先輩って本当に気持ち悪いですね
放課後の廊下で、高嶺美緒を見つけた瞬間、俺は反射的に柱の影に隠れた。
「デュフフ…」
あの子は今日もかわいい。
あの子は見た目も声も全てにおいて完璧。
あの子が髪を結ぶ仕草だけで、俺はご飯を大盛り三杯は食べれる。
「はぁー美緒、今日も天使だ」
うっかり口に出してしまった瞬間、
「聞こえてますよ」
後ろから冷たい視線と声が落ちてきた。
振り向くと、いつの間にか美緒が腕を組んで立っていた。
目が笑っていない。
「あ、あのですね、美緒様。その…本日はお日柄もよく…」
「言い訳が気持ち悪いです」
はっきり言われた。
でも、それがたまらない。
「デュ、す、すまん…でも本当に、今日のポニーテール、めっちゃ似合ってるよ。いやー似合ってるどころかその、もう、尊いっていうかー」
「先輩、褒め方も気持ち悪いんですけど。語彙選んでください」
美緒はため息をついて歩きかけ、ふと振り返った。
「で、本当に何の用だったんですか?」
「い、いや、特に用はないんだけど…美緒の後ろ姿を見かけて、ちょっとついて行こうかなって」
「つけないでください」
そう言うと、美緒は少し早歩きになった。
俺は慌てて追いかける。
「ちょっと待ってくれ!俺、本当に怪しい者じゃなくてだな、美緒のことが好きで好きで」
「だから気持ち悪いって言ってるんです」
「でも…好きなんだよ。美緒の歩く速度とか、筆圧とか、字の癖とか、靴底のすり減り方なんかも―」
「観察しすぎですっ!」
美緒が振り向いて、顔を真っ赤にして叫んだ。
「そ、そんな細かいところ見ないでください!怖いんですよ!気持ち悪いんですよ!あと、知らないうちに…そのっ、好きとか言わないでください!」
そこまで言うと、美緒は俯いて小さく震えた。
怒ってるわけじゃない。照れてるのがわかった。
(デュ、デュフ…)
ああ…この子、可愛すぎる。
「ご、ごめん。でも、本気で好きなんだ。美緒が嫌がることは絶対にしない。だから、ちゃんと向き合わせてほしい」
少しの沈黙。
やがて、美緒は悔しそうに、でもほんの少しだけ微笑んだ。
「ほんと、先輩って……」
そして、呟くように言った。
「先輩って本当に気持ち悪いですね」
そのくせ、言ったあとそっと俺の袖をつまむあたり、本当にこの後輩はずるいと思う。
「デュフフ」
「きも」




