プロローグ
アクションコメディーです。気負わずに読んで頂けたら幸いです。
プロローグ
某県某所にある荒涼とした、石灰岩採掘場跡地。
そのイメージとして、特撮ヒーローが悪の軍団と戦っている絵づらを思い浮かべる人が多いだろう……。
ピンポン!!まさにその通り!
八月、猛暑たけなわ。何が楽しくて太陽はあんなにがんばって燃えちゃってるんだろうと、暑さでモウロウとそんなことを考えてしまいそうな日。
日本各地で「夏休みヒーロー大集合ショー」と同時に世にも過酷な撮影が今日も行われているのである。
ミッキーマウスは、世界に一人(一匹)しかいないので、ディズニーランドで同時刻に複数のミッキーマウスは現れないことになっているというが、ヒーローの世界は稼ぎ時の夏休み。うんな甘いことは言わずにガンガン各地に出没……。とは言っても、お母様方垂涎の的、イケメンヒーロー君たちは確かにこの世に一人しか存在しないので、各地のデパートや遊園地で戦っているのは、決してマスクを取ることのできない彼らの分身ということになる。
古の頃、クールに一人で孤独や敵と戦っていた正義のヒーローたち。
時を経て平成という時代の波の中、彼らは孤独に我が子と戦うお母様方のヒーローとなり、「イケメンヒーロー」なる流行をもたらした。
結果……、孤独な寂しさを胸に秘めていたはずのヒーローは、友情や葛藤で結ばれながらその数を増やして、あれよあれよという間に増殖。今やワンクールで十人近く、一年で約三十人ものヒーローが輩出されるという結果となった。
そして彼らはそれをステップに「イケメンヒーロー」から、やはりお母様方御用達の「昼のよろめきドラマ」に進出し、はては若手人気俳優の象徴である「月○」にまで這い上がって行くようになったのである。
まあ、単純に考えて……、「ヒーロー」なのだから当然アクションが出来る。という事は運動神経抜群。加えて大抵の場合、高身長、小顔、そしてイケメン……。ま、モテるわな。普通に。
という訳で、今や若手の俳優さんたちにとっても「ヒーロー」役は垂涎の的。老舗のアクションプロダクションから、新規参入のちっこい事務所までが必死こいて「ヒーロー」役ゲットに励んでいる。
そして、新たにその「ヒーロー」をゲットした若者がまた五人生まれた。
十月から始まる新番組。その名も「カッチャレンジャー」のニューヒーロー五人組。平均年齢二十一・八歳。紅顔の美青年四人と、チャーミングな少女が一名。昔のようないわゆる「お笑い担当」は必要ない。とにかく「イケメン」攻撃でお母様方のハートをゲットするのだ!
関連グッズを欲しがるのは子供の役目だが、実際財布のひもをあけるのはお母様たちなのだから……。
秋からの放送開始に向けて、今まさに撮影絶好調!
敵は、銀河系の隣の横丁をちょっと入ったところにある「ツクエカンダル星」を拠点とする「スラミガ帝国」。奴らは、自分の星の環境汚染と慢性的な食料危機に苦しんでいた。そこで、「イムニダラー総統」は地球強奪計画を勝手に企てた。
そして、ある日突然、スラミガ帝国副総統「ヴィルト・カッツェ」率いる「ジャラクター」が地球を征服すべく攻撃を開始してきたのだ!
そこで、急遽集められた「カッチャレンジャー」。実は、彼らはそれぞれ特異の超能力を持ったミュータントなのだ!
いざ、平和のために戦えカッチャレンジャー!地球の未来は君たちにかかっている!ゆけ!カッチャレンジャー!この暑さに負けるな!そうだ君たちは若い!顔がいい!ああ、若さって素晴らしい!
しつこいようだが、撮影は絶好調。今日はヴィルト・カッツェとカッチャマン五人の初めての対決シーンの撮影だ。
ショッカーばりの全身タイツ姿の部下が運転するバイクのサイドカーの上に立って、ヴィルト・カッツェ登場!バイクは環境にやさしくないツーサイクル三気筒エンジンだ。地球の環境も考えないと、強奪しても住めなくなるぞ!そこんとこ、ヨロシク。
早くも一気筒カブったらしく、エンジンの音がおかしい。が、そんなことでいちいち撮影を中断していられない。
不愉快なエンジン音に負けじとヴィルト・カッツェは大声を張り上げて、セリフを叫んだ。
「ごきげんようカッチャの諸君、やっと会えたわね」
百九十センチ近くはあろうかという大男。細身の体に皮膚の一部にでもなったように肌に吸い付くスラミガ帝国特性素材でできた、黒のスーツで全身を覆っている。さらに、同素材でできているブーツとグローブ。その上には、風に緩やかになびくマントを羽織っている。
そして、頭には帽子を被っているのだが……、この帽子がなんともはや。
「ヴィルト・カッツェ」の名前のごとく山猫をモチーフにしているらしいのだが……、どう贔屓目に見てもブサイクなキティちゃんにしか見えない。山猫のような迫力がないという以前の問題である。大人が見るとどうしても笑いをこらえ切れないという代物なのだが……。子供には、うけるのか?
ヴィルト・カッツェは眉の下まで帽子を被ってはいるが、目から下ははっきりと役者の顔が見えている。
当初の予定では、帽子ではなく猫型のお面をつけるはずだったが、それではヴィルト・カッツェの性格設定がうまく伝わらないということで、急遽お面から帽子に変更された。そうか、それで時間がなくてあんな変な帽子になったんだな……。
そこまでして、強調したかったヴィルト・カッツェの性格とはなんぞや?
そう、すでにお気づきの方も多いと思われるが……。実は、ヴィルト・カッツェはバリバリのおカマさん。地球を征服したら、まず初めにモロッコに行きたいと切望している人生なのだ。
ゆえに、目深に被られた帽子の下にのぞく役者の顔は、見事なお姉さまメークが施されている。親でもちょっと見抜けないだろうと思われるほどの立派なメーク。いや、親が見抜けないようにという役者サイドからの希望があったのかもしれない。いやはや、お気持ちお察します。
そんな、ヴィルト・カッツェとは対象的に、爽やかな中にも強い意志を秘めた五人の若者。いかにも、たった今気が付きましたという不自然なリアクションでヴィルト・カッツェの方を向く。
「お前は誰だ!」
叫んだのは、カッチャ赤。
「私?私はヴィルト・カッツェ」
ヴィルト・カッツェは科を作ってイケメンのカッチャ赤にアピール。
「ヴィルト・カッツェ?一体何ものだ?どこから来た?」
またもやイケメン、カッチャ青にヴィルト・カッツェ興奮。
「あなたたちを救うために、宇宙の彼方から来たの」
「俺たちを救うだって?」
カッチャ黄の質問には、とうとうウィンクまでしちゃうサービスぶり。
「そうよ。そのために偉大なるイムニダラー閣下の代わりに地球に来たのよ〜」
「ふざけるな!」
いきなり戦闘モードのカッチャ緑。
「あら、若いわねぇ〜。でも、そのうち認めることになるわよ。若さゆえの過ちを!だから今のうちにさっさと降伏なさい!」
とカッチャ緑に投げキッスをするヴィルト・カッツェ。
「なによ!私たちそんな安っぽい人間じゃないわ!」
やりとりを見ていたカッチャ桃が、ヒステリックに金切り声をあげた。
その瞬間、
「おだまり!この小娘が!」
こちらも負けじとヒステリックに叫ぶと、ヴィルト・カッツェの武器である鞭がカッチャ桃の頬を打った。
鞭なんだけど、そりゃ鞭なんだろうけど……、なんだかきっとスペシャルなネーミングがされていて、んで本当はすんごい特殊効果とかがあるんだろうけど……、新体操のリボンにしか見えない……。
「なにすんのよ!お父さんにもぶたれたことないのに!」
打たれた頬を手で覆いながら、カッチャ桃が叫んだ。
「ほほほ!いいザマだこと。ついでだから全員おそろいの傷を作ってあげましょうか。イケメンの頬に傷っていうのも、う〜んチャーミングじゃない」
と、言いながらヴィルト・カッツェはまたもや鞭を振り上げた。
唸りをあげて向かってくる鞭を寸でのところでかわしていくカッチャマンたち。早くも絶体絶命の危機が彼らを襲う!!
「ようし、こうなったらあの技を出すしかない!みんな変身するんだ!」
カッチャ赤はそう叫ぶと、変身のポーズを取った。カッチャ赤の言葉にうなずきながら、次々と変身のポーズを取るイケメンヒーローたち、一番の見せ場だ。(この辺は、各々ご幼少のみぎり好きだったヒーローの変身ポーズを思い浮かべて下さい。思い浮かばない場合は、「テクマクマヤコン」と三回唱えてみましょう)
華麗に変身した五人。
「われ等、カッチャマン」
五人揃って決めのポーズだ。
「ほほほ。面白いじゃない。私に勝てるとでも思っているの?」
「俺たちの力を見せてやる!」
そういったカッチャ赤は、なぜか突然カラフルなバレーボールを持っていた。
「みんなでこのハイパーボールに気力を注入するんだ!行くぞ」
そうカッチャ赤が叫んだ次の瞬間、なぜかそこにはバレーボールのコートが出現。カッチャ赤・カッチャ黄組と、カッチャ青・カッチャ緑組に分かれてすばやくコートの上に立った。
すでに審判席に座っていたカッチャ桃が笛を吹くと、カッチャ赤の見事なジャンピングサーブで試合は始まった。
倒れこみながらも、サーブレシーブを上げるカッチャ青。すばやくボールの下に入り込み、カッチャ緑がトスを上げる。カッチャ青、ジャンプしてスパイク!しかし、ほれぼれとするようなタイミングで飛んでいたカッチャ赤のブロックに阻まれ、ボールははじき返された。
しまったという表情のカッチャ青。しかし、そこにカッチャ緑が飛び込んで見事にレシーブ。ボールは天高く舞い上がり、好機とばかりにカッチャ青はトスを省いて再び強烈なスパイクを放った。
コートの横で、理解に苦しんでいるヴィルト・カッツェ。明らかに変な帽子の上にクエスチョン・マークが見える。
が、ヴィルト・カッツェを無視して、試合は進んでいく。
カッチャ青のスパイクをなんとか受け止めるカッチャ赤。苦しい体制でなんとかトスを上げる、カッチャ黄。すると、その瞬間カッチャ赤が吼えた。
「行くぞ!」
カッチャ赤、最高到達点三五〇センチはあろうかというジャンプ!そして……、ヴィルト・カッツェに向かってスパイク!
唸りをあげてヴィルト・カッツェに向かっていくボール。
「きゃあ!なに、なに?早く、バイクを出して!」
ヴィルト・カッツェが慌てて部下に命令するやいなや、バイクは急発進し、あろうことかヴィルト・カッツェはサイドカーから放り出されてしまった。
必死こいて逃げるヴィルト・カッツェ。しかし、ボールはどんどんヴィルト・カッツェに向かって近づいてくる。
逃げるヴィルト・カッツェの足元にとうとうボールが落ちた!爆発するボール。倒れこむヴィルト・カッツェ。
「どうだ、思い知ったか!」
晴れ晴れとしている、カッチャレンジャーたち。
するとそこに、いきなりヘリコプターが現れた。
ヘリコプターから垂らされた縄梯子に、しがみつくヴィルト・カッツェ。
「もう!覚えてなさいよ!今度あったらただじゃおかないんだから!」
捨てセリフを吐きながら、遠ざかっていくヴィルト・カッツェ。
「おう!この世にカッチャレンジャーがいる限り、地球の平和は永遠だ!」
決めセリフをいうカッチャ赤。
それにあわせてそれぞれポーズを決める五人の後ろには、今日もきれいな夕焼けが輝いていた。