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孤独を愛す。  作者: キオ


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嫌わない彼女

 私は嫌われたくない。


 当たり前だと思うかもしれないが、とにかく私は嫌われたくないのである。


 嫌われないようにすることが私の社会生活での最たる行動指針といっても過言ではない。なぜ道の左隅を歩くのかといえば嫌われたくないからで、なぜ優先席が空いていても座らないのかといえば嫌われたくないからで、なぜ法律を守るのかといえば嫌われたくないからで、なぜ真面目に働くのかといえば嫌われたくないからである。


 ほんの僅かな、通りすがりの嫌悪感でさえ私は丸二日後悔する人間だった。おかげで朝家を出てからアパートの扉を閉じるまで、一挙手一投足に至るまで私は配慮しなければならなかった。


 真面目で健全で善良でありたいとは一度も考えたことがない。ただ、不真面目で不健全で邪悪だと侮蔑されることにこそ私は恐れた。


 二度と行かない場所のコンビニの店員にも私は感謝を忘れずに伝えた。二度と会わないことは嫌われてもいい理由にはならない。知る由もないと放念できるはずもなく、私が主観的に嫌われたかもしれないと思ってしまうことに意味があるのだ。


 既に嫌われているであろう人にも笑顔を向けるのを怠らなかった。たとえへらへらと笑っているように見えることに起因して嫌われたのだとしても、真っ向から嫌い返す気概は微塵も持っていなかった。


 すべては心の平和と安眠のため。健康に労働でき、最低限度の生活を維持するための指針。


 誇るべき精神性と褒められても、私は喜べなかった。むしろ必死に取り繕った羊の被り物を良く思われるたびに、そうまでしなくてはまともに生きていけない自身の脆弱さを自覚させられて泣きたかった。


 人畜無害という言葉がある。その言葉が皮肉で侮蔑的な意味合いで用いられる理由を私は身に沁みて理解した。


 部屋に帰り、私はようやく羊の被り物を脱ぐことができた。


 靴を脱ぎ散らかし、ため込んだ暴言を大声を張り上げるでもなく細かく吐き垂らした。


 彼女の前でだけは非社会的な言動をすることができた。


 何をしても言っても彼女は私を嫌わなかった。むしろ私の悪性を曝け出せば出すほど親身に寄り添ってくれる変わり者だった。だから私は安心して毒を吐き、怠惰に勤しんだ。


 こうして私の最低限の生活は維持されている。


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