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孤独を愛す。  作者: キオ


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彼女(それ)の形

 私は最初、彼女が私だけに見えている存在だと思っていた。はっきりとは覚えていないが、他人にも彼女が見えているのだとおぼろげながら理解したのは、何年も経ってからだった。


 私と関わる人は皆、私とともにいるときに彼女の存在の面影を見せなかった。当然のことと言われればそうなのだろう。

 そして幼かった私は、誰とも関わっていない時間の中で、私を見続けることで精一杯だった。絶え間なく巡る感情を処理して、自分が内側から壊れないよう留めるのに努めていたせいで、周りを見る余裕などなかった。


 だから他人の彼女の存在を知ったのは、蛹から成虫になり、外骨格がある程度の強度を保つようになってからだった。


 しかしそれは、彼女を知る人と、彼女という存在を共通の理解にできることを意味しなかった。


 他人が見ている彼女は、私が見ているそれとはまるで姿形が違うようだった。


 □


 若かった私はあるとき、手当たり次第にその人の彼女について聞いて回ったことがある。


 いや、この際、『彼女』という表現は適切ではないのかもしれない。客観的に、統計的にみたら間違えてさえいるのだろう。

 この話中に限って、無礼だと勝手に思ってしまうが、『それ』と呼ぶことにする。


 聞いて回った結果、私が『彼女』と呼んでいる『それ』は実に様々なものだった。まず当たり前のように女性ではなく、年齢も容姿も尽く異なり、そもそも人ではない見え方をしている人も少なからずいた。幹がツルツルとした大樹、濃く真っ白な雲、輪郭のある闇、液状化したコンクリート、色々。


 少なくとも私にとって、それは『彼女』と形容するのがしっくりする存在だった。私より少しばかり背が高く、手を加えず真っすぐ下ろされた長い黒髪。儚い顔立ちをしているのに、言葉を持つと身を寄せてきて、決して優しくはして来ない。


 しかしどれだけ話を聞いても「よくわからない」という理解だけを私に残して、その人たちは去っていった。


 私が他人に『それ』を聞いて回ったように、私も『それ』について言葉を尽くして伝えようとした。始終首を傾げる人もいたし、あと一歩で飲み込めそうで苦悩する人もいた。


 そして、一つ驚かされたのが、誰しもが『それ』を好ましく思っているわけではないということだった。


 ある人は憎々しく、ある人は恐々として語られる『それ』に、私は酷い無理解を覚えた。どうして、という言葉しか浮かばなかった。


 たしかに私も最初こそ『それ』を恐れていたが、歩み寄ってみれば全くの別物だった。私と『それ』の経緯を話し、近づいてみることを勧めてみたが、『それ』を嫌う人は皆一歩の摺り足でさえも強く拒んでいた。


 ある人はそこは暗闇だと言った。光が届かない果てしない場所。いずれ何も見えない目になって、道を見失って戻ってこれないのが怖いのだと。


 意図して恐れさせるつもりはなかった。私が知る『それ』が、まさか人を傷付けるようなものだとは思っていなかったのだ。


 そもそもなぜ聞いて回ったのかという話だ。


 ただ、人が趣味や思想を他人に理解してもらいたがるのと似たような気持ちだった。その場に呼んで、姿を見て声を聞くことができなくても、「知っている」と存在を認めてほしかった。


 だが目的は拗れ、より難しい話になってしまった。『それ』はたしかに存在するが、どうしてか人それぞれ見え方が違っていた。私の妄言ではない確信とともに、深淵を覗き込んでしまった気分だった。


 それを納得に落とし込むのは途方もない作業になる気がして、そのときは「そういうものだ」と飲み込んで、蓋をして終わった。


 今思うと私の行為は、他人に他人の恥部を見せてくれと頼み込んでいたように思えて、後になって恥ずかしくなった。


 もう今後、私から誰かに聞きに行くようなことはしないだろう。

 だがもし、この独白を耳にして、同じように独白してくれる人がいたなら、少しは誰かの救いになるかもしれない。

 

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