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新人神様のささやき戦術  作者: 味のない柿の種
プロローグ
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プロローグ⑤「オワリはじまり」

それからいくつ時が経ったんだろうか。


もはやそれすらわからない。


わかるとするならとんでもなく背中が焼けるような熱さを感じること。


今何時だ? 11時29分?


もうこんなに時間が経ったんだな。

目線を下におろし、膝が笑ってる。

誰だって死ぬのは怖い。

俺だって死にたくない。


不思議と何もかも落ち着いた気分だった。


「それで? 君はやるのかい?」

「なにをだ?」


オリトのため息が頭越しに聞こえた。


「神様だよ。そのために君を呼んだんだ」

「やらない」


オリトは「まぁそう答えるだろうね」と一言投げると、やがてーー


「なんでよ」


後ろにいたツクモが、問いかけてきた。

その声には、明らかな憤怒の色が混じっており、同時に嫌悪感を示すような口調だった。


「アンタ、地球が救えないからって拗ねるのやめない? 見苦しくって見てるこっちが嫌なわけ」


「じゃあここまで頑張ったのに! 死んだ後も俺に一体なにしろって言うんだよ!これ以上俺にどうしろっていうんだよ!」


怒りに身を任せて吐きちらす。

もう何もかもどうでもいい。

無駄なことさせやがって。

無駄に動かしやがって。

無駄に期待させやがって何様のつもりだ。


「どうしようもない気分を味わったのは、アンタだけじゃないのよ」


「なにがわかるんだよ! お前に!俺の!」


俺の声はだんだんと尻すぼみしていく、喉を通る時には、もう半分嗚咽に変わっていた。


「俺の……なにが…」


喉の奥で絞り出した声で俺がそう言うと、なにか諦めのついた声色で、ツクモはため息を吐いた。


「バカは死ななきゃ治らないってわけ?」


その言葉が、俺の逆鱗を撫でた。

だが、不思議と体に力が入らない。


「また後で会うことになるしいいわ。いっぺん死になさい」


そう言うと、ツクモの声は途絶えた。

もはや気配すら感じない。

まだオリトがそばにいるのだけは感じ取れた。


「悪いけど、このままじゃ説得できそうもないし、一度退散させてもらうね」


そう言うとオリトの気配も途絶えた。






一人きりになり、死期の近さも手伝って急に心細くなり、スマホを取り出す。


妹や両親と撮った写真の数々をめくる。


そこには笑顔で映る家族の姿が何枚も何枚も映されていた。


「これも、これも無くなるのか…」


思い出されていく記憶の数々を巡って、物思いに耽る。そしてふと、ツクモの言葉を思い出した。


『どうしようもない気分を味わったのはアンタだけじゃないのよ』


その言葉を、思い出し、口に出して、俺はふと笑いがこみ上げて来た。自分を嘲笑い、バカにした。


「だっせーな俺……」


いつだってそうだ。

自分のことばかりで、他人のことなんか顧みないで、なにか不都合があったなら拗ねて現実逃避する。


そんな俺自身が世界の誰より嫌いだ。


「本当にだっせえ……」


惨めな気持ちを味わったのは、オリトも、ツクモも、ましてや父さんや母さん、妹だって同じだ。


諦めるという選択肢を選ばなきゃいけなくなってしまったのはきっと、今生きている人間全てなんだ。


「最後の最後になにやってんだ俺は」


オリトのあの様子からして、これをすでに経験しているのだろうことは想像しやすい。


もしかしたら一番惨めな思いをして来たのはあいつなのかもしれない。




ーーーーゴゴゴゴゴ!





そんあ音がどこかから聞こえて来たと思ったら、空からとんでもなく光が降って湧いた。


どうしようもなく熱くて、あと一歩踏み出せば溶けてしまうだろう。


隕石だ。


とうとう時間がやって来た。


思えば凄まじく長い道のりだったように思う。その道の上で一体俺はなにをやって、なにを残せただろう。


全てが残らず消えてしまうんだったら。




「せめて、俺だけは」




光とともに熱線が世界を焼く中、俺は拳を固めて、光の中へと殴りかかるのだった。












次に気がつくと、そこは白く靄のかかった空間の中で泳いでいた。


その空間の中に、一人、黒ずくめの少年が立っている。床も壁も無さそうな空間の中、平然とその少年は


「やぁ」


と、手のひらをこちらに向けてきた。


「ここはどこだ?」

「ここは命が送られていく命の運河の中」


そう言われて、周りを見回すと、確かに渦を巻いて人型の光が川のように連なっていた。


「主にビックバンが起こったあと、このライフストリームと呼ばれる現象が起こるんだ」


そういってオリトが指差す方向を見ると、目の前を眠ったように漂う魂が通り過ぎた。


「俺はなんで流れていかないんだよ」

「君は僕に選定されて命を神性へと昇華させた。『エインフェリアの戦士』って知ってる? あれと同じさ」

「よくわからん」

「だろうね」


オリトはその魂に息を吹きかけると、それは紙切れのように息に乗って吹き飛んだ。

それは大きな奔流のなかに溶けていくと、大きな光の川の一つになった。


「これ、どこにいくんだ?」


そう聞くと、オリトは面白そうに笑った。


「この魂の行く先はねーー」

「ーー誰にもわからないわ」


声のする方へ向くと、そこには仮面をつけたツクモが瀟洒な立ち振る舞いでそこにいた。


「死者はこうやって記憶もなにもかもを銀河の海に溶かして、流れて、次の星に宿るわけ」


「そしてその星の新たな命として芽生え、育み、また巡る……あのね、ご高説痛み入るんだけどそれ僕が言おうとしていたことだからね?」


狐の面越しに俺に語るツクモに、オリトがブーイングしていたが、うざったそうに受け付けない。


「頭は冷えたわけ?」

「あぁ、そうだな」


面を外してまっすぐに瞳を向けるツクモに俺は静かに頷く。

もう見栄も張ることだってできない。


「神様ってこういうのを見届けるのが仕事なのか?」


そう尋ねると、オリトは首を横に振った。


「違うよ。君の仕事は……星の滅びを止めること」


そう言われて俺は目を見張った。


「言ったでしょ? 『イレギュラー』で滅ぶ世界もあるんだって」

「つまり、なんか人為的な理由で滅ぶ星を救え……ってことか?」


足りない頭で答えを導くと、やがてオリトは大正解とばかりに満面の笑みを浮かべた。


「改めて自己紹介すると、僕は『外神オリト』……他の神からは『祈り人』と呼ばれているんだ」


その言葉に俺は疑問符、ツクモは驚いた。

ってかツクモも知らないことだったんだ…。


「僕らの仕事は星がイレギュラーによって死ぬことから……『ロストイレギュラー』から星を救うことなんだ」

「僕ら?」


その言葉に反応したのはツクモだった。

この先はツクモも知らされてない事柄なのだろう。


「そう。僕と君……えーっと」

「ニシキだ」

「そう、ニシキくんと僕はすでに『外神』だからね」


そこで俺に疑問が湧く。


「ツクモは?」





「アタシは『地神』だから、ほっといてもこのまま消えるわよ。依代となる神社もない、存在の証明となる人の記憶もライフストリームで消えていくわ」


「はぁ!? そんな重要なことなんで黙ってんだよ!」


ツクモに摑みかかると、オリトは今更慌てだした。ツクモはなおも冷たい瞳のまま俺に言う。


「どうせアタシなんていらないわよ。アタシなんにも手助け出来ることなんてないわけ」


「だからってあんな啖呵切ってたお前が一人で勝手にいなくなんのかよ!」


「どうしようもないじゃない」


「なんで諦めるんだよ!」


「どうしようもないからよ!」


ツクモが怒鳴って、俺の頰を張る。

あの時とは違う。確かに触れるのを感じる。

痛くはない。だが心が痛がった。


「アタシだって消えたくないわけよ…」


そう言うと、ツクモは狐の面を被った。

その顎からは涙が伝って落ちていくのが見えて、俺はなにもかも言えなくなった。






「あのー……」


その時、オリトがおずおずと手を挙げた。


「なによ」


ツクモは涙声になりながらツンと張った口調で聞き返すと、オリトはさらに恐縮としながら言った。






「ニシキ君が『外神』になったと言っても地球人であることは変わりないから、ニシキ君がツクモを認識している限りは存在し続けられるんだけど……」






っと、オリトが言うと、狐の面をつけたままのツクモが大きく震え始めた。


「あっ、これはすぐに言っとけばよかったパターン?」


ーーガシ!


「うぉおおあああああああああああ!」


相当恥ずかしかったのだろうか。ツクモはオリトをひっ捕まえると、手斧のようなラリアットで押し倒して、見事な十字固め食らわせたのだった。





「さて、それで『ロストイレギュラー』から世界を救う方法なんだけどね」


数分後、ボロボロになったオリトが咳払いを一つして話を切り出した。

先ほど暴走したツクモはかなーり離れた位置でおとなしくそっぽ向いていた。


「正直に言って対策はないんだ」

「じゃあどうやって救うんだよ?世界中の情報かき集めてそこから予測するのか?」


言うとオリトは首を横に振った。


「これには予知の力をもった神様に頼んだりするんだよね」

「ふぅん…便利だな」


俺が感心していると、オリトはまた首を振った。


「残念だけど予知の力を持つ彼女は多忙だからそこまで見てはもらえないんだ」

「神様に多忙とかあんのか」


なんかこう、全知全能っていうイメージが強いからなんとも滑稽に聞こえる。


「だから、反則技っちゃ反則なんだけど。僕の力で無理やり時系列を変える」


「オリトの力?」


そんな便利スキルがオリトについているのだろうか?




「あぁ、僕の『次元を超える力』で無理やり過去や未来に飛ぶ」





「はぁ!?なんだそれ!?」


予想以上にすごかった。


「っと言っても現時空にいる僕を飛ばすわけにはいかないから自然とニシキ君達に見てもらうことになるけど」


オリトは申し訳なさそうには頬をかく。

何を申し訳なさそうにしてるのか理由はわからないが、とにかく本当にトンデモナイ。


「あっ、安心して!かなーり先だけどそのうち君にも何らかの力がつくと思うからさ」


「そんなことを心配してるんじゃねえよ!」


そこから何か言い出そうとしてやめる。

これ以上は疲れるし、そもそも常識の通じない世界だ。これぐらいで驚いたり喚いたりするといくら体力があろうと足りないだろう。


「っとそんな感じで君とツクモ君には僕の使者として星を救う仕事をしてもらうからよろしく」


オリトに手を差し出されると、ライフストリーム終わり、青黒いどこまでも闇が広がる宇宙が広がった。


遠くを見るとライフストリームだろう光の道が、果てしなくどこまでも伸びていった。


「やってやろうじゃねえか」


オリトに差し出された手を握りつぶさんばかりに強く握りしめた。





なにもかもわからない。


何が始まるのかも。


オリトがどんなやつなのか。


ツクモがどんなやつなのかも。


他の星を救えるかなんてわからない。


だがただ一つわかることは


きっとこれが長い旅になると思った。

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