4 .断罪は続く
「殿下! 計画では、皆があなたに賛同するはずでは……!」
「そうですよ! カトリーヌが国母にふさわしくない悪女だと……!」
「いや……これは違うだろ……だって私は王太子なのに……」
「それを言うなら、わたくしはこの国の王妃であり、あなたの母よ。そしてその礼儀知らずは、本来はこの場に呼ばれてもいない男爵令嬢。
あなたが妄想で斬首刑にしようとしたのは、この国を支える柱である公爵家の令嬢で、幼い頃からあなたを支える役割を押し付けられても、逃げることのなかった健気な子よ。
カトリーヌならば、王太子妃として異を唱える者はいないはず。でも、そこの娘ではどうかしら?
これからは、より一層、王家と貴族が団結しなければならないのに。王太子としての責務も理解しないあなたと、子供にも劣るその娘が、この国の未来の担い手として認められると?」
またしても、おかしいわね。
私の脳裏に、さらに疑問がよぎる。
なぜ、ゲームではさして描かれていなかったはずの、国の窮状や、公爵家との政略が、これほどまでに重くのしかかっているの。
ゲーム本編では、戦争の勝敗は断罪に全く関わりがない。戦争に負けても勝っても、公爵家はここまで重用されず、カトリーヌは処刑される。
それに国王陛下と王妃陛下。
本来ならば王太子ギヨームに激甘で、息子可愛さで男爵令嬢との結婚を推し進め、私を斬首刑にした背景モブでしかなかった両陛下が、ゲームのシナリオ通りに動かない。むしろ、行動が真逆だ。
「あ……いや、違うのです……」
「何が違うの。カトリーヌを罪に落とせなかったこと? 当たり前じゃないの。カトリーヌはヴィリエ家の令嬢で、あなたの婚約者よ? 身分も礼儀もわきまえず、男と見るや胸を広げて迫るようなふしだらな娘にちょっかいを出され、イヤミや苦言の一つや二つ、言う権利はあるのではなくて?」
「そんな! いくら王妃様でも酷いです! 私への悪口はやめてください! 私だって、怒りますよ!」
右手で口元を隠しながら、ほほほ、と王妃は優雅に笑った。リリアンは衛兵に羽交い締めにされ、もがいて足を踏み鳴らした。
「あら、あなたが私に怒りをぶつけるの? 王妃のわたくしに? 男爵令嬢のあなたが?」
「そうです! 私を悪く言わないでください! いくら王妃様でも許しません! 謝ってください!」
「あぁ、おかしい……あなた、面白いことを言うのね。
ねぇ、ギヨーム。あなたは最も王妃に相応しいカトリーヌを拒絶してまで、こんな娘が欲しかったの?」
「はぁぁ!? ちょっと、いくらなんでも失礼じゃない!? 人間は皆、平等って知らない!?」
「平等? 身分制度が厳格な我が国において、そのような戯言を聞くなんてね……。ギヨーム、あなたは珍獣が好みだったのね」
不意に話を振られたギヨーム殿下は、必死に言葉を探し、キョロキョロと、視線を忙しなく動かした。リリアンが多少規格外だとしても、まさか女性の頂点に立つ王妃に、真正面からものを言い、謝罪を要求するとは思わなかったのだろう。
明らかに、自分の手に余る事態に発展したことに狼狽え、必死に言い逃れしようと頭をフル回転させているのを隠しきれていない。
王妃は愛情深い方だけど、公の場では違う。完全に、ギヨーム殿下を王族の責務を放棄した、落伍者とみなしたようだった。
「ねぇ、答えてちょうだい。 あなたは王太子の務めをなんだと思っているの?」
「それは、その……え? ……なんでこんな……?」
ギヨーム殿下の混乱をよそに、王妃は優しく私の乱れた髪を撫でつけると、静かに国王に視線を送った。
国王は、険しい表情のまま、一つ頷いた。
サッと右手をあげたその瞬間、食堂の入口がひらき、衛兵たちがなだれ込んだ。衛兵はギヨーム殿下とリリアン、それから攻略対象たちを取り囲んだ。
「貴様はなにをやっているのだ!」
怒声にジルベールが身を竦ませた。ギヨーム殿下のように顔色を失い、脂汗を垂らしながら、怒りに震える父、ヴァルテール・ド・ボーモン騎士団長を掬うように見上げた。まるで、猟犬に睨まれて怯える子犬のようだわ。
ボーモン騎士団長はジルベールを殴りつけると、そのまま頭を掴んで叩きふせ、自身は両膝をついて謝罪を始めた。ジルベールは一切抵抗せず、多くの貴族が見守る中、床に顔をめり込ませ、尻を高く突き上げるみっともない姿を晒している。
「国王陛下、王妃陛下。騎士団を預かる臣下として、あろうことか身内から、王家の信義を汚す蛮行を許しましたこと、償おうにも償いきれません! この不届き者のカトリーヌ様への不敬は、貴族社会への唾棄に等しく、国家への反逆。いかなる極刑も潔く受ける覚悟でございます。
また、このヴァルテール、本日をもって団長職を辞し、謹慎を賜りたく存じます」
騎士団長はそのまま私とお母様へと頭をさげ、続けた。
「お二人には、心よりお詫び申し上げます。公爵閣下の不在の隙をつき、このような狼藉をはたらいた愚息は、もはや息子ではございません。
お二人がどれほどお心を痛められたか、想像することも恐ろしく。せめてもの償いに、私の命を公爵家に捧げとうございます。公爵閣下がこの場にお戻りの際には、我が命、いかようにもお使いくださいと、願い出る所存でございます」
日本人の感覚では、大袈裟かもしれないけど。貴族社会では、これでも謝罪は足りないくらいだ。
近衛隊は王族を守るためにいる。なのに、王太子の浮気相手でしかない男爵令嬢に肩入れし、許しも得ずに王宮内に入れただけではなく、正式な婚約者をその座から引きずり下ろして、その座に据えようとしたのだから。騎士団長の言うとおり、これは反逆行為だ。
衛兵は、ギヨーム殿下たちをいつでも捕縛する準備が整っている。
「父上、母上……!?」
「見たか、ギヨームよ。そなたは己の感情のために、この国の未来を危険に晒そうとした。いや、既に危機に晒している。
そなたの愚行によって、信頼のおける騎士を我らは失った。それだけではない。愛娘がこのような辱めを受け、公爵家が黙っていると思っているのか」
国王の静かな声が、大広間に響く。
それは、今なお鳴り止まぬ雷鳴にも似た、重々しい響きだった。
ほんと、人名とか考えるの大変じゃないですか?
私はけっこうしんどいです。




