愛、いれる
「私は、美しく、ないです。きっと、かけるさんだって、中村さんを選んでいましたよ。半年間、
邪魔をして、ごめんなさい。でも、本当に幸せだった。かけるさんと幸せになってください。でも、願うなら」
計測器をビリビリと外す。私には、まだやることが残っていた。
「かけるさんに想いを伝えさせてください。無記名愛の効果がなくなったかけるさんに、受け入れてもらえるなんて思っていないけど。それでも、私はかけるさんのことがすきだから」
走り出した。かけるさんに今すぐ伝えたかった。もう、手遅れだって言うのはわかっている。でも、今伝えなければ、きっと私は一生後悔するだろう。一度だけ、案内されたかけるさんの家への不確かな記憶を頼りに、ただただ走った。
「かけるさん!」
ドアの前で叫ぶ。余裕なんて、ちっともなかった。
「ゆずちゃん? どうしたの?」
仕事に行く仕度をしかけのかけるさんが驚いた様子で私を見る。
「中村さんから、聞いたよ。ごめんね。いままで、騙してて、ごめん。きっと私が受け取らなかったら、かけるくんも中村さんのこと、もっと早く好きになれていたよね。ごめんね。でもね、この半年間、本当に幸せだったの。かけるさんにとっては時間の無駄でしかなかったかもしえれないけれど。こんなに、こんなに、愛が温かいものだって、知らなかったから。全部かけるさんが教えてくれたの。この、気持ちも。かけるさん、あの、ね。すき。だいすき」
言葉が溢れ出た。かけるさんにずっと伝えたかった。この半年間ずっと思い続けていた。
「ゆずちゃん……」
かけるさんがじっと私を見つめる。うまく笑えているだろうか。かけるさんの最後の記憶に残る私は笑顔でありたかった。
勢いよくかけるさんが私を抱きしめる。そして私の口を掬ってキスをした。
「ありがとう。俺も大好きだよ」
状況が、掴めない。
「え、どういう、こと?」
「中村から全部聞いたよ。ゆずちゃんへの恋心は嘘のものだったって。でもさ、俺ははっきりと思うんだ。あのとき、出会った時に俺はゆずちゃんに恋をしたんだって。それにさ、いままで過ごした半年間が消えるわけじゃない。この半年間で、ゆずちゃんのこと本当に好きになったんだ。俺はいまでも、ゆずちゃんのことが大好きだよ。それはきっと、この先も変わらない」
かけるさんのあたたかさが伝わってくる。
「中村から、連絡があって、ゆずちゃんに蓄積させた愛量は40なんだって。ねぇ、一人分の愛って大体どれくらいかわかる?30前後なんだよ。俺は、それくらい、ゆずちゃんのこと好きってこと」
「ほんとに? 本当に私のこと好きでいてくれるの?」
涙が出てくる。ここ数日、泣いてばかりだ。
「うん。大好きだよ。ゆずちゃんは俺のこと、すき?」
「すき、大好き。どんなにたくさんのお金も、愛も、いらない。かけるさんだけがいてくれたら、私はそれで、いい」
「俺も、すき」
愛はあまりに温かかった。いままで世界に受け入れられずに過ごしていた私を優しく包んでくれる。この温かさが、世界を包んでくれたらいいのに。
私の中には、確かにかけるさんの愛が、入っていた。




