私を取り残して、星は綺麗です。
いつまでも幸せはときは続かない。気づけばもう、十二月になっていた。明日が一八日。かけるさんと出会ってから、ちょうど半年が経とうとしていた。
二日前にかけるさんから入っていたメールに未だ返せずにいる。クリスマスに予定を空けておいてほしいということだった。怖くて、返事を書いては、何度も消して、送れずにいた。どうせ、明日になってしまえば、かけるさんも約束をしておかなくてよかった、と思うだろう。
会社帰りにふらふらとおしゃれなカフェに入る。半年前は、誰かと入ることにすらためらいを感じていたのに、今は抵抗なく一人でカフェに入れるようになった。かけるさんのおかげだった。
甘い、ショコララテの真ん中のサイズを頼む。コーヒーはまだ苦くて飲めない。
席につくと小説を開いた。かけるさんにこの前おすすめして貰ったものだった。恋愛小説なのだが、明るすぎず、私の好きな雰囲気だった。作者の言う、「落とし穴の中の幸せ」というものがぴったりと当てはまるような物語だった。
気づけば、一時間が経っていた。物語に夢中で、ショコララテを全部飲み干してしまったようだった。ぐっと背伸びをする。帰ろうと思い、小説をカバンに入れた。
見覚えのある声が聞こえる。一体誰だろうか。会社の人かもしれないと思い、見つかることを避け、手早く帰り仕度をした。
もう一人、見覚えのある声が聞こえる。聞き間違える訳がない、かけるさんの声だった。手を止める。そっとあたりを見渡した。
そこにいたのは、かけるさんと、中村さんだった。
楽しそうに話している。もうずっと前から、知り合いだったかのように。なにを話しているのだろうか。私のことだろうか。本当はずっと裏で繋がっていて、二人で私に茶番で騙し、影で笑っていたのだろうか。
顔が熱くなる。カバンを抱える。もう出てしまおう。恥ずかしさか、悲しさか、よくわからない涙が出てしまいそうだった。
「私、藤重くんのことが好きなの」
足が、止まってしまった。はっきりとした中村さんの声はよく通る。その方向を、見てしまう。
中村さんと、目があった。
ごめんなさい、と呟き、走り出す。そうか、あの二人は恋人と関係だったのか。二人で繋がっていて、私を騙していたのだろう、
息が苦しくなって、足がもたれても、走った。足を止めてしまえば、現実が襲ってくる気がした。
わかっていた。始めから、かけるさんの愛が嘘だったなんて、わかっていた。わかっていて、見ないふりをしていただけだ。現実はいつでも私にのしかかってきた。足がもつれ、転ぶ。
自分でどこにいるのかわからない。真っ暗な、静かな道路だった。なにもなかった。うつ伏せになった顔を仰向けにする。星が綺麗だった。声をあげて泣いた。悲しい時に出てくる涙は、半年前ぶりだった。