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廃迷宮-ハイメイキュウ-  作者: 柚木 空音
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終末をオウカせよ


トリップした意識が戻り私は目を覚ました。

「ここは誰!私はどこ!」

「ボケ方がベタすぎるよ!?それより急に意識を失ってて…大丈夫?」

「急にって…?貴方たちが無理矢理覚醒させたんじゃ…」

松本の返答に違和感を感じながらも、辺りを見回す。そうここはあのスーパーから少し離れた場所。

だが“いつも通り”は私を襲った。

「黒い…影?」

もう見慣れた場所に先程とは違う明らかな相違点。黒い影のようなものが霧のようにビルの壁や歩道を這っていた。

「あれが霊〈ゴースト〉だよ」

風見さんが言う。

「さっき話した通り人の怨念ですね。普通の人には見えないがふと魔が刺すと悪事を働く」

「じゃもしかして追ってる万引き犯は?」

「警察じゃ手に負えないかもなあ。一般人が関わるとちょいと面倒なことになるから俺たちが浄化しないと」

「そうなんだ…あ」

私は松本の手に握られてる紙を奪った。

「何か見えたのか?」

「もしかして、これって念写?」

「限りなくそれに近いな」

白紙に見えたその紙は今はハッキリと犯人らしき人の顔を写していた。

「分かったかも」

紙から思念が伝わってくる。ここはどこの街…?くる時乗った電車、その線路沿い、古い団地、息を切らしてフラつく男、その影に潜む怨念…。

もしかして、これは未来?

「大丈夫か?顔青いぞ」

「問題無いわ。犯人の居場所が分かった」

「よしきた!やっぱり桜花ちゃんがエデンに来てくれて良かったー!」

雛子ちゃんが微笑んだ。可愛い、天使。

「皆の分のトランシーバーだ。エデン出動」

トランシーバーを受け取り握り締める。

大丈夫、皆がいる。私はひとりじゃない。

「桜花と僕で後ろから指示するから攻撃スキルを持つ風見、雛子ちゃん、山田は攻めてくれ。桜花、見えた事を伝えて」

私は瞼に浮かんだ憧憬を言葉にする。

「えっと…真っ直ぐに行って、3番目の交差点を左に曲がると線路沿いに出るからそのまま沿って走って。すると袋小路だから。近くに団地が見えるところよ。犯人はそんなに離れてない…。多分交差点を曲がった辺りにいる…はず…」

見えたままの景色を言葉にして紡いでいく。

「アイサー!今日はちょっと派手にやっちゃおっ」

告げ、三人は疾風の如く走り出した。

「僕たちは彼方で待ち伏せしよっか」

安心させるような笑顔を私に向け松本は言った。

「うん」

頷き、私たちも走り出す。予感は確信へと変わりこの並外れた運動神経は気の所為では無いと、改めて自分自身が化け物であると思い知らされた。

ビルの合間を飛び、袋小路へと向かう。すると松本のトランシーバーから山田の声が響いた。

「ターゲット発見。かなり霊〈ゴースト〉に精神を喰われてて歩行困難な様子っす。どーする?」

「侵食されてるか…。下手に刺激するなお前らの魂も喰われるぞ」

そう松本が忠告した瞬間、青白い閃光が夕焼け空を突き刺した。

「ターゲット暴走開始しました」

「僕の言った事聞いてた!?コントやってるんじゃねーよ!てか何したし!?」

「いやーちょっと派手に撃ちたかったんですがねぇ」

「ちょっとじゃねえ!事故だこれは!」

松本は歯を食いしばると頭を抱えた。

「桜花、予知できるか」

「多分」

走っていた速度を緩め、目を瞑る。さっき見た光景と変わってない。私は左手に握り締めていたトランシーバーを山田に伝えるべく口元に近付けた。

「山田聞こえる?大丈夫だからそのまま攻撃して追い詰めてちょうだい」

「本当に大丈夫なのか?おけ、りょーかい!」

閃光が上がった場所から粉塵が舞う。非現実的な場面に思わず見惚れてしまった。

「あの馬鹿!やり過ぎだ…。さあ急ぐぞ」

松本が私の手を握り引いた。いきなりの事でびっくりしたが緊張していたのか、その手は暖かくて無意識に握り返した。

「世界、案外つまらなくないだろ」

「…うん」

「お前の能力はゴミなんかじゃないだろ」

「…私、ちゃんと役に立ってる?」

「もちろん」

「…良かった」

赤面していくのが分かる。ありがとう、って思ったけど恥ずかしくてそんな事は言えなかった。

「さあさあ今宵の宴はもう終わりだ」

「宵じゃなくてまだ夕方だけど…」

「うるさい!気にするな!」

ビルの屋上から地面に着地し、団地の敷地内へと入る。

奥へ進むと袋小路にしゃがむ青年の姿と瞳を異色に染め、能力を身に纏った雛子ちゃん、風見さん、山田がいた。

「やっほ松本、指示通り追い詰めたよ」

「お疲れ様」

すると松本はポケットから古めかしい懐中時計を出して手を伸ばし、唸る青年の顔の前に突き出した。

「ア…ァア…」

「君の悪事は此処で終了〈ゲームオーバー〉だ」

松本の能力。それは時を統べるもの。

瞬きが終わった時には意識を失い横たわる青年と盗んだ商品らしきものが松本の手の中にあった。

「浄化終了。万引きなんてもうしちゃ駄目だよ」

「お疲れ様。璃空に連絡取りますね」

慣れた手つきでケータイを取り出し風見さんが電話をかけた。おそらく相手はスーパーだろう。

そんな中空気が凍り付いた、いや流れが変わったような、まるで日常アニメだと思ってたらジャンルがホラーだったかのようなそんな感じだったきがする。

私たちがいるところから少し先に人がいた。

「よう松本」

「細川…」

松本と同じくらいの身長の青年。

同じ人間のはずなのに別次元の世界の人の気がして仕方がない。

「あれぇ?君が新人ちゃん?」

細川と呼ばれた青年が近付き前のめりになって私の顔を覗きこむ。

その瞬間、あの能力が発動し私を吐き気の渦へと吸い込んだ。

「ああ、ナルホド。最後の能力、死相が見えるのか?どう?俺の死ぬ姿は見えたかい、デッドジョーカー?」

この人…私の能力を見破った?いや、それとも私がこの能力を手にする事を知っていた?

「それ以上桜花に近寄るな」

「ゲホッ…以上も何も近寄りすぎて嫌なんですけど…ッ!」

吐き気で咳き込みながら私は言う。

それより、今見た光景は…。

「見えたかい?デッドジョーカー」

「何そのあだ名気持ち悪い」

細川の問いに思わず素で返してしまう。

「み、見えたって桜花…、一体何を?」

「松本は知らないのか?いや、知らない訳はないよね?」

挑発するような、嘲る笑いで松本を煽る。

「世界が消滅しちゃうんだよな、ねえジョーカー」

「え…」

その一言でその場にいた全員が目を見開いた。

「え、桜花本当なの?」

「はっきりは言えないけど…それに近かった」

「えー?ユーもっとはっきり言っちゃいなよー?」

こいつうぜぇ。

煽る奴を前に私はさっきみた光景を再び思い起こす。

石板、予言、崖、殺人鬼、裏切り者、…???

最後の方はノイズが激しく映像が乱れて見ることができない。あともう一ついえること、それは。

「人を殺しちゃうんだもんね〜」

「うるさい…!え、てか今私の心を…」

「な訳、俺氏の能力は念写だぜ?」

念写…?

あ、そうだ…。璃空ちゃんが松本に渡したあの紙って念写だったんだっけ?

その前にちゃん付けしていいのか?璃空くん…と呼ぶわけにはいかないし。うわ、超どうでもいい。

「良い加減にしろよ細川、そろそろ勿体ぶらないで話して頂きましょうか」

痺れを切らしたように風見さんが前へ出る。

「ここの人たちは〈神憑りの狂宴〉について聞いてないのかな?新人ちゃんが来るまで仲良しクラブのマジックショーだったもんね。夢路でも知ってたのにな〜」

「神憑りの…狂宴?」

表情が歪む。

「簡単に言うとトレジャーハンティングなデスゲーム。裏切り者を探すんだよ。アンダースタンドゥ?」

「その言葉を出すな外道…」

「松本…厨二病会議の事知ってんですか?顔色が信号機のように変わりましたよ」

「赤から青に変わる訳ないだろ?変な例え出さないでくれ」

両手で顔を覆いながら松本は呼吸した。開いた口からかぼそい声で語る。

「やっぱり松本は知ってるみたいだね?そこの男性陣は音葉くんと仲良いはずだから知ってると思ったんだけどなぁ。あ、そうか松本が知ってるのは8年前の悲劇を」

「うるさい、黙れ。音葉から聞いた、えっと…夢の中で」

「なら話は早い。近々音葉くんからまたそっちに記憶を通じて干渉してくるだろうよ。あと、えーっともういいや。俺はもう口が渇いて疲れたから帰るわ。新人ちゃんの顔を見たかっただけだし。さーて帰ったら炭酸麦茶を」

「待って」

震える声で私は叫んだ。

「なんだよ、早く帰らせてよぉ」

「こんな能力いらない。だからゲームを辞退させて」

彼は進めていた足を止め振り返った。

「無駄だよ。辞退したら君は首チョンパ。しかも君が辞退したことにより、新たな〈能力者〉が生まれてまた面倒なことにある。そうしないと葉夕ちゃんみたいに強制終了されちゃうからね。あと、こんな能力っていうなよ。俺は素敵な能力だと思うぜ?良かったら今度何か奢るけど」

「黙りなさい」

口説かれた気がした。


✳︎


「そんじゃ解散」

あの後雛子ちゃんの能力で細川の前髪を焦がし、山田の能力で顔を目掛けて寸止めで弾丸を放ち、チリチリになった前髪の彼を黙らせて帰らせた。傍から見てると拷問にしか見えませんでした、はい。

松本の一声でそれぞれが家路につく。

私の前を歩く風見さんの背中を見て、少し腑に落ちなかったことを思い出した。

「ねえ、風見さん」

「呼び捨てでいいですよ、どうかしましたか?」

「よ、呼び捨てだなんてそんな…」

仮にも年上だし、敬意は払いたいところである。

「まあいいや、で何ですか?」

「先程の能力についてですが…」

「表情が信号のように変わること?」

「え!?それ能力なんですか!?」

「決め台詞は〈絶えず変わりゆけ〉」

「方丈記っぽいけど、ちょっと意味が分かりませんよ!?」

意味が分からないどころか風見さんそんなキャラだったの!?なんていうか凄く意外…。

「それは冗談で」

「冗談じゃないと私と風見ファンが泣きます」

「俺のギャグセンスに不満がありました?」

「不満どころか不安だらけよ!話戻してください!」

「えっと…何だっけ?細川の前髪の話?」

「もうやめてください!私の意識を〈仮想空間〉に飛ばした話です」

「え…?」

まだ呆けるのかこの人は…。

私が気になっていたこと。

まず、あの23秒の出来事。今までの話を整理してもとてもじゃないが風見さんが意識を別の場所に飛ばせるとは考えられない。少なくとも音葉と面識はあるみたいだが、あの能力は誰のものかさっぱり理解できなかった。

「風見さんが私の意識を飛ばしたんじゃないですか?」

「何を言っている?俺は意識を飛ばせることなんて出来ませんよ?大体俺は貴方に目隠しプレイなんてしてませんから」

「恥じらいもなく変な事言わないでくださいよ。え、でも実際に飛ばして音葉と…」

音葉。やっぱり奴が〈能力者〉か。

仮に奴が〈能力者〉だとしたら能力は何だ?他人に化ける?それとも意識を乗っ取る?

「風見さんは黒マント、音葉について何か知ってることはありませんか!?何でもいいので」

考える仕草をした後、彼はやっぱり「夢に出てくるぐらいですかね」と呟いた。

「もう遅いから高校生は早く帰りなさい。なら俺が送っていきましょうか?」

「大丈夫です。引き止めてしまってごめんなさい」

私はそのまま風見さんと別れ駅のホームへと行く。

そんな私の姿を上から監視する黒い影には気付かなかった。


次回からは新章開幕です。

趣味でぼちぼちブログで書いていましたが、あまりにも処理落ちが酷いのでこちらで投稿することにしました。

さて、この物語は一応推理というジャンルにしています。

内容は「この中に世界を滅ぼす能力者がいるから裏切り者を探してね」というものです。拙い文章ですが、誰が裏切り者か推理してくれたら嬉しいです。

これから宜しくお願いします。

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