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名探偵・藤崎誠シリーズ

名探偵・藤崎誠の事件簿

作者: さきら天悟

藤崎誠は名探偵である。

なぜなら、名刺には『名探偵藤崎誠』、

カンバンにも『名探偵藤崎誠事務所』と記している。

確かに能力はある。

尾行、張り込みには定評がある。というのも誰にも気付かれたことがないのだ。

でも、おっちょこちょいでもある。

まあ生活に困らず、趣味でやっている。

だから妥協がなく、良い仕事をすると一部で評判になっていた。

官僚をやっていたという噂もある。

少女の依頼でペット問題を見事に解決していた。

詳しい話が知りたければ、藤崎が投稿した『ペットを飼う権利』を参照すればいい。

それほど、政治・経済にも精通し、人脈を持っていた。



藤崎はデスクのPCに向かい、いつものようにネット検索を始めた。


「まだ、無いな~」


自分の情報は何もなかった。

ペット税を導入のキッカケを作ったのだが、

法案の早期実現を果たすため、手柄はすべて政治家に譲っていた。

だから、世間の人に『名探偵藤崎誠』は全く浸透していなかった。



電話が鳴った。


「こちら名探偵藤崎誠事務所」

藤崎は出来るだけ低い声で応えた。


『藤崎か、暇だろう』


「なんだ、お前か」


『ちょっと頼み事があるんだ』


「面倒くさそうだな」


『ちょっとな。でも貸しがあるだろう』


「しょうがないなあ。それじゃあ、名探偵にお任せあれ」





次の日後、藤崎はY市に赴いた。

目印のカンバンを見つけ、事務所に入っていった。


「お待ちしていました。藤崎さんでしょうか」

紺色のスーツ姿のくたびれた中年男性が出迎えてくれた。

顔色が悪く、目の下のクマがはっきり分かる。

今、世間を騒がしているからしょうがないだろう。


「探偵の藤崎です」

さすがにこの事務所では『名探偵』と自己紹介をする雰囲気ではなかった。


「それでは、先生をお呼びします」


中年男性は隣の部屋にドアを開け、声をかけた。


長身でスリムの男が部屋に入ってくる。

グレーの仕立ての良いスーツをまとっていた。

今話題の男だった。


「Y市市議会議員の東堂真一郎です」

東堂は背筋を伸ばし、深く頭を下げた。

二世議員に相応しい品の良いお辞儀だった。

東堂は藤崎に右手を差し出した。

その動作に不自然さはなかった。


藤崎は握手に応えた。

東堂の目を見る。

キレイな目だった。

藤崎は決意を拳に込めて、力強く握り返した。


二人は応接ソファーに向き合って座り、政治秘書の中年男性は藤堂の後ろに立った。


「すみません。これまでの経緯はご存知でしょうか」

中年秘書は小さな声で発言した。


藤崎は大きく頷いた。

東堂は世間を騒がしていた。

最初は週刊誌で取り上げられ、今ではテレビの情報番組で持ち切りだ。

政治家といえば、やはり政治資金収支報告書だった。

なんと風俗店名が記載されていた。

店名を見ると一見の飲み屋のよう名前だった。

しかし、ファッションヘルスやピンクサロンなどだった。

これをテレビで大々的に取り上げているが、

東堂は否定せず、反論もしていかなった。



「テレビの報道は事実ですか」

藤崎は中年男性秘書に聞いた。


中年秘書は眉間にシワを寄せ、言葉を詰まらせた。


「事実です」

東堂は澄んだ声で答えた。

その声に上擦りや震えはなかった。


逆に藤崎の方が戸惑った。


「私は一つ行いたい政策があります」

東堂は藤崎に微笑みかけ、自ら話を始めた。

「Y市にはY駅北口に広がる歓楽街があります。

最近そこに外国人が流れ込み風紀を乱しています。

それで良い店と悪い店を選別しようと考えました」


藤崎は大きく頷いた。


「さすが村上先生のご紹介です。

もうご理解いただいたようですね」

村上とは藤崎にこの件を依頼した国会議員である。

村上は今は亡き東堂の父親に世話になったと言っていた。


「ちゃんと納税しているか、ということですね。

あれは優良風俗店の領収書ですか」


「そう言うことです」

東堂は苦笑いを浮かべた。


藤崎は眉を寄せ、伏し目がちに藤堂を見つめた。

それは藤堂の裏の顔を暴くように。


藤崎はニッコリと微笑むと、藤堂も微笑みを返した。

「本当に私の助けが必要ですか?」

藤崎は藤堂に念を押した。


「よろしくお願いします。

少し騒ぎが大きくなりすぎました。

Y市は浮動票が多いので、このままだと次の選挙が危ないと判断しました」


「分かりました。名探偵にお任せあれ」

藤崎は右手を胸にあてて言った。






次の日、Y市市議会議員の藤堂は記者会見を開いた。

そこで、任期を半年残して辞任は発表し、

政治資金収支報告書が不明瞭だったことを詫びた。

そして、今後も政治活動を行う決意を示した。


「そんな決意だけでお金の使い道がキレイになるとは思えません」

記者の厳しい質問が飛んだ。


「今後は政治活動資金だけでなく、私生活を含んだ収支をネットに掲載します」


「収支報告書だけでは本当の使い道は分かりませんよね?」

記者はさらに厳しい質問をした。


「すべての領収書を公開します。店名も全て公開します」


ホーッと記者は一斉に漏らし、会場の雰囲気が変わった。

会見は終了し、テレビ、新聞でトップニュースになった。





半年が経った。

しかし、左翼のテレビ局は未だに藤堂を風俗議員と呼んでいた。

Y市市議会議員選挙の当落線上をさまよっていた。


東堂は記者会見を開き、ついて風俗店に行った真意を語り、政策を提案した。


風俗産業に対し、15%の税金をかけるという内容だった。

そして納税証明コードを発行し、納税店をネットで確認可能とするというものだった。

発表が遅れたのは風俗産業との調整のためだった。

増税となれば当然、風俗産業業界は反対する。

そのため今まで午前0時だった営業時間を午前4時までとする。

そして電話番号を特別に発行することとした。

Y市の市外局番は0XXなので、

納税店の番号を0XX-6969-HHHHとした。

そうすると携帯電話で営業している店は、未納税店か無届店か分かる仕組みだった。


テレビの反応は様々だった。

しかし、風俗ネタであるため冷ややかな見方が多かった。

そのため、東堂の当確予想は得られなかった。




2週間後、選挙の結果が出た。

東堂はトップ当選を果たした。


選挙の翌日、藤崎は藤堂事務所を訪れた。


「さすが名探偵藤崎さん。お蔭でトップ当選を果たせました。

情報公開作戦、見事です」

東堂は藤崎の両手をガッチリと握った。

藤崎は照れ笑いをした。


藤崎が提案した情報公開作戦とは単純なことだった。

ただ領収書をそのまま公開しただけだった。

それがどうしてトップ当選につながるのか疑問かもしれない。

でも、ちょっと注意してその領収書の異常さが見ればわかるはずだ。

なんと95%以上の領収書がY市の店舗で発行されたものだった。

政治活動費だけではない。生活費もだった。

それでも、なぜトップ当選になるか分からない?

店の人は自分の店で購入してくれれば嬉しいだろう。

領収書には自分の名前を書くから、東堂だと分かるはずだ。

こういう店舗が自然の流れで東堂を応援するようになっていた。

それに加え藤崎はネットで情報操作していた。

『東堂はY市で95%を消費する愛Y市民』だと。

領収書の情報公開を逆手に取った作戦だった。




「成功報酬は、トップ当選を果たしたので約束50万円でいいですね」

秘書が席をはずしていたので、東堂は自ら領収書を切った。

「もちろん、この領収書も公開させていただきます」


「ありがとうございます」

藤崎は領収書を手に取って確認した。

「『名探偵藤崎誠事務所』が宣伝になるから、ありがたいです」

藤崎は頭を下げた。

そのまま藤崎は東堂を上目で見つめて言った。

「東堂さんは今後、国会議員を目指すつもりですか?」


いきなりの質問だったが、藤堂はニヤリとした。

「いいえ、国会議員になるつもりはありません」


「でも、本当はこうなることが分かっていて、風俗店で使った金額を掲載したんでしょう?」


「さすが名探偵藤崎誠。そこまでお見通しですか。

でも国会議員になるつもりはありません。

私はY市の市長を目指します」

Y市は東京23以外ではもっとも人口の多い市だった。

「私はY市を国から独立させたいと思います。

その時にはまた協力を依頼するかもしれません」

東堂は明るく笑った。


「名探偵にお任せあれ」

藤崎は右手を胸にあてた。




この騒動の結果、藤崎は事件だけではなく、

問題解決にも定評があるとの評判が一部業界で広がって行ったのだった。


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