表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/28

チェルシーは婚約を夢見る3-2

「よかったじゃないか。そうだ、チェルシーに見せたいものが」

おじいちゃんが裏の作業場から持ってきたのは、真っ赤なハイヒールだった。

新品に見えるが、リフォームした靴だ。

見覚えがある。


「チェルシーがオークションで見たというあのダンス魔法付与靴だよ。国税庁に掛け合って、買い戻したんだ、、このドレスにピッタリなんじゃないのか?」

オークションで見た使い込まれたヨレヨレの靴とは思えない。

「これはお前が魔法付与したんだ。だから、持ち主がいない今は、チェルシーの物だよ」

なんだか嬉しくなって足を入れてみる。

足にフィットして歩きやすいから、店内を歩き回った後、ターンをしてみた。


アドラーの魔法付与靴屋はいい素材を使っているから、本当に履き心地がいい。


その時、来客を知らせるベルの音がした。

店内に入ってきたのは、昔から靴を買いに来てくれるグエンさんだ。


「久しぶりだな、チェルシーちゃん」

「久しぶり!グエンおじさん。相変わらず森できのこを育ててるの?」

「そうだよ。きのこ栽培は森の中を歩き回るが、どこもかしこも下草には毒を持った魔法草が生えていて、噛まれたら歩けなくなるからなぁ。アドラーのブーツじゃないと。一日中森にいるワシらは量産品の付与魔法付きブーツじゃ、一ヶ月も持たん」

「アレってそんなにダメなの?」

「切り開かれた道の上しか歩かない奴や、ヒヨッコの魔物討伐士で大した魔物も狩らないなら大丈夫じゃないのか」

「そんなもんなのね」


「グエン、注文を受けたブーツだ」

おじいちゃんは、革製の袋を手渡す。

「グエン、申し訳ないが帰る時、チェルシーを送ってくれないか?」

「いいけど、荷馬車だぞ?こんな若い子が乗るような馬車じゃない」

送ってくれるならありがたいわ。

靴とドレスを持って歩いて帰るのは大変だもの。


「いいの?送ってもらえるなら嬉しいわ」

「チェルシーちゃんが嫌じゃなきゃな」

乗せてもらったのは、古いタイプの荷馬車だった。

座るところはグエンさんの隣で、ただ板を渡しただけの椅子だ。


グエンさんとは他愛のない話をした。

もう、アドラーの靴屋に通って70年になることなどを聞いて、本当は何歳なんだろうかと疑問に思ったことなどを話しながら、アパルトマンまで送ってもらった。


森に住んでいるグエンさんは、困ったことがあったら森の小屋にいるからなとにこやかに帰っていった。


部屋に戻ってから頭を悩ませる。

どうやって素敵なヘアメイクをすればいいのかしら。いつも自分で行うヘアメイクはイマイチだってわかってる。

悩みながらもファンデーションを塗り、付け睫をつけて、メイクを進めて行く。

睫毛がずれちゃった。

ファンデーションもなんだか浮いてる。

なんで綺麗に仕上げられないのかしら?

誰かに教わりながらメイクしたいけれど、同じ芝居小屋の人達も、決して上手いとはいえない。

悩んで意を決した。


『カサブランカ』に行こう。

そして支配人に頼み込んで、ローズサファイアさんのメイク担当のエラにメイクをしてもらえるようにお願いしよう。

立ち上がり、クローゼットから、普段カサブランカに持って行く衣装袋を出して、このドレスを入れた。

靴をカバンに入れて、急いでカサブランカに向かう。


右目だけ付け睫をつけていて、なんだか滑稽な顔なのですれ違う人が振り返るが、チェルシーは全く気が付いてはいない。

まだ、何の準備も整っていないカサブランカに飛び込んだ。


大きな円形のレストランはまだ掃除中で、テーブルのセッティングすら始まっていない。

「あの、支配人」

「やあチェルシー。月曜から木曜は貸切じゃないかぎり、ピアノ演奏のみだから、歌手である君の出番があるのは早くても金曜日だよ」

大きな衣装ケースで勘違いされてしまった。

「曜日を間違えて来たんじゃないんです。あの…ローズサファイアさんの専属メイクのエラさんに連絡を取っていただきたいんです」


「エラは、ローズサファイアが個人的に雇っているから、うちの職員じゃないんだよ。だから連絡先と言われてもね」

「そうですよね……」

断られてもお願いできるほど、チェルシーは気が強くないので、肩を落として帰ろうとした。


「チェルシー、そんなに悲しそうにしないでくれ。仕方がない。ローズサファイアに連絡してみるけど、返事が翌日になる事もあるから期待しないでくれよ?」

「いいんですか?」

「君はいつもこちらの無理難題を聞いてくれるからね。ウェイトレスが足りない時の臨時に入ってくれたり、前座の歌手が病欠した時も、すぐに穴を埋めてくれたね。連絡するだけならいいよ」


「ありがとうございます!連絡するだけでいいんです」

急いで手紙を書く。

『ローズサファイアさんへ。

突然のご連絡ごめんなさい。

可能なら、至急エラさんに連絡をとりたいんです。

私事ですが、もしかしたら今日、プロポーズされるかもしれないので、エラさんにヘアメイクを教えて欲しいと思っています。

連絡先を教えていただけると幸いです。

チェルシーより』

とローズサファイアさん宛に魔法便を送ってもらった。


10分後、エラから手紙が戻ってきた。

『仕事が終わるのが16時なの。それからでもいいかしら?カサブサンカで待っていて』

内容を読んで、安堵する。

よかったわ!これでなんとかなる。


ドレスをいつもの控室に置かせてもらい、室内の電気を付けた。

メイク用品を鏡の前に並べたところで、驚いて悲鳴をあげそうになる。

私、右側だけ付け睫をつけて、濃いアイラインにアイシャドウで顔の半分だけが濃いメイクになっていた。

顔がびっくりするくらいアンバランスで気持ち悪い。

支配人もよく何も言わずに通してくれたわ。

右半分のメイクを落として支配人の元に戻った。


「変な顔で押しかけてごめんなさい。あの、私焦っていて」

「いいよ。気にしていない。むしろ今の顔で来られたら誰かわからなかったよ。君は、いつもびっくりするくらい濃いメイクで来るから。今の素顔で来られた方が誰かわからなかった」

「そう…ですか」

「半分だけでもメイクしておいてくれてよかったよ。今の君の顔なら、何回街で出会ってもわからない自信がある」


それってつまり、素顔は印象に残らないくらい地味だって事?

でも、そんなこと聞けないからにっこり笑って控室に戻る。

そんなに地味な顔?世界的に有名なスーパーモデルだって、メイクを取れば地味な顔かもしれないじゃない。失礼よね。

なんて口にだして言えるはずない。


大人しく待っていると、16時半に本当にエラが来てくれた。

「あの。突然、不躾なお願いをしてごめんなさい」

「いえ。気にしないで。今から急いでメイクをしていくわね。これ貴女の?」

並べてあるメイク用品を指差して聞かれたので頷くと、渋い顔をされた。


「これじゃダメよ。ローズサファイアさんの楽屋に行きましょう。メイク道具を使う許可は取ってあるわ」

ローズサファイアさんの楽屋には入り口しか入ったことがない。

ドレスを持ってゆっくりと中に進んで驚く。

豪華なソファーにガラスのテーブル。ベッドがないだけで、豪華なホテルの一室みたい。

壁際のハンガーには沢山の衣装がかけられ、大きな鏡のメイク台の上には沢山の化粧品が綺麗に並んでいた。

口紅だけで何十本もある!


「じゃあ、椅子に座って。まずそのカサカサの肌をなんとかするわね」

言われるがままでなすすべなく、沢山の物を塗りたくられる。

「今日プロポーズされるの?」

「私はそうだと確信しているの」

手紙の事を考えて顔がニヤけてくる。


「彼の名前はね、コーディ・ガルシア。子爵令息なのよ。昔、同じ歌劇団に所属していたの」

「その彼とつきあっているの?」

「ちょっと違うわ。身分差もあるし」

「そうね、確かに」

「コーディが言うには貴族って大変らしいわ。お店のマナーとか作法とか暗黙のものがあるんですって。だから二人で会う時は、歌劇団時代から行きつけのバルなの」

「そこだと大丈夫なの?」

「劇団時代はね、コーディは身分を隠して活動していたのよ。その当時からの行きつけだから、知り合いに会うといっても昔の知り合いだし。庶民のお店は作法とかないでしょ?」

「その通りね。コーディから今までプレゼントとか貰った事ある?」

「ええあるわ。この前、素敵なペンをくれたのよ」

以前、コーディがくれた、美しいガラス製の万年筆を思い出す。

ガルシア家の紋章が刻印された素敵なペンだ。


「それってどんなの?」

「ガルシア子爵家はね、ガラス製品を製造しているの。その、ガルシア社製の万年筆なのよ。淡いピンクのガラスで出来ていて気に入っているの」

「それって、綺麗な紺色の箱に入ってた?」

「そうよ。何故、それを知っているの?」

「なんとなく、よ。うまくいくといいわね」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ