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孤独を愛す。  作者: キオ


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9/18

友人と皿と運動会

 よく遊びに連れ添う三人組がいる。

 男が一人と、女が一人と、私との三人だ。

 大学一年の冬から始まり、今までに一度も喧嘩をしたり蟠りを作ったりすることなく、ごく平和な関係性を保ってきた。


 運命的に仲が良かった、わけではないと私は思っている。ただ我々三人ともが、適切な距離の取り方を心得ていただけの結果だと。靴を脱げば踏み入れていい寝室、指先さえ触れてはいけない扉、遠慮なく荒らして構わない玄関先、そういったお互いの領域を暗黙のうちに察することに長けた人の集まりが私たちだった。


 だからか、私たちは比較的深い関係には至らないでいる。遊びはいつも日帰りで、泊まりで出かけたことはない。二人だけが恋をすることもなかった。その人をいい人だと思ったし、付き合っても構わないと思った。けれど付き合いたいとは思わなかった。三人のバランスが崩れるなら付き合わないでいいと思い、結果として我々は友人になった。

 

何人かがつま先をくっつけて座り、手をつないだまま立ち上がるレクリエーションを私は思い出した。たぶん小学校の運動会の記憶だ。絶妙な力加減が勝利の秘訣で、ゼロヒャクしか知らない子供には随分と難しかった。


 我々の関係も似たようなものだったが、単なる力加減だけで成り立つ単純な関係ではない。そこには明確な役割がある。


 そう、役割。その他大勢の、瓦解を見て見ぬふりして自由意思を優先する集団と違い、自我を殺してバランスを取ることを第一とするための役割分担。


 コース料理のメインの肉料理を思い浮かべてほしい。大きな平べったい皿に肉と添え物野菜が置かれている。

 肉が主題で、箸休めの野菜が肉の味を引き立たせる。皿は肉と野菜がどこかにこぼれていかないように支えるのが仕事だ。


 肉は男で、野菜が女。

 私は皿。


 私は見られない存在、味がしない存在、思い出に残らない存在。


 三人での会話は、思い返せばいつもこうだった。男が話題を投げ、女が返して男が盛り上げ、一頻り話したところで自然消滅しないようにまとめの言葉を一言二言言うのが私。


 いつも横並びになった二人の後ろをついて歩いていた。

 私の役割が回ってくるまでは黙っていた。黙っていなければならなかった。派手な皿は料理の美観を損なうから、下手な主張は許されない。


 それでいいと思っていた。私は肉にはなれないし、野菜になっても生焼けで迷惑をかけそうだった。

 

 その日も、私は二人の会話を聞いていた。ちょっとばかり盛り上がって長い話題になり、歩道橋を越え、三つの信号を進んでもまだ続いていた。

 四つめの信号で足を止めると、気付けば彼女が僕の隣にいた。ふとしたときに前触れもなく現れる、彼女にはそういうところがあった。


 同時に、自分の心が濃い陰に覆われるような感覚に陥った。


「どうしてここにいるんだ?」と私が言うと、「どうしてもよ」と彼女は言った。


「今は君に居てほしくないから帰ってくれ」と私は正直に言った。しかし、信号が青になると二人の後を追う私についてきた。

「あなたがわたしにいてほしくないのはわかるわ。でも居なくちゃいけないの。わたしが居るのを認めるか、それが嫌だったら役割を捨てて自我を剥き出しにするしかないのよ」と彼女は言った。


「こうしていることが私の役割なんだ。それ以上もそれ以下もない」私は強く抗議した。

 彼女は長く息を吐いた。それが呆れたように見えたのは、私が勝手にそう捉えただけだ。


「あなたがわたしを呼んだのよ。本当はわかっているんでしょう?」彼女に言われて、私は何も返せなかった。


 そのとき、二人が振り返って私を見てきた。仕事の時間だった。彼女にすっかり気を取られていたが、なんとか取り繕い、その一皿は記憶という名のウェイトレスによって過去に下げられていった。


 一息つくと、彼女はいなくなっていた。


 心は日なたに出たようだったが、すぐに分厚い雲が訪れる気がした。

 

 


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