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お義姉ちゃんといっしょ

作者: 紫龍院 飛鳥


序章



僕の名前は『大久保 優太朗』15歳、僕は子供の頃から太っていてそれだけが原因で周りからはからかいの対象となり、それが年齢が上がるに連れて段々といじめへと発展していった。

最初は持ち物を隠されたり机に落書きをされることから始まり、中学に上がる頃には不良グループに目をつけられて使いっぱしりにされほんの少しでも彼らの機嫌を損ねてしまったら殴る蹴るの暴行を受けた。

そんなことがずっと続き、もう人生絶望しかないと思っていたそんな時…僕の人生にある転機が訪れたのだった…。


高校に入学してから一ヶ月、突然母さんから再婚するという話を打ち明けられた…母さんは僕が小さい頃に離婚してからずっと女手一つで僕のことを育ててくれた…母さんはその人と職場で出会って、実はもう長い間付き合っていたらしい…そこで今日、顔合わせも兼ねて母さんと僕とその再婚相手の人と食事会をすることになっている。

場所はどこぞの高そうな料亭、僕と母さんは先に着いて相手の人が来るのを待っていた…


「いやぁ、遅れてすまない…思ったよりも道が混んでてね…」


やってきたのはグレーのスーツを着た若干細身の四十代ぐらいの穏やかな人の好さそうな男性、この人が母さんの再婚相手だろうか?


「待ってたわ『秋人さん』…」

「君が優太朗君だね?君のお母さんとお付き合いをしている『安村 秋人』です、初めまして…」

「は、初めまして…」

「ねぇ秋人さん、今日は”娘さん達“も一緒に来るって言ってたわよね?」


(んっ?娘…?)


「ああ、ほらこっちだよ!早く来なさい」

「ゴメンゴメン、もうパパってば歩くの速いんだもん~!」

「はぁ、お腹空いた…」

「…うぅ、緊張する」


と、やってきたのは高校生ぐらいの歳の三人の美少女達…さっき”娘達“って言ってたけど、まさか…


「紹介するよ、この子達は僕の娘達です…」

「っ!!?」





第一章



「ちょ、母さん!?相手の人に子供がいるなんて聞いてないけど!?」

「あら?そうだったかしら?」

「ちょっと父さん、相手の女の人に息子がいるなんて聞いてないんだけど?」

「まぁまぁ、そう怖い顔をするな…」

「はぁ、最悪…」


(今、“最悪“って聞こえたけど…気のせいかな?)


と、お互い疑問が残ったままこれで役者は全て揃い、改めて食事会がスタートした。


「それじゃ改めて娘達を紹介しよう…まずは長女の『愛』」

「初めまして!長女の愛です!よろしくね!えっと、お義母さん!優太朗君!」


と、ハキハキと明るいテンションで自己紹介する愛さん…金髪の長い髪で緩めのパーマがかかっており肌は褐色でギラギラとしたネイルにアクセサリーを見につけたインパクト抜群の風貌、所謂『黒ギャル』というやつだろうか?


「んー、”優太朗君“だと如何にも他人行儀なカンジだから”ゆーちゃん”って呼んでいーい?」

「ゆ、ゆーちゃん!?」

「うん、優太朗だからゆーちゃん!可愛くない?」

「は、はぁ…」

「じゃあ今日からゆーちゃんって呼ぶね!よろしくねゆーちゃん!」

「え、あ、はい…」


まだ許可した覚えはないんだけどな…流石は陽キャ(ギャル)、距離感の詰め方がエグい


「ちょっと、愛姉…そうやってグイグイいくのやめなよ、明らか困ってんじゃん」

「ん?あーね、ゴメンねぇ…いつものノリでつい…」

「い、いえ…」


と、咄嗟に助け舟を出してくれた茶髪ストレートの子…さっきは僕のことを見るなり”最悪“なんて辛辣な言葉を吐き捨てたように見えたけど、存外悪い人っていうわけではなさそう…


「で、次に次女の『蕾』だ…愛とは二卵性の双子の妹なんだ」

「あらぁそうなの~」

「ほら蕾、挨拶しなさい」

「…どうも」


と、短い言葉で挨拶をする蕾さん…こころなしか少し不機嫌そうに見えるのは気のせいだろうか?


「で、最後に三女で末っ子の『咲玖さく』だ」

「は、初めまして…さ、咲玖って言います…その、こ、これからよろしく…ごにょごにょ」


と、恥ずかしそうに口ごもった感じで挨拶する黒髪ショートボブの子


「ちなみに愛と蕾は高校二年生で咲玖は一年生なんだ、優太朗君もたしか一年生だったね…?」

「は、はい…」

「そっか、優太朗は二月生まれだけど…咲玖ちゃんは何月生まれかしら?」

「え、えっと…九月、です」

「じゃあ三人ともこれから優太朗の”お義姉ちゃん“になるのね!」

「おぉ!やったぁ!アタシずっと弟がほしいって思ってたの!」

「ウチは別に…てか、マジで有り得ない、最悪…ブツブツ」

「え、えっと…」

「………」


なんということだ、まさかこの僕にこんな美人の義理の姉が三人もできるなんて…こんなのラノベや漫画でしか見たことない…まるでラブコメじゃないか、でも…こんな僕となんかじゃそういう展開なんか起こるはずもないか、なんせ生まれてこの方デブってだけでクラスの女子全員から嫌われて恋愛なんて最も縁のない人生を送ってきたんだもの…さっきだって蕾さん、また”最悪”だとかはっきり言ってたし…どうせ愛さんも咲玖さんだって本心じゃ僕のこと快く思ってないに決まっているんだ…いざとなったら僕一人だけ家を出て一人で暮らせばいい…。


それからも僕は気まずい空気を感じながら食事会は進んでいった。


(なんか、あまり食べた気がしない…空気が重い、早く帰りたい)


と、そう思っていた矢先…


「うぃーす、隣いーい?」

「え、あっ…」


愛さんが僕の隣に座ってきた


「あ、あの…愛さん?」

「もう、ゆーちゃんったら…これからアタシ達姉弟になるんだよ?そんな他人行儀な呼び方やーだっ!ちゃんと”愛お姉ちゃん“って呼ばないとダメでしょ?」

「え、いや…その…」

「さ、呼んでみて?リピートアフターミー、愛お姉ちゃん♡」

「えっと、その…」

「何?恥ずかしいの?照れちゃって可愛い~!」


と、いきなり僕に抱きついてきた愛さん


「っ!?」

「あら?早速仲良くなったのかしら?」

「ああ、ウチの愛は初対面の人間でもすぐに仲良くなる名人みたいだからなぁ」

「あらぁ、すごい特技を持ってるのねぇ…」

「えへへ~いいでしょ~?お義母さんもぎゅうってしてあげる!」

「まぁ嬉しいわぁ…」


愛さんに抱き着かれてまんざらでもない笑みを浮かべる母さん


「ちょっと愛姉、よくそんな初対面でいきなりハグなんかできるわね…百歩譲ってお義母さんはまだ女同士だからいいけど、よりにもよってコイツ(・・・)にも抱きつくなんて…」

「ちょ、ちょっとつー姉ちゃん?」


そう辛辣な一言を吐き捨てるとキっと僕を睨みつける蕾さん


「アンタもアンタよ、愛姉に抱き着かれてニヤニヤしちゃって気持ち悪い…」

「べ、別にニヤニヤなんて…」

「うっさい、気安く話しかけないで…」


と、プイっとそっぽを向いてしまった


「す、すみませんね…蕾はこの通り口は悪いんですけど根は真面目でとってもイイ子なんで」

「え、ええ…」


流石の母さんもちょっと引いている様子だ…


「ゆーちゃんゴメンね、つーちゃんだって悪気はないのよ…ほら、つーちゃん昔っから可愛いから色んな男の子から言い寄られることがしょっちゅうで…で、それで段々と嫌気が指して男の人が嫌いになっちゃったみたいなの…悪く思わないであげて」


と、僕にこっそりそう耳打ちする愛さん


「まぁでも、つーちゃん口ではああ言ってるけど内心きっとゆーちゃんと仲良くしたいはずだから嫌いにならないであげて…」

「えっ…」

「ちょっと愛姉!ソイツに余計なこと吹きこんでないでしょうね!?」

「べ、別にそんなことないよぉ~!」

「言っとくけど、ウチはソイツと馴れ合うつもりなんて一切ないから!冗談じゃないわよ…他人の男と暮らすなんて…ブツブツ」

「蕾、お前またそんなこと言って…」

「そ、そうだよつー姉ちゃん…仲良くしよ?ねっ?」

「…フンっ」


それから蕾さんは一切口を開くこともなく黙々と食事をするだけだった…。


その日は食事会が終わるとそのまま解散となり、家に帰ると僕と母さんは引っ越しの荷造りを始めた…

家を引っ越すに辺り、僕らはこれから安村家で秋人さん…基、お義父さんとあの三姉妹と暮らすことになるのだが、それに辺り学校も転校することとなり僕も三姉妹達が通う高校に通うことになった。

新しい学校に新しい生活、そして新しい家族…今日からが僕の新しい人生のスタートとなる。


ゴールデンウイークの連休中に引っ越しや転校の手続きを済ませ、いよいよ今日から僕らも安村家でお世話になる。


「それじゃ、今日から改めてよろしくね!」

「はーい!」

「………」

「よ、よろしくお願いします…」



【転校初日】



連休も明け、今日から新しい学校に通うことになる…新しい制服に着替えてリビングへと向かう

すると…


「あらぁ、蕾ちゃんお料理上手なのね~!」

「まぁ、普段はみんなのご飯はウチが作ってあげてるんで…」

「あらそうなの!エライわね~!」


キッチンで母さんと蕾さんが一緒に料理をしていた


「あら、優太朗おはよう!」

「お、おはよう…」

「………」

「え、えっと…おはよう、ございます」

「…もうできるから、食べるならさっさと座れば?」

「あ、はい…」


相変わらずの僕にだけ塩対応…まぁ、ご飯を作ってもらえるだけありがたいけど


「では、いただきます…」

「いただきます…」


みんな揃って朝食を食べる


「蕾ちゃんの作っただし巻き玉子美味しいわぁ、私よりも上手かもね?」

「…あ、ありがと」


照れ隠しするようにご飯茶碗で顔を隠すようにかきこむ蕾さん


「これだけ美味しいお料理作れるんだからきっとイイお嫁さんに…」

「やめてよ、ウチは結婚なんてしない!男なんて、みんな下品で低俗なクズばっかりだし…」

「ア、アハハハ…」

「………」


そういったセリフを僕が目の前にいるにも関わらず平然と言い捨てる蕾さん…よっぽど男の人が嫌いなんだろう…。



身支度を終えてもう出ようと玄関先で靴を履いていると…


「ねぇ、アンタ…」


不意に蕾さんの方から話しかけてきた


「は、はい…なんですか?」

「学校の人達にウチらとアンタが一緒に暮らしてるってこと一切喋らないこと!もし破ったら、殺すから…」

「ひぃ…」

「じゃ、ウチは先いくから…アンタは後五分経ってから家出てよ」


と、マジなトーンで殺害予告をされ僕はすごくビビってしまった。


「…びっくりした」

「…ゆーちゃん?どうかした?」

「あ、いや…なんでも」

「もしかして、またつーちゃんに意地悪なこと言われたんでしょ?」

「まぁ…はい」

「もう、つーちゃんったら…後でつーちゃんに”ゆーちゃんに意地悪しちゃメっ!“って怒っておくから」

「いや、いいですって別に…」

「そう?でもまたつーちゃんに意地悪されたらいつでも言ってね?お姉ちゃんが助けてあげるから…」

「は、はぁ…」

「じゃあ、アタシは先に学校行ってるね!お先~!」

「………」


今思えば、こうやって僕なんかに優しく声を掛けてくれた女の子は愛さんが初めてだ…今まで僕は女の子から心無い言葉や嘲笑ばかり浴びせられてきたから、なんだか少し新鮮だ…


「…ゆ、優太朗君」

「えっ?あ、咲玖さん…」

「その、が、学校…道、分かる?」

「へっ?あ、ああ…大丈夫、です」

「そ…」


それだけ言うと咲玖さんはスタスタと僕の横を通りすぎてさっさと行ってしまった。


「…?」



…学校に着き、まずは職員室に寄って担任の先生に挨拶をする


「今日からよろしく、担任の河村です」

「よ、よろしくお願いします…」

「君の事情は親御さんから聞いているわ、後ついさっき次女の蕾さんがここに来て私に君との関係をクラスのみんなに秘密にするように釘を刺しにきたんだけど…」

「あぁ…」

「なんかあった?」

「あ、いえ、別に…気にしないでください…」

「まぁ、思春期の男女同士だし…色々な事情もありそうだしあまり先生も込み入ったことはいちいち突っ込んだりしないから、安心して…」

「そうしてくれると、助かります…」

「よし、それじゃあそろそろホームルーム始まるから教室へいきましょうか」

「はい」


教室へ移動する、ホームルームが始まりクラスのみんなの前で自己紹介をする

ホームルームが終わり、一時間目の授業が始まる前の時間一部のクラスメイトが僕の席の周りに集まってくる。


「安村君だっけ?今日からよろしく!ところでいきなりなんだけど、ラグビーとか興味ある?」

「いやいや、ラグビーよりも柔道部とかはどう?」

「いやいやいや!野球部に入ろうよ!丁度キャッチャーできそうな人探してたんだ!」


…恐らく、みんな僕を部活動に誘ってくれているのか…でも誘ってきたのは全部スポーツ系か格闘技系の部活の人ばかり、僕の見た目だけ見てきたんだろうけど生憎僕にはスポーツの才能なんて皆無で運動神経もゼロだし、痛いのだって嫌だし格闘技なんてもっての外だ…ここは丁重に断ろう。


「あの、ゴメン…誘ってくれるのは嬉しいんだけど、僕…運動とかはちょっと」

「ん、そっか…ならしょうがないね、じゃあこれからクラスメイトとしてよろしく!」

「え、あ、うん…よろしく」

「なぁなぁ、今日折角だしみんなで安村君の歓迎会しようぜ!」

「おっ?いいじゃんいいじゃん!やろうやろう!」

「よっしゃテンション上がってきたぁ!フゥゥゥゥ!」


な、なんてテンションの高いクラスなんだ…僕はとんだ”パリピクラス“に転入してしまったようだ。



…それからというものの、僕はクラスメイト達から絶え間なく話しかけられまくった。

それは男子達だけでなく女子からも例外ではなかった、よくよく観察してみればクラス全員が男女分け隔てなく仲良しでクラスのほとんどがもれなく何らかのスポーツ系や格闘技系の部活に入っていてみんなテンションが高い…こんなクラス正直漫画でしか見たことない。


「安村~、昼飯弁当?俺らと一緒に食おう!」

「えっ?いいの?」

「おう、いいよ…遠慮すんなって!」


と、誘われてやってきたのは男女合わせて四人のグループ


「よう『タケシ』!おっ?安村君も一緒に食べる系?」

「マジ?ほらほら遠慮しないでこっちきな!」

「バナナ好き?良かったら一本食べる?」

「あ、どうも…」


四人に誘われて昼ご飯を食べる、聞けば四人は子供の頃からの幼馴染だそうだ…サッカー部に所属しているタケシ君とマル君、そして女子バスケ部に所属しているかなっぺさんとちゃんまきさん


「安村の弁当超美味そう、母ちゃんが作ったの?」

「まぁ、うん…」

「へぇ~」


本当は(蕾さん)に作ってもらったんだけど、当然本当のことは言えないので一先ずそういうことにしておく


「にしても美味そう、ねぇねぇ!俺んちの筑前煮とそのだし巻き玉子トレードしていい?」

「えっ?まぁ、うん…」

「サンキュー!恩に着るよ!…んっ!滅茶苦茶美味いっ!」

「えっ?マジで?アタシも食べたい!ねぇねぇ、アタシのシュウマイと交換してくんない?」

「あっずるい!俺も俺も!じゃあ俺は、唐揚げをやる!ウチの唐揚げ美味いぞ!」

「私も!玉子食べたい!ねぇねぇ、バナナもう一本あげるから私にも…」

「ちょ、みんな落ち着いて!」


と、みんなから好評のだし巻き玉子はあっという間に売り切れてしまった…まぁみんなから分けてもらったおかずもすごく美味しかったからあれだけど…


「いやぁ、美味かった…また明日もおかず交換しような!」

「いいねぇ!そうしよう!」

「え、い、いいの?」

「いいよ全然!バッチコイよ!」

「あ、ありがとう…その、『竹島君』『丸山君』『井上さん』『本田さん』」

「『タケシ』でいいよ水臭い!そうだな、俺らも安村のこと『ヤス』って呼ぼう!」

「ヤ、ヤス?」

「そう、だから俺も『マル』でいいよ」

「アタシも!遠慮なく『かなっぺ』でいいから!」

「私は『ちゃんまき』ね!」

「………」

「どしたん?呆けた顔しちゃって」

「いや、こうしてクラスメイトと普通に話したり、一緒にお昼食べておかず交換っこしたり、普通にあだ名で呼び合うなんて初めてだったから…」

「…そ、そうなの?」

「前の学校でなんかあったん?話聞こうか?」

「大丈夫?バナナもっと食べる?」

「うん、大丈夫…後、バナナももう大丈夫…流石にお腹いっぱい」

「そっか…まぁ俺らもあんま込み入った事情にずけずけ入るのも申し訳ないしな」

「…まぁ安心しなよヤス、ウチらのクラスはみんなフレンドリーでイイ奴ばっかだから…」

「みんな…」


ひょっとしたら、僕はこのクラスでなら楽しい学校生活が送れるかもしれない…。



・・・・・



放課後、学校の近くにあるファストフード店でささやかながら僕の歓迎会が行われて、その後はタケシ君達四人に誘われてゲームセンターに行き、みんなでプリントシールを撮ってその日は解散した…その帰り道のことだった。


「あっ…」

「あっ…」


帰り道の途中でばったり咲玖さんと出会った


「き、奇遇だね…さ、咲玖さんも、その…今帰り?」

「ま、まぁ…ちょっと買い物してて、その…」

「そ、そうだったんだ…」


見ると、咲玖さんはピンクの可愛らしい紙袋を大事そうに抱えている


「わ、私、先行くね…」

「あ、うん…」


すると、その時だった…。


「っ、きゃあっ!」


と、落ちてた石に躓いて転びそうになってしまった。


「あ、危ない!」


僕は咄嗟に咲玖さんの身体をがしっと受け止めた、その弾みで咲玖さんは持ってた紙袋を手放してしまい下に落としてしまった。



”ビリッ!“



と、落ちた衝撃で紙袋が破けて中身が飛び出てしまったようだ…。


「だ、大丈夫…?」

「う、うん…その、あ、ありがと」

「いや、全然…怪我なくって良かった」

「…うん、あっ」

「あぁ、袋が…ん?」

「っ!!?」


紙袋から飛び出たものを見ると、それはなんと『ブラジャー』だった…しかも見るからにかなり大きい人用のサイズの…まさか、買い物してたって言ってたけど…これを、咲玖さんが?


「…っ」

「あ、あわわわ…」


慌てた様子で破れた袋とブラジャーを急いでバッグの中にねじ込む咲玖さん、するとちらりと僕の方を見て…


「…その、み、見ました?」

「え、えっと…その、そんなには見てないです、はい…」

「っっっっ!!?」


と、言葉にならないような叫びを上げると顔を真っ赤にして一目散に走り去っていく咲玖さん


「ちょ、待っ…行っちゃった」



…少し罪悪感を残しつつもあまり気にすることもなく家に戻る


「た、ただいま…」


すると、玄関先でエプロン姿の蕾さんが手にお玉を持った状態で仁王立ちで待ち構えておりすごく怒った様子で僕のことを睨みつけてくる。


「…おかえり」

「ひっ…あ、あの」


すると、僕の方にズンズンと歩み寄りドンっと僕の後ろの壁に手を突き立てる


「あ、あの…」

「アンタ…こんな時間まで何してたのよ?」

「へ?あ、あの…実は、歓迎会を」

「歓迎会?」


と、僕は蕾さんにわけを説明した


「…と、いう次第であります」

「…あっそ、だったら連絡ぐらい寄越しなさいよ!こっちはご飯作って待ってたってのに」

「ゴ、ゴメンなさい…まだ連絡先とか知らなくて」

「…それもそっか、じゃあスマホ貸して」

「へ?」

「いいから、早く…ちゃんとロック外してよ」

「は、はい…」


スマホのロックを外して蕾さんに手渡す、すると蕾さんは自分のスマホもポケットから取り出して僕のスマホと合わせてポチポチと操作する


「…ん、これで良し」

「??」

「ん…」


と、僕のスマホを返す


「家の番号とウチのメッセージID、入れておいたから…」

「あ、ありがとうございます…」

「か、勘違いしないで!あくまで緊急連絡用だから!くだらないことで使ったり誰かに流出したりなんかしたら殺すから…」


と、またしてもマジのトーンで冷たくそう言い放ちお玉を僕の方へ向ける


「は、はい…絶対にみだりに使ったり誰かに流したりしないと誓います」

「…ならよし」


と、深くため息をついてリビングに戻っていく


「…い、一応心配してくれたってことかな?」





第二章



僕達が安村家で暮らすようになってから一ヶ月が経ち、今の生活にも少しだけ慣れてきた。


家では愛さんが僕にしょっちゅう引っ付いてきたり抱きついてきたりとかなり激しめのスキンシップに終始ドキドキさせられており、終いには僕と一緒に風呂まで入ろうとする始末…流石にそればかりは僕も全力で拒否はするし、蕾さんと咲玖さんの二人が全力で阻止してくれている。

一方で蕾さんはというと、あれから一緒に暮らしていく内にほんの少しだけ塩対応がマイルドになりつつあり…僕のことを執拗に睨み付けたり理不尽に辛辣な毒を吐くことも少なくなった。

一方、咲玖さんはというと…あの『ブラジャー事件』以来僕と顔を合わせるといつも顔を赤くして動揺してドギマギするようになった…まぁ、元々咲玖さんは恥ずかしがり屋っぽい印象もあり僕なんかに下着を見られたのがよっぽど恥ずかしかったのだろう…ましてやあんな大きなサイズの、あんなの初めてみた。

たしかに咲玖さんはパッと見た感じ小柄な体格の割にはとても豊満なバストを持っていることは一目瞭然だ…確かにお姉さんの愛さんもかなりのものをお持ちなようだったし、でもその反面蕾さんは二人とは対象的にとてもスレンダーで見た感じ胸はあまり、って…一体何を考えているんだ僕は?あくまでも彼女達は義理とはいえ姉弟なんだ…こんなやましいことは考えちゃいけない、守るべき一線はちゃんと守らないと…そう固く決心した時、事件は起きてしまった。



季節は梅雨、僕は急な雨に降られてダッシュで帰りを急いだ

無論傘なんて忘れてしまった為全身びしょ濡れである…待っていても止みそうもないので走って帰ることにした。


「ただいま…うぅ、寒っ」


大雨の中全力で猛ダッシュしてきたので全身すっかり冷えてしまった…早く熱いシャワーを浴びたい、僕はそう思い急いで風呂場に直行した…。


「うぅ…寒ぅ、早く着替えないと本当に風邪ひきそ…」


と、脱衣場の扉を開けたその時だった…


「っ!?」

「えっ?あっ!?」


と、そこには既に蕾さんがいて上半身に何も身に着けていないトップレスの状態で立っていた。


「…っ!」

「ち、違っ…こ、これは」

「…いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


家中に蕾さんの高周波のような悲鳴が響き渡り、その直後僕は蕾さんに思い切り蹴りを入れられる。


「こ、この変態!痴漢!とうとう本性を現したわね!許すまじ!」


と、左腕で胸を隠した状態で馬乗りになり、右腕で僕を容赦なく殴る蕾さん


「ちょ、痛い!お、落ち着いて!まさかいるなんて思わなくて!い、痛い痛い!」

「うるさい!この女の敵!やっぱり男なんてみんな同じよ!ケダモノ!ドスケベ!」


と、僕を罵倒しながらボカスカと殴る蕾さん、僕はただ必死で耐えるしかない


「ただいまー、って…つ、つーちゃん!?ちょっと、何してんの!?」

「あ、愛さん!た、助けてぇ!」

「わ、分かった!ほらつーちゃん!落ち着いて!暴力はメっ!よ」

「邪魔しないで愛姉!この女の敵はウチが成敗してやるんだから!」

「はい、ドウドウ!まずは落ち着いて!それからゆっくり話し合いましょう…」


…それから、蕾さんは自分の部屋に閉じこもってしまった。

一方僕は蕾さんにこれでもかというぐらいにボッコボコに殴られて顔中傷だらけになってしまった…リビングに戻って愛さんが救急箱で手当てをしてくれた。


「…痛っ!」

「あ、ゴメン!でもあんまり動かないで、それじゃ上手くガーゼ貼れないから…」

「うぅ、すみません…」

「いいの、それにしても派手にやられちゃったねぇ~」

「いえ、完全に僕の不注意が原因なんで…蕾さんが怒るのも無理ないです」

「…優しいんだね、つーちゃんのことは責めたりしないんだ」

「そりゃ、まぁ…ここまでボコボコに殴らなくてもいいのにとは思ってますけど」

「そうだよねぇ…可哀想に、アタシが一緒にお風呂入って癒してあげようか?」

「いえ、結構です…もう」

「もう、ツレないんだから…」

「ホント、大丈夫なんで…ハ、ハクシュン!」

「大丈夫?冷えちゃった?」

「だ、大丈夫…です、心配しないでください」

「う、うん…」




【翌日】



僕は、見事に風邪を引いた。

熱も段々と高くなり、だるくて起き上がることもできない…


「大丈夫優太朗?」

「ゆーちゃん大丈夫?お姉ちゃん心配だよ…」

「優太朗君…」

「ゲホッ、大丈夫だよみんな…移ると申し訳ないから、もう行って…僕は大丈夫だから」

「そう?じゃあお母さん行くわね?」


そう言ってみんな学校や会社へいく


「………」



・・・・・



学校にて…


「…愛姉」

「つーちゃん、どうしたの?」

「その、アイツ…そんな具合悪いの?」

「うん、熱もあるしだるさも酷いって言ってたからお姉ちゃん心配…必要なものはお義母さんが揃えて家に置いておいてくれたみたいだけど」

「そう…」

「…もしかして、ゆーちゃんのこと心配してるの?」

「っ!?、んなわけないでしょ!?なんでウチがあんな変態の心配しなきゃなんないのよ!?」

「もう、まだ怒ってるの?そろそろ許して仲直りしなよぉ」

「誰があんな奴と!あんな奴、さっさとくたばればいいの…」


そう言い放とうとしたその時だった…。



”バチンっ!“



「っ!?」


蕾を思い切り平手打ちする愛


「…何すんのよ?」

「冗談でもそんなこと言っちゃダメだよ…アタシ達、家族なんだよ?大事な家族なのにくたばっちゃえばいいなんて言っちゃ絶対ダメ!」

「愛姉…」

「覚えてる?ママが死んじゃった時のこと?」

「なんで母さんの話になんのよ?」

「いいから、ちゃんと聞いて…」



…今から十二年前、三姉妹の母『華恵』は交通事故でこの世を去った。


事故の当日、華恵は三姉妹を連れて遊園地に遊びにいく予定だった…だがそんな時、華恵は急な仕事が入り急遽休日出勤することとなってしまった。


「うえぇぇぇん!ママいっちゃやだぁ!」

「ゴメンね愛、ママ仕事で行かないといけなくなっちゃったの…遊園地はパパが連れてってくれるから、ねっ?」

「やぁだぁ!ママがいっしょがいいのぉ!」

「愛…イイ子だから、言うこと聞いて頂戴」

「やだやだ!みんなでいっしょにいくってゆったもん!ママのうそつき!ママなんかだいきらい!もうどっかいっちゃえ!うえぇぇぇん!」


そう言い捨てて走り去ってしまう愛


「愛!」

「大丈夫、僕が追いかけるから…後は任せて」

「うん、お願いね…」


走り去った愛を必死に探す秋人、愛は近所の空き地の土管の中でしくしくと泣いていた


「愛…こんなとこにいたのか」

「パパ…」

「いつまで泣いているんだ?ほら、お家帰ろう…つーも咲玖も待ってるぞ」

「うん」


帰り道にて…


「ねぇパパ…」

「ん?」

「ママ、あいのこときらいになっちゃったのかな?」

「どうしてそうだって思うんだい?」

「だって、あい…ママにだいきらいって…どっかいっちゃえっていっちゃった、ほんとはママのことだいすきなのに…」

「なんだそんなことか、ママはそんなこと全然気にしてないよ!子供を嫌いになる親なんかいるもんか…」

「ほんと?」

「ホントにホント、ママは今だって愛のこと愛してるぞ~」

「うん…」

「ママが帰ってきたら、大嫌いって言ってゴメンなさい…ってできるか?」

「うん…あい、ママにごめんなさいする」

「よし、イイ子だ…」


だがしかし、その約束は果たされることもなく…仕事を終えて帰宅しようと車を運転中の華恵はトラックの衝突事故に巻き込まれてしまい、瀕死の重傷を負い病院に搬送され治療の甲斐もなく帰らぬ人となってしまったのだった…。


「うぅ…ごめんなさい、ママ」

「愛…愛はちっとも悪くないよ、ママだってきっとそう思ってるに違いない」

「だって、あいがママなんかどっかいっちゃえなんてゆったから…ママ、しんじゃった」

「違う!そんなことない!自分を責めちゃダメだ!そんなこと言ったら天国に行ったママが悲しむだろう…」

「ママ、ごめんなさい…ごめんなさい…」

「愛…愛はちっとも悪くない、愛は悪くない」

「ママ、うぅ…ママぁぁぁぁぁ!!」



・・・・・



「…そんなことが、あったんだ…知らなかった」

「そうだよ、つーちゃんは覚えてないかもしれないけどアタシは今でも鮮明に覚えてるよ…」

「………」

「つーちゃん知ってる?人の言葉って、自分が思ってるよりもすんごいパワーがあるんだよ?落ち込んだ人を勇気づけることもできるけど、時には他人を簡単に傷つけてしまう凶器にだってなるの!だから冗談でもそんなこと言っちゃダメ!言葉には力があるんだから本当にそうなっちゃうよ!」

「…『言霊』、ってやつだね」

「そうだよ、だから今後軽はずみにそういうこと言わないってお姉ちゃんと約束して!じゃないとお姉ちゃん、本気で怒るからね!」

「分かったよ、ウチが悪かった…ゴメン」

「…謝るのは、お姉ちゃんだけじゃないでしょ?」

「えっ?」

「…すぐ行ってあげて、ゆーちゃんのところに!」

「愛姉、でも…まだ学校が」

「そんなことは今はどうでもいいの!先生にはアタシから上手く言っといてあげるから!つーちゃんは早く行って!」

「…で、でも」

「もう、つべこべ言わないの!行かないんならつーちゃんが実は胸が小さいの気にしててパット五枚重ねて誤魔化してるって学校中に言いふらしてやるんだから!」

「な、なんでそれ知って…」

「いいから早く行って!ちゃんとゆーちゃんにゴメンなさいしてあげて!」

「わ、分かったわよ…」




【安村家】



「ゲホッ、ゲホッ…ゲホゴホ、ハァ、ハァ…」


「…ただいま」


(誰か帰ってきた、もうそんな時間?声の感じからして蕾さん、かな?)


と、しばらくすると足音が段々とこっちに近づいてくる


「…あの、ウチだけど…その、入ってもいい?」


ドア越しに僕に入室の許可を求める


「つ、蕾さん?あ、うん…どうぞ」

「お、お邪魔します…」


僕の部屋へと入る蕾さん、一応感染予防の為にしっかりとマスクをつけている


「具合、どうなのよ?」

「うん、まだ身体中熱くて、眩暈がする…ゴホ、ゴホッ」

「…思ったよりも酷いわね、その様子だと何も食べてないんでしょう?」

「うん…食欲もなくて」

「…だと思った、ちょっと待ってなさいよ」


そう言って一旦部屋から出て行き、また数十分後に戻ってきた…。


「お待たせ、これなら食べられるでしょ?」


と、何か作って持ってきてくれたようだ…


「玉子粥…体にいいもの色々入ってるし、消化もいいからこれなら身体に負担も少なく食べれるでしょ?」

「あ、ありがとう…」

「ほら、起きれる?」

「うん…」


ベッドの上で何とか身体を揺り起こす


「ちょっと出来立てで熱いから、待ってて…」


と、鍋の蓋を開けてスプーンでひと掬いするとマスクを外してフーフーと口で吹いて冷ましてくれた。


「…っ」

「…何よ?」

「い、いや…何でも」

「そう、ほら…口開けなさい」

「あ、はい…あーん」


蕾さんにお粥をあーんしてもらう、風邪で鼻が詰まってイマイチ味が感じにくかったけど…なんだかすごく優しい味がした気がする。


「…美味しい」

「当然でしょ、誰が作ったと思ってんのよ…」

「そうでした…」


と、そのまま蕾さんにお粥を食べさせてもらい完食した。


「ごちそうさまでした…」

「お粗末様…」

「ふぅ…」

「…アンタ、汗すごいわよ?少しシャワーでも浴びてすっきりしたら」

「うん、そうしたいのは山々だけど…」

「…そっか、動けないんだっけ?しょうがないわね…ちょっと待ってなさい」

「??」


再び退室していく蕾さん、戻ってくるとその手には洗面器とタオルを持っていた。


「さ、身体拭いてあげるからさっさと脱ぎなさいよ…」

「えっ、いや…流石にそこまでは」

「何言ってんのよ、病人なんだから遠慮なんかしなくていーの!さっさと脱ぎなさい」

「で、でも…」

「何よ?いっちょ前に裸見られるのが恥ずかしいっての?ハンっ!それぐらい何よ!こっちだってアンタに裸見られて散々恥ずかしい思いしたんだからね!」

「そ、それとこれとは話は別…」

「問答無用!とにかく脱ぎなさい!これでおあいこよ!」

「ちょ、待って!あっ…」


と、抵抗する力もなく呆気なく服を脱がされてしまった…そう、僕にはどうしても他人に裸を見られたくない理由があった…それは


「っ!?アンタ、それ…」

「…やっぱり、ひきますよね?」


そう、僕の体には中学時代に不良グループからの暴力を受けてた頃にできた傷痕が生々しく残ってしまっているのだ…殴る蹴るの暴行によってつけられた痣、火のついたタバコを押し当てられた火傷の痕、鋭利なカッターナイフなどで刻まれた屈辱的な悪口の数々…おびただしい量の傷痕が僕の上半身にはくっきりと刻まれている。


「これ、一体…?」

「実は僕、中学時代にいじめに遭っていたんです…これはその時の傷です」

「…っ」


僕の口からその事実を知った蕾さんは溜まらず絶句してしまう


「…もう、痛くないの?」

「はい、見た目はこんな酷いですけど今は痛みはほとんど…」


すると、蕾さんはそっと僕の背中に手を触れた


「つ、蕾さん?」

「…こんな酷い傷、隠してたんだ」

「か、隠してたっていうか…まぁ、そうですね、隠してました」

「…ウチってば、そんなアンタのこと思い切りぶん殴っちゃったんだ」

「そ、それは…でもあの時は」

「う、うぅ…ずすっ」

「蕾さん?」

「ウチ、めっちゃヤな奴じゃん!冷静になって考えたら、裸見られたぐらいで顔の形変わるぐらいボッコボコに殴っちゃって…そんなことぐらい、素直に許してやればよかったのに…アンタのこといじめてた連中とおんなじことしてた…アンタはその連中に散々嫌な目に遭わされてきたのに…ウチは、そうとも知らずに…サイテーだ」

「そ、そんな、サイテーだなんて…」

「ごめんなさい…ごめんなさい!!うわぁぁぁぁぁ!!」


と、涙ながらに僕に何度も何度も謝罪する蕾さん


「蕾さん、泣かないで!僕なら平気ですから…ねっ?」

「…ずすっ、怒ってないの?」

「怒ってないです…」

「あんなにぶん殴ったのに?」

「まぁ、僕の不注意ってこともありましたし…それに男性が嫌いな蕾さんからしたらそれぐらい嫌だったんじゃないかって…」

「…変なの、恨み言の一つや二つぐらいは言われても仕方ないって思ってたのに」

「まさか、僕にそんな資格ないですって…」

「………」

「それに、なんだかんだ言ってこうして僕の看病してくれてすごく感謝してます…蕾さんってすごく優しくて素敵な女性なんだなって、見直しました」

「っ!?」

「…どうかしました?」

「な、なんでもないっ!」


それから、蕾さんは僕の体を拭いて着替えさせてくれた後はそのまま何も言わずに部屋から出ていった。


(何なのよアイツ…急にあんなこと言うなんて、しかもなんか無自覚っぽいし、“天然女ったらし”なの!?…なんかマジでムカつく、あんな奴にちょっとでもときめいちゃうなんて、もう絶対簡単にほだされたりしないんだから!)




【翌日】



僕の風邪は大分良くなり、熱も下がってだるさももうほとんどなくもうほぼ治りかけていた。


「熱下がってよかったわね」

「うん、明日からまた学校いくよ」

「そうね、じゃあお母さん仕事行ってくるから」

「うん、いってらっしゃい」


みんなが出てから、僕はまた少し眠り…お昼頃に一度起きて何か食べようと思い冷蔵庫を開けると


「…これは」


そこにはラップに包まれたオムライスが入れてあり、そのラップの上には付箋が貼ってあってそこには『優太朗 用』と書かれてあった…きっと蕾さんが作って入れておいてくれたのかな?


「蕾さん、ありがとう…いただきます」



【学校】



「ん~!つーちゃんのオムライス美味しい~!」

「まぁね、もう卵料理は極めたって感じかな?」

「うんうん、でもなんか…いつもよりも断然美味しい気がする…なんでかな?」

「さぁね、”愛情“がたっぷり入ってるから…なんてね」

「ほほぉ、果たしてそれは誰に向けられた愛情なのかなぁ?」

「べ、別に誰でもいいでしょ!」

「ふぅん?もしかして、ゆー…」

「ないっ!それだけは絶対にない!あんなデブお断りだから!」

「あー!そういうこと言っちゃうんだぁ、お姉ちゃん悲しいよぉ…」

「あーもう!はいはい!デブは言いすぎました、ゴメンなさい!」

「はい、よくできました~!お姉ちゃんがチュ~してあげよう!」

「もう!引っ付かないで!うざい!」



・・・・・



季節は本格的な夏到来、僕達の学校は明日から一年生全員で課外授業で三泊四日の『臨海学校』へと赴くことになる。


「ゆーちゃん達明日から臨海学校じゃんね、いーなーアタシも海行きたいー」

「臨海学校か、懐かしいね…」

「あらいいわねぇ、みんなで海で泳いでバーベキューしたりするんでしょう?盛り上がりそうねぇ」

「で、夜になったらみんなで肝試しっていうのが定番だったりするんだよなぁ…実はお父さん昔、臨海学校で肝試し担当になったことがあってだな…生徒達みんなうんと怖がらせたもんだ」

「えー、あの虫にだってビビり散らかすパパがぁ?信じられないねぇ、ねぇつーちゃん?」

「あぁ、去年ゴキブリが出た時だってこの世の終わりみたいに狂って叫び倒して滑稽だったわ…」

「お、おい!お母さんと優太朗のいる前でお父さんの恥ずかしいエピソードを暴露するのはやめなさい!」

「だってホントのことじゃん」

「たしかに…なんならアタシ、パパのもっと恥ずかしいエピソード知ってるよ」

「や、やめてくれ!頼むから!お願い!」


慌てふためくお義父さん、それを見て家族全員クスクスと笑った…。


その夜のこと、僕は明日の臨海学校の荷造りをしていると…


「あ、あの…優太朗君、私だけど、いいかな?」

「ん?その声は、咲玖さん?どうしたの?」

「お、お邪魔します…」


部屋に入る咲玖さん


「どうしたの?」

「あの、ね…あ、明日の臨海学校のことなんだけどね」

「ん?なんか、心配事?」

「え、えっと…」

「えっと、僕にできることだったら何でも相談にのるけど…遠慮なく話していいよ?」

「うん、じゃあ…あの、優太朗君」

「うん?」

「これ、覚えてるかな?」


と、チラッと見せてきたのはあの時の(・・・・)ブラジャーだった。


「あっ、それ…」

「うん、私の下着…」

「そ、それがどうかしたの?」

「これで見れば分かる通り、私…他の子よりも断然胸が大きくて」

「ああ…」

「普段は”胸を小さく見せる為のブラ“を使って誤魔化してるんだけど、本当はGカップぐらいあるの…」

「じっ!?」

「びっくりしちゃうよね…実はウチのお母さんも結構胸大きくて、代々そういう大きい人が多い家系みたい…」

「そ、そっか…言われてみれば愛さんも中々、でも蕾さんはそんなにでも…」

「つー姉ちゃんはどっちかっていうとお父さん似だから…」

「まぁ、お義父さんって結構ほっそりしてるからね…」

「で、話を戻すんだけど…私が胸が大きいのを隠してるのには理由があって」

「ふむ…」


…話を聞く限り、彼女は極度の恥ずかしがり屋で人から注目されるのが大の苦手らしい

それに反して、小学生高学年になったのを境に急激に胸が成長を始め小学生の時点でDカップほどに、中学の時点でE~Fカップぐらい、そして高校に入った現時点でGカップにまで成長してしまったという。

彼女は過去、この大きな胸のせいで周りからからかわれたり注目を浴びてしまい恥ずかしい思いをしてきたとのこと。


「なるほど…」

「どうしよう、このままじゃ私…水着になった途端にみんなに注目されちゃう、そんなの恥ずかしくて耐えられないよ!」


まぁ、気持ちは分からないでもない…僕だって傷のせいであまり肌を出すことができないから…


「う~ん、じゃあせめて水着の上に何か着てあまり目立たないようにするのはどうかな?なんなら僕のTシャツでも貸すよ、僕のサイズなら咲玖さんが着ればぶかぶかになって上手く隠せると思う…」

「…ありがとう」

「いいよ、折角の臨海学校なんだから…咲玖さんも気兼ねなく楽しもうよ」

「うん…」



・・・・・



【臨海学校 当日】



「海だーっ!!」


早速海へとやってきた僕達、一日目は海水浴の予定…今日は時間の許す限り自由に楽しんでもいいとのこと


「お待たせ」

「遅いよヤス~、ん?何そのカッコ?」

「あ、これは…」


僕は前述のように全身に見られたくない傷が残っている為下は普通に海パンを履いているが上半身はラッシュガードを身につけている。


「えっと、僕…肌弱くて、強い日差しとかちょっと」

「そういや、衣替えしてもずっと長袖着てるし体育の授業の時も体操服じゃなくてジャージ着てたよな…そういうことだったのか」

「でもそれ熱くない?アタシ日焼け止めあるけど使う?」

「いや、日焼け止めもちょっと…」

「あー、もしかして体質とかに合わない感じかな?ゴメンゴメン!じゃあそのままでいいや!」

「いいよ、ゴメンね…変に気を使わせて」

「いいっていいって!ヤスも一緒にあそぼーぜ!」

「うん!」


それから僕もみんなに混ざって海水浴を楽しんだ、みんなと遊ぶ一方で僕は咲玖さんのことをちらりちらりと気にしながら見ていた。

見た感じ昨日僕が貸したTシャツを着て海には入らず友達とビーチバレーを楽しんでいる様子だった。


そして午後からはみんなで集まってバーベキューをした、先生達がお肉を焼いて僕達はお腹いっぱいバーベキューを楽しんだ。


それから一日目は何事もなく無事終了、二日目のマリンスポーツ体験もみんなで楽しんだ。

僕はタケシ君達のグループと一緒にシュノーケリング体験に参加し、咲玖さんは地元の漁師さん達の指導の元に漁船に乗って海釣り体験をしたらしい…。



【宿泊先のホテル】



夜、僕はホテルのロビーの自販機で飲み物を買って少し一息ついていると、そこでばったり咲玖さんと鉢合わせた。


「あ、咲玖さん…」

「優太朗君…」

「あれ?今の時間帯って女子はみんなお風呂じゃなかった?」

「ああ、私はさっき部屋でシャワーで済ませちゃった…女の子同士とはいえ、裸見られたくないし…」

「そっか、実は僕もさっきシャワー浴びて喉乾いたからこうして飲み物買いに…」

「そ、そうなんだ…行かなかったの?大浴場…」

「うん、実は…咲玖さんと同じで僕も人に裸を見せられない理由があって…」

「理由…?」

「うん、まぁ…」

「まさか、優太朗君も胸が…いやでも男の子だし」

「いや違うよ?体にね、傷があるんだ…昔いじめられていた頃の傷が」

「えっ、あっ…」

「咲玖さん言ってたよね?自分も昔周囲の人間からからかわれていてすごく嫌だったって…僕もその気持ちがすごくよく分かるんだ…」

「だから、私のこと親切に助けてくれたんだ…」

「うん、余計なお節介だったかな?」

「ううん、すごく助かってる…ありがとう、優太朗君って、すごく優しいんだね」

「そんなことないよ、ただ僕は当たり前のことをしてるだけで…」

「フフ、そっか…それでもすごいよ、優太朗君は…」

「そ、そうかな?」

「そうだよ…私、優太朗君のそういうとこ、すごくいいと思う」

「咲玖さん…」

「じゃあ、私もそろそろ部屋戻るね…おやすみ」

「うん、おやすみ…」



・・・・・



【臨海学校 最終日の夜】



「よーし!それじゃあ毎年恒例『肝試し大会』始めるぞ~!」


とうとう臨海学校最後の夜に行われるという肝試しの時間がやってきた…この肝試し大会は、男女二人ずつお互いにペアとなり真っ暗な林の中を行灯の灯りだけを頼りに進んでいき、目印の大きな岩のところまで行ったらそこに置いてあるお札を持って来た道を真っ直ぐ戻っていくというシンプルなもの

勿論、道中には肝試し係の生徒や先生達がどこかしこに潜んでいてあの手この手でペアの人達を怖がらせにくるとのこと。

噂では、毎年この肝試し大会を共に乗り越えたペアの何組かは後々カップルになるという密かなジンクスが存在しているとかしないとか…尚、ペアの組み合わせは平等なくじ引きによって決められるので当人同士で示し合わせるのはほぼ不可能である。


「ヤスっち何番だった?アタシ40番だった」

「ん?僕は…39番だ」

「そっか、残念…あっちいって探してこようっと」

「うん」


すると、そこへ…


「ゆ、優太朗君…」

「咲玖さん…咲玖さんは、何番だった?」

「えっと、39番…」

「えっ!?僕と同じ!?てことは…」

「私達、ペアだね…」

「う、うん…」


「よーしじゃあペアが決まった者からサクサクいくぞー!くれぐれも怪我とかしないようになー!」

「い、行こっか?」

「うん…」


…意を決して肝試しに挑む



林の道はホントに真っ暗で行灯があっても前がぼんやりと見えるくらいでちょっと心許なかった


「咲玖さん大丈夫?はぐれないようにしっかりと着いてきて」

「う、うん…あの、優太朗君…」

「ん?」

「手、繋いでもいい?」

「え?手?う、うん…」


咲玖さんと手を繋ぐ、触れた瞬間咲玖さんの手は少し冷たく小刻みに震えていた。


「もしかして、怖い?」


僕がそう尋ねると咲玖は無言でコクコクと頷いた


「私…こういうお化けとかホラーとかすっごいダメなの…お願いだから、絶対離さないで」

「う、うん…」


恐る恐る先へ進んでいく、行く先々で脅かし役の生徒や先生が現れたり仕掛けが飛び出たりその度に咲玖さんは高周波のような悲鳴を上げ、その度に僕の腕をぎゅっと掴んでくる


「ハァ、ハァ、いやぁ…もう帰りたい」

「頑張って、もう少しで目印の岩だから…」


しばらく歩き続けると、漸く目印の岩にたどり着いた


「あった、この岩だ…多分この辺りにお札の入った箱が…」


するとその時だった…



“ウワォォォォォン!”



と、犬の遠吠えのような声が聞こえた


「ゆ、ゆゆゆゆゆ優太朗君…なんか、声が」

「ん?声?そういえばなんか聞こえたね、犬みたいな…」

「ききききっとオオカミだよ!きっとその辺で私達のこと狙ってるに違いないわ!」

「落ち着いて、そもそも日本に今はオオカミはいないから…」

「だ、だって今…」

「大丈夫、きっと肝試しの仕掛けかなんかだと思うよ?」

「そ、そう…?なら良かっ…」


すると次の瞬間、今度は女性の悲鳴のような声が聞こえた


「っ!?」

「ひ、ひゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」


と、悲鳴に驚いた咲玖さんは取り乱してどこぞに走って行ってしまった。


「あ、ちょっ!?咲玖さん!?ま、待って!」


僕はすかさず咲玖さんの後を追いかける、十分ぐらい探し回って漸く見つけることができた。


「あ、いた…見つけたよ」

「ぐすんぐすん…もうやだよぉ、帰りたい…助けて、お母さん」

「咲玖さん、落ち着いて…僕がいるよ?」

「…へっ?優太朗君?あ、そうだ…ゴメン取り乱しちゃって」

「いいよ、もう平気?」

「ううん、腰抜けたみたいで動けない…」

「えっ?大丈夫?」

「うん、もう少し落ち着けば大丈夫だと思う…あの、一個厚かましいお願いがあるんだけど聞いてくれる?」

「何?何でも言って…」

「その、抱きしめてよしよししてほしい…」

「えっ!?い、いいの?僕なんかがそんなことしても…」

「うん、いいよ…優太朗君にしてほしい…」

「わ、分かった…じゃあ」


と、僕は咲玖さんの体に手を回してよしよしと頭を撫でる


「…どう?」

「うん、すごく…安心する」

「そ、そう…」

「小さい時、夜寝る時に暗くて怖いって泣いてた時によくお母さんがこうして抱きしめてよしよししてくれたの…お母さんが死んじゃってからは愛姉ちゃんとつー姉ちゃんが代わりにやってくれてたんだ」

「へぇ、姉妹仲良しでいいね…」

「うん…」

「もう、平気?」

「うん、平気…ありがとう」

「いいよ、そろそろ戻ろうか…」

「うん…」


と、立ち上がったその時だった…



”ブチっ“



「ん?」


突然何かが裂けて弾け飛んだような音がした


「今の音は?」

「は、はわわわ…」

「咲玖さん?」


再び激しく取り乱してしゃがみ込む咲玖さん


「ど、どうしたの?大丈夫?」

「優太朗君、どうしよう…」

「えっ?もしかして、どっか怪我したとか?」

「ち、違うの…じ、実は」

「??」

「ブ、ブラが壊れちゃって…」

「えっ?えぇっ!?」


恥ずかしそうに自分の胸を覆い隠す咲玖さん、たしかによく見ると咲玖さんの胸はさっきよりも二倍くらい大きく見える


「多分、無我夢中で思い切り全力疾走なんてしたから…どうしよう?このままじゃみんなのところに戻れない…スペアのブラもホテルに行かないと取りに行けないし…」

「…分かった、僕が何とかする!」

「えっ?」


次の瞬間、僕は何の迷いも躊躇いもなく上に着ていたジャージを脱いで咲玖さんの肩にそっとかけた


「これを使って、僕はいいから…」

「で、でもそれじゃ優太朗君が…」


と、僕の腕の傷を見ながら僕の心配をする


「ああ、もういいよ…咲玖さんがみんなに注目されて嫌な思いをするぐらいなら、僕が代わりに針の筵に晒されればいい!」

「そんな、でも…」

「僕のことなら大丈夫だから…気にしないで」

「何で?何でそんなに優しいの?」

「だって、義理とはいえ家族だから…家族なら、守るのが当たり前でしょ?」

「優太朗君…」


…それから、何とか林を抜け無事みんなの元へ戻った

戻った後、咲玖さんはお友達に連れられて一足早くホテルへ戻っていった…何でも、咲玖さんの友人達は咲玖さんの事情を家族以外で唯一知っている存在で学校でバレないように咲玖さんを守ってくれていたらしい。


「ヤス!もう遅いから心配したって!」

「ゴメン、心配かけたね…」

「無事だったから良かったけど…てかお前、その腕…」

「ああ、これ?まぁ、昔色々あって…みっともないしパッと見ちょっとグロテスクかなと思って今日までずっと隠してたんだ…」

「ヤス…」


すると、タケシ君は僕の肩に両手を置いてうんうんと深く頷いた


「もう何も言わなくていい、その傷とこれまでのお前の言動で大体の察しはついてるから…」

「タケシ君…」


すると、後ろにいたマル君達三人も無言でうんうんと頷く


「もう何も心配はいらない!お前には俺達がついてる!だから何も言うな…」

「みんな、ありがとう…恩に着るよ」

「ほら、ちょっと小さいと思うけどアタシの上着着ていいから」

「大丈夫?バナナ食べる?元気になるよ?」

「あ、ありがとう…」


…こうして、なんとか無事に臨海学校の三日間は幕を閉じた。




第三章



暑かった夏も終わりを告げ、季節は秋…秋といえば、『スポーツの秋』『芸術の秋』『読書の秋』そして…


「美味しーっ!」


お義父さんがたまたま雑誌の懸賞で『高級松茸の盛り合わせ』を運良くゲットし、本日我が家は松茸尽くしの贅沢御膳を堪能していた。

松茸のお吸い物、松茸の炊き込みご飯、松茸のバター醬油焼き…などなど、バチが当たりそうなほど贅沢なディナーとなった。


「あーんっ!幸せ~!生きてて良かった~!」

「ホント美味しいわぁ~!ありがと秋人さん!」

「いやぁハハハ、僕は世界一の幸せ者だなぁ…」

「つーちゃんご飯おかわりっ!」

「えっ?またぁ?愛姉これで五杯目だよ?しかも大盛りで…お相撲さんじゃないんだからさ」

「まぁまぁ、固いこと言いっこなしで!食欲の秋なんだからしょうがないじゃん!」

「呆れた、食欲の秋にかこつけて正当化したいだけでしょ?…激太りしても知らないからね」

「大丈夫大丈夫!早々太るわけないって!んー、美味しー!」

「ア、アハハハ…」


それからも、愛さんは食欲の秋にかこつけて暴飲暴食の限りを尽くした。

そしてついに…その時が来てしまった。


「…いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


風呂場から愛さんの悲鳴がこだまする


「あ、愛姉!?どうしたの?」

「愛姉ちゃん!」

「…つーちゃん、さっちゃん、えぇぇぇん!!」


裸のまま二人に飛びつく


「ちょ、どうしたのって!?」

「愛姉ちゃん落ち着いて!泣いてちゃ分かんないよ!」


「ただいまー、って…二人とも何して…」

「ちょ、今こっち来ちゃダメ!」

「えっ?どういう…って、っ!?」

「ゆ、ゆーちゃぁぁぁぁん!!」


と、裸のまま僕に向かって飛びつこうとしてくる愛さん


「どわぁっ!?なんで裸なのっ!?」

「うぅ、ぶえぇぇぇぇん!」

「何!?どういう状況?」

「愛姉!まずは服を着て!」

「そうだよ!優太朗君から離れて!」

「…どうなってんの?」




その後、泣きじゃくる愛さんをなんとか宥めて服を着てもらい、落ち着いたところで二人に話を聞いてもらう…こういう時は女の子同士の方が話しやすいというもの、僕は大人しく自分の部屋で待機している。


「…終わったよ」

「ご苦労様です、すみません…任せきりになってしまって」

「いいよ、愛姉ああなったらウチらでしか制御できないから…」

「な、なるほど…それで、愛さんは今は?」

「私達が話を聞いた後、泣き疲れちゃったのかもう寝ちゃった…」

「そうでしたか…で?結局何があったんですか?」

「…太ったのよ」

「へっ?」

「愛姉、食べ過ぎて7㎏も太ってたらしい…」

「うわぁ…」

「ふぅ、だからウチはあれほど言ったのに…こないだだって学校帰りにクレープのワゴン販売のお店によってフルーツとか生クリームとかこれでもかってぐらい山盛りにトッピングしたヤツ頼んで食べててドン引きしたわよ…」

「私も、学校の帰りにコンビニに立ち寄ってエクレアと大きいバウムクーヘン買って近所の公園で両手に持って幸せそうに頬張ってたの見たことあります…」

「…いくら食欲の秋でも、流石に限度が」

「でしょ?なんか年々すごくなってるよね、愛姉の食欲の秋…」

「うん…」

「…分かりました、ちょっと僕が愛さんと明日話してみます」

「アンタが?」

「はい、上手くいくか分かりませんけど…とにかくやってみます」

「…分かった、アンタに任せた」


と、言って蕾さんは僕の肩をポンポンと叩いて部屋から出ていく



【翌日】



「愛さん…」

「ゆーちゃん、なぁに?」

「その、昨日のこと…二人から聞きました」

「そっか、ホンっト最悪…自分のことながらほとほと呆れるよ、ゆーちゃんだって本心じゃアタシのこと自制すらまともにできない暴食馬鹿女だって思って笑ってんでしょ?」

「思ってませんよ、一ミリだって…」

「そっか、そうだよね…ゴメンね、ゆーちゃんがそんなこと思うはずなんてないのに…もうショックすぎてネガティブなことしか考えられなくてクッソ萎える…」

「大丈夫、まだ間に合います…増えてしまったのなら、その分頑張って減らせばいいんです」

「ダイエットするってこと?えー無理だよぉ、今まで色々試したけど…結局どれも長く続かなくてこうしてすぐリバウンドしちゃうんだもん」

「大丈夫、今回は僕も一緒に頑張りますから…」

「へっ?ゆーちゃんも一緒って…まさか、ゆーちゃんも一緒にダイエットするの?」

「はい、イイ機会なんで僕もついでにダイエットしようかなって…」

「マジで?だったらアタシ、今回はちゃんと頑張れそうな気がする!」

「じゃあこれからお互い頑張りましょう!」

「うんっ!」


…斯くして、僕と愛さんの二人によるダイエット計画が始まったのである。



・・・・・



それからというものの、僕と愛さんは懸命にダイエットに励んだ。

早朝のジョギングからスタートし、食事のカロリーコントロール、有酸素運動、動画を参考にしながらのトレーニングなどなど…ありとあらゆるダイエット方法を試しながらも懸命に励んだ。

僕達がダイエットに奮闘している最中、蕾さんと咲玖さんも精一杯サポートしてくれた…料理上手な蕾さんは僕達のダイエットが上手くいくようにダイエットに効果的なスペシャルメニューをネットなどで調べて作ってくれたり、咲玖さんは早朝ジョギングに毎回一緒に自転車でついてきてくれたり、僕達がくじけないようにずっと後ろで応援してくれたりと、二人とも献身的にサポートしてくれた。


そして季節は巡り、冬も段々近くなって寒い日でも頑張ってひたすら走った…その結果僕は、みるみるうちに瘦せていき、もう既に目標体重はクリアしたのだった。


「ヤス、お前ここ最近スゲー瘦せてね?」

「うん、別人みたい…」

「そう、実は今ダイエットしてて…」

「マジで?すげぇじゃん!てか、ヤスっちって瘦せたら案外イケメンなんじゃね?」

「ね、私もそう思った!もっと瘦せたらすっごいイイ男になんじゃない?」

「そ、そうかな…?」


と、瘦せたことで周囲からの見る目も段々と変わっていくのが分かった

けどその一方で愛さんはというと…


「あれぇ?おかしいなぁ…」

「どうしたの愛姉?」

「うーん、思ったよりもなんかあんまり体重が落ちてなくて…」

「ん~?ホントだ、あんまり体重落ちてないね…」

「もう、どうして~?毎日頑張ってるのに…ぴえん」

「なんかこっそり食べてたりとかしてたりしない?」

「…ぎくっ」

「…今、”ぎくっ“って聞こえたけど?」

「さ、さぁ…キノセイジャナイカシラー」

「…っ」

「ちょ、どこいくのつーちゃん!」


僕が家に帰ると、またも愛さんが子供みたいに泣きじゃくっていて蕾さんが仁王立ちでしかめっ面をしている。


「ゴメンなさい!もうしないから許して!」

「いーや許さない!おかしいと思ったわよ!アイツはしっかりと瘦せてんのに愛姉だけ全然瘦せないなんて…どうせ部屋でこっそり盗み食いでもしてると思ったわよ!」

「…何?今度はどうしたの?」

「あ、優太朗君…実はね」

「ちょっと、見てやってよこれ…」


と、テーブルの上に並べられているのは大量のお菓子の山…まさか、これを全部愛さんが隠し持っていたのか?


「うえぇぇぇん!」

「泣いたってダメ!少しは反省しなさい!」

「だって、ダイエット辛くてしんどくて…ちょっとぐらいならいいかなって、そしたら段々と歯止め効かなくなっちゃって…」

「はぁ、これでもう今年のクリスマスは愛姉だけケーキなしね!」

「そんな!殺生な…お願い見逃して!」

「こんなに謝ってるんですから…許してあげませんか?」

「そうだよ、多分流石に反省したと思う…」

「二人は愛姉に甘いのよ!そんな甘くばっかしてたらロクな人間にならないんだから…」

「…ぐすんっ」


…それから、愛さんは部屋に閉じこもってしまい夕飯の時間になっても降りてこなかった。


「…愛姉ちゃん、ご飯だよ?」

「今日はいらない…もうあっちいってて」

「………」


「…愛は、まだ閉じこもってるのか?」

「うん、昼間からずっとそう…」

「そう、心配ねぇ…」

「ねぇ、アンタからも愛姉になんか言ってやってよ…」

「え?僕?」

「だってそうじゃん、愛姉がダイエット始めようって思ったのだって元はと言えばアンタの一言がきっかけなわけでしょ?」

「そういえばそうだったね…優太朗君、愛姉ちゃんの為にもう一回ひと肌脱いでもらってもいい?」

「う、うん…」


と、みんなに頭を下げられて仕方なく愛さんを再び説得することに…


「愛さん、僕だけど…少しいい?」

「………」


返事がない、寝てるのだろうか?


「…入りますよ?」


見ると、愛さんは暗い部屋の中で亀のように布団にくるまった状態でしくしく泣いていた。


「…愛さん」

「ゆーちゃん…ゴメンね、こんな情けない残念なお姉ちゃんで」

「…まぁ、正直がっかりはしましたよ?あれだけ二人一緒に頑張ろうって誓い合ったのに…なんで我慢できずにお菓子食べちゃったんですか?」

「ゴメンなさい、どうしてもお腹空きすぎて頑張って辛抱しようと思ったんだけど…辛抱しようって思えば思うほど段々イライラしてきちゃって…それで我慢の限界を越えて、つい…」

「なるほど、まぁ気持ちは分からないでもないです…要するに空腹を抑えようとするあまりそのせいでストレスが溜まってしまい、爆発してしまったと…」

「うん…」

「なら、話は簡単ですね…要するに、食べること以外で何か心の支えがあれば、もう一度頑張れそうですか?」

「…何かあるの?」

「はい、一つだけ…僕と賭けをしましょう」

「??」

「もし、クリスマスまでに愛さんが目標体重まで瘦せることができたら…愛さんの望みを一つ、僕が叶えてあげましょう」

「えっ?なんでもいいの?」

「はい、ただし…公序良俗に反するような望みは受け付けませんから」

「うん、分かった…」

「もし達成できなかった場合は、クリスマスのごちそうはおあずけ…これでどうです?」

「分かった…それでいい」

「では、もう一度頑張りましょう…僕も精一杯支えますから」

「…うんっ!」


こうして、決意も新たに再びダイエットに臨むのだった…。



・・・・・



「ふぅ、はぁ、ひぃ…」

「頑張って!後もう少し!」

「うん…ひぃ、ひぃ」


「…よくやるわよねぇ、どうせまたダメなんじゃない?」

「そうかな?愛姉ちゃん、すごく頑張ってると思うけど…」

「…いつまで続くのやら」


「ふぅ、疲れたぁ…もう限界~」

「お疲れ様、よくできました」

「ふぅ、ゆーちゃん疲れたよぉ…抱きしめて癒してぇ」


と、僕にぎゅっと抱きついてくる


「ちょ、ちょっと!」

「んふぅ、至福ぅ♡」

「ちょっと愛姉!あんまりソイツにベタベタしないで!離れてよ!」

「そうだよ!優太朗君に必要以上にベタベタするの禁止!」

「えー、いいじゃん…こんなの単なる姉弟のスキンシップじゃん」

「ダ、ダメ!とにかく!ウチの目が黒い内はソイツとベタベタするの禁止!」

「むー…」


(…なんか二人とも、いつもよりも必死だ…どうしたんだろう?)


(…なんでよ、コイツと愛姉がイチャイチャしてるの見るとなんかムカムカしてイライラして…意味分かんない)


(…愛姉ちゃんには絶対優太朗君は渡さない!優太朗君の貞操は私が守るんだから!)



…それから愛さんは懸命にダイエットに臨んだ、大好きお菓子も買い食いもすっぱりやめてただひたすらに身体を動かし続けた。

僕も愛さんに付き合って更に身体を鍛え続けた、すると僕の体は更に引き締まり見事な逆三角形の体型を手に入れた。

そして、それ以外でも僕は両親に過去のいじめのことを告白し全身に刻まれた傷痕を目立たなくする治療を開始した…完全に治すのは無理だという話だったけど限りなく目立たないようにはなるとのこと

そして、それから学校では激やせしたことで女子からこれまで以上に頻繁に話しかけられるようになった。

それと同時に、蕾さんと咲玖さんの様子もかなり変わり…蕾さんは僕に対して完全に敵視するような態度や発言は取らなくなり、ちょっぴり素直で優しくなった。

咲玖さんはというと、小さく見せるブラをやめて普通のブラをつけて登校するようになった…なんでも激やせで変身した僕の姿に感化され、自分も変わりたいと思ったとのことらしい…。



…そして迎えた運命のクリスマスイヴ前日、ドキドキしながら体重計に乗る愛さん


「…おっ?」

「あっ…」

「やった、やったぁぁぁぁぁ!!」


見事に目標体重に達成した愛さん


「おめでとう愛姉ちゃん!」

「おめでと」

「おめでとうございます!愛さん!」

「みんな、ありがとうね…」


無事達成できたことをみんなで喜び合う


「よかったぁ、無事に達成できて~」

「お疲れ様、よく頑張りましたね…」

「うん!あのさ、約束…覚えてるよね?」

「勿論、何なりとお申し付けください…あ、念を押しておきますけど公序良俗に反するようなことはダメですから」

「分かってる、アタシの願いは…明日のクリスマスイヴ、ゆーちゃんとデートしたいな」

「デ、デート!?」

「うん、アタシとじゃ…嫌?」

「いや、そんなことは…ないです」

「やったぁ!明日楽しみにしてるねっ!」

「う、うん!」


…と、何故か愛さんと明日デートすることになった。



・・・・・



【翌日 クリスマスイヴ】



デートの当日、駅前で愛さんと待ち合わせする…一緒の家に住んでるんだし、一緒に出ればいいのでは?と思ったけど雰囲気も大事にしたい、との愛さんの希望で僕が先に出て待ち合わせすることに…


「ゆーちゃーん!待ったぁ?ゴメ~ン!」

「ううん、そうでもないよ…」

「そう?じゃあいこっか…」

「はい」


いよいよデート開始


その一方そんな彼らの背後では…


「やっぱり、なんかコソコソしてるなぁって思ったら…やっぱりこういうことだったのね!己 愛姉めぇ…抜け駆けなんて許すまじ…」


帽子とサングラスで変装して二人の後を尾行する蕾と咲玖


「つー姉ちゃん、やっぱりこそこそ後つけるなんてやめた方がいいよ…」

「何言ってんの!これは由々しき事態よ!もしこれでイイ雰囲気になってあの二人が付き合う、なんてことになったら…」

「ま、まさか…私達、一応姉弟なんだよ?」

「馬鹿ね、姉弟だって言っても戸籍上だけで元はと言えば他人だったんだから血なんて繋がってないでしょ?法律上でも、連れ子同士は付き合っても問題ないし結婚だってできちゃうんだから…」

「えっ!?そ、そうなの!?」

「そうよ、だから何としてもあの二人がくっつくのだけは徹底的に阻止するわよ!」

「…う、うん、あれ?てか、なんでつー姉ちゃんがそんなことするの?」

「っ!?」

「も、もしかして、つー姉ちゃん…も?」

「なっ!?ん?てか、アンタ今…つー姉ちゃん”も“って言わなかった?」

「あっ!ヤバっ!」

「…ぐぬぬ、思わぬ伏兵がこんなところにも、とにかく今はその話は置いといて!二人見失っちゃうからとっとといくわよ!」

「あぁん待ってぇ!」



…僕達は場所を移動し、ショッピングモールへとやってきた。


「うわぁ、人いっぱい!」

「クリスマスイヴですからね、カップルとかもいっぱいだ…」

「ねぇ、はぐれないように手ェ…繋いでもいい?」

「えっ?あ、あぁ…はい、どうぞ」

「ありがと…」


僕の手をぎゅっと握る愛さん


「ぐぬぬ…気安く手なんて握るんじゃないわよ、羨ましいぃ」

「……」

「ちょっと咲玖、アンタ自分の手なんか見つめちゃってどうしたの?」

「へっ?いや!ナンデモナイヨォ〜」

「…ふーん」

「ちょ、つー姉ちゃん目が怖いって…ほら、見失っちゃうよ」

「…そうね」


それから僕達はショッピングを楽しんで色んなお店を回った。


「ふぅ、いっぱい買っちゃったぁ!満足満足!」

「いっぱい買いましたねぇ、僕も持ってた服が全部サイズ合わなくなってたので買い替えようかと思ってたとこなんで丁度良かったです」

「フフン♪ところでそろそろお腹空かない?どっかでランチにしようよ」

「そうですね」


と、昼時になりショッピングモール内にあったイタリアン系のファミレスに行きそこでランチすることに


「何食べようかなぁ?とりあえず今夜はパーティーだから軽めにしとこうかな?」

「そうですね、じゃあこのささみサラダとオニオンスープと小ライスでも頼みますか?」

「いいね、そうしよう」


店員さんを呼んで注文を済ませる、料理が来るまでの間愛さんと暫しお喋りを楽しむ…


「…にしてもゆーちゃん、ホント痩せてカッコ良くなっちゃったねぇ」

「そ、そうですかね?まぁ、たしかに学校でも最近よく女の子に話しかけられたりもしますけど…」

「おや?それは穏やかじゃないねぇ…私もうかうかしてられないなぁ」

「??、何の話ですか?」

「別に、何でもない…でも、今の痩せたカッコいいゆーちゃんも素敵だけど、前の太ってたゆーちゃんもクマさんみたいで可愛かったなぁ…」

「それ、本気で言ってます?そんな風に肯定してくれたのなんて愛さんだけですよ…」

「そう?可愛いじゃん、クマさん」

「まぁ、クマさんは可愛いのかもしれませんけど…僕なんてそんな…第一僕がいじめられてたのだってただ太ってたからっていうのが主な元凶ですし…」

「そうだったんだ…世の中には心の狭い人達がいっぱいいるもんねぇ…その人の個性を受け入れられないなんて無知で愚かな証拠じゃん、そんな人達のこと気にすることないよ…」

「愛さん…」

「まぁ折角痩せてカッコ良くなれたんだからさ、そんなツラかった過去なんて忘れられるようにこれからいっぱい楽しい思い出作って埋め尽くしちゃおう!」

「…フフ、その通りですね」


「お待たせしました、ご注文のささみサラダです」

「お、サラダきたね…食べようか?」

「はい」


…ファミレスで食事を食べ終え、再びショッピングモールを一通り見て回る、気づけば辺りは少し暗くなりモールの中庭に設置された巨大なクリスマスツリーにキラキラとしたイルミネーションが点灯する。


「わぁ、綺麗…」

「ホント、こういうの見るといよいよクリスマスって気分になりますね…」

「…あ、あのさゆーちゃん」

「えっ?」

「これ、ささやかだけどアタシからのクリスマスプレゼント」

「えっ?い、いいんですか?」

「うん…」

「開けてみても?」

「いいよ?」


渡された袋を開けると、そこに入っていたのは大人っぽいシックな色合いのおしゃれなマフラーだった。


「わぁ、すごい…こんな素敵なプレゼント、ホントにもらっちゃっていいんですか?」

「うん、勿論!」

「ありがとうございます、すみません…僕の方は何も用意してなくて」

「ううん、いいよ!今日一日ゆーちゃんと過ごしてすごく楽しかったから…それだけでアタシにとって最高のプレゼントだよ!」

「愛さん…」

「あのね、ずっと言おうと思ったんだけど…実はゆーちゃんに聞いてほしいことがあって、勇気出して言うから…聞いてくれる?」

「は、はい…」

「アタシ、アタシ…実は、ゆーちゃんのことが好きになっちゃった…」

「えっ!?」

「いきなりびっくりしたよね…でも本当だよ?ゆーちゃんのことが、ホントのホントに大好き!」

「い、一応理由を聞いても?」

「うん、アタシに対してすっごく親身になってくれたり何事にも一生懸命ですっごく優しくて…こんなの好きにならないはずがないじゃん」

「愛さん…」

「アタシは、ゆーちゃんのことが好き!できればゆーちゃんの気持ちも聞かせてほしいな…」

「愛さん、僕は…」


と、言いかけたその時だった…。


「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁ!!」


「っ!?」

「…えぇっ!?つーちゃん!?さっちゃん!?」


ツリーの陰から突然現れた蕾さんと咲玖さん


「その先は絶対に言わせないわよ!抜け駆けなんてズルいわよ愛姉!絶対ダメ!」

「ちょ、ちょっとつー姉ちゃん!」

「咲玖、アンタもこれでいいの?愛姉にアイツを取られちゃってもそれでいいの!?」

「よ、よくない!絶対嫌っ!」

「な、何が起こってるの?」


状況が上手く飲み込めず唖然とする、当然僕達の状況を見て周りの通行人達も足を止めて僕達に注目する。


「なんだなんだ?喧嘩?」

「いや、あれってもしかして…修羅場ってやつ?」

「やっば、ドラマみたいじゃん!ムービー撮っとこ!」


と、何故かどんどん野次馬が増えていく


「つーちゃん、一体どういうことかお姉ちゃんに説明してくれる?」

「…だって、愛姉が今日ソイツとデートするって言うからいても立ってもいられなくなって…それで今日一日二人のこと尾行して、もしイイ雰囲気になって告白なんてしようもんなら絶対邪魔してやるって思ってた…」

「なんで?なんでそんなことするの?つーちゃんそんな意地悪な子じゃないってお姉ちゃん知ってるよ!怒らないからなんでそんなことしたのか正直に言って…」

「だって、だって…ウチも、ソイツのことが、優太朗のことが!好きなのぉ!!うえぇぇぇぇん!!」

「えぇっ!?」


「うわっ、まさかの姉妹で一人の男を奪い合うとか…超絶神展開キタコレっ!」


どんどん盛り上がっていく野次馬達、みんなスマホを出して写真やムービーをバシバシ撮っている。


「つ、蕾さん…」

「ウチもぉ、優太朗のことが好きだからぁ!取ったりしたらやだぁ!ぶえぇぇぇん!!」

「ちょ、つーちゃん!一旦落ち着いて!ねっ?よしよし〜イイ子イイ子〜!」

「つー姉ちゃん、落ち着いて!」

「あ、えっと…」


その後、一時パニックになってしまったけど…騒ぎを聞きつけた警備員の人達が野次馬の人達を散らして僕達もその場のどさくさに紛れてなんとか逃れることができ、その足で急いで帰宅した…。



【安村家】



…とりあえず帰宅、ちなみに母さんとお義父さんは今夜は夫婦水入らずでディナーにいくとのことで、この後家で行われるクリスマスパーティーは僕達姉弟だけでする予定だった。

家に帰るまでの間中、蕾さんはずっと嗚咽を漏らして泣きじゃくっていて愛さんと咲玖さんの二人が懸命に宥めていた。

その間僕は何もできず、ただ見ているだけしかできなかった…。


「さ、お家着いたよ…もう泣き止んで」

「とりあえず一旦落ち着こう?ねっ?」

「うん…ずすっ」


一先ず一旦蕾さんは風呂場に行ってシャワーを浴びにいった…その間僕らは三人、リビングで戻るのを待つ。


「まさか、つーちゃんが…ねぇ」

「僕も、びっくりしました…そんな素振り微塵も感じなかったんで」

「優太朗君は鈍感すぎるんだよ、私達が折角アピールしても全然気づかないんだもん…」

「ちょっと待ってさっちゃん、その”私達“ってまさかさっちゃんも含まれてないよね?」

「えっ?あ、あぁ~…サテ、ナンノコトカナァ~?」

「あー!誤魔化した!絶対なんか隠してるでしょ!」

「もう、分かったよ…正直に白状します、私も、優太朗君のことが好きなの…」

「えぇっ!?」

「うっそ、さっちゃんまで?い、一体いつからよ?」

「…臨海学校の時、私のこと自分を犠牲にしながらもなんの躊躇もなく助けてくれてから段々と意識するようになって…それに最近すごくカッコ良くなっちゃって…ドキドキしちゃう」

「え、えっと…」

「そのこと、つーちゃんは知ってるの?」

「うん、二人のこと尾行してる時にバレた…その時はつー姉ちゃんあんまり気に留めてなかったみたいだったけど」

「…そっか、まさか姉妹で同じ男を好きになっちゃうなんて、しかもその相手が義理の弟って…一体どこのラブコメよ…」

「…え、えっと、なんかゴメンなさい…」

「ゆーちゃんは謝らなくていいのよ、アタシ達が勝手にゆーちゃんのこと好きになって勝手にこじれただけだから…ゆーちゃんは何も悪くないよ」

「でも、僕はそんなみんなに好きって思ってもらえるような大層な人間じゃ…」

「もうっ出た出た!ゆーちゃんのネガティブ思考…ゆーちゃんはもう昔のゆーちゃんじゃないんだよ?もっと自信持っていいんだよ?」

「そうですよ、優太朗君は今やもう見た目も中身もすっごく魅力的な素敵な男性なんですから…堂々としてればいいんですよ」

「愛さん、咲玖さん…」


と、その時だった…。


「何ウチのいないところで勝手に三人で盛り上がってんの?」

「あ、蕾さん…おかえりなさい」

「あら、早かったのね…もう落ち着いた?」

「うん、ありがと二人とも…それに、ゆ、優太朗…」

「ん?」

「さっきはその、取り乱してあんなとこで大泣きなんかしてゴメン…迷惑かけちゃったよね?」

「いや、そんな迷惑だなんて…そんな」

「へ、返事はそんなに急がないでいいから…じっくり考えてくれればそれでいい、もしそれで愛姉か咲玖のどっちかと付き合いたいってなっても、ウチは素直におめでとうって言ってあげてもいい…」

「蕾さん…」

「つーちゃん…」

「つー姉ちゃん…」

「さ、この話は一旦おしまい!さっさとパーティー始めよう!折角昨日から頑張ってケーキ作ったりローストチキン仕込んだりしたんだから、折角だからみんなで楽しく食べよ?」

「うんっ!アタシももうお腹ペコペコ~!」

「私も!」

「ぼ、僕も!」


…その後は、みんなで純粋にパーティーを楽しみ…蕾さんの手作りケーキやローストチキンを堪能したり最高のクリスマスイヴとなった。



・・・・・



一年の三学期も終わり、春休み…そしてそれからまた月日が経ち、僕らが家族になってからもうじき一年が経つ

ということでゴールデンウイークを利用して一周年のお祝いで家族みんなで温泉旅行にやってきた。


「うはぁ!イイ眺め~!」

「あっ!あれ富士山じゃない?」

「どこ?あれがそう?」


旅館の部屋から見える景色に興奮する


「じゃ、ここはあなた達の部屋ね!お父さんと母さんの部屋は隣だから…」

「え、そうなの?」

「そうだよ、最近のお前達は本当の姉弟のように仲がいいみたいだしなぁ…」

「それに、私も秋人さんと気兼ねなくイチャイチャしたいし…」

「か、母さん…」

「フフフ、その内新しい弟か妹が期待できるかもしれないわね♡」


と、そっとそう耳打ちする母さん


「母さん!息子の前でそういうこと言わないでよ生々しい!」

「あらそう?それは失礼したわ、ホホホ…」

「もう…」

「じゃあまた夕飯の時に会いましょう、それまではお互いに別行動で…じゃ行きましょう」


と、行ってしまった母さんとお義父さん


「…行っちゃった」

「とりま、アタシ達も温泉入りいこっか!」

「あ、うん!」


僕達もそれぞれ温泉を堪能する、当然ながら男女で一緒に入ることはできないので別々ではあった…

僕も日頃の治療の甲斐もあり、全身に残った傷痕はじっくり見ないと分からないレベルまで治ってきていて気兼ねなく温泉に入ることができた。

温泉をひとしきり堪能し、夕食の時間になると豪華な懐石料理が出てきて僕らは舌鼓を打った。


夜も更けてきて、布団に入って眠っていると…


「…優太朗、まだ起きてる?」

「ん?蕾さん?」

「しーっ、あんまり大きい声出さないで…二人とも起きちゃうから」

「あ、ゴメンなさい…で、一体どうかしたんですか?」

「あの、実はここ…貸し切りの『混浴風呂』があるみたいなんだよね」

「こっ!?」

「しーっ!声がおっきい!」

「むぐぐっ…」

「もしよかったらさ、その…二人でこっそり行ってみない?」

「い、いいんですか?」

「うん…優太朗なら、全然いいよ」


と、寝ている二人を起こさないようにこっそりと部屋を出て貸し切り風呂へ向かう


「良かった、丁度空いてる…」

「ホ、ホントに行くんですね…」

「うん…」


頬を赤らめる蕾さん、意を決して中へ入る


「…じゃあ、着替えるから向こう向いて」

「あ、そっか…分かりました」


お互い背中合わせになり服を脱ぐ


「お待たせ、いいよこっち見ても…」

「はい…」


と、蕾さんはバスタオルで前だけを隠して後ろがガラ空きの状態で桃のような可愛らしいお尻がぷりんっと出てしまっている。


「つ、蕾さん!?お、お尻が…」

「…ウチ、胸ないからタオル巻いてもすぐ落ちちゃうんだよね、お尻丸見えだけどまぁ…前が隠れればいいかと思って…」

「………」

「あ、あんまジロジロ見るの禁止!は、恥ずかしい…」

「ゴ、ゴメンなさい…」


早速お風呂に浸かる、向かい合わせは流石に恥ずかしいのでお互いに背中合わせになって湯船に浸かる


「………」

「………」


なんだか気まずい雰囲気が流れ、お互いの間に沈黙の時間が流れる…


「ねぇ、優太朗…」

「は、はい…」

「優太朗はさ、どういう女の子と付き合いたいとかって考えたことある?」

「女の子の好みですか…正直、あんまり考えたこともなかったですね…」

「そうなんだ…」

「はい、なんせこれまでの人生で恋愛なんて僕の人生の中で最も縁遠いものだって思ってましたから…」

「そっか、ずっと女子から嫌われてたんだっけ?」

「はい、クラスの席替えの時に僕の隣になった女子から悲鳴を上げて拒絶されたなんてこともザラにありました…」

「そう、なんだ…でも今は瘦せてすっごくカッコ良くなってんじゃん…今その娘が優太朗の今の姿見たら腰抜かして驚くだろうね」

「そうですかね…」

「うん、間違いない…」

「あの、僕からも一個聞いていいですか?」

「いいよ」

「…なんで、僕なんかのこと好きだって思ってくれたんですか?蕾さん、男嫌いだったし最初僕のことだってあんなに嫌ってたのに…」

「フフッ、ホンっトそれな…自分でもなんでって思うよ、アンタに言ったっけ?ウチ昔から男子にモテまくってて毎日毎日色んな男から言い寄られまくってそれで嫌気が指して男が嫌いになったって…」

「うん、愛さんからそれとなくそんな話は聞きました…」

「そっか、それでなんだけど…最初アンタと一緒に家族になって暮らすってなった時、他人の男と一緒に住むなんてありえない!どうせこの男も他の男と同じようにウチに言い寄ってきたり、一緒に暮らすことをいいことにやらしいことでも考えてるんじゃないかって、ずっと警戒してたんだ」

「そんなこと思ってたんですか?」

「今はもうそんなこと思ってないよ、しばらく一緒に暮らしていく内にアンタがこれまで出会ってきた男なんかとは違うかなって思い始めてたから…そんな矢先のアレ(・・)よ」

「ああ、アレですね…」

「うん、あの時はついイラっとしちゃって…改めてゴメン」

「もういいですって、済んだことじゃないですか…」

「それで、話は戻るんだけど…アンタが風邪ひいてウチが看病したあの日以来からかな?その頃からアンタのこと妙に意識するようになっちゃって…いつの間にか好きになってたっていうか…表に出さないように取り繕うの大変だったんだからね」

「それは、何とも言えないですね…」

「とにかくまぁ、こんな感じ…ウチは、優太朗のことが好き…」

「あ、ありがとうございます…」

「優太朗はさぁ…ウチとか愛姉や咲玖のことどう思ってるの?」

「え、えっと…」

「いいよ、何言っても怒ったりしないから…正直に答えて」

「うん、三人のことはとても素敵な女性だと思ってます…」

「…っ」

「愛さんは初対面の時から僕のことを真っ正面から受け入れてくれて僕に優しく接してくれてとても嬉しかった…まぁ時々ちょっとスキンシップが過激すぎるのは勘弁してほしいんですけどね」

「それは、そうね…」

「咲玖さんは、可愛らしくてスタイルも抜群なのも勿論魅力的なんですけど…過去におんなじような境遇を経験した者同士で親近感みたいなものを感じて一緒にいるとなんだかすごくホッとするような存在ですね…」

「ふぅん…ウチは?」

「蕾さんは、面と向かって言うのも恥ずかしいんですけど…最初の頃の印象と変わってとても優しくて面倒見が良くて何よりすごく料理が上手で…それに」

「も、もういいストップストップ!自分で聞いといてアレだけどすごく恥ずかしい!」

「は、はぁ…でも、やっぱり僕にはこの中で誰か一人を選ぶなんてできませんよ…だって、僕にとって三人とも大事な”家族“なんですから!」

「家族、か…」

「なので、すみません…もう少しだけ時間をください」

「…優太朗」

「はい?」

「ちょっと、一瞬こっち向いて」

「えっ?何です…」


と、僕が言い終わらない内に振り向くや否や蕾さんが突然抱きついてキスをしてきた


「んんっ!?」

「んぱぁ、ゴメンね…やっぱり我慢できなくて、今だけでいいから…今だけ優太朗の一番でいさせて」

「蕾さん…てか、タオル落ちてる!胸が見えてますって!」

「…いいよ、優太朗だけ特別…恥ずかしいけど優太朗になら見られても触られても嫌じゃないよ?寧ろ、触ってほしい…」

「蕾さん…ダメだって、僕達…まだそんなことする関係じゃ」

「いいじゃん、今のウチは優太朗だけのウチなんだよ?えっちはまだダメだけど胸とか触るぐらいなら別に…それとも、こんなちっちゃいぺったんこな胸じゃ嫌?興奮できない?」

「そ、そんなこと…ないです」


すると僕は、蕾さんの胸を見て興奮したのと風呂の熱でのぼせたのもあり鼻血を垂らしてしまった。


「あ、鼻血…」

「あ、こ、これはその…お湯でのぼせて、その…」

「ゴメンゴメン、もう上がろうか?」

「はい…」


それから、お風呂から上がって浴衣に着替えて、鼻血が止まるのを待ってから部屋に戻って寝た…



…翌朝、チェックアウトを済ませて旅館を後にする


「んー!旅行楽しかったぁ!」

「うん、またみんなで来たい…」

「そうだなぁ、次は愛と蕾の卒業祝いでどうだ?」

「お?やったぁ!パパ大好き!」

「ハハッ、それじゃあちょっと車回してくるからお前達はここで待ってなさい…」

「うん、分かった!」


車を駐車場まで取りに行くお義父さん達…


「あの、みんな!」

「ん?なぁにゆーちゃん?」

「何?」

「どうしたの優太朗君?」

「あの、僕も…三人のことが好きです!」

「えっ!?」

「なっ!?」

「へあっ!?」


突然の僕の告白に目を丸くして驚く三人


「き、急にどうしたのゆーちゃん?急すぎて心の準備が…」

「すみません…ですけど、三人の中から一人を選ぶなんて今の僕にはまだできそうもありません…だから、もう少しだけ…時間をもらえませんか?」

「いいよ、待っててあげる!」

「ちゃんとはっきりさせなさいよね!」

「…どんな答えが出ても、私達きっちり受け止める覚悟はできてますから」

「みんな、ありがとう!!」



…こうして、波乱に満ちた家族旅行は幕を閉じたのだった。





終章



【二年後】



あれから二年が経ち、僕は高校を卒業した…進学先の大学も決まり、順風満帆といった感じだ


「ヤス~、元気でなぁ!お前と同じ大学行きたかったぜ~!」

「楽しかったぜ、お前と過ごした時間…一生忘れないよ」

「元気でね!たまにはまた集まって遊んだりしようね!」

「ヤスっちまたね!最後に私のバナナ持ってきな」

「みんな、ありがとう!元気で!」


と、みんなとの別れを惜しみつつ学校を後にする


「…おかえり、そして卒業おめでとう!ゆーちゃん!」

「優太朗…卒業おめでとう、そしておかえり…」

「優太朗君、おかえり」


僕の帰りを三人が家の前で待っていた。


「みんな、ただいま!それと、今日…伝えたいことがあるんだ」

「おっ?」

「んっ…」

「うん…」

「…まずは長いこと待たせてしまって、本当にゴメンなさい!でもこの二年で考えに考え抜いて漸く答えが出たから、ちゃんと聞いてほしい…」


(ゴクリっ…)


「…改めて、告白します!僕はっ…」


「っっっ!!!?」






Fin...

ご愛読ありがとうございました。


果たして優太朗は誰と結ばれるのか?それは神のみぞ知る…


もし好評なようであれば三人の誰かと付き合ったその先を描いた『IFストーリー』を書いて載せちゃうかも?

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