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孤独を愛す。  作者: キオ


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フードコートに彼女はいない

 彼女は私を悲しくさせる。


 いや、どうだろう。悲しいときに決まって彼女がそばにいるから彼女に理由を押し付けているだけかもしれない。それでも彼女を意識すると悲しみはたしかに増していた。


 部屋にいるときはそれで構わなかった。彼女が火種で悲しみが薪でも、その逆であっても、灰が積もって山になることは変わりない。そうして最後には、彼女が丁寧に集めて窓の外に捨ててくれて、綺麗に何もなくなった空っぽの部屋が出来上がるのだ。私は掃除が苦手で息苦しくなる直前まで汚してしまうから、彼女には救われてすらいた。

 それでおしまい。

 私は煤を払い除けて部屋を出るのだ。


 ただ、どうしても悲しみたくないときというものがある。


 私は悲しみたくて悲しんでいるのではない。自分を傷つけたくて生まれた人間がいてたまるものか。悲しみたくなくても、悲しまなければ破裂してしまいそうだから、せめてもの上手な空気の抜き方を知っているに過ぎない。


 さっきの答えだ。

 悲しみは薪で、彼女が火種。悲しみという薪をうまく灰にして片付けてくれる火種の彼女。


 でも、じゃあ、薪がなくなったら。


 何もなくなった部屋で、彼女は火打ち石を打ち鳴らして待っている。カチッ、カチッ、カチッ。 もう悲しくないはずなのに、心が悲しいと錯覚して痛むのだ。ちゃんと息をしているはずなのに、窒息しそうになる。


 部屋にいることは、彼女といることと同義だった。気づいたときにはもう、部屋の中での私は彼女のパブロフの犬になっていた。だから至って平穏で、プラスマイナスゼロの線上で過ごせている日には、彼女に会わないよう外出するようにしていた。


 色々な場所に行ったものだ。行きつけの喫茶店も、近所の神社も、コンビニの雑誌コーナーも、海の底も、山の上も、空だけは無理だったけれど。


 そうして落ち着いたのは、最寄り駅のショッピングモールのフードコートだった。


 喫茶店みたく情緒的でなくて、神社みたく静かでなくて、コンビニみたく希薄でなくて、海や山みたく行くのに苦労しない場所。


 暇があるとつい自分の心に探りを入れたくなってしまう私の手を、フードコートの雑多な音は邪魔をしてくれる。母親の叱咤や、学生たちの陰口や、店員の苛立ちを隠した呼び声は、決して深く入ってくることはなく、耳の近くまで波打って引いていく。


 誰が読むでもない感想欄となって声を文字に起こし、ただの文字として処理して廃棄する。

 そうすることで私は私を意識しなくて済む。


 私の心。

 私の空っぽ。

 空っぽを囲うのは何か。

 木か石か鉄か硝子か。

 そこに火をつけてはいけない。

 そこに石を打ちつけてはいけない。

 素材を知らない私の心はいつ壊れるかわからない。


 まだ死にたくはないから、彼女のいないフードコートに私は座る。

 

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