村へアユメ
「何も指示してないけど、その服装はどうかと思うぞ…」
松本が白い目で見つめるのは私と雛子ちゃんの服装である。何が何なのかわからない内に土曜が来てしまった為、同級生と遊ぶノリで服装を選んだつもりらしい。同級生と遊ぶと言う表現はあくまで例えらしいです。ぼっちって悲しいね!人のこと言えないけど!
「スカートにサンダルは…山路だよ?」
「気合いで何とかなります!」
雛子ちゃんはオシャレなタンクトップに大人びたロングスカート。金持ちそうなファッションをしている。実際金持ちなのかもしれない。
「桜花はスカートかよ。虫刺されても知らねえぞ?」
「予備の服は持っていたりしますか?」
風見さんが私のスーツケースに視線を向ける。
「Tシャツと短パンなら」
「結局短いことには変わりないな。桜花の能力は何方かというと守備だし。ミニスカートでも困らないっしょ」
「山田はミニスカから覗く足を見たいのですかそうですか」
「ばっ、風見てめぇ俺何も言ってないぞ!?俺が変態みたいに言うんじゃねえよ!」
仲が良いのか悪いのかよく分からない2人だった。
「全員揃ったなー!いくぞ!!」
「今日の松本ヤケにテンション高いわね」
「それは松本がおこちゃまだからだよ」
「なんか凄い悪口言われてる!?!?」
何処かの名探偵と違い見た目が大人、頭脳は子供な松本を無視して駅の改札を通る。大きな駅なだけあってどの電車に乗るか検討が付かない。
それにしても広いなぁ…。
「11番線の快速列車に乗りますよ。もう少しで来るのでもうそちらに向かいましょうか」
さすが風見さん、駅の広さに関係無く全てを把握してる。
荷物で膨れたスーツケースを転がしながら私たちは風見さんに着いてゆく。
「それにしても谷狭野村って何処にあるんだ?この電車だけで着くのかよ」
確かにそれは私も思った。テレビの映像で見る限り秘境っぽいし。
「電車から降りたら結構歩くらしいぞ。ちなみに電車は都内とは思えないぐらい乗るから皆でゲームしようぜ」
「ゲ、ゲーム?わたし嫌な予感しかしない…」
雛子ちゃんの言う通りこの間だってあのニートはは山田に女装させてたぐらいだからこれは十分なカオスのフラグが立たされた気がした。
「あ、電車来た」
風と共に電車が来て、止まる。赤をモチーフにしたレトロなデザインは昭和を感じさせられた。
オサレと言えばオサレだが…何処か不気味な一昔前に走っていたようなそんな感じがする電車だった。
「2号車の奥から3番目の6人席ですね」
風見さんに言われるまま乗り、奥へと進む。座席は3人席の向かい側になっていて中心には頑丈そうなテーブルがあった。とりあえずこの席凄い高そう。
「凄いわね…」
「まあまあそう言わず!リクたその奢りなんだし寛いじゃおー!」
「座席どうするんだ?女子と男子で別れるのか?」
「それが無難ですね。あ、山田は女の子が大好きそうなので桜花さんと雛子の間に座りますか?」
「風見、何を真顔で言ってるんだ…」
「山田ハーレムです」
「意味分かんねえよ!」
「顔に女の子と座りたいと書いてあります」
「書いてねえよ!」
そんなやり取りをジト目で見ながら席に着くと、電車が動き出した。
結局座席は、左側から山田、松本、風見さん、向かい側の左側から荷物、雛子ちゃん、私となった。
私以外には人はいるが、少数しか座っていない。あまり利用されないのかな?
「と、言うことで松本くん特製王様ゲーム!」
松本が割り箸を掲げながら言う。
嫌な予感的中。もうこれカオス展開決まりでしょう!?
「とりあえずルールを言ってみてください。ルール次第で殴るのを手かバットかフライパンで決めます」
「おいちょっと待て、殴るの前提かよ!?…まあ良い。聞いてくれ。」
「真面目に言わないとわたしが燃やすよ?」
「お前ら怖い!鬼!悪魔!で、そのルールだが僕のこの割り箸でゲームをしたいと思う。王様を引いた人は1〜4の数字を引いた人を適当に指名して命令。指名された人は命令を熟す。本家そのまんまのルールだ」
割り箸を振りながら得意げに言うニートに風見さんが口を出す。
「今はまだ殴りませんけど、命令っていうのは何でもありですか?さすがに無理なのは…」
「ああ、じゃあこうしよう。行動範囲は電車内限定で人に迷惑をかけないようにする、というのはどうだろう?」
「それなら賛成だぜ。松本をいたぶるチャンスだし」
「山田怖いよ!?」
「わたしも賛成〜。桜花ちゃんは?」
雛子ちゃんが私に振る。
「うん、私も賛成…かな?」
何かと不安だらけだけど、何とかなるだろう。
「そんじゃ、やるぜ!皆割り箸掴め」
占い師のようにジャラジャラと音を立てながら左手で握り、私たちはその上部を掴む。
「せーのっ!」
「「「「「王様、だーれだっ!」」」」」
素早く引き自分の割り箸を確認する。ちなみに私は3番。残念ながら王様じゃない。
「わたしだー。やったー」
「うわ…雛子かよ」
山田が嫌そうな顔をする。
「そんな顔しないでよ。えっとーどうしよっかなー。じゃ、これだ!1番と2番の人は五分間英語で会話!はい、よーいどんっ」
「俺か…」
「僕かよ…」
山田と松本が頭をかかえる。ニート予備軍とニート…。てか2人は英語なんて話せるの!?
「始まってるよー。はやくはやく。ほら、山田。いつもは達者な口を開きなさい」
「分かったよ…」
しかし再び沈黙。無理もないか。私だって英語苦手だし。逆に得意な人がいたら尊敬するわ。
徐に山田が口を開く。
「ア…アーユーザ、ペン?」
開けてびっくり玉手箱!アメリカ人でも使わない文章頂きました。ごめん、何処からツッコミ入れたらいい!?あなたはペンですか!?いや、それをハイと答える人間はいないでしょう!!
混乱した私はとりあえず横を見てみる。雛子ちゃんが手で口を押さえ、腹が捩れるぐらい笑っていた。怖い。
「アイ、ドントゥ、ノウ」
目をそらしながら言う松本。マジかよ、君は自分がペンなのか人間なのかも分からないのね!?
「ドゥーユーノー、パイナッポー?」
山田…無駄にパイナップルの発音が良い…。いや、そうじゃなくって何故話題がペンからパイナッポーになったし!?
「ユーヘアー、イズ、パイナッポーカラー」
松本が頭を指差しながら言う。
「マイヘアー、イズ、ノーパイナッポー。ノーイエロー。ベリーベリーゴールド」
髪の話をしてるらしい。もう私には理解する気はない。
「ドゥーユー、ライク、ジャパニーズ?」
「アイライク、ジャパニーズ。ベリー」
「ごめん、ちょっとストップ」
「何か問題でもあったか?」
安定のドヤ顔で松本が振り向く。
「ありまくりよ…」
「なんだ、桜花。そんなに僕のイングリッシュがベリーグッドだったか?」
「あんた1度1人でアメリカ行ってらっしゃい。イギリスでもいいわ」
「え、イギリスって何語?イギリス語?ねえねえ風見、イギリスって何語?」
うぜえ…イギリスは英語ですよ皆さん。それよりこんな奴と話していると私まで馬鹿になりそう。
「はあ…本当に馬鹿ですね」
風見さんが呆れる。
「良かったね松本」
「褒めてませんよ!!山田だって何ですかアレは!“Are you the pen?”?もっとマシな英文は無かったんですか!?何の為に英語の授業を受けてるんですか」
「英語の教科書はユミとアンディーばかりでやる気が出なかった。だから寝てた」
「ユミとアンディーだってこれよりマシな会話しますよ…もう俺頭痛い」
「教科書のユミとアンディー率は異常」
「確かにわたしの教科書もユミとアンディーの会話だらけだったなぁ。あとホワイト先生。…ってそんな事はどうでもいいの!きちんと勉強しなさいパイナッポー頭!」
「うるせえ、これは金髪だ!!」
「ちょっと声が大きいわよ」
隣の席の叔母様の視線が刺さったから注意した。絶対あの顔は『これだからゆとり世代は』って言ってる。草生やしてる。ゆとりはゆとりで大変なんですよ!授業内容改変されて大変だったんですよ!
「もうこれ以上続けても無意味だからやり直そうぜ…。誰もイギリスがイギリス語かどうか教えてくれないし」
「イギリスは英語よ!!!?!?さっさと次行くわよ」
英語なのかとブツブツ呟きながら松本が割り箸を回収し、ひとつに束ねる。
「そんじゃいくぞ」
「「「「「王様だーれだっ!」」」」」
軽やかな音を立て、一斉に割り箸を引き抜く。
先を見てみると2番。またしても王様ではない。相変わらず自分の運の無さにため息が出た。
「俺ですね」
右手を上げたのは風見さん。少しばかりか表情がいつもと違い嬉しそう。
「じゃー風見っち指名してね」
「そうですね、では4番の人はこれから来るはずの移動販売のお姉さんに好きなタイプを聞いてください。」
「…俺かよ……」
パイナッポーな金髪を山田は両手で掻き上げ唸った。山田すごい。貧乏くじすぎる。
「なんだ山田ですか」
「なんだじゃねーよ!もうやめてくれよ…俺からプライド取ったら何が残るんだよ…」
「パイナッポー」
「そのネタ引きづりすぎぃ!!!」
相当ショックだったようで声が涙まじりだった。ドンマイ山田、強くなれよ。
「すみませーん!飲み物くださーい!」
「早すぎだろ、待てよ、心の準備が」
焦る山田をガン無視し、風見さんが移動販売のお姉さんを呼ぶ。今思ったけど、風見さんってドS?
「はーい、お飲み物は何に致しましょうか?」
しかし、お菓子や飲み物を詰んだワゴンを転がしながら私たちの席にやってきたのはお姉さん…ではなく、太めのおばさんだった。
「か、風見…絶対わだとだろ…」
「いえ、俺は知りませんでしたよ。熟女もいいじゃないですか」
「あんたそういう趣味だったのかよ」
風見さんは何ひとつ表情を変えず相変わらずのスマイルで答える。逆に怖い。
「王様の命令には絶対服従ですよね、山田」
「うっ…」
そして深呼吸をしておばさんに話しかけた。
「あ、あのコーラをひとつと…」
「はい、150円ね」
「すすす好きな…タたタイプっはなななななんですかぶっ」
山田、盛大に噛みまくった。
「ごめんなさいお客様、もう一度おっしゃって頂けないでしょうか?」
おばさんの優しい目が困っている。そりゃそうよね、こんなDQNに訳の分からない質問されたら誰だって混乱するよね。
「何でもないです!お金です!ありがとうございます!」
素早い動きで小銭を渡し、ハリネズミのように丸くなった。
「どうもありがとうね」
おばさんの邪気の無い笑みが突き刺さるのか、山田は目を上に上げようとしない。
「あっはっはっ!!!山田さいっこう!コミュ障乙だわーっ!」
「黙れ雛子。現実逃避モード起動」
「ごめん、ごめん。山田が最高すぎて、息が出来ないよ。ぷーくすくす」
「もう俺人間不信になる」
「ごめんって謝ってるでしょ!?面白かったし最高だったし山田のことすごいと思ってるよ!ねえ、風見っち」
「え、あ、はい、そうですね」
「今絶対聞いてなかったでしょ!?」
「目逸らしたわね」
バリバリ目逸らししてますね、分かりますよ私には。
「それじゃあまたいくか。また僕が握るから引いてくれ」
松本が例の割り箸を回収し、前に出す。
「秘密の呪文いくぜ」
「「「「王様だーれだっ!」」」」
「だー…れ…だ…ァァア…」
…1人だけもの凄い低い声が聞こえたけど、気にしないでおく。
「あ、私だ」
流れに添い右手を上げる。
引いた割り箸の先には松本が書いた歪な王冠マークがあった。
「桜花か…。じゃ、命令出してくれ」
「うーん、そうね」
ここは思い切って某県船橋市の梨モデルのゆるキャラのモノマネをするとか某ライダーの歴代の変身ポーズをさせるとかをさせたいが、雛子ちゃんや風見さんに当たったら失礼だし。いざとなると思い浮かばないものだよね。
「桜花まだか」
「あ、ごめん!じゃあ1番の人は4番の人の長所を五つ言って欲しいわ」
「…わたし1番だけど4番って誰?」
震えた声で雛子ちゃんが挙手する。
「おっ、呼ばれた気がする!!やっほーい松本くん4番でーす!」
「黙れ」
「すんません」
メンチ切ってんじゃねーよと言わんばかりの視線で雛子ちゃんが松本を睨みつけた。
「はぁぁ…松本の良いところ…」
「英語が話せない」
「そう言う山田、お前もでしょ」
話に入った山田がブーメランを喰らう。
「命令なのできちんとやってくださいよ」
「分かってるよ風見っち。じゃーひとぉつ、黒歴史が沢山ある」
「長所どころか褒めてもねぇよ!?」
「え?駄目?桜花ちゃんこれって駄目?」
「まあ良いんじゃないかな?」
「うっわ、お前ら本当酷いな!?!?」
目の前に何かうるさいのがいるけど気にしない。
「ふたぁつ、窓のモノマネが出来る」
「なんですかそれは。初耳ですね」
「え、風見さんが初耳!?」
松本とあれだけ中が良いのに知らないとは。しかし、何?窓のモノマネ?
「じゃあ松本やってみてよ。はいよーいどーん」
「…絶対白けるだろ。いつもので良いんだよな?」
嫌そうに松本は続ける。
「窓のモノマネをします!ウィーン!どう?」
白けた。あと他人のネタパクるな。
「みっつ目ー。空気を変えられる」
「だからそれ褒めてねえから!?」
「よっつー、漢字がすごーいできる。超詳しい」
「へぇ。松本漢字得意なんだ?」
それは少し意外。さっきの英語から全く勉強が出来ないタイプだと思ってた。
「無駄にできるんだよね」
「無駄って何だよ!?」
「じゃ、好きな漢字は?」
「黄昏」
「ほら」
…ほら、じゃないよ雛子ちゃん。理解した。この人隠れ厨ニ野郎だった…。
「黄昏って書いてトワイライトとは読みませんよ」
「いいんだよ!見た目がかっこ良ければ!」
「はいスルーしまーす。これで最後五つ目。ナルシスト」
「だからそれ褒めてねえ!!」
「いいんじゃねぇの?鬱病にならないよ」
「そういう問題かよ!?山田ァ!」
そんな訳で松本主催の王様ゲームは長々とカオスになった。途中、私が蝉を食べるモノマネをしたり雛子ちゃんの世間話等をしたけどあまり面白くなかったから割愛。
電車に乗る事3時間。トンネルを抜けると海のように広い湖が開けた。
「すげぇ!海だ!トンネル抜けたけど雪国じゃねぇ!」
「大体今夏だし…」
「すげぇ!!」
相変わらず話は噛み合ってない。
「……。これ海じゃなくて湖ですよ」
「へぇ…、そうなんだ」
「大体谷の狭間の野っていう名称の村なんですよ。海なんてあったらおかしいでしょう」
「山切り倒せばできるんじゃね?」
「1人でやってろ」
車窓から見る湖は光を反射してとても綺麗だった。だけど何だろう。水面に何か黒いのが這っているように見える。
「霊〈ゴースト〉…?」
黒い影は霊〈ゴースト〉だ。それも私たちが住まう街とは比べものにならない量。橋の上からでも視認出来るぐらい濃くはっきりと這っている。
「そうですね。この湖はダム湖で村の半分を無理矢理潰したそうですよ。村全体が潰されなかっただけまだマシなのでしょうか…きっとここに住んでいた人の想いじゃないでしょうか」
「それで心霊スポットか…」
私たちの会話を聞いていた山田が声を挟んだ。
「もう着くな。いつでも降りられるように準備しておけ」
水筒を鞄にいれながらふと考える。
殺人鬼の存在、霊〈ゴースト〉、それから狂宴について。
私の中でそれらの単語が螺旋のように渦巻いていた。
✳︎
少女はふと空を見上げた。
シミひとつない真っ白な肌と、日本人離れ鮮やかな金髪が青空に映える。そもそも少女と言っていいのか。幼さは残るものの実際の年齢は20過ぎである。
脳の中に声が響いている。それは声でもあり自我を失った人間の叫び声ととも言っても良いだろう。耳を塞いでもその声は反響し続ける。
「向日葵が綺麗」
広い向日葵畑を目の前にして呟く。呟いても自分の無機質な声は夏の空に消えていってしまう、ーーーはずだった。
「そうだねー。凄く綺麗だ」
一瞬聞き間違いかと思ったが生身の人間の声である事を確信した。汗ばむ恐怖を掌に感じながら少女はゆっくりと声がする方向へ振り向いた。
「誰」
そこには青年がいた。
恐らく日本人であるだろうが神秘的な青い瞳、白い髪がやけに目立つ。アルビノなのか。
こんなに暑いのに真っ黒なマントを身に纏っている。日焼けが出来ない体質、と言われれば納得は出来るが見ているこちらまで暑苦しい。
「ていうかなんか夢の中で見た気がする」
「まあ、強ち間違ってないなぁ」
胡散臭い笑みを浮かべ、目の横を掻いた。何故か分からないがその男は左目の下に絆創膏を貼っている。
「それ」
少女はその絆創膏に指を向けた。
「ああ…これ?転んで擦りむいた」
どう転んだら目の下を擦りむくのか謎だが、話が反れそうなのであえて触れないでおこう。
「何の用なの」
「用という訳じゃないんだけどね、一目君を見ておきたくて」
そう言うと青年は少女に近付きその目を、少女の碧眼を覗き込んだ。
「うん、やっぱりツかれているね」
「?」
青年の言う意味に分からず首を傾げる。
「ああ、悪いが俺じゃ助けられない。多分これから俺の親戚が来るだろうから君のその術で出迎えてあげな」
紡がれる言葉に戸惑う。まさか、いや、もしかしてこの青年は自分がした事を知っているのだろうか?
「名前」
「ん?俺の名前?」
「そう」
「古城音葉。音葉で良いよ。えっと君は」
少女は音葉の言葉を遮るように告げる。
「エリアノーラ…天堂依乃」
「おう、そうだったな。〈能力者〉さん」
まだまだ続くので宜しくお願いします。