう言えば、お金の種類や価値が分からないぞ?

 それにあのクソジジイがいたラーデ・クルード帝国の通貨と同じ通貨なのだろうか?

 取り敢えず袋の中にある硬貨を【詳細鑑定】で確認したら大銀貨(一万ゴールド)と金貨(十万ゴールド)がそれぞれ十枚入っていた。


「次の者!」

 犬耳のオジサンと熊耳の大男が門番で身分証の確認と入町税の徴収をしている。

「ギルド証かステータスプレートを確認する」

 俺はポケットから取り出すふりをして久しぶりにステータスプレートを【素材保管庫】から取り出し、犬耳に渡す。

「ツクル・スメラギだな。この町に来た目的は何だ?」

「旅の途中だ」

「ギルド証なら無償で入れるが、ステータスプレートなので入町税として千ゴールドだ」

 【詳細鑑定】で確認した硬貨はゴールドだったから多分使えるだろうとホッとする。

 持ち金では一万ゴールドの大銀貨が一番価値の低い硬貨なので大銀貨を一枚取り出して渡す。

「なんだ、大銀貨しかないのか?」

「すまない、今はこれしかない」

「ちょっと待っていろ」

 犬耳は門の横にある建物に走っていき、暫くすると戻ってくる。

「ほれ、銀貨九枚だ」

 俺は銀貨を受け取り町の中に入ろうとする。

「ちょっと待て!」

 何か拙いことをしたか?と思い立ち止まる。

「アルグリアの町にようこそ!」

「ようこそ!」

 犬耳が歓迎の言葉を発すると今まで喋らなかった熊耳も歓迎してくれた。

「ああ、有難う」


 町に入った!

 そして俺の持っていた金はこの町でも使えることが分かった。

 これから、このアルグリアの町から俺の人間としての人生が始まるんだ!


 

書籍はWeb版とはかなり違ったストーリーになっています。

Web版が物足りない方は、書籍を読んでいただけるとスッキリするかもしれません。

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