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廃迷宮-ハイメイキュウ-  作者: 柚木 空音
3/11

その名はエデン


「エデン?」

「そう、エデン。いい名前だろ。さすが僕、超天才エリート自称東大生」

「あなたが自称天才なのはどうでも良くて、しかもどう見ても大学生に見えないし…で、そこは何してるの?」

「まず、僕のことは親しみを込めてツモって呼んでね。エデンは探偵事務所だと思ってくれていい」

「いきなり!?何そのセンスの無い麻雀みたいなあだ名は…探偵ってホームズとかの?」

「桜花ちゃんは噂通り毒舌だな。まあそうだね、多少語弊があるかもだけど僕たちは探偵だ」

「そう」

「真顔!?!?興味示さないの!?!?」

ところで、なぜ私がこいつと話しているかというと1時間前に遡る。

本来死ぬはずではなかった子を助けてしまった私、桜花は他の人が死ぬ運命を作ってしまい、神様なんて死んじゃえって言ってたら松本が現れて、無理矢理誘拐されて今彼と一緒に電車に乗っている。

「そーいやあんた何でも知ってるって言ってたわよね?なんでこの能力が」

「しっ」

松本は人差し指を立てて囁いた。

「聞かれたらまずい事だってあるだろ。とりあえず事務所行ってから」

「例えば?」

「は?」

「まずい事の例を言ってみよう!松本先生わかりません!」

「桜花ちゃんの思考回路の方が分からないよ!?」

目的地まで時間がかかるみたいだし、無茶ぶりしてみました、てへ。

「これは僕の昔の話だ」

あ、結局話すんだ。

「小学校の頃、友達とその家族とファミレスにいったんだ。それで僕、ミトコンドリアくださいって言ったんだ」

「…」

「僕はミラノ風ドリアが食べたかったんだ」

「…乙です…」

「分かっただろ!?これがまずい事の例だ」

「てかこれまずい事と言うよりも黒歴史だと思うけれど」

「ハッ!?」

なにこの人馬鹿なの…?

そんなくだらない雑談をしてる内に目的の駅に着いたようだ。腰掛けてた椅子から立ち上がり、駅のホームへと出る。

「桜花ちゃん…否、桜花よ…僕のこの恥、いつか貴様に返す」

「はいはい。あなたって頭おかしいわね」

「ガーン」

うん。やっぱり頭おかしい。私確信しました。

「ここからどれぐらい歩くの?」

「五分くらいかな。ちょっと道が複雑だからしっかり僕の後ろについて来てね」

「分かったわ」

駅の外は都会から余り離れていないだけあってファストフード店や雑貨屋で賑わっていた。そんな大通りと逆側に松本は手招きすると駅の線路沿いに歩き出す。

歩くこと五分、今にも地震で倒壊しそうな寂れた2階立てのアパートが見えた。窓にはEDENというゴシック体で書かれたポスターが貼られている。

「ここが事務所だよ」

「…汚い」

とりあえず正直に言ってみた。お化け出そう、いやマジで。

「支給される金が少なくてここしか借りられないんだ。我慢してくれよな?」

「…ん?支給って言うからにはエデンの上にさらに偉い人がいるって事?」

「そうだな。この能力を押しつけた人ならざるものがいる。とりあえず入ってくれ」

軋む階段を上がると、プレートが掛かったドアがあった。こちらも無駄に凝ったデザインで『探偵事務所エデン 貴方の悩み解決します』と書かれている。

松本は右手でドアノブを掴むと、ゆっくり開けた。

「ただいまー!みんなお待たせ!松本くんだよ☆」

うわ…テンションおかしすぎだろ…

「おかえりー!帰って来なくて良かったのに」

そう冷たい言葉で迎え走ってきたのは小柄な女の子。短い髪を左側でシュシュで括っている。制服を着ている事から学生なのだろうか。

「あれ?あなたが桜花?」

その子が私に聞く。今一状況が把握出来ないが私は徐に頷いた。

「いらっしゃい、わたしは雛子。外暑いだろうから入って」

「そんな訳でこいつは雛子って言う」

「は、はあ…」

言われた通り事務所の中に入る。見かけと異なり、中は綺麗でよく整理されていた。

「えっと、まずは自己紹介だな。今日は全員揃ってる?」

「いるよー!特に山田なんかまた学校サボって朝からいるんだって!風見っち激おこだったよ」

「あいつニートには本当辛い事いうよな…」

「呼びましたか?」

そう言って奥から出てきたのは眼鏡をかけた長身の男性。なかなか綺麗な顔をしている。

「俺は風見。風を見るで風見。えっと…能力は…」

風見さんはそう言うと両手を広げて前に突き上げた。するとシュッと軽い音がして、私の背後のカレンダーが破れ落ちた。いや、破ったというよりまるでカッターで切ったような断面だ。

「俺の能力は風を使って刃のように切る能力です。」

営業用笑顔で彼は言った。

「因みに能力名は〈エターナルゲイル〉っていうよ」

何その厨ニ臭い名前…

「僕が考えたんだよ!」

「やっぱりあんたなのね…」

「何その全て悟った感は!?!?僕傷付いちゃうよ!?」

「はいはい。どーぞ」

本当松本めんどくさい…

「わたしは火を操るんだよ」

隣からひょっこりと雛子ちゃんが顔を出す。

「〈エンハンスグロウ〉とかの名前らしいけど正直どうでもいいやー。炎威陽炎って書くんだっけ?なんで炎がふたつもあるのかなぁ」

「そこがポイントなんだよ!エンハンスだよ!?高めるんだよ!?」

「ねえ雛子ちゃん、松本って厨ニ病?」

「そうなの!しかもセンスないし、おまけにニートだし!」

「なんか僕悪口言われてる!?」

とにかく松本は絶対弄られキャラだな。何故か無償に弄りたくなる。

「皆楽しそうじゃん」

金髪の少年がノートパソコンを抱えて奥の部屋から出て来た。

「山田来た!また艦これやってたの!?」

雛子ちゃんが尋ねる。

「悪いか」

多少キツい目付きをしているがよく見るとかなり童顔の少年だ。そして小さい。私とあまり変わらないぐらいの身長だ。

「よお、山田。新入りの桜花だ。お前と同い年だったっけ?自己紹介してくれ」

なんか私誘拐された上に新入りになってる…

「山田だ。熱の弾丸が作れる能力を持つ。宜しくな」

「うん、よろしくね」

そう私は言って差し出された手を握り返した。関係無いけど男の人の手って大きくて良いよね。

「それで、だ」

松本が話題を切り出す。

「桜花に質問だ。能力の事だが一体いつからだ?」

「確か…高校入ってからだった…かな?」

うろ覚えで気が付いたら狂った目になっていた。自分でも原因や発動条件が定かにはなってない。

「何か分かるの?」

「そうだな。ついでに言っておくと皆“気がついたら”そうなっていた。」

「気が付いたら…か」

「わたしもよく分かって無いんだよね。桜花ちゃんの場合能力が形を持たないから余計に分からないなあ」

「ここからは僕の推測だが」

近くにあったホワイトボードに松本が汚い字で“黒マント”と書き殴っていく。

「夢の中で黒い服を着た人物に会った事は無いか?」

「あ…」

思わず声が漏れる。そうだ、繰り返し変な夢をみたんだ。内容は薄らいでいるけど、出てきた人物だけははっきり脳に刻まれている。

「やっぱりそこは共通してるんですね…」

風見さんが呟いた。

「15年前、この地区だけで大規模な地震があったニュースを知ってるか?」

「大地震なのに隣の県には全く被害が無かった事件だよな?知ってるけど、もしかしてそれが関係してるのか?」

PCを弄りながら山田が尋ねた。

「その時“この世界の神”は死んだんだ」

「はいはい厨ニと解説乙」

「聞いてくれよ桜花ちゃん!!!」

解説長いよ!?もうそろそろ読者が飽きてくるよ!?!?

「新しくできた神とやらがわたしたちに能力を与えたんでしょ。もう聞き飽きた」

「だってよ松本」

「フェ!?」

凄く長くなるかもだけど、纏めてみると多分こうなる。

この世界には“神”と呼ばれる者がいたんだけど、謎の天変地異によって消息を断ち、時間差があるもののランダムで能力をばら撒いた。その能力を私たちは探偵の職として扱っている。

あれ、あんまり長くならなかった。

「まあ僕は新しい“神”と面識があるんだが…」

松本が言葉を発した時、ホワイトボードの隣にある電話が鳴り響いた。

音速並みの速さで電話を取る。

暫く「え、あ、はい…本当なの!?ごめんね!え、あ、今日も君は可愛いよ。うん本当!!本当だよ!」を繰り返していると受話器を置いて私たちの方を見た。というかどんな会話ですか。

「依頼だ」

「え、何?オレオレ詐欺の電話に引っかかったの?」

「違うよ!?僕がそんなドジっ子に見えるかな雛子さん!?!?」

「で、何の依頼だよ」

うざったそうに山田が聞く。

「璃空の店の万引き犯が逃げたそうだ。因みに訳有りらしい。あと、桜花ちゃん、初陣だ」

「やめてよ、戦争みたいに言わないでくれるかしら」

「拒否られた!?」

初陣だなんて…。しかし訳アリって何だろう?

「そっか桜花の能力は覚醒しきってないんだったね」

彼はまた低く、低く呟く。

「こっちとあちらの狭間を見せてやるよ」

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