表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃迷宮-ハイメイキュウ-  作者: 柚木 空音
6/11

モノクロな非日常


気がつくと目の前にあるそれは白い空間だった。

「はろはろやっはろー」

「流行ってんの…それ…」

ひらひらとだらしのない笑顔で手を振る青年、離れていても目立つ色素の薄い髪、そして黒マントを羽織った老け顔の音葉がそこにいた。

「人類共通語だよ?」

「せめて神奈川共通語にしといて欲しいわ」

「今日はワンダフルな天気だね」

「ここ驚きの白さ…」

音葉ワールドに飲み込まれてしまいそうになる。今日の彼はフードを外していたがやっぱりマントは身に纏ってた。正直言うと本気で似合わない。

「それより昨日のアレは何なのよ。てか厨二病会議って何!?あとなぜ私が人殺しをしなくてはならないのかしら?」

「だから人は殺さないって言ってるだろ?えっと、まあアレだなアレ。霊〈ゴースト〉が溜まりそうな場所に行けばなんとかなる」

「はあ…!?説明になってないわよ!?」

もうこの人嫌だ!!

「ところで音葉の能力って何よ?風見さんが言ってた事と矛盾してるわよ?」

「そんなに知りたい!?いや〜照れるなぁ〜ぐへへ」

「うぇっ、キモっ…。しかもよだれ出てる!?照れなくていいからさっさと私に教えろ」

「ぐう…怖いなあ。俺の能力は“精神干渉”だ。お前が風見だと思ったのは俺自身って訳」

よだれをマントの裾で拭いながら彼は言う。相変わらず説明下手にも程がある。

「どういう仕組みなのよ」

「リアル明晰夢って感じ?」

「かっこいい言葉並べても何も解決しないからね!?しかも疑問形!?」

「まあ一言で言えば脳に思い込ませるみたいな能力だ。三国干渉ならぬ精神干渉!」

「意味分かんない…」

もう無理…この人と話すのに現在体力の90%ぐらい持ってかれる。頭オカシイ。

「思い込ませるだけだからネタがバレたら意味が無いんだけどな」

「は?」

呟いた瞬間、携帯のアラームのような大音量が響いた。鼓膜が破れそうな程の振動があたりの空気を揺らす。

「んじゃ、時間だ。敵にならないように仲良く笑顔で行こうぜ。真面目が1番!」

何処ぞの引越し屋のような事を言いながら彼は霧と化す。そして驚きの白さのこの世界がパズルのピースのように崩れて行った。

「は、はぁ…!?ちょっと、助けなさいよ!?」

私が言葉を発した時、意識は遠くへと駆け抜けた。

目を覚ますと…ここはベッド?

顔の横にはケータイのディスプレイに浮かぶ今朝の時刻と新着メール一件の文字。ちなみに松本からで学校が終わったら事務所に来てほしいらしい。

「なんだ目覚ましのアラームか。……疲れた」

体を起こしスウェットを脱ぎ制服に腕を通す。

あ、そうだ学校行く前に調べたい事があったんだ。

昨日あの件から帰宅した私は予想外の疲れに耐えられず風呂に入る事も忘れ死んだように寝てしまった為、結局それが出来なかったのだ。

2階にある自分の部屋から出て1階へと下がる階段を降りる。そして真っ先にリビングの片隅にある仏壇へ向かった。

目的は仏壇ではなく、その下にある引き出しの中に閉まってあった家系図だった。

1度、父方の祖父が亡くなった時に親戚一同で集まったはずだが音葉らしき人物は見当たらなかった気がする。髪の毛を染めていてもあの音葉の特徴的な顔と瞳は忘れるはずはないだろう。

私は引き出しを開き家系図を出して開いた。

「父さんの家系のしかないか…やっぱ駄目か…」

「どったの?」

「あ、兄貴っ!?」

そういえば私には兄がいる。穂高拓弥。人のこと言えないけど、非常に友達付き合いが下手。生きた年イコール彼女いない歴のクソ童貞。PCが友達で、大学が休みの日は自室で絵を描いている。その絵だが一回だけ見たことがあるがかなり上手い。

趣味に関してはこれまた豊富で大学のサークルでバンドをやってるらしく、無駄に派手な髪の毛をセットしながら私の元へ歩み寄る。

兄の事をエデンの皆に紹介したら山田の事を馬鹿にできないぐらいみた目がDQNだ。

「いやー、家系図なんか見てどうしたんかなって」

兄貴が後ろから覗き込む。

「近いわよ…。ねえ、兄貴は音葉って知らない?うちの親戚にいるらしいんのだけれど」

「音葉?聞いたことないな…?それにしてもどうした?恋か?」

思いっきり脛を蹴りました。

「いってぇっ…!?ん…?何これ」

兄貴が両手で脛を抑えながら視線をテレビに向けた。そこには『谷狭野村、猟奇殺人』の文字が。

やばい、漢字読めない。

「…随分と物騒ね」

「それにしても村名何ていうんだ?」

「知らないわよそんなの。同じ都内みたいよ」

「…そうか」

「何よその反応は。気になることがあったの?」

「別に何でもないよ。…本当に物騒だな。桜花も気をつけろよ」

「え、何、心配してんの?きもいやめて」

「全力で拒否られた…」

兄貴の発言より、何か嫌な予感が動いた気がした。

✳︎


結局音葉の正体は謎のままだった。

一日振りの例の駅のホームを抜け事務所の方向へ行こうと思った時、ひとりの少女に視線が行った。何というか、真っ白なキャンバスに黒があるような、とても不自然に辺りに馴染んでいないようだ。その少女は右往左往している。

引きつけられるように私は声をかけようと思ったが、少女からこちらに歩み寄ってきた。

「あ、見つけたです。桜花さんですかね?」

見た目に反してハスキーボイスだった。羨ましい。その声くれ。

「えっと…誰?」

少女の身に着けている服に目が行く。胸にはアザミの花に十字架の刺繍、そして白と濃いグレーのコントラストが鮮やかなセーラー服。キリスト教の学校だろうか?

少女の表情からは感情を読み取れない。迂闊に個人情報を漏らす訳には行かないしあの能力を使うか?

目に能力を集中させる。瞳孔の奥に熱が帯びるのを感じた…が、しかし熱は威力を失い冷めていってしまった。

「…能力が使えない?」

「あたしの前では無駄なのですよ」

淡々と少女は言葉を続ける。

「その能力を見て確信しました。どうせ殺し合うから自己紹介しておいた方がいいっすね。あたしは夢路って言います。呼び捨てで良いですよ。能力はえっと…」

夢路は近くに合ったバイクに手を触れた。すると

バイクは色素が抜け灰のように溶けた。

「バイクに罪はないわよ!?」

「近くにあったので。あと違法駐車なのでこれくらいしていいかと」

「でも他のものでも良くない!?例えば君の持ってる鞄の中にあるいらないシャーペンとかさ…」

「エコじゃないっすね」

「…矛盾してますよ」

〈能力者〉ってなんかぶっ飛んでる人が多いね。ツッコミ入れるの私段々疲れてきたよ?

「あれ、じゃさっきの私の能力を消したやつは?」

「あれも灰バイクと一緒です。本来あるものを無効化する、それがあたしの能力っす」

「…便利な消しゴムね」

「まあそういうことにしといてください」

ちょっとした皮肉のつもりだったのだがスルーされた。

「谷狭野村行くのですか?」

「は、私?」

「正確には貴方たちが、と聞きたいのですが。行くのでしょうか?あたしは交通手段が無いので行きたくても行けないのですが」

「ごめん、待って、ちょっと言ってることが分からないわよ」

谷狭野村?今朝のニュースのことで良いのか。

何故兄貴にしろこのツインテール女にしろ意味深なことを言うのか。そんなにフラグたてられると私気になって夜しか寝られなくなっちゃうよ?

「夜しか眠れないんじゃ良いじゃないですか」

「聞こえてた!?」

「ダダ漏れです」

「ナイスツッコミとだけコメントしておくわ…」

ツインテール女は駅の方向へと体を向け、

「まあ頑張ってください、と細川が言ってました。死なないでくださいね。穂高が死んだらつまらないので」

そう言い残してツインテール女ーーー夢路は去って行った。もうやめてくれ、わけわからん。


✴︎


「ねえさっき変な人に会ったん…何してるの?」

事務所の扉を開けると想像以上の混沌が広がっていた。まず目に付いたのは山田。その服装はいつものイタいDQNの着崩した制服ではなくフリフリのメイド服だった。なんだ、あれか。山田は新宿二丁目の人だったのか。

「何って、山田のコスプレショーだけど…。お、桜花!?そんなゴミを見る目で見ないで!?」

「ねえ、風見さん。メールにあった呼び出しって何ですか?」

「ちょっ、えっ!?スルー!?スルーしちゃうの!?」

松本、あんたうるさい。

「合宿をやるそうですよ」

「なんで言っちゃうんだよ、それ僕の台詞!風見のばかぁ」

「松本が煩いからですよ」

正論。ぐぬぬと松本が呻く。

「それにしても合宿っていきなりすぎない?」

もうフラグが立ちすぎてSAN値がピンチなんですが。

「友達いないからどうせ暇でしょ、だって。ここの人たち大体はがないな人だからね」

そう言ったのは雛子ちゃん。え、もしかしてぼっち主義なの?

「まあ友達いないのは現実なんだけどさ」

「山田もいないのね…」

「ぼっち上等。リア充は俺の能力で殺す」

「まさかの物理で殺しちゃうの!?」

メイド服姿でそんな事言われても…。

「ああ、山田はエデンに来る前地元のDQNしばいてたから」

「壮絶な過去ね」

それよりもニート予備軍とニートがいる此処にいたら駄目な大人になる気しかしない。

「で、松本。合宿って何処行くのよ?」

「やはざのむらだ」

…ん?

「ごめんもう一回」

「僕も漢字読めないんだよな…書くか」

背後にあるホワイトボードに黒ペンで文字を綴って行く。そこにはあの名前が。

「谷狭野村…?それって例の猟奇殺人の」

「ビンゴだ」

「わたしも調べて見たんだけど、村全体が心霊スポットらしいよ」

雛子ちゃんが言う。はいはいフラグ乙。

「心霊スポット、ということは霊〈ゴースト〉の巣さ!!!」

「そういう事ね。え、でも私お金無いわよ?」

「リクたそが全部出してくれるってさ」

「うっわ…太っ腹…」

凄い。さすが〈神〉の意思疎通者なだけある…のか?璃空ちゃん恐るべし。

「でででで、でだ」

「何回言うのよ」

「5回だ。そんな事はどうでも良くって例のデスゲームの事を確認したいと思う」

「あの厨ニ病会議?」

「厨二言うなッ!」

そう言いながら村の名前を消し、新しくホワイトボードに文字を書く。

「君たちにはこれから〈鍵〉を探して貰う。因みに全部で4つだ」

手のひらを突き出し指を折り4を作る。

「それから音葉から聞いたと思うが霊〈ゴースト〉が溜まる場所に〈鍵〉は存在するらしい。皆で虱潰しに探して行こう。とりあえず今回は谷狭野村を」

「待て」

メイド服姿の山田が遮るように言った。

「皆で、ってこの中に“裏切り者”がいる可能性だってあるんだぜ?そいつに〈鍵〉が渡ったら…」

「僕はまだその可能性は考えなくても良いと思う。大体音葉や細川が僕たちに会いに来るんだ。向こうも様子伺ってる所だし裏切るとしたら1番最後の鍵を誰かが手にいれた時だろうな」

「まあ確かにそうか…」

「敵にしろ味方にしろ損する事は僕はやらないつもりだ。そんな訳で合宿中に能力を使った模擬戦をしよう!」

「それ松本がやりたいだけよね…?」

「ビンゴ!」

ため息…。とは言え、正直この力は自分でコントロール出来てないし模擬戦も面白そう。

「詳しい事は明日電車の中で話そう。そんじゃ、明日朝6時に集合な」

「ちょっと待ちなさい、え!?明日なの!?」

「うん、明日」

鼻を鳴らし、ドヤ顔で松本が答える。

「わたし土曜登校あるんだけどー」

因みに明日は土曜である。

「そう言うな雛子。休め。サボれ。それこそがニートへの一歩だ」

「わたしはニートになりたくないよ!?」

「明日の日本が心配ですね」

冷静に風見さんがコメントを挟む。

「明日って言ったら明日なんだ!朝6時に浘楊駅な!?待ち合わせ場所の駅構内の地図は後で送るから。いいか、6時だぞ!?」

「はいはいはい。何泊するの?」

「一泊だ」

「短っ!?それ合宿じゃないわよ!?」

「大人の事情って事にしといてくれ。持ち物は自分が必要だと思うやつだ。あとは任せた」

ツッコむとキリが無さそうだから、これぐらいにしておこう。


読んでいただきありがとうございます。

新キャラ登場。八神夢路さんです。

能力は「消失の法則」。〈ロストモノクローム〉と読んでください。ネーミングセンスには触れないでね。

彼女の出番は暫く無いです。その内夢路の話を書きたいなとは思ってます。ツインテール最高!


次回も新キャラ出すつもり(予定)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ