元勇者の再臨譚
1.魔王
この国には伝統的に伝わる話がある。子どもでも知っている話だ。
それは500年前に初代勇者によって倒された、世界を滅ぼす魔王が蘇り、世界を滅ぼそうとする話で、それに立ち向かえるのはその時代の勇者だけだという話だ。
以後、何度か魔王は蘇り、勇者に倒されてきた歴史がある。
そして俺はその元勇者だ。勇者アマルと言えば当時は国中に知れ渡っていた。
実は元というのはあり得ない話なんだ。過去の歴史では史上初と言えるだろう。
何故かというと勇者とは生まれながらの勇者で前の勇者が死ぬと、その力が相応しい人間に宿るといわれている。
今まで大体の勇者は短命で40手前で亡くなり次の勇者に宿っている。
俺の先代も38で亡くなり、俺が生まれた時に力が宿った。
この力は体の一部に痣と共に現れ、怪力、超人的な身体能力と体力、この3つの常人とは考えられない能力を身につける。
そしてこの力を身につけている者が勇者と称えられている。
俺も小さい頃から国中からちやほやされながら育ってきた。
そしてこの力を披露して国に貢献してきたつもりだった。
15歳の頃までに天災があれば1人でも多くの人間を救い、魔物の生き残りから人々を守り、時には1人の子どもが国から出てしまい、魔獣に囲まれた際は体を張って守り抜いた。
俺は自分に出来る事をしてきたつもりだった。
しかし、ある日、国を追われる事になった。
原因はもう1人の勇者の誕生だ。
勇者イデアル、俺が生まれた10年後に生まれた勇者だ。
俺と同じ能力を持ち、同じ痣を持って、貴族として生まれた。
国中が混乱に陥った。同じ時代に2人の勇者が生まれた事を災いと認定されてしまった。そして何の根拠もなく俺を偽物と呼び、貴族の子であるイデアルを新たに祭り上げられた。
そして俺は国から追放された。
イデアルとは一度だけ話をしたが、俺は悪い印象を受けなかった。
「なぜ、勇者は1人でないといけないのですか?」
「それは俺にも分からない」
イデアルは子どもながらに立場を奪ってしまった事を苦しんでいるのが分かった。
それでも俺に手を差し伸べてきた。
「いつか一緒に戦いましょう」
小さい子どもながら、はっきり言った。
「俺はもう勇者じゃないから一緒に戦うことはできないよ。イデアル、国を守ってくれ」
俺は差し伸べられた手に応える事ができず、挙句の果てにどちらが、子どもかわからない回答をしてしまったが、イデアルは強く頷いた。
俺は自分の役割は本当に終わったと確信した。
15年経った今では国外の小屋で誰とも関わらず自給自足の生活をしている。
それに不満を持っているかというと、意外と気に入っている。
気楽に生きている。
もう2度と国の為に戦う事はないだろう。
話が脱線してしまったが、今、大事な話として魔王マルールが蘇った。伝説として残っていた話の通りの強さで、あっという間に国中を恐怖に陥れた。
勇者以上の力を持ち、獣を魔獣に変えてしまう力を持っていた。
魔王は廃城を拠点とし、近隣の獣を魔獣に替え、勢力を増やしていった。
今までバラバラに生き残っていた魔獣をさらに増やし、統率して軍勢を率いて国を何度も襲ってきた。
派遣された兵士達は誰一人帰ってくる事はなかった。
人類は最後の希望として勇者の伝承を誰もが信じ、祈った。
そして伝承の通り勇者が立ち上がった。勇者イデアルは俺が追放された時と同じ年齢だったが、既に完成された強さを持っていた。
俺が15の頃より強いだろう。いや、今現在の俺よりも強いだろう。
城下町と廃墟の間に俺の小屋がある為、どうしても気になってしまい、情勢を覗いてみると魔獣の軍団くらいなら問題にならない程圧倒していた。
これなら俺の力は必要ないだろうし、そして力を求められていても今更他人の為には戦えないと考えていたのでちょうど良かった。
均衡状態が続いていたが3か月も経つと状況が変わってきた。人間側が勇者を中心に魔獣を撃退し、徐々に数を減らしていった。
魔獣の方が個の強さでは普通の人間よりも強いが、数で上回る人間に次第に押されていった。何よりも勇者自身が前線に出ている事が魔王軍との大きな差になっていた。
イデアルは圧倒的な力で獅子奮迅の働きを見せていた。魔獣の集団では止める事が出来ず、魔王も前線には出てこなかった為、人間にとっては最高の結果が続いていた。
イデアルは若いが人望もあり、圧倒的な強さによって国民のヒーローとなっていた。
剣を片手に最前線で毎日戦い、国民に火の粉がいかないように全力を尽くしていた。その姿に子どもから老人まで幅広い人間に支持されていた。
城下町を囲む城壁を出ると一面草原が広がっている為、見通しがよく急な襲撃も無いため、人々は次第に平穏を取り戻していた。
しかし、そんな日々は長く続かなかった。
イデアルは戦場の誰よりも強く、勇敢であったが、その武勇は長くは続かなかった。
活躍しすぎた為に魔王にたどり着いてしまったからだ。魔王は伝説に違わぬ強さだった。戦場で誰よりも活躍したイデアルが何もできずに殺されてしまった。
イデアルと魔王は何度も剣と鎌を打ち合い、互角の戦いを見せていた。
しかし焦ったイデアルが大きく斬りかかると魔王はイデアルの剣を躱し、魔王が所持していた鎌のような、槍のような武器でイデアルの胸を貫いた。
その一突きでイデアルの命は奪われてしまった。
イデアルが最後に何かを魔王に伝えているように見えたが、声は聞こえなかった。
魔王も小さく笑い、頷いたように見えた。魔王は知性を持ち、会話する事ができるようだ。
イデアルが動かなくなると、周りの兵士達は助けに入るどころか皆逃げて行ってしまった。
国中に希望はなくなった。後は残された道は交渉しかない。
魔王が対話でき、なおかつ要求を飲むことで助かる以外に道はないと思われ、国中から希望や笑顔がなくなった。
送った使者は1人も戻ってこなかった。魔獣の進行は止まらず、イデアルを失った人間たちはどうにか押し返すのが精一杯だった。
そもそも勇者1人に頼り切りだった国の体制がおかしかったのだ。誰一人勇者の勝利を疑わなかったのがおかしい。結局1人の力で出来る事なんて人間である以上限界があるのに、1人の人間に責任や命運を託して思考を放棄した事が間違っているのだ。
俺は自分が立ち上がる事など考えず、1人小屋で余生を過ごす事を決めた。
人間が勝とうが、魔王が勝とうが関係ない。火の粉を振り払うくらいはできるが、今さら自発的に動く気は起きない。
イデアルとは同じ力を持った者として気になっていたが、あの結末を見てしまうと、なおさら動く気は起きなかった。
俺よりも強く、若い人間が挑んでも勝てないのだ。今更、俺程度が名誉欲で立ち上がったとしても、結果は変わらないだろう。
そもそも魔王が復活した際に声がかからなかった時点で、誰も俺を覚えてはいないだろう。15年という月日は1人の人間を忘れるには十分な時間だ。
そもそも公式には元勇者アマルは勇者を語った罪で処刑されている事になっている。真実を知る人間たちも俺を表舞台に出すのは気が引けたのだろう。
自分たちの保身の為に勝率を減らすなんて、惨めな事だろう。もしかしたら俺とイデアルが組めば結果は変わっていたかもしれない。
それでもたった1人の人間に妄信してしまった結果が現状だ。
俺はイデアルの二の舞にならないし、求められてもいない以上、のんびりと余生をすごさせてもらう。
魔王から世界の半分をやるから俺の部下になれと言われれば再び表舞台に出るかもしれないが、それ以外では考えられない。
2.勇者
勇者が亡くなると次の勇者が生まれる。
それは何百年と続いてきた伝統だった。勇者イデアルが亡くなった以上、次の勇者が生まれる。
それは赤子としてなのか、すでに生まれている者に力が受け継がれるのかはわからないが、近いうちに新しい勇者が生まれる。
勇者の力は魔王に対する世界の抑止力だと考えられている。
伝説では魔王が先に生まれ、世界が絶望に瀕した際に勇敢な人間が立ち上がり、戦いの中で力に目覚めていったと言われている。
神様は傲慢で救いがなくなった人間を滅ぼす為に魔王を生み、それに立ち向かっていった人間を認め、勇者を生んだという説もある。
国民の大半が絶望にいる中でも、歴史を知る一部の人間たちからは勇者は魔王を倒す為に生まれたものである以上、魔王が存在する限り、勇者も生まれると信じ続けられていた。
そんなわずかな希望もイデアルが死に半年が経った今では薄れられていた。
次の勇者が生まれなかったからである。
それでも人間が踏みとどまっているのは、前線で戦いを止めない人達がいたからだ。
数は減り、経験豊富で優秀な人材ほど倒れ、今では若い義勇兵状態になっているが、それでも皆それぞれ何かの為に戦っている事で、最悪の状態からは逃れている。
俺も人間だからか、ついつい攻め込まれると覗きに来てしまっているが、よく頑張っているとは思う。
魔王こそいないが、魔獣も人間1人では到底勝てない強さだ。知能こそないが、動物としての温厚さを失い、人を襲う事しか考えず、それでいて統率だけは取れている。
死ぬまで襲われ続けるのは恐怖であろう。
そして、国が勇者と認める人物が現れた。
痣もなく、力も常人の範疇だが、それでも勇者を名乗った。
名前はポーネ。イデアルよりも5歳くらい年が上くらいで、成人して間もないという印象だ。
何度か戦場で見たことがあったが、非常に勇敢で何よりも誰かを守る為に力を発揮するようなタイプだ。
仲間が傷つくとそのカバーに入り、自らの役割を全うするのが得意なのかという印象を受けていた。
勇者としては力不足だが、何かの案で名乗らされているのだろう。
正直軍の中でも中の上、いや、今の現状なら上の中くらいだが、それでももっと強い人物はいた。
それでも何か作戦があるのだろう。
勇者が現れるも現実は何も変わらなかった。
ポーネに肩書がついただけだ、魔獣にとっては何も変わらない。
相手が人間であれば多少の牽制になったかもしれないが、何も効果はなかった。
それどころか最悪の結果を生んでしまった。
城壁を囲むように、残りの魔獣を全て集結している。そして何よりその中心に魔王がいる。
魔王が最前線に出てきてしまった。
魔獣の集団に対抗して兵士達は同じく城壁を囲むように全戦力を集めるが、大きく上回る事はできなかった。
戦いは始まり、魔獣を抑えるように兵士も前に進む。主に2対1の状況を作り、踏みとどまるも数を減らすことはできなかった。
そしてポーネは魔王と相対してしまった。彼は仲間を周りの援護に向かわせて1人魔王を抑えようとしていた。彼もここまでだろう。
「お前が勇者か?」
「そうだ」
ポーネは精いっぱいの声を出している。
「イデアルが言っていたもう1人の勇者か、期待を大きく下回るな」
ポーネはその言葉に笑みを浮かべた。
「イデアルさんがそう言っていたのか」
何度も頷き、胸を叩き、剣を構えた。
「確かに俺ではないが、もう1人大勇者はいる。僕の小さい頃からの英雄だ。僕はその人が帰ってくるまでの繋ぎだ。だからそれまでは僕がこの国をあの人のように守るんだ」
「誰を待っているのか知れないが、居ないのならこのまま今日でこの国を終わらせるだけだ」
魔王は鎌を振り下ろし、ポーネは剣で受け流し、距離をとる。
何度か打ち合うも、ポーネは防ぐ事に専念することによって生き残っているが、勝ち目は見えない。
そもそも魔王もイデアルを仕留めた時よりも力をセーブしているのか、余裕が見える。
何度目かの打ち合いでポーネの剣が手から離れてしまった。
その瞬間に俺は駆け出してしまった。本能的な物で動き出してしまった。
魔王がポーネに鎌を振り下ろそうと振り上げた時に間に入ってしまった。
「アマルさん!」
後ろから大きな声が聞こえた。
前方には魔王がいるため、振り返れないが、ポーネは俺の事を知っているようだ。そして何より先ほどの話に出てきたのは俺の事のようだ。
「お前が勇者か」
「俺は・・・・」
魔王の問いに勇者とは答えれなかった。勇者の称号はもはや過去のものだし、これから戦う覚悟もできていない。
それでもイデアルの時のようにポーネを見捨てたら、俺は生きているのも辛い状況になってしまうだろう。
「俺は勇者を守る仲間だ」
魔王は答えに納得したのか、鎌を振り下ろしてきた。俺は剣を構え何度も受けた。
自分と同等の力を持っている相手と戦うのは初めてだったが、戦う姿を2回見ていたので、対応できた。
徐々に反撃ができるようになったが、こちらの攻撃も同様に防がれてしまう。
少なくとも無理に倒しにいかなければ魔王を抑えれる事ができるようだ。
最大の駒を予想外の駒で抑える事ができたのは戦況として大きい。
「ポーネ、お前は周りの援護に迎え。数を減らすのが先決だ」
「はい」
ポーネは大きくうなずき仲間の元に戻っていった。魔王と相対して生き残った勇者が加われば士気が上がり、数の優位を活かして多少は戦況が変わる事を期待した。
その後、何度も打ち合うも生き残る事を優先とした俺の戦いを魔王は崩せず、魔獣は少しずつ数が減り、それが時間と共に大きくバランスを崩し、一気に人間側に傾いた。
このまま行けば勝利は時間の問題となっていた。
「なるほど、まだ完全に人間は見放されていないようだな」
魔王は一人で納得すると、矛を収めた。
俺は追撃は危険と感じて、警戒しながらも見送った。
その後は身を隠し、周辺の状況を探ったが、魔獣を退ける事に成功していた。被害はなかった訳ではないが、最小限に抑えれたようだ。
その中心にはポーラがいた。魔王と打ち合い、生き延びた勇者がいるのだ。士気もあがるだろう。同じ年代の人間と固まり、皆、喜びと希望に満ち溢れた表情をしていた。
国中に希望が蘇っていた。いやイデアルが居た時以上の希望に溢れていた。
それもそうだ。勇者が敗れた相手に生き延びて、何より総合的に見ると勝利しているのだ。
3.真相
国中が沸いていた。その中で英雄が放った一言でより希望が湧いていた。
「勇者アマルが生きていた、国を見捨てていなかった」
この事実は特に20代の現主力兵士達を活気づけた。
子どもの頃の記憶は意外と残りやすい。当時憧れたものや好きだったものは大人になっても何となく残っているし、影響を受けてしまう。
ポーネの世代はどの子どももアマルに憧れていた世代だ。
アマルは強いだけでなく、必死だった。いつも全力を出している事が子どもには伝わっていた。子どもは大人以上にそういった感情には敏感なのだろう。
国中の兵士がアマルの名前を呼び、それが伝わり、国民が名前を呼び続けた。
だが、アマルは応えなかった。何て都合が良い生き物なのだろうと余計に思っていしまった。
ただ人よりも優れた力を持ってしまったが為に、勇者などという危険な地位に持ち上げられて、挙句にもう1人同じ力を持って生まれた人間ができたら捨てられて。
危険がせまったらまた求められる。
こんな都合の良いものはないだろう。
俺はヒーローじゃないんだ。困っている人を見たら助けたくなるDNAなんて持ち合わせていない。
もちろん勇者を名乗った時は、そういった使命感を持っていた時もあったが、仕事としてやっていたのだと、今になって気づく。
どうせ今戻っても魔王との決着がつけば都合が悪い人間によって処分されてしまう。
そんな中、のこのこ誰が顔を出すものか。
国民の期待とアマルの思惑がすれ違う中、国の中枢の決定は部隊の派遣だ。
相手の戦力が減少、いや崩壊しているうちに魔王を叩こうという作戦のようだ。
英雄ポーネは反対したが、決定は覆らなかった。ポーネを中心とした若手部隊を除いた主力部隊が全戦力派遣された。
魔王は廃城にはいなかった。廃城を訪れた兵士達を迎えたのは魔獣の群れだった。
その頃魔王は国を終わらせる為に単身乗り込んできた。
その姿を見た国民は慌てて隠れるが、魔王は国民には全く見向きもせず、城へ向かった。
城の門にたどり着くと兵士は逃げ、中に入ってしまった。
まともな兵士は外に出て、若手部隊はアマルの捜索に出てしまった。
現在戦える人間は中にはいなかった。魔王は王様を探して城を彷徨い歩いていたが、王は豪胆にも王座に腰をかけて待ち構えていた。
「何時の時代の勇者か知らんが何の用だ」
「知っているのか、さすがは腐っても王族だ」
「わしに何の用だ。殺しに来たか?」
「知っていることを話せ。私は最後に魔王を倒した勇者マルールだ」
「成程、最後の勇者か」
王はため息をつき、立ち上がった。
「わしの知っている事など、勇者と魔王は根源を同じにしている事と、初代勇者と言われている人物が倒した魔王が、国の英雄と呼ばれた勇者の弟が蘇ったという伝説程度だ」
「何故私は蘇った。そして何故愛したはずの国を憎まなければいけないのか」
「勇者の最後程、悲惨なものはないだろう。英雄は称賛を受けた後は恐れられる。歴史が語られているだろう。詳しくは知らないが、何か裏切られて殺されたのだろう」
王は目を閉じ、うつむき言葉を続けた。
「蘇っているのは神の力と言われている。伝承自体が曲げて伝えられているが、人間を守る為に勇者が産まれ、人間が力をつけすぎて、環境に悪影響になり勇者を再利用して魔王として戦わせているというのが王族に伝えられている伝説だ」
「それでは可笑しい。何故、神は勇者を生み続けているのだ。勇者さえいなければ、魔王に滅ぼされてしまうだろう」
「とっくに勇者など生れていない。今の勇者は人工だ。少なくともここ100年は純粋な勇者は生まれていない。勇者の力を研究し、薬物の力で同じ能力を身につけているだけだ。だから都合よく死ねば、すぐに生まれれ、なおかつ短命なんだ」
「何故量産しなかった。今回のような事があれば、量産していれば私を撃つことなど容易いはずだ。イデアルもアマルも俺と遜色ない強さを持っていた」
「薬も適合する人間を選ぶということだ。基本的には能力がしっかり出る人間はほとんどいない。そのうち勇者もいなくなるだろう。イデアルは初期の検査の結果、適合力が高かった。だからこそ、時代に2人の勇者になってしまっても、不吉な初代勇者と同じく勇者の力を持った人間が2人になっても薬を使ってしまった」
魔王は全ての疑問を尋ね終えたのか、鎌を構えた。
「わしを殺すか。好きにするがいい。覚悟はできている」
王は目をつぶり、魔王は鎌を振り、首を刎ねた。
その後、城に住む全ての人を殺し、城を後にした。
廃城では、魔獣によって兵士たちは全滅していた。
4.決着
全ての人にとって裏目にでた1日だったようだ。
王は最後のチャンスと思い、兵を派遣したが、兵は全滅。自分は裏をかかれて魔王に殺される。魔王は救いを求めて城に向かったが、自分の役割を再認識するだけで終わってしまった。
王族支配の国で王族が全滅してしまい、国は機能を失った。人々は何を信じていいのかわからなくなってしまった。魔王の目的はこれで達成したかに思われたが、心の中から湧いてくる国を壊せという欲求は満たされなかった。
再度、残った魔獣を集め、国を全て崩壊させる決心をした。
城壁を囲む程の数はいなかったが、相手も同じ状況だ。
100人にも満たない兵士しか残っていない。
こちらも50体程しかいないが、どちらが勝っても何も残らない消耗戦にふさわしい1戦になるだろう。
魔王は知らないが人間側は1つの信仰を見つけた。勇者アマルが戻ってきた。突如姿を現したアマルに初めは驚いたが、アマルが魔王と戦うと宣言し、残った人々の心に火が灯った。そして残った兵士を集め、最終決戦に備えた。
戦いが始まると前回と同じ状況が続いた。
魔王は一人戦場とは離れた所にいた。
「アマル、いるんだろう。出てこい。話がしたい」
アマルも待ち構えていたように姿を現した。
「俺は今回は決心した。お前を倒すよ。俺も人工物とはいえ勇者だ」
「知っていたのか」
「俺もあの場にいたんだ。話を聞いて驚くと共に納得がいったよ」
「私も同じだ」
「それでどうしたいんだ」
「私は人間の力を信じたい。国を恨み、境遇を恨んでも私は勇者だ。人を恨む事はない。人間には神に造られた自分が全力で戦っても勝てない存在であって欲しい。そして相手ができるのはお前だけだ」
「介錯されたいならそう言え」
アマルは剣を構え、魔王は鎌を構えた。
2人の戦いは一瞬で終わった。魔王が鎌を振り下ろす前にアマルの剣が胸に刺さっていた。
「私はよく覚えていないが過去に国を救ったらしい。それでも国を恨みたくなるような出来事があったようだ。お前も味わってみろ」
最後にそう言って息を引き取った。
魔王は戦うつもりはなかったようだ。
最後まで人を信じたいが、役割、本能に逆らう事もできず死んでいった。
その後の話をしよう。
アマルは国を救って1か月もしないうちに息を引き取った。
理由としては薬物の副作用で、元々寿命が近かったのだろう。
アマルが救った国はすぐに滅んだ。
魔王が王族を滅ぼした事により、残った人々による権力争いで内戦が起き、自然と消滅した。ポーネ達兵士は勇者の秘密を知り、国を恨み捨てて出て行ってしまった。
今では遠く離れた別の場所で自給自足の生活をして、国とは言えないものの新たな村を作っている。名前をアマルと名付けた。
魔王マルール、いや勇者マルールの話もしておこう。
彼は100年前に魔王が現れた時に立ち向かった勇者だ。
人々の信頼も厚く、仲間と共に魔王を追い詰め、倒した。
国に帰った際は感謝され、称賛された。
平和な時代が続くと王族よりも発言権を得てしまい、国を愛していたがために対立する事もあり、かつての仲間と共に殺されてしまった。
ここまでならよくある話だったのだが、神様に目をつけられたのは、町の人にも裏切られてしまった事だろう。傷だらけになりながらも何とか城から抜け出し、王の私兵の目を盗み、訪れた家で裏切られ、王に見つかり止めをさされた。
真実はあまりの大怪我に通常の治療では間に合わないと思った家主が通常ではありえないが、王に嘆願しただけだった。
最後に絶望してしまったが、城を襲った際にこの事実を知ったマルールは満足して時代の勇者に討たれる覚悟をしたのだった。
酷い。プロットと全然違う結末を迎えてしまった。
主人公が途中で交代してしまった。
ヒーロー物を書こうと思って、設定を考えたら、ヒーローなら勇者だろう。勇者といえば魔王が相手だろうと思い浮かべたけど、そこから書き始めたら設定がどんどん変わっていってしまった。
テーマは当初はかつての英雄の復活劇だったのだが、途中から信じてたものを裏切られて、実は勘違いだったらどうしようという物に変わっていました。
しばらくヒーロー物は封印します。もう少し力をつけたらリベンジします。
最後にこんな駄文を最後まで読んで頂けた方がいましたら、本当にありがとうございます。
次は一歩一歩でもまともな物を書けるように頑張りますので、見ていただけると嬉しいです。
失礼します。