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孤独を愛す。  作者: キオ


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彼女と彼女 上


 今までの人生で二度、彼女ができたことがある。


 三人称代名詞のほうではなく、いわゆる恋人。『付き合う』という行為の対象。


 

 一人目はあまり記憶にない。付き合ったはいいが、恋人という言葉が先行して、世間一般でいう『恋人』をなぞろうと必死になっていたばかりに、そこに私の意思は介在しないで終わった。


 雪山で遭難した私は、阿呆極まりなくかまくらを建てようとしたのだ。穴を掘るでも廃屋を探すでもよかった。そのほうが簡単だったはずだ。しかし柔軟さというものを当時の私は持ち合わせていなかった。死に物狂いで積み上げた雪を固めて内側をくり抜こうとした。今は溶けてしまって姿形は覚えていないが、造りはさぞ酷かっただろう。


 だから、語るのは二人目の話だ。

 再びかまくらを建て、今度は内側に椅子やらベッドやらテーブルやらを誂え、最後に私の手で壊した話。


 高校生の最後の頃だ。三年の二学期。秋頃。

 私が日本史のテストで満点を取り、隣の席の女の子に感心されたのが始めだった。それからいつも持ち歩いている文庫本の話になり、今度の休みに古本屋を見て回る約束をした。


 その子は、いつもはクラスで一番の存在感をもつグループに属していた。私はその子を見て、空気清浄機だと考えていた。生活家電。役立っている実感は薄いが、なくなると急に環境が悪化したのを実感するそれ。メンバーの過激な言葉遣いを巧みに穏やかに変換し、浄化が終わればランプを赤から青に戻して静かにしているのだ。相通ずるものがある、と私は勝手に思っていた。


 家ではたまに小説を読むのだとその子は話した。同じ物語だが、童話チックな話を好んで読むと言った。


 同年代で小説を娯楽にする人は珍しかった。そういう世の中に変わってきているのだ。小説から映画、映画から動画、動画からさらに短い動画。どれだけ短い時間と少ない情報量で、どれだけ大きな快楽を得られるか。娯楽は受動的で効率的であることを求められ、それに応じて変化していた。要するに、小説は時代遅れなのだ。

 私は人間の退化だと恐れた。少ない情報で痩せ細った感性の人間にはなりたくないと抗う意思も込めて、紙を巡り続けた。


 だからか、少ない同士を見つけて惹かれたのは必然だったのだろう。

 文学少女という先入観だけで、私の目には女の子の一挙手一投足が魅力的に映った。

 本棚の上から順に丁寧に小説を眺めていく視線の動き。手に取る本を迷う指先の僅かな硬直。試し読みのときだけ変わる呼吸のリズム。

 アイスコーヒーのストローを摘む指先を優美にし、ヒールブーツが階段を踏んだときのつま先の幅に大いなる意味を付け足した。


 女の子のすべてが私に激情を与えた。言葉を額面通りにしか知らなかった私は、数々の物語で見てきた数々の『言葉』の意味を初めて理解した。


 それから二度の外出を経て、私たちは付き合った。

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