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孤独を愛す。  作者: キオ


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「愛している」


 私は彼女を愛しているが、言葉にして伝えたことは一度もない。


 彼女には今まで何度も救われてきた。それを感謝しようとふと思ったとき、私は言葉にできなかった。


 私が抱いた思いを言語化した結果が『愛している』であってほしかった。しかし今の私では『愛している』という言葉に内包された固定観念をなぞることしかできなかった。


 彼女のどこを愛しているのか、私は見つけられないでいる。


 今までのことを思い出し、見つけ出そうとしたが、むしろ彼女は足りないところばかりだと気付いた。


 料理も掃除もしない、買い物もしない。水族館にも遊園地にも映画館にも言ったことがない。他愛ない話もしてくれない。冗談も言ってくれない。私の性欲を満たしてもくれない。


 いや、足りないという言葉は適切ではないかもしれない。最初から彼女はそういう人だと思っていたし、おおよそ正しい理解だった。


 何もせず、ただそこに居るだけの彼女に不満の一つもなかった。


 そして、満足もしていない。


 彼女以外の人が魅力的に見えることは沢山あった。これが毎日続けば幸せだろうと何度も思った。彼女が待っている部屋に戻るのが恐ろしいと感じることもあった。


 それでも、いつだって最後は彼女の元に帰った。


 明日の仕事とか、終電とか、門限とか、くっつけられる理屈はあった。


 しかし、仮に際限なく続ける選択があったとしても、私は終わりを選んでいただろう。


 幸福が長引けば長引くほど、笑うのが辛くなった。会話の途中で不意に、一切を発さず黙り込みたくなる衝動に駆られた。突然思い出したように息が苦しくなった。


 私は人並みの幸せに耐えられない人間なのだと知り、それでも満たされることを求め、そのくせ誰よりも早く終わらせたがった。


 そのたびに強く早く彼女を求めた。


 彼女が与えてくれる安らぎが救いだった。


 無理して笑わなくてよくて、いつまで黙り込んでいても誰も咎めなくて、まともな息継ぎを彼女だけは許してくれた。


 ああ、と。


 そこでようやく、私は彼女が与えてくれるものを一つ見つけられた。


 ただ、それを理由に愛したと言うのは、彼女に失礼な気がした。


 まるで、好きなところを聞かれているのに、嫌いじゃないところを答えるようではないか。


 私は彼女をたしかに愛している。


 彼女がいなければ壊れてしまうほどに愛おしいが、きっと、いつまでも、伝えられないだろうと今日知った。


 彼女の隣でそんなことを考えていた。


 伝えても、彼女はきっと怒らないだろう。


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